まとわりつく
アルはパンの耳を切った。凌弥が作ったマヨネーズもどきをパンに塗り、炒った卵と昨日の残りの鶏肉と村人にもらったレタスを、2枚のパンに挟む。まな板で軽く押し潰すと、サンドイッチの完成だ。
出来上がった2つのサンドイッチを紙に包むと、凌弥に手渡した。
「君が無事に戻って来ることを祈るよ」
アルの声が走っていく凌弥の背に響いた。振り返った凌弥が最後に見たのは、ヒラヒラと手を振るアルの姿だった。どことなく寂しそうな響きだった。
村に行くのは今回で2度目。
昨日は雨だったせいか地面が少し泥濘んでいる。転ばないように一歩一歩を丁寧に、踏みしめるように歩いた。途中で大きなどんぐりを見つけたので拾った。カーリーがいくつなのか知らんが、あの年頃ならたぶん好きだ。日本の方程式の答えがここでも同じかは置いといて。
林を抜けようとした時、カーリーに突進された上に、凌弥のみぞおちに激突した。
「ヨーヤ兄ちゃん!」カーリーは自分が頭突き紛いのことをしたせいで、凌弥が冷や汗を掻いているとはつゆ知らず、無邪気に呼びかけた。「元気だった?」
「元気だよ」と凌弥は小さな嘘をついた。正直に言えば、今すぐベッドに戻りたい。
カーリーに手を繋がれて、2人は村に向かった。凌弥は村の向こう側に墓地があるのが見えた。
「おねえさんは元気?」
カーリーは小首を傾げた。「何でみんな同じこと聞くの?」
凌弥は何となく目を逸した。何気に重い話だから。
村に入ると、色んな人に会った。時間帯の問題かな?女の人が多い。凌弥少年は、若い女性からギラギラ見られている気がした。人目が少ないところに行きたいけど、治安はどうなんだろう?
カーリーはギュッと凌弥の手を握った。凌弥に向けられている大きな女の子達の目が怖かったから。
戦争のせいで未亡人となってしまった人、恋人を喪った人ばかりが住んでいるこの村。当然、未亡人の子どももいる。人が寄り付かないせいで、その子どもが年頃になった時、幼馴染と結婚するしか選択肢がない。そんな中、見知らぬ地から来た上に、一風変わった風貌を持つ凌弥は格好の相手だった。
「ヨーヤ、墓地に行こうよ」
カーリーは小声で提案した。凌弥は頷き、カーリーをおぶって墓地まで走った。
*
カーリーは墓石を触った。ここの墓地で1番大きな墓だった。
「ここ、お兄ちゃんのお墓」
凌弥は「そうなんだ」と大きな墓をマジマジと見た。
映画に出てきそうな墓で「我らが英雄、イピレスティス・トゥ・フェォウの若きの死を悼んで」と刻まれている。
凌弥は口の中で何かを呟くと「名字が違うの?」と聞いてみた。カーリーは首を傾げ「ミョウジ?」とおうむ返しに言った。そう言えば、どの家もあの札がなかったから、名字がないのかな?
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