オレは英雄となるべくこの世界に来たんだ

 ビルは食べられる物を探し回っていた。「何かの根でも」その一念で探し続けていた。


 今、家にいるトムはきっと、私達のように何でも食べられないかもしれない。きっとお腹を痛めてしまう。だから「マトモ」に近い食べ物を見つけたい。

 トム、きっと12歳くらいなのかな?育ち盛りだからたくさん食べた方がいい。


 かつて「ウィリアム・A・ド・バロツァ」と呼ばれていたビル・カルーズはため息をついた。どこを見ても、東西南北、上下左右を歩き探していても、食べられる物は見つからない。目に入るのは変わり果て廃墟となった家々と枯れた地、飢えて目ばかりが光っている子ども達だけだった。両親が揃っている方が珍しい、特に父親がいる方が……。

 15年前の戦争を思い出しながらも、ビルは歩き続けた。今夜のご飯は諦めよう。ビルが家にいる時間が長ければ長いほど、トムの身の安全は保証される。


 *


 凌弥りょうやは閉ざされた窓の隙間から外を見ていた。ずっと覗いていたら吐き気がして来た。異常なほどに痩せた人ばっかりで、臭いが凄まじい。気持ち悪い。

 ここは変だ。向こう側はどう見ても栄えてる。だのに、何でこっち側は飢えてるんだ?どう考えてもおかしい。


 英雄が必要だ。

 と、13歳の少年は思った。

 きっと英雄となるのは、別の世界から来たオレだ。


 *


 疲れて帰ってきたビルが見たのは、張り詰めたギラギラした目で壁を睨んでいる凌弥だった。

 そんな凌弥に、ビルはかつての父を見た。野心に燃え、人の道を見失った姿を。

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