411 観光②

 こうして歩いてみても、本当につくづく興味深い都市だなぁ。適度に休憩を取りながらのんびりと進んでいく。


 都市はかなりの広さのようだが、歩いている途中に日が暮れても心配する必要はない。都市システムにアクセスすればいつどこにいても食べ物や飲み物が手に入る。

 ビル群のほとんどは空だし、適当に入ってベッドを呼び出して快適に寝泊まりする事だってできる。探協が恐れる高機動要塞都市コードも中に入ってしまえば快適とは、何だか世界の裏側を覗いている気分だ。


 しかし、こうして歩いていても全く店のようなものは見かけない。

 ほとんどの生活物資を都市システムが用意してくれる時点で店などいらないのかもしれないが…………困ったね。


 都市システムでスマホを出せない事は確認済みである。もしかしたら権限が足りないだけなのかもしれないが、これは都市に詳しそうなノーラさんに教えてもらうべきだろうか? でも、昨日、チョコレートについて聞きに行って叱られたばかりだからなあ。

 おまけに、まだクラヒがどこかに行ってしまった話が解決していない。これでは何かを頼める立場ではない……駄々こねが必要だよ、駄々こねが。


 地図を確認しながら歩くこと数十分、僕はようやく立体地図を表示した際に黒く表示されていたその境界に到着した。


 立体地図を再度確認する。しかし、地図上の黒い部分は黒いままだった。

 近づいたら明るくなると思っていたのだが、どうやら僕の想定は間違えていたらしい。


 見たところ、境界のこちら側と向こう側に差はない。黒く表示されているのは……もしかして故障かな?



「君たち、壊れないようにそこで待ってて」



 せっかくおひいさまに借りたのに、何かあったら大変だからな。


 僕にはまだ結界指が残っている。

 機装兵達に言いつけ、恐る恐る境界を超えてみる。踏み出した足はあっさりと境界の向こう側についた。


 特に何かあったわけでもなく、結界指が発動した気配もない。


 やはりただの故障か……命令通り待機している機装兵達を見ながらそんな事を考えたその時、不意に背後から声がした。





「ここから先は、モリス王子の管轄エリアよ。何の用かしら、《千変万化》」


「!?」


 慌てて振り返る。いつの間にか、そこには一人の長身の女性が立っていた。


 涼やかな声に、結い上げられた黒髪。そして――静かに輝くルビーレッドの瞳。

 ゆるりとした着流しのような格好で、その腰には、一振りの長い刀を帯びている。明らかにこの都市の人間の出で立ちではない。


 その女性は僕でもなんとなく感じる、異質な気配を纏っていた。


「なるほどなるほど……モリス王子、モリス王子、か」


 聞いたことがない名前だが、王子までつけられたらさすがの僕でも理解できる。





 つまり、モリス王子って事は、モリスは王子だ!






 王族は王を除いて六人いるはずなので、その内の一人だろう。僕が保護する対象である。


「……もしかして、入ったらまずかった?」


「ふふ……そんなルールはないわ。けれど、物事には通すべき筋ってものがあるでしょう? 大体、近衛が突然、他の王族のエリアに入るなんて――攻撃されても文句は言えないわ」


 女性が自然な所作ですらりと刀を抜く。


 妖刀だ――僕は一目でそれを理解させられた。


 大太刀と呼んでもいいくらい大ぶりの刀だった。海の底を想起させる深い青の刃。その刃はまるで濡れているかのように輝き、見ていると吸い込まれそうになる静かな輝きを放っていた。

 宝具なのか名工の作なのかはわからないが、間違いなく業物である。


 そして、女性がゆっくりとした動きで、その刀を横に振った。


 きんという高い音が響く、そして――通り沿いに立っていたビルの一つが、半ばでズレた。

 目を見開く。断ち切られたビルが滑り落ちるように落下する。


 轟音。だが、女性は眉一つ動かず、微笑んでいる。僕は硬直する事しかできなかった。


 優れた剣士の剣技は限りなく魔法に近くなるという。特殊金属で建てられたビルを断ち切る飛ぶ斬撃は間違いなく超一流の域だ。

 

 僕の持っていた結界指が発動する。攻撃されたのだ。


 だが、攻撃された瞬間を、振り下ろされる刃を、僕は視認する事すらできなかった。


 余りに自然すぎて――固まったまま切られる事しかできない。現在進行形で攻撃を受けているはずなのに、刃が見えないのだ。


 果たして攻撃を受けていたのは何秒だろうか。女性はふぅと小さく息を吐くと、呆れたように言った。


 刀を納める音がした。女性が言う。


「《千変万化》の絶対防御。手応えがあるのに無傷とは……アレと同じ能力だと思ったんだけど、違うようね」


「……い、いきなりなにするのさ。危ないじゃないか。てか、忘れているだけなら申し訳ないんだけど、君、誰?」

 


 結界指が足りていて本当によかった。結界指というのは基本的に一瞬しか結界をはれない。十個以上持っていても、連続で攻撃を耐えきれるのは十秒かそこらだ。

 だが、まずい状況には変わらなかった。僕は大体、自分の結界指の持続時間を把握している。


 次に今の攻撃をされたら恐らく防ぎきれない。


 僕の文句に、女性が笑みを浮かべる。だが、その目は笑っていなかった。まるで僕を見定めているかのように見つめている。



「何故ここにいるのかはわからないけど――まぁ、今回は見逃してあげるわ。貴方には『借り』があるし、私も大きな仕事の最中なの。それに――ふふっ…………王様に、叱られてしまうから」



 セーフ!



 そして、何が何だか……さっぱりわからない。そしてやっぱり、どれだけ考えても目の前の人物に見覚えがない。


 明らかに内部の人間の服装ではないので、外からやってきた賊なのだろう。かなりの危険人物である。

 ビジュアルのインパクトを考えたらさすがの僕でも一度会えば忘れないはずだが……まぁ、思い出せていないのだから、そういう事だ(諦め)。


 まったく、こういう剣士が出てくる時に限って、ルークがいないんだから。


「それじゃ、また会いましょう。次はその後ろの機装兵ごと、切り刻んであげる」


 勘弁して欲しいな。女性が無防備に背中を向けるが、もちろん攻撃などできるわけがない。


 剣でビルを真っ二つにするようなイカれた剣士がルーク以外にいるなんて…………。


 もしかしたらモリス王子はあの女剣士に囚われているという事だろうか? 僕が王子の立場だったら、あんな恐ろしい女剣士がやってきたら、例え権限で勝っていたとしても言う事を聞いてしまうだろう。


 せっかく順調だったのに、大きな悩み事が出来てしまった。とりあえず今わかっているのは――あれの相手はカイザーとサヤだな。

 僕を知っていたみたいだし、多分どこかで戦ったことのある相手なのだろう。《嘆きの亡霊》が。


 僕は小さくため息をつくと、僕を守る気配もなく黙ったまま突っ立っている機装兵達を見た。

 護衛代わりにつれてきたのに全く役に立たないじゃないか………………僕がそこで待っててとか余計な命令したからですね。


 あの女剣士、現れるタイミングが最悪過ぎる。



「ここはもういいや。移動しよう」


 モリス王子に危険な女剣士がついている事はわかった。ここはカイザーやサヤに任せる事にしよう。

 そもそも、観光するならノーラさんがいる所でよかったのだ。あのあたり、けっこう賑わっていたからな。

 それに、ノーラさんは勝手にエリアに入っても攻撃してこないだろう。



 もう歩くのも面倒だ。僕は都市システムにアクセスすると、移動のためのクモを呼び出した。






§ § §






 あれが、《千変万化》…………『空尾』を止めたレベル8、か。聞いていた以上に得体の知れない男だ。




「……お、おい。困るよ……なんで、他の王族の近衛に攻撃してるんだよ! ルール違反だろ!? わかってるの? ケンビ!」


「…………ふふふ、わかっているわ、モリス王子。こちらのエリアに踏み込んできたのは彼だし、あの程度、彼にはお遊びにもならないわ」


 後ろからかけられた焦ったような声に、ケンビ――剣尾は腰に帯びた自らの愛刀を撫でた。


 秘密結社『九尾の影狐』における最高位。ゼブルディア含む広域を管轄していたボスの一人、『空尾』が武帝祭で起こした宝具『大地の鍵』まわりの事件は記憶に新しい。


 しかし、そこから僅か数ヶ月で、状況は大きく変わっていた。


 武帝祭の頃の組織には大きな力があった。各国の要職に複数人の構成員を送り込み、且つ、組織の存在をほとんど悟らせなかった。

 故に、武帝祭という注目度の高い場で大々的に宣戦布告を行い、組織の力を知らしめ今後の活動に繋げる計画だったのだ。



 それら全てが空尾の浅慮により台無しとなった。



 今後、組織が活動していく上での切り札の一つとして想定していた『大地の鍵』は失われ、実際に世界を滅ぼし得る宝具を発動した事により、大国が次々と本腰を上げて組織を追い始めた。あの宝具は、組織がぎりぎりの状況に陥るまで切ってはいけない類の切り札だったのだ。


 宝具が残っていればその力を背景に牽制できた。内通者を使って組織への対応を遅延させる事もできた。全てはもう無意味な仮定の話だ。


 ゼブルディアを始めとした、じわじわと影響力を広めてきた幾つもの国で撤退を余儀なくされた。友好関係を築いていた幾つかの秘密組織から関係の解消を言い渡された。組織への影響たるや、とても金で換算できるようなものではない。


 今もまだ、組織の混乱は治まっていなかった。何より『空尾』の後釜が決まっていない。




 そんな状況で、コード王の交代の時がやってきたのは、果たして幸運なのか不運なのか。



 初代コード王の時代より、組織は高機動要塞都市コードとの取引を続けていた。


 コードの都市システムの力は素晴らしい。機装兵を始めとする兵器や食料などの製造能力に、数カ国を容易く滅ぼすほどの軍事力。その力は生み出され二百年経った今も変わらず圧倒的だ。

 現在、失われている機動能力さえ取り戻せば隙もなくなる。世界中の国々がこの都市を恐れる事になる。


 腕利きの構成員を多数擁し、各国にも繋がりを持っている『九尾の影狐』と組めば、まさしく世界征服も夢ではない。

 組織も一気に勢力を取り戻すだろう。


 ボスの一人である『剣尾』が、コードの依頼を受けてわざわざ自らやってきたのも、組織内部でコードの価値が大きかった証だ。

 次代の王に貸しさえ作れれば、より強固な協力関係を築ける。状況次第ではそれ以上だって期待できるだろう。


「し、しかも、ビルを、斬るなんて――」


「大丈夫よ。どうせ誰もいないんだから……それに、都市システムならすぐに修復できるんでしょう?」


「そ、それは、そうかもしれないけど…………」


 周囲をキョロキョロ確認し、剣尾を見上げるモリス王子。背の低いいつも何かに怯えているかのように挙動不審なこの青年が今の剣尾の主だ。

 目の下に張り付いた隈に、覇気の欠片もない容貌。迫りくる王位争奪戦を恐れ、最近は頻繁に拠点を変えている。

 余り王の器に相応しいとは思えないが、そもそも剣尾の目的は都市システムの力だけだ。コードの傘下に入るつもりはなく、むしろ偉大な王はいらない。


 モリス王子を見下ろし、剣尾は唇の端を持ち上げ、笑みを浮かべた。囁くような声で忠告する。


「モリス王子、貴方は――王になる事だけを考えなさい。殺されたくないのでしょう?」


「ッ……」


 剣尾のちょっとした脅しに、モリス王子の顔から血の気が引く。

 外の国でも度々発生している事だが、王位争奪戦は殺し合いだ。絶対的な力を持つ王になれなかった王子王女はそれまでの関係を全て精算する事になる。


 それまで築いてきた地盤はリセットされ、生まれつき持っていたクラス8の権限――特権すらも失うのだ。それまでその者を王にするために付き従ってきた陣営の貴族達ですら敵に回る。


 そう考えると、コードの王位継承のシステムはほとほと悪辣と言えた。


 最後の最後に行われるのがそれまで築いてきた地盤の厚さと必ずしも関係しない、王の証の杖の取り合いとは。


「確かに有利な戦いではないわ。でも、あれが完成すればなんとかなるのでしょう?」


「うぅ…………」


 モリス・コードは性格的に余り争いには向いていない。本人はそれを隠そうとしているが、言動の節々から臆病な性格が見え隠れしているため、モリス王子を支持する貴族達は極少数――それも、クラス6の下級貴族ばかりだ。

 一発逆転を夢見てモリス王子が王になる事にかけた者達。能力のある者は(もっともコードに能力のある者など多くないのだが)アンガス王子やノーラ王女についているので、モリス陣営の者達は有象無象と言ってもいいだろう。


 唯一勝ちの目があるとすれば――モリス王子がクラス8としての膨大なリソースを全て注ぎ込み製造している決戦兵器だ。


 コードの都市システムが製造できる兵器は多岐にわたる。そして、モリス王子が選択したのは、その中でも最上の能力を持ち、そして――もっともコストパフォーマンスが悪いものだった。


 アンガス王子やノーラ王女が研究している物とは異なる、個人のためだけに生み出される個人用の兵器。


 単純にリソースを一極集中して生み出されたそれは、分厚い支持層を前提に研究を重ねられ製造されたアンガス王子の多種多様な兵器群や、ノーラ王女の強化騎士団をも上回る力を持っているはずだ。


 この国で王を決めるのは杖を手に入れられるかどうかなのだ。自分自身でその兵器を纏い一心不乱に杖を目指せば、あるいは――。

 死の恐怖に駆られ製造を開始したそれは、奇しくも、あらゆる部分で不利な状況になっているモリス王子を王の座に近づける唯一の策だと言えた。



 もちろん、競争相手を出し抜き王位を得るのは並大抵の事ではないが――前回の王位争奪戦では王子達の中でも余りぱっとしていなかったクロス・コードが王位についた。


 何が起こるのかわからないのが王位争奪戦というもの。そして、誰が王位についてもより優位に取引をできるような状況に持っていくのが剣尾の任務だ。


「それで…………ケンビ、あの男を、知ってるのか? 王から、甘言に惑わされぬよう通達がきていたけど……」


「王子には関係のない事ですわ。あれの対処は私が行うから……それで、不満はないのでしょう?」


「も……もちろんだ。君の腕は、信用している。機装兵だって、強化騎士だって、傭兵達だって、敵いはしないさ………………何しろ、僕の改造した機装兵達をばらばらにしたんだからな」


「ふふふ………………あれは、いきなり襲ってきたから、悪いのよ」


 最初にモリス王子にコンタクトを取った時の事を思い出し、剣尾は口元に笑みを浮かべる。


 剣尾を危険人物とみなし、モリス王子が引き連れていた近衛機装兵達が問答無用で攻撃を仕掛けてきたのだ。

 あれには驚くと同時に、コードの技術力の高さを思い知らされたものである。高レベルハンターの中でも、剣尾を見てその危険性を看破し即座に迎撃態勢を取る者などなかなかいないというのに。


 剣尾がコードに入ってからまだそこまで経っていないが、都市システムについては大体の事が把握できていた。


 厳密に設定されたクラス分けによる身分制度。あらゆるものを用意してくれる都市システム。そして、都市内部の治安を維持し、かつて国々を焼き払ったという軍事力。


 コードの有する兵器や警備システムは優秀だ。いついかなる時でも王族クラスが少しでも危険を感じれば、十秒足らずで機装兵の軍団が駆けつけてくるし、様々な都市兵器が不届き者を制圧しようと作動する。だが、十秒という時間は刹那の殺し合いを幾度となく繰り返してきた剣尾にとって長すぎた。


 ここの警備システムは並の相手しか想定していないのだ。高度物理文明時代に存在していた、弱い人間しか。


 そして、軍事力も然り。


 機装兵を始めとしたこの都市の兵器で剣尾が脅威を感じるのは本当に極一部だけだ。そんな無意味な事をするつもりはないが、剣尾ならば――いや、高レベルハンタークラスの実力者ならば、近づくことさえできれば王族の暗殺も十分可能だろう。


 現在、このコードには腕っぷしに自信がある者達が大勢入ってきているが、目下問題なのは《千変万化》である。あの男は眉一つ動かさずに剣尾の刃を受けきった。


 まさか、自分の剣があそこまで容易く防がれるとは、物心ついた頃から剣を握り、その道に進んで二十年余り、初めての出来事だった。

 一呼吸の間で四方八方から放った斬撃は百を超える。例え結界指を持っていたとしても防げないように時間をかけて念入りに切り刻んでやったというのに、それが全て防がれた。


 最初は空を操りあらゆる攻撃を防ぐ空尾と同じ能力かと思ったが、手応えが違った。


 今回の攻撃は全力ではない。《千変万化》が後ろに残していた機装兵がどう動くのかわからなかったし、余裕をもって放った攻撃ではあったが、現在この都市で剣尾と戦える人間がいるとするのならば、それは《千変万化》をおいて他にいるまい。


 もちろん――苦労して追い詰め捕らえ、コードの監獄に封印したあの男を除いての話だが。

 

 剣尾はすでに《千変万化》の能力の把握を放棄していた。

 コードの都市システムによるスキャンをも欺く擬態。そんなものを見破るような力は剣尾にはない。


 剣尾にできるのは――ただ斬る事だけだ。


「…………何故ここにいるのかはわからないけど――邪魔はさせないわよ」


 コードの力を手に入れる事は組織にとって『大地の鍵』に並ぶ大きな作戦だ。王の交代を邪魔させるわけにはいかない。



 コードの都市システムにおいて、王族の権限は全て平等だ。だが、それぞれの管理するエリアは生まれた順に割り振られている。

 四番目の子であるモリス・コードの管理エリアは王塔からは離れており、外周部に近い広範囲に存在している。これは余り王位争奪戦に有利なエリアではなく、それもまた味方が少ない理由になっている。


 だが、それ故に――モリス王子が王となれば、数少ないモリス王子の味方は大いなる権勢を得るに違いない。そして、モリス王子唯一の人間の近衛である剣尾はコード王に指示を出せる立場になるだろう。


 モリス王子に近づいたのはアンガス王子の指示だが、これはこれで悪くない立ち位置だ。



「モリス王子、さっきの男をコードから追い出せるかしら? 王にメッセージを送れるんでしょ? もし追放できるのなら、話が簡単なんだけど――」


「それは……無理に決まっているだろ。他のクラス8の近衛を追い出すなんて――そんな事話しても、僕の心象が悪くなるだけだ。そもそも、あの男は、王から取るに足らない者だから無視しろと連絡がきてる。システムによる評価も低いしね」


「…………ふふふ。取るに足らない者、ね」


 このコードの人間は高レベルハンターというものを全く理解していない。ましてや、あの『空尾』が発動しようとした大地の鍵を止めた、レベル8の二つ名持ちの英雄を、取るに足らないとは――コードの都市システムの評価を信用しすぎるのも良くないという事だろう。

 


 所詮高度物理文明は一度は滅び去った文明。過去の遺産に現代を生きる英雄は測れない。


 《千変万化》が何故ここにいるのかはわからないが、現在近衛の地位に収まっていると言うことは、剣尾と同じ目的の可能性がある。


 剣尾がコードの力を得るためにやってきたのと同様に、あの男も王族に取り入りコードの力が振るわれるのを止めようとしている可能性が。

 そう考えると、《千変万化》が幽閉されていたアリシャ王女の下についたのも納得だろう。誰も味方のいない、だけどシステム的には王位継承権を持っている王女。



 たった一人で、王位を狙う五人を差し置いてアリシャ王女を王にしようなど、いささか自信過剰のようにも思えるが――。



「モリス王子、あの男と、あの男を近衛にした者を監視しなさい。何かあったら知らせるのよ。斬るのは私がやるけど、それ以外はやってもらわないと困るんだから」


 《千変万化》には借りがある。大地の鍵を使い、支配する予定の国を壊滅させようとした空尾を止めてもらった借りが。


 だが、組織の邪魔をするのならば斬るまでだ。斬れないのならば斬れるまで斬り刻んでやる。

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