402 罠

 高機動要塞都市コード。宝物殿に根源を持つらしいその都市は僕にとって興味の対象だ。

 この都市の有するシステムは既存のどの国家と比べても遥かに高度なものだ。僕はまだこの都市についてあまり詳しくないが、少なくとも都市に住む者達の衣食住をシステムが担っている事はわかっていた。


 人が働かなくてもなんらつつがなく社会が回る。そんな都市が他に存在するだろうか?


 いや、まぁそんな機能あったらダメ人間ばっかり増えそうだけど……もしかして高度物理文明が滅んだのってそのせいかな?



 他にも、コードでは、クラスに比例するように多種多様なシステムが使えるらしい。

 せっかくこんな遠方まで様々なリスクを冒してやってきたのだから、何ができるのか試してみるのも楽しいだろう。



 もちろん、目的を忘れてはいない。僕達がコードにやってきたのは囚われになっている王族を助け、コードの脅威を退ける事。それ以外は――観光したり高度物理文明の宝具を探したりといった諸々の優先度は下がる。


 だが、今回すでに僕は自分の仕事を終えていた。


 王族の一人、アリシャ王女の近衛となり、ノーラ王女と会う事もできた。

 コードの王族はコード王と王子王女の全部で七人だから、カイザーとサヤと僕、三人で割れば一人につき二人、余りのコード王はやる気のあるカイザーとサヤではんぶんこすると考えれば、僕の担当分は終わったことになる。

 追加でクラヒまで助けだしたし、これ以上何かをするなんて働き過ぎというものだろう。



 カイザーとサヤにも仕事は残しておかないとね。



 ともあれ、クラヒがいれば僕も安心して外を出歩ける。結界指のチャージも頼めるし、仮にコードの防衛システムに狙われても《雷帝》ならば撃退できるのだ。さすが僕の本物、頼りになるな。

 僕が今すべき事はカイザーとサヤ、二人の仕事が終わるのを粛々と待つことである。


 ただじっとしていればいいだけなのだが、不思議な事にそれすらなかなか達成できないのがこのレベル8の《千変万化》という男。全身全霊を以て何もしないをしなくてはならない。




 ………………皆、僕を頼りすぎなんだよ。優秀なんだから勝手にやっておくれよ。別に報告とかもいらないから。




 アリシャ王女――おひいさまを見ているという仕事はそういう意味で、本当に僕にあっているのかもしれなかった。



 クラヒを助け出し、無事おひいさまとのお目通りも終え一夜。

 おひいさまの部屋の前にデッキチェアを出し、そこに寝転がりながらぼんやりおひいさまの日常生活を眺めて、何もしないをしていると、クラヒが仲間達を連れ立ってやってきた。


 一仕事を終えてバカンス気分の僕の前までくると、開口一番、熱を帯びた声で言う。



「それで、クライ。僕にできる事はあるかな?」



 やれやれ、優秀な人間は暇さえあると仕事しようとするんだから。デッキチェアまで出して寝転んでいる僕の姿が見えないのかな?

 

 クラヒの後ろにはその被害者、クール達がなんともいえない表情で付き従っていた。エリーゼだけいないようだが、そういうところもエリザにそっくりである。

 クール達の表情は少しばかり前よりも緊張が取れているように見えた。パーティが全員戻ったことで肩の力が抜けたのだろう。冷静に考えたら、パーティのリーダーが監獄にぶち込まれるってけっこう大変な事態だよね。



 仕方ないので身を起こしてクラヒを見る。




「できる事? クラヒの実力があれば何だってできるでしょ。好きにしていいよ」


「!! 本物さん、お兄ちゃんはあ、とっても格好いいし、強いんですけどお、ルシャは、好きにさせない方がいいって思いますう……」


 ルシャがおずおずと手を上げて進言してくる。明らかに懐いている妹にそんな事言われるとは……てか君、前はもっとこうアグレッシブだった気がするんだけど、成長した?


 その言葉を受け、クラヒが肩を竦めて口を開く。



「まぁ、そういう事なんだ。クール達が、君の意見を聞いた方がいいと言っていてね。何しろ、僕はまだこの都市について何も知らない。一応、君の目的の王子王女の名前くらいは知っているが――」


「…………それだけわかっていれば十分だよ」


「!?」


 良く考えてみたら僕、王子王女の名前、全員分知らないな。別にあまり知りたくもないけど……。

 確かに、クラヒを突然任務に参加させるのはあまりいい案ではないだろう。カイザーやサヤから見れば突然知らない(しかも強い)魔導士が割り込んできた形だ。最低でも状況を説明できる僕が同行しなくてはならないだろう。


 ………………いや、クラヒなら大丈夫かな? 



「別にまだ何をして欲しいって事はないんだけど…………王族を保護してきて貰ったりとか、できる? 誰でもいいんだけど」


 もうすべてクラヒに任せたい。

 半ば冗談で出した言葉に、クラヒが目を丸くする。クラヒが何かを言い出す前に、クールが慌てたように口を挟む。


「そんなお使いでも頼むみたいに言うのはやめてください! さ、さすがに無茶がすぎます、クラヒさんの解放はすでに知れ渡っているはずだし、警戒だってされているはずで――」



 さすがに無茶か。日課のお勉強中だったおひいさまが青ざめた表情のクールに目を瞬かせている。




 ……とりあえず、順番にできる事をやっていこうか。




「なら……クラヒ、君さ………………この扉、開けたりできる?」


 おひいさまの部屋を閉ざす扉を指して聞いてみる。

 未知の金属でできているその扉は一見そこまで頑丈そうには見えないが、前任者である賊が破壊しようとして傷一つつかなかったという代物だ。


 僕が攻撃しても破壊できないのは試すまでもなく明らかだが、クラヒならどうにかできる可能性があるだろう。

 まぁ、解放できたとしてもカイザーやサヤが仕事を終えるまで逃げ出すわけにはいかないんだけど――。



「ふむ………………なるほど。得意分野ではないが、試してみようか」



 腕まくりして扉の前に立つクラヒに、どこか不安げな表情をする仲間達。

 クラヒは目を閉じ数秒深呼吸をすると、かっと目を見開いた。


 輝く金と銀の瞳。僕よりも少し長い黒髪が僅かに浮き上がり、雷のエネルギーがその肉体に宿る。

 全身から飛び散る紫電。監獄で襲ってきた兵器はこの状態のクラヒにはまともに触れる事すらできなかった。コードという都市が雷に弱いのならば、扉のギミックを破壊して開く事も可能だろう。



 外套を羽織っていてもわかる鍛え上げられた体躯。冷静に僕と比較してみると、クラヒと僕って髪の色と性別くらいしかあってなくない?



 クラヒが煌々と輝きながら腕を伸ばす。



 そして、その扉が指先に触れる寸前で、大きく後ろに跳んだ。 



 轟音が廊下を揺るがした。ルシャが高い悲鳴をあげて耳を塞ぎ蹲る。


 僕はそこでようやくおひいさまの部屋の扉の周囲に砲塔のようなものが幾つも生えている事に気づいた。


 砲塔が音もなく動き、クラヒを狙い弾丸を吐き出す。無数に射出された弾丸はまるで輝く嵐のようだ。

 余りの音と振動に頭がくらくらした。時折音が消えるのはきっと、許容外の大きさの音を結界指が遮断しているからだろう。




 …………そういえば、扉を攻撃したバイカーの配下は全滅したんだったね。消し炭とか…………忘れてたわ。



 開けろって言われてすぐに破りにかかるクラヒ側にも問題はあると思いますけど。



 クラヒの身のこなしは見事だった。僕の動体視力ではまったく捉えられない速度で撃ち込まれる弾丸を身のこなしだけで回避している。

 回避した弾丸は不思議な事に壁や床に吸い込まれるように消失していた。建物は破壊しないように設定されているらしい。



 だが、問題が一つある。廊下がそんなに広くない事だ。このままここにいたら巻き込まれそう。


 クール達はとっくに廊下を走り出していた。蹲っていたルシャはズリィに引きずられている。

 さっさと逃げたクールが、執拗に攻撃を受けているクラヒに叫ぶ。



「クラヒさん、逃げましょう! 質量弾は不利ですッ!」


「ぐッ…………いや、まだ、だ。ま、だ、まだああああああああッ!!」



 クラヒの咆哮と共に、全身に宿る光が更に強くなる。杖も持たず鍛え上げられた肉体を持つクラヒはとても魔導師には見えない。

 だが、弾丸の嵐は一切、クラヒの接近を許さなかった。


 苦し紛れにクラヒの腕から扉に向かって放たれた雷が、途中で天井や床に吸い寄せられるように消失する。なんかちょっときつそうだな…………。


 というか、さっきからばちばちこっちに電撃が飛んでくるのが超怖い。ぎりぎり届いていないのか結界指は発動していないが、何度も雷を体験してなかったら悲鳴をあげていたところだ。


 扉の向こうのおひいさまも目を見開き固まっている。もうやめだ、やめ。



「やっぱり、扉を破るのはさらさらじゃないと無理か……」



 さらさらが何なのか知らないけどね。ともかく破れないのならばこれ以上の攻撃は無駄だ。


「クラヒ、もういいよ。大体わかった」


 しかし、よく避けるなぁ。僕だったら結界指なしなら初撃でミンチなのに、さすが実力で武帝祭に出る男は違う。


 クラヒが僕の言葉に、大きく数メートル後ろに跳び、扉から距離を取る。




 ――だが、防衛システムはクラヒを追うのを諦めなかった。




 クラヒを追うように、床から、天井から、ずらりと砲塔が生える。変幻自在の防衛システム。なるほど、これは厄介だ。高レベルの宝物殿にだってこんな悪辣なトラップはなかなかない。

 想定外の展開に、クール達が絶句している。クラヒが攻撃を避けるようにクール達の方に駆ける。弾丸がその背を追う。僕は目をただ瞬かせる事しかできなかった。


 扉の近くに生えていた砲塔は消えていた。急いでおひいさまに確認する。



「…………おひいさまさ、あれ止められたりする?」


 おひいさまは僕の言葉に目をパチクリさせ、ゆっくりと首を横に振った。


「あれは、王の決めた事」


 マジかぁ…………なんかごめんよ、クラヒ。

 迂闊な事をしてしまった。そういうつもりじゃなかったんだよ、本当だよ。



 すいませんでしたあああああああああああああああああああ!




「あれ、どこまで追ってくるかな?」


「範囲は、このビルの中」


「はああああああああああああああああああああああああッ!!」


 廊下を閃光が駆け抜ける。音が聞こえなかったのは結界指が遮断してくれたせいだろう。音だけでもう7つも結界指が使われているんだが……。

 閃光が消えた時、廊下の左右を締めていた大窓の一部に、溶け落ちたような大穴が空いていた。クラヒが躊躇いなく大穴から身を投げ出す。ここ、めっちゃ高いんだけど……。


 空いていた大穴が一瞬で修復される。速度が半端ない。


「クラヒさあああああああん!!」


「お、お兄ちゃあああああああああああん!!」


 クール達が慌てて窓の近くに駆け、下を覗き込む。どうやら防衛システムはクラヒのみをターゲットにしていたらしく、先程まで執拗に攻撃を仕掛けていた砲塔は全て消えている。

 恐ろしい防衛システムだ。クトリーがこちらを見て乾いた声で言う。


「お、おいおい、旦那、めちゃくちゃやるなよ。さすがに最低のオレでも、ドン引きだぜ? まぁ、うちのリーダーはこの程度で死ぬようなタマじゃあねえが」


「………………君のキャラ付け、けっこう好きかも」


「…………戻ってきたら、防衛システムは、何度でも、発動する」


 扉に身体を張り付けるようにして廊下の様子を見ていたおひいさまがぼそりと教えてくれる。


 ようやく監獄から解放されたのに、もうこのビルに入れない事が確定してしまった。

 ごめん、クラヒ。本当にごめん。土下座すれば許してくれるだろうか?


 クール達がクラヒの様子を確認するためだろう、騒がしく出ていく。


 僕も無事を確認しに行かないと――デッキチェアから立ち上がったところで、おひいさまが部屋の中からばんばんと扉を叩き、朗らかな笑顔で言った。



「クライ、そろそろ…………おやつの時間」


「…………防衛システムなんとかしてくれたらあげるよ」


 この状況でチョコバーを欲しがるなんてなんという豪胆な……これも王女の資質と呼べるのだろうか? チョコバーじゃなかったら素直に感心していたんだけど。

 おひいさまはしばらく目を瞬かせていたが、どこか残念そうに言った。


「確認したけど、王に却下された。王が定めたルールを王が破るのは民への示しにならない」


 おひいさまがすらすらと答える。鈴を転がすような美しい声。


 …………へー、君、王に連絡できるんだ。初耳。遮断を解除してもらったとは言っていたが、王にしてもらったのね。

 まぁ冷静にこの都市のシステムを考えれば納得ではある。


「でもおひいさま、君、チョコバー送って貰えるようにしてもらったじゃん。それもルール違反じゃないの?」


「ルールの重さが、違うから。王族に弓引く事は、大罪。王族がたくさんの知識を取り入れるのは有用。チョコバーは利益が大きかったの。王も多分、気になっていた」


 まさかチョコバーがコードでそこまで評価されるとは、どれほどの神算鬼謀でも予想できない事だろう。

 話のネタになりそうだなあ。無事依頼を終えて帝都に帰れたら、だけど。


 僕はため息をつくと、真面目な表情でおかしな事を言い出すおひいさまに言った。


「それで、コード王にチョコバーを送ったの? 気になっていたんでしょ?」


「………………へ?」







§ § §








 これはどうしたものか。


 コードの中心、王のみが存在を許される塔の最上階で、現コード王、クロス・コードは困惑していた。


 より強いコードの王を生み出すかねてよりの計画は今のところ順調に進んでいた。


 雷帝を巡る子ども達の手腕はクロスの期待以上だった。

 あらゆる手を使い強力な手駒を手に入れようとしたノーラの情熱に、それを防ぐためにスペアの近衛を利用しようとしたアンガスの智謀、そして独自の考えでアンガスに味方したトニー。


 恐らく誰が次の王となってもコードは大きく変わる事だろう。


 残念ながら新生コードの姿をクロスが見ることはありえないが、現時点で彼ら三人は間違いなくクロスの時代の王候補よりも優秀だ。



 問題は、想定外なのは、ここにきて連絡を取るようになってきたスペア――アリシャ・コードの存在だけだ。


 クロスがアリシャの要求に応え、権限の凍結を少しだけ緩めたのに、大きな理由はない。王族が全滅した時のために生み出された彼女の役割は半ば終わっている。連絡がくるまでは存在すら半ば忘れていた。


 強いて言うのならば、戯れだろうか。貴族達の思惑を受けてクロスが生み出し、塔の最上階で監禁されていた都市の教育を受け成長したアリシャ・コードが何を考えているのか、少しだけ興味を抱いた、ただそれだけの事。


 一度目は戯れに応えてやった。だが、二度目はない。



「防衛システムを解除して欲しい、だと? くだらん要求だ」



 何故そのようなメッセージを送ってきたのか、クロスは良くわかっていた。

 このコードで起こった出来事について、王に把握できない事はない。


 だが、そのような要求を聞く理由はなかった。


 アリシャの動きはクロスの計画には存在しない。どこからどう潜り込んできたのか、能力評価がたった4しかない男が偽名を使い《雷帝》を救いにきたのも、都市システムがその申請を受け《雷帝》を解放したのも、そしてあれほど《雷帝》に固執していたノーラが《雷帝》を諦めた事も、全てが想定外。


 アクシデントへの対処能力も王の資質の一つだ。クロスは王位争奪戦に直接関与するつもりはないが、《雷帝》が莫大な能力を持った危険なイレギュラーである事には違いない。



 そう――かつて、クロスが王位についた直後にコードに襲撃をかけてきた、探索者協会の凄腕の魔導師達のように。



 あれのせいで、クロスは即位早々に、王となった者が生涯一度しか使えない権能――『王命グランド・コード』を発行する事になったのだ。


 それは、やむを得ない事とはいえ、苦い記憶だった。


 今のコードはあの時のコードではない。今のこの都市はクロスの『王命』によって魔導師が力を発揮できない場となっている。

 《雷帝》は例外的な魔導師だったが、コードはすでにその能力を分析し対策を終えている。実際に、アリシャの部屋の扉を《雷帝》は破れなかった。仮にこれから新たに《雷帝》クラスの魔導師が探索者協会から送り込まれてきたとしても、コードの戦闘兵器を前に為すすべもない事だろう。



 だが、イレギュラーをアリシャに近寄らせないに越した事はない。


 あのろくに外の世界を知らないスペアが《雷帝》を使い何かをできるとも思えないが――。



 アリシャがクロスの却下を受け、淡々と近衛(自称クライ・アンドリヒ)に報告をしている。その表情に不満のようなものは見られない。近衛の方も、特にその答えに対して怒りを抱いている様子はなかった。

 せっかく助け出した《雷帝》が自分のせいで死にかけたというのに、一体何を考えているのだろうか。



 コードのシステムでもさすがに思考を詳細に読み取る事はできない。

《王命》が残っていればコードの全能力を集結してそういうシステムを構築する事もできたかもしれないが――。



 そこまで確認して、映し出していたアリシャ達の映像を消す。


 スペアの珍奇な行動ばかりを気にしている場合ではなかった。王位を巡り今この瞬間も子ども達は策略を張り巡らせているのだ。


 それに、前回は王位継承のタイミングで探索者協会が攻めてきた。今回も似たような事がありえないとは言い切れないだろう。

 アンガスの策で探索者協会の動きは制限されているはずだし、前回のように探索者協会に助けを求めるために都市から逃亡した者は存在していないが――即位直後に『王命』を使わされるような事は二度とあってはならないのだ。


 と、都市の様子を改めて確認しようとしたところで、クロスの脳内に再びメッセージが送られてくる。

 送り元は――アリシャ・コード。


 うんざりした気分でメッセージを確認し、思わずクロスは叫んだ。



「!? な、なに? ちょこれいと、だと!?」



 クロスの眼の前に静かに穴が開き、スペアが固執していた謎のおやつがせり上がってくる。

 数は一つ。丁寧に包装紙を剥かれ、まるで宝のように台座の上に置かれていた。


 メッセージには一言、『アリシャからコード王へ』と書かれている。


 王の身に少しでも危険を及ぼすものは転送時点で弾かれるのだが(というかそもそも、クロスに物体を送れる者はほとんどいないのだが)、どうやら完全無欠にこの黒い物体は――ただのおやつらしい。コードのシステムも危険物ではないと示している。


 仕方なくその謎のおやつをつまみ上げる。嗅いだことのない不思議な甘い匂い。クロスは甘いものはそこまで好きではない。


 システムを使い馬鹿げた事をしでかしたアリシャの姿をもう一度脳裏に映し出し、王は思わず目を見開いた。


 脳裏に映し出されたのは何十本ものチョコバーを持ってにこにこしているアリシャの姿。




「そ、そんなにたくさんあるのに、送ってきたのは、たったの一つなのか……」




 いや、別にいらないのだが。しかし、本当に今まで見たことのないおやつだ。

 もしかしたら外の世界を知っていた父――初代コード王ならば知っていたのかもしれないが――。


 クロスはしばらくおやつを眺めていたが、とても口にする気にはなれず、ぽいと床に投げ捨てた。




「ちょこれいと、か。ふん……外の世界は劣っていると思っていたが、案外コードにない物も少なくないのかもしれんな」

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