4 僕はこの瞳で嘘を見抜く。

『生まれ変わった者、確かに叡智の結晶と呼ばれる者が存在するとは聞いていたが、転生者だとは』


《敢えてパーツをバラバラに配置させてあるからね、それこそ存在自体を守る為、探し出す為に。私の能力で最初に彼を見つけ出したんだ、それで先ずは程よい庇護下にと思ったんだけど、アレだからね》


「いや、うん、良い隠れ蓑だったと思うよ」

《いや、アレは逆効果だったと後悔してる。ウォルターからの報告に有った人影だけど、コッチには幾つか心当たりが有るんだ》


「は?」

《彼の言う通り、ローズ関係だよ》


「あぁ」

《ごめんね、出来る限り諫言はしてきたんだけど、どうしても接触は最低限の必要が有ったから》

『王族として見極められる期間、パトリックが本家に加えられる事が確定している以上、仕方無いとは思うけれど』


《派閥争いやバランスの為にね、けど、もう少しギリギリまで頑張れば良かったと後悔してる。悪目立ちさせる方向にばかり行ってたんだから》

『だがまだ修正は利くだろう、最悪はすり替えれば良い』

「は?」


《あぁ、流石だねウォルター》

「ねー、何?何をする気?」


《このまま君が病に臥せるかどうにかして、それこそ失恋を苦に顔を焼いて修道院入り、だとか色々工作出来るって事。そうして過去の人間として、そうだね、イーライ嬢として生きても良いって事》

「ぉお、けどバレたら一緒に終わりじゃん」


《それこそ魔法や魔道具職人を探しに行けば良いんだよ、性別を変える魔法や魔道具を探しに行く》


「天才か」

《色々と考えてきたからね、ずっと》


 あぁ、私は無二の親友が愛する人を、愛してしまったのか。

 彼は命の恩人、人間では無い人生を送るかも知れなかった私を救った人間、亜人。

 互いを守る契約をした相手。


 なら。


『少し、今度は2人で良いだろうか』

「あぁ、どうぞどうぞ、お手洗いへ行ってきますわね」

《はいはい。ふふふふふ、結構気に入ってるね、あの格好》


『すまない、叡智の結晶だと気付けと促してくれたのに、私は気付けなかった』


《本当に好意だけなんだね》

『あぁ、知った今でも、その能力が無くても傍に居て欲しいと思う。けれど君のモノを奪ってまで生きるつもりは無い、既に十分に生かして貰っているのだから』


《諦められる?》


『分からない、初めてで、とても無理な気がする。でも、君には恩が有る、なので今後は』

《イーライの気持ちが1番、僕や君が譲り合う前に、彼に決めて貰う必要が有るとは思わない?》


『だが、すまない。少し、手を出してしまった』


《は?》

『いや、ハグと、そう何回か、キスを』


《は、お前、まさか舌を?》

『1度』


《いや、知らなかったのだから許したい気持ちは有る。けれども僕は君に水を向けたよね、、そこで可能性について少しは考えて欲しかったな。万が一にも僕も彼を好きかも知れない、と》


『そこは、うん、今思うと、その意味も有ったのかも知れないと。ただ、つい、舞い上がってしまって。すまない、考えが至らなかった、申し訳無い』


《まさか君が落ちるだなんて、女装させた僕も、悪かった部分は有ると思う》

『いや、それこそ、君が絶対に女装させろと言って来た時点で、私が察するべき部分は大いに有ったと思う』


《本当に反応したの?》

『あぁ、自分でも驚いて、それで余計に思考力が落ちたと、言い訳させて欲しい』


《どっちの役をヤるつもり?》

『どちらもするつもりだ』


《なら君の生きるチャンスにも繋がるんだし》

『いや、利用されたく無い気持ちが分かるからこそ、そう利用したくは無いんだ。それに、気持ちをコントロール出来る気がまるでしない、暴れ馬の方がまだマシだ』


《殺せば良いものねぇ》

『あぁ』


《じゃあ恋心を殺すつもりで挑んだら?彼は優しい所も有るし、もしかしたら知識も経験も有るんだし》


『知識は有るが経験が無い、と言っていたんだ。つまりは、そう、なんだろうか』


《試してみようか》

『なら、それこそ君に』


《いや、2人の前で試して貰おう、その方が平等性が明白だろう?》

『あぁ、それに私が反応するかも見せられる、そうするか』


《モロ出しはちょっと、君のは布越しで十分だからね》

『あぁ、君は女装男子なら何でも良いワケでは無いんだな、そうか、すまない』


《いや、僕も明言を避けていたし。それこそ本当に目を付けられたく無いから、イーライに反応して目覚めたとは言わなかったんだし》


『それは、いつ、どうしてそうなったんだ?』

《イーライの前で言うよ、もう何かは、後でで良いか》


『あぁ、すまない、ありがとう』

《いや、ある意味では同志なんだし、変わらず今まで通りにしよう》


『あぁ』

《おいで、イーライ》


 僅かに歪むガラス越しにも、可愛らしい姿が見えて楽しかったのだが。

 やはり近ければ近い程、幸せを感じる。

 離れたく無い、としか思えない。




「それで?」

《大丈夫、ただ僕も君に隠し事が有ったから、聞いて欲しいなと思って》


「ほう?」

《僕の方が誰よりも先に君を好きになった》


「は?」

《君は幼い頃に良く女の子の格好をしていたろ?》


「しょっちゅう具合を悪くしていたからこそ、厄払いの為に真っ赤なドレスを度々着せられていたけども」

《最初は何て可愛い子なんだろうって思って、けど秒で失恋して。でも諦めきれなくて、それで叡智の結晶だと気付いて、僕は本家入りを果たした。けど君を犠牲にするつもりは本当に無かったんだ、君を守る為に、本当に良かれと思ってした事なんだ》


「そう信じたいし、現に今の所は」

『パトリックは俺の前では嘘が言えない、と言うかお互いに言えないんだ』

《魔法でね、お互いを監視役とし、担保として。僕が本家入りの際に執り行われた魔法なんだ》


「言うとどうなるの?」

《最初は、小指からだっけ?》

『確か、左の小指からだった筈』


《もげる》

『こう、順に』

「えっぐ」


《あ、最初は徐々に絞り千切れる感じ》

『そこで相手に赦すと言われないと、もげる』

「あ、じゃあ今試して貰って良い?」


《ジャンケンで良いかな?》

『骨身に染みる痛みだからね』

「あ、うん、両方にして貰うから」


《よし、最初は……》


 見事、パトリックの勝利。

 けど流石、パトリックから始めると言い出した、度胸が凄いんだ本当この人。


 そうして結界の外に一緒に出て、イーライが嫌いだと言って貰ったんだけど。

 痛みにも強い筈なのに、苦痛に顔を歪めて。


「ウォルター」

『赦す』


《はぁ》

「コレ、どの位で治るの?」

『昔は治療薬で1週間、位だったか?』


《けどアレ子供の時だよ?もっと治りが遅いかもだし》

『あぁ、今ならどれだけ』

「ごめん、止めよう」


『いや、パトリックだけに痛い思いはさせられない、それこそ信頼を得る為にもすべき事なのだし』

《まぁ、2人で居る時にしか解除される事は無いけど、何にでも例外はあるからね。お互いの為の確認でも有るし》


『あぁ、次はどう試す?』


「距離ってどの位とか知ってるの?」

《言われてるのは身長の2倍って言われてるけど、それ疑問なんだよね。自分でも資料を見たけど結果がバラバラで、それこそお互いの魔力容量によって影響範囲が違う方が、整合性が取れそうなんだよね》

『あぁ、確かに、そもそもあの説明がブラフの可能性も有る。か』


《そうそう、要は嘘を言わせない事が目的なんだし》

「けど拷問にも使えるよね」

『最初は従属させる為、そして裏切れば拷問として利用される魔法だった、らしい』


《で、お互いに掛け合う様になった、叡智の結晶によって。王族内部のバランスを取る為、年が近い者が選ばれる、死ねば無効になるから》

「じゃあ殺されそうなモノだけど」

『だからこそ、利害が完全に一致しなさそうな相手と行う。星の巡りで相性の悪そうな相手として、私達は候補内だった』


《ウォルターが死ねば疑われるのは僕、身の潔白を証明出来ない限り自由は無い、なら守り合う方が有利に働く。だけどこう言う意味で相性が悪いとはね》

『すまない』


「ごめんね?」

《ううん、元は僕が巻き込んだのも有るんだし、気にしないで》


『イーライ、私はどう試せば良い?』


「じゃあ距離と、今度は誰にも聞こえない様にしてみよう」

『分かった』


 あぁ、こんなに信頼を得ようとされたのは初めてかも。




《赦す》

「あぁ、パトリックより酷いじゃん」

『少し距離が有ったから、大丈夫、信じて貰う為だからね』


 妬ける。

 イーライの動揺が手に取る様に分かるからこそ、妬けてしまう。

 今までは相手がローズだったからこそ、何も無かったのに。


《それで、何を言ったの?》

『イーライの事について、そう、嘘を言った』

「あぁ、嘘を言った事を言うのもダメなの?」


《ううん、それは言っても大丈夫。神か罪悪感なのかは不明なんだけど、嘘を言わなければ問題無いだけだから》

「へー」


『イーライを抱けないと、嘘を言った』


《はいはい、赦す赦す、察しは付いてたってば》

「パトリックは好きじゃないって言ったからねぇ」


《信じて欲しいからね》

『ただ、コレには欠点が有るんだ。人の伝聞までは影響しない』

「あぁ、嘘だと分からずに言ってたなら、そっか」


《それに曖昧なのも、断言を必要とするから》

「成程」


『こう、2人で怪我をしている状況で、流石に街に行くのは不味いと思うんだが』

《だよねぇ、しかも僕も帰りは馬か馬車だし》

「あ、それ、どうなってんのよ」


《魔力を込めた人間の前に1度だけドアが現れるんだ、ほら》

「あぁ、ローズと同じピアスか」


《コレは対になってるから、ローズを誘導して選ばせた》

「けどローズが良く何も言わなかったね?」


《対のピアスを持つ者だけにしか、本来のデザインは見えない様になってるから、同じとは認識出来ないんだよ》

「へー」


《まぁ、今回の事で溜めた魔力は使っちゃったし、デザインも変えようかなって》

『1つに纏めるか』


《いや、そしたら効率が悪いよ、2人いっぺんにって事になるんだし》

「こう、耳以外にピアスをするって言う文化って、ある?」

『聞いた事は有るが、実際には見た事が』


《あるある、ほら、一緒に踊り子を見に行った時に付けてたよ》


『あぁ、鼻や臍か、確かに』


「何それ、何そんな楽しそうな事をしてんの?何で呼んでくんないの?」

《ほら、ウォルターの件でだよ》

『私だけでは嘘を言えば良いだけになる、仕方が無かったんだ、パトリックは付き合ってくれただけだ』


「あぁ、けどそれでもダメだったってのは分かるけど」

『娼婦や男娼、それこそ男装した娼婦、女装した男娼も見た』

《ちゃんと色んな組み合わせでね、複数のも見たし》


「あぁ、お疲れ様でした」

《なのに、だよ。それこそ女装した男娼に凄い美人系とかも居て、なのに、だもの》

『あぁ、すまない』


「寧ろ、大丈夫だった?苦痛じゃなかったの?」

《別に、勉強になるなーって》

『私は少し後悔している。もう少し真面目に観察すべきだった、今はもう殆どうろ覚えなのが悔しい』


 あぁ、また動揺して。

 僕も悔しい。

 凄く悔しい。


《ねぇ、僕も好きだって言った事覚えててくれてる?》


「けどさぁ、好きにも色々と有るじゃん」

《じゃあ僕にも証明させてよ》

『私は構わないが』


「おう、乗ってやんよ」

『なら、結界から出てて構わないだろうか』

《あぁ、嫉妬心って厄介だからね》


『すまない、助かる』


 やっと、普通に2人きり。


「あ、でも痛くて反応が難しいんじゃない?」

《今はもうすっかり効いてるから大丈夫》


「ごめんな、半ば好奇心も有った」

《ううん、信じて貰う為だもの、コレ位は平気だよ》


「何処まで出来ると思ってんの?」

《自分としては全部、それこそどっちでも》


「試した?」

《人とは試して無いよ》


「と言う事は?」

《道具は使った事は有るけど、正直、イマイチって感じだった》


「慣れても?」

《だね、こう、乗り気になれなくて》


「下準備が大変だもんねぇ」

《寧ろ諦めてたんだもの、それこそ僕が見抜けなかった、芽生えさせられなかったんだし》


「いや、仮にそうだとしても、流石に婚約者の兄はマズいでしょうよ」


《僕じゃダメかな》

「いや、それこそ全く気付かなかったし、まさかって感じで実感が湧かん」


《でもキスして良いの?》

「おう、それこそ意外に勃たないかもだし、イヤでもないし」


《舌も突っ込むよ?ウォルターが突っ込んだって言うし》

「どうぞどうぞ」


《じゃあ、同じ、平等になる様にコントロールしてね》

「おう」


《ありがとう》




 見ないでいるつもりが。

 どうしても気になって見てしまった。


 そして直ぐに後悔した。

 胸が焼ける様な、それこそ焼き付きそうな感覚が広がって。


 チリチリと、ジリジリ、ジワジワと。


「こうたーい」


 声の方へ顔を上げると。

 結界から出て来たイーライが手招きをし、パトリックは結界外の長椅子へ。


『あぁ、何か有ったのか?』

「いや、収まるまでご休憩」


『あぁ、だろうな、分かるよ』

「はい、一応入って」


『あぁ』

「口調が気になるんだが?」


『それは、こう、不器用で。彼が居ると意識すると、らしくあれと、使い分けが上手く出来ないんだ』

「そっかそっか、確かに、分かる」


『子を成したら、廃嫡されても構わないんだろうか?』

「それでも子が守られるんであれば、ね」


『どうして、そこまでして国に尽くしてくれるのだろうか』

「少なくとも、この国は良い国だと思う、なら人の為になる事をするのが人としての義務だと思う。それこそ大した能力が無いからこそ、でもあるんだけれど、良い世界へ生まれ変わらせてくれた事への恩返しでも有るから」


『前の事は王にのみとは聞いているんだが』

「男色だとバレれば殺されるか、それこそ人として扱われない所だった。だからイヤとかでは無くて、それこそ死に繋がるかも知れないと、それで躊躇ってただけだから」


『女性を、相手には』

「そこね、ウォルターが女性ならアリかもなって、こうなる前にちょっと思った」


『抱き締めたい位に嬉しいよ、凄く』

「本当に、経験無いの?」


『道具は確かに試したが、それこそ気持ちが無ければ無理だと言われて、直ぐに諦めたんだが。練習しておくべきだったとは思う』

「いや気持ちが有ってこそだよ、それこそ好意を知らないのにしても、余計にイヤになるかもだし」


『そうも言われて、殆ど何も知らずに。直して欲しい部分が有れば言って欲しい、出来るだけ希望に添える様に努力する』


「その、誰に知恵を授けられたのか聞いても?」

『あぁ、専用の家庭教師、閨用の人間が居るんだ王宮に』


「あぁ、そっか、それもそうか」

『それこそプロだそうで、最悪は実技もされる事が有るらしい。強制的に、勃たせる為に』


「そうならないと子作りが不可能だものね」

『だけ、ならまだ良いらしいんだが』


「病みつきになっちゃったら、だもんねぇ」


『どう、嫉妬心を抑えれば良いんだろうか』


「爆発させても良いタイミングまで、我慢」

『成程』


「それか、前の事が気になるなら、他の人に目を向ける努力をした方が良い。辛いのは、凄く良く分かるから」

『そんな思いはさせない、我慢もする、だからどうか離れようとしないで欲しい。本当に、耐えられる気がしない、考えただけで狂いそうで、堪らない』


「そ、ぁ、ありがとう」


《ウォルター、ありがとう。お陰で嫉妬心からすっかり萎えたよ》

『あ、あぁ、すまない』

「ちょっと、一旦、皆で落ち着こうか」


『あぁ』

《なら外に行こうよ、色々と王宮に報告に行かなきゃだし》


『あぁ、だがイーライはどうする?』

《残念だけど、男の格好で来て貰おう、向こうもある程度は事情を察してる筈だから》


『あぁ、だが貴族の間者も居る、魔導具の準備をさせよう』

《だね》




 こう、もっさい格好に戻ったら戻ったで、寂しいもので。


 何と言うか、以前ならハマるワケが無いと思っていた事でも、こうしてハマるんだなと。


 2回目の人生でも、いや、だからこそなのか。

 全然、まだまだ、新しい発見があるモノなんだなと。


『今、こう見ても、すっかり目に焼き付いているからか、そうした姿も深窓の佳人の様にも見えますね』


「馬車内が安全と言えど、慎んだ方が良いかと、こう言う時にこそ警戒すべきですから」

『失礼しました』


 褒めてくれる事は嬉しい。

 けど移動中が1番危ないのだし、それこそ壁に耳あり障子にメアリー、常に漏れる大前提で居て欲しい。


《慎重なのは嬉しいし有り難いんだけど、信用はして欲しいなぁ?》

「信用はしてる、けど過信していないだけ」


 そしてどうしても、昔のクセで妄想して不安になるからでもある。

 もし敵が来たら、どう撃退するか、どう逃げるか。

 楽しかったクセも、マジで危険になると違う意味でクセになり、止められなくなる。


 考えなかった時、それこそ油断している時に何かあれば、余計に後悔しそうで不安になる。


 この国の敵に自白剤を使われたら、全ての情報を吐き出させられたら、この国の害悪にしかならない。

 守っても貰えない、それはこの国に情報を吐き出しても同じ事。


 金塊と有害物質をワンセットで持っている、それこそこの国に対しても、誰に対しても。

 全ての情報を吐き出させたら、保護する意味が無い、処分した方が効率が良いのだから。

 自分なら、そうする。


 自分なら、どの程度、どんな知識を持っているか探る。

 そして先代達と丸被りしていたら、処分。

 他国に情報が渡る位なら、さっさと処分。


 あぁ、先代達はどんだけ苦労したんだろうか。

 それこそ計り知れない努力をしても、1人の馬鹿に潰される事も有るのだし。


 有るんだろうか、先代達が祀られた何か、記念碑や墓に準ずる何か。


《着いたけど、大丈夫?》

「あぁ、後で話すよ」


《そう》




 偶に、王に謁見する時は入れ替わりが起こる時が有るんだけど。

 よりにもよって、今日って。

 運が良いのか悪いのか、本当に読めない、分からない。


「どうしたの?」

《すみません、面倒なのでご自分から身分を明かして下さい》


《もう、怖い顔をしないで頂戴よ、凄い不細工よ?》

《身分をご自分から明かして下さい》


《しょうがないわね。私が女王メアリーよ、宜しいお願いね》


 名乗りを見聞き同時に出来た者だけ、この偽装魔法が解け、本来の顔形を認識する事が出来る。

 それこそ髪色も、声も、体系すらも。


「あの、失礼ですが、絵姿でしか拝見した事が無く」

《あぁ、本物の証明よね、難しい超難問だわ》

《全くですよ、どうしてよりによって今日なんですか》


《だって、今日は私が口を出してはいけない会議の日なんだもの、ただニコニコしてるだけで良いからベスにお願いしたの》

『母上、影武者の使い方が間違っているのでは』


《もう、メアリーと呼びなさいと何度言えば分かるの。アナタのお母様は姉のアン、私は代わりに育てただけよ》

『ですが』

《それは今度にして下さい、今は彼の事です》


《あぁ、そうそう、名を付けましょうね。ウォーターオパール、はいどうぞ、アナタの石よ》


 面倒くさがりなのか、敢えてなのか。

 この人は本当に本題から入り過ぎる。


《説明すれば良いですかね》

《お願い》

「結晶、名を呼ばずに済む様にとの配慮も有って、ですかね」


《ご明察、流石だわ》

「ありがとうございます」


《お守りでも有るから、出来れば肌身に付けて欲しいのよ。それこそ指輪かピアスかブローチか、あ、見えなくしていても大丈夫よ。もう私達は顔は覚えたから》

《脅さないで下さい、既に探知が可能な様に魔法が掛けられているのでしょう》


《もう、いつも直ぐこんなに怒る子なの?》

「いえ、寧ろ初めて見ました、ココまで不機嫌なのは。後で怒っておきましょうか?」


《ふふふ、大丈夫。自分より上の者に警戒してるのよね、底が見えない、動揺が見えないから怯えているだけなのだから》

《こう見透かしておきながら平気で遠慮も無しに暴くからです、同じ圧で押し返してるだけですし》

「大人げないぞ?」


《ふふふふ、アナタの年より上だった事が有りそうね》


 あぁ、僕らのせいで油断してしまったんだきっと。

 イーライのいつもの鉄仮面が僅かにズレてしまった。


《また、怯えさせないで下さい》

《大丈夫、例え全ての情報が出たとしても、決して見捨てないわ。そもそも私達は既に完成されたアナタの価値を認めているの、出来れば良く栄え、私達を導いて欲しい。その対価にアナタを守る、だからどうか心配し過ぎないで。本当に認めている事を、どうか信じて欲しいのだけれど、難しいわよね》


「申し訳、御座いません」

《良いのよ、こんな口だけの事を信じられては逆に頭を疑ってしまうもの。だから見ていて、私達が如何に信頼に足るかを、見捨てられない様に鋭意努力させて頂くわ》


「では、ローズについて伺わせて下さい」

《あの子は素養が有るからこそ、敢えてのブラフに使っただけ。皆が完璧過ぎては敵の目標が分散してしまう、なら、適材適所。そしてアナタの素養を見極める為でも有った、許して、下手をすれば国が滅んでしまう事だから》


「やっぱり前例は有りましたか」

《そう聞いているわ》


「ココで、ですか」

《何を心配してらっしゃるのかしら》


「言いたくありません」

《ふふふふ、素晴らしいわ本当。そうね、ちょっとだけタネを明かしてあげるわ、パトリック》


 滅多に外さない印章指輪を外されても、何の事だが。


《で?》

「極、稀に、罪悪感を持ち合わせていない人間が存在します。アナタがそうなのでは、と」


 初めて、メアリーの動揺を感じ取れた。

 コレが魔道具で封印されていただけ、なら。


《意外と普通なんですね、メアリーも》

《そうなの、だから内緒よ?》

「どう、動揺されたんですか」


《アナタの価値、ココにはまだ無い、アレキサンドライトキャッツアイだとも言われているの》


 その言葉に今度はイーライが動揺した。

 僕は聞いた事も無い名前で、それこそ何なのか。


「まだ、無いんですね」

《あぁ、本当に存在するのね、見てみたいのだけれど探す宛てが無くて》


「どう、聞いてらっしゃるんでしょうか」

《色は2色、見え方によって変化する。だけ、なのよ》


「あぁ、それで」

《似たモノは既に有るのだけれど、どうなの?どんな色で、どんな風に変わるのかしら?》


「それはどんな意味での興味本位なんでしょうか」


《手に入れたい気持ちも有るけれど、奪い合いになるのなら、見るだけに収めるべき。けれど危ないなら、安全なら、それこそ自由にさせるべき。もし仮に手に入ったとしても、幸福になるとは限らない、滅びる可能性も有る。なら、それこそ運命、滅びるべきだとの審判が下ったに過ぎない。その事に恨み言は誰にも言えない、言うべきではない、それこそ滅びれば悪なのだから》


「どなたのお言葉なんでしょうか」


《私はお会いした事は無いけれど、神。偶に神託を下さるの》

「成程、凄くお優しい神様なんですね」


《そうなの、流石ウォーターオパールの君だわ。本当、アナタが現れるまでに探し出したかったのだけれど、何処を探せば良いのかが分からなくて》

「本当に?」

《うん、僕には本当の事を言っている様に感じられる、ソレが無ければね》


《分かったわ、アナタ達に会う時は外します、それで良いでしょう?》

《はい、是非お願いします》


《私達はアナタの生き様をも学ばせて貰うつもりなの、だからどうか自分の価値を見誤らないで頂戴ね。アナタはとても良い子、優秀な子よ》

「ありがとうございます」


《さ、そろそろ指輪を嵌めさせて頂戴ね、外しているとやっぱり不安なの》

「ご配慮頂き感謝致します」


《良いのよ、先ずは信頼して貰ってこそだから。じゃあ、もうメイドに戻るわね》

《いえ、まだ彼の事が》

『自由にさせろ、ですか』


《そうそう、流石アンの子ね。パトリックは心配し過ぎで判断が鈍ってしまったわね、もう少し精進なさい》

《はい》


《じゃあ、またね》

「あの、先代達の墓や何かは有るんでしょうか」


《今度、案内するわね》

「はい、ありがとうございます」




 このまま帰れるかと、勝手に思っちゃったよね。


『コチラがデザインの候補になっております』


 貰った石のデザイン決め。

 凄いな、お抱えの魔道具職人を持ってるんだもの。


「じゃあコレで」

《もう少し考えない?》

『もっと凝ったデザインでも納期に変わりは無い筈だよ』

『はい、仰る通りで御座います』


「そう興味無いんだって、それに下手に個性付けて目立ちたく無いし、それこそ引っ掛かって痛い思いをしたくないの。コレにします」

『それも拘りの1つでらっしゃるでしょうから、ご説得は無駄かと』


「うん、はい」

『では、お仕上がり次第ウォルター様のお屋敷に届けさせて頂きます』


 で、帰れるかと思うじゃん?


『もう私達で決めてしまおう』

《だね》


 馬車で帰れるのかと思ったら、途中下車して宝飾店へ。

 新しい友人への贈り物と称し、選びまくり。

 馬鹿だ。


 あぁ、男は何処でだって何時だって馬鹿なんだ。


「貰う側の気持ちを考えような?」

『何か彼女が気に入らなそうな品が有ったかな?』


「うん、装飾過多。ってかまた今度にさせてくれよ」

《あぁ、家で待っているものね。うん、今日は帰ろう》


 やっと。

 やっとだ。

 やっと落ち着ける。


『お帰りなさいませ』

《お帰りなさいませ》


 あぁ、そうだ、この人の説明もして貰わないと。




《この人は王族の人、だけどまぁ》

《王族の責務を果たす事以外、娼婦以外なら何でもするとの約束を経て、こうしてメイド職を手に入れました》

『書類上は修道女として過ごしている、継承権も無し、廃嫡済みだよ』


《偶には行きますよ、情報収集の為に》

《で、ある意味では僕らと同じ趣味》


《女性しか愛せませんのでご心配無く》

「その場合、女装男子は含まれないよね?」


《見るだけならアリです》

「あぁ」

『黙っている時は、気位の高い大人の女性にすら見えた、素晴らしい出来だったと思う』


《そこを目指した部分も有ります、ありがとうございます》

《まぁ、こんな感じで同志になった感じ》


《私としましては穏便に廃嫡させて頂いたので、恩人だとも思っています》

「何したの?」

《友人の痴話喧嘩に巻き込まれて火傷して不妊になった、って事にした》


《実際には火傷も無いのでご心配無く》

「どうしたらそんな事を思い付くワケ?」

《丁度、良い素材が揃ってたんだもん》

『男と別れたがっていた女を助けた、だったか』


《それこそ浮気性の男とね、ついでに呪っといた、もう悪さしない様に》

《噂を流し、寝ている隙に薬品で軽く火傷させ、信じ込ませる事に成功していました》

「怖い怖い」

『だが学園の風紀はかなり取り戻せた、問題としては寧ろ有意義な解決法だったと思う』


「だけども。いや、凄いね、流石統治者だ」

《引かないのは流石ですね、私は後になって真相を聞いた時にドン引きしましたよ》


「まぁ、引いてるは引いてるけど、結果が良いからね」

《ほら》

《手腕含めて引いているんです、それこそ13歳頃ですよ》


「うわぁ」

《ほれみたことか》

《救ったから良いじゃん》

『だが手加減を間違えれば恐怖政治になってしまう、分家の生まれで良かったと私も思う』


「あの、同級生で?」

《あぁ、いえ、私は更に1つ上です》


「あぁ、そらドン引きですわ」

《ほら》

《はいはい》


《あ、ご入浴はどうされますか》

「どう、とは?」


《下準備用の品物を揃えるか、どちらかとご一緒なのか、等》

「今日はゆっくり1人で入らせて貰って良いですよね?」


《そうですね、私としましては、待たされると言うスパイスもアリだと思います》

「あぁ、そうなるかぁ」


《どうしましょうか》


「取り敢えず、1人で」

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