388 昇格

 どうやら高度物理文明の技術力は僕が考えていた以上のようだ。

 適当に入った一室。泊まるついでに確認した部屋の機能は僕を感嘆させるに相応しい代物だった。


 一見家具など何もないシンプルな部屋。だが、壁際に幾つも存在するスイッチを順番に押して行くと、部屋は音もなく変形していった。

 寝心地のいいベッドが現れ、服が詰まったクローゼットが現れ、食べ物の詰まった棚が現れ、トイレが現れ、シャワールームが現れる。一体どういう構造になっているのかはわからないし、どうしてそんな構造にしたのかも分からないが、一部屋で全てをカバー出来るようになっているのだ。

 おまけに汚しても出し直せば綺麗になっているおまけ付き。飲食物も勝手に補充されている。一晩泊まったのだが、快適そのものだ。

 少なくとも衣食住に困らないのは間違いないらしい。これは、働く気もなくなるね。


 おひいさまが幽閉されているのにあんなに快適に生活できていた理由もわかるというものだ。


 壁に大きなスマホのような板がはめ込まれていたので、そちらも適当に操作してみた。

 色々書かれてはいるが、残念ながら文字は読めなかった。だが、使ってみれば機能はわかる。


 小さなアイコンを順番に押していく。音楽を鳴らす機能、クモを呼び寄せる機能、スマホのようなマークのついた恐らく通話の機能。押すと近くに穴が現れる機能は物を送るためのものなのか、それともただのゴミ箱だろうか。

 文字を読めたらもっと色々わかるのに、残念でならない。押しても何も起こらないボタンもあるのだが、これは後でジャンさんかオリビアさんに確認すればいいだろう。



 コードがこんな街じゃなかったら最高だったのになぁ。



 ベッドに寝転がり、今後の事を考える。


 目下、目指すべきはカイザーやサヤとの合流だ。だが、どこにいるのかわからない。

 もう今更、門に行っても無駄だろうし、彼らにはもしもすぐに合流できなくても適宜任務達成のために動くように話をしてある。依頼人と待ち合わせているタイミングで合流できればいいだろう。



 バイカー達の話が本当なら、カイザー達も別の王族と近づいているはずだ。予想していなかった流れではあるが、少なくとも目的には近づいている……と、思う。



 となると今僕が出来る事は――おひいさまから目を離さない事だろうか。

 まだ僕はアリシャ王女の事を何も知らない。何しろずっと幽閉されていたお姫様なんだし、仮に扉のロックを外せたとして、恐らく現状を理解していないであろう彼女を保護するのは簡単ではないだろう。

 事前にこちらの意思を伝える事ができれば保護も楽になるだろう。声は聞こえないようだが、やり方によってはコミュニケーションも取れると思う。


 もしかしたら僕は案外潜入任務に向いているのかもしれないな。


 自慢じゃないが、僕は姫に強い。今年に入ってからだけでも、もう会うのはこれで三人目だ。この世界には姫が結構いるのかもしれなかった。

 そういえば、アリシャ王女もゼブルディアの皇女もセレン皇女も、どこか似たような雰囲気を感じるね。


 後はバイカー達をどうするか、か。幽閉されている以上、バイカー達がおひいさまに手を出す可能性は低いだろう。だが、おひいさまを助け出すとなると彼らも障害となるかもしれない。

 なんとか説得できたらいいんだけど、全く自信はなかった。姫は得意だが、逆に賊は苦手だ。顔が怖すぎる。


 強い仲間抜きでの自分が如何に弱いか思い知らされるね。あー、適うのならば、このままカイザー達が依頼を解決してくれるまでごろごろしていたい。



 自分の無力にほとほと嫌気が差しベッドの上を転がっていると、その時、扉が勢いよく開いた。




「はぁ、はぁ、クライ・アンドリヒ。ここにいましたか」



 入ってきたのはオリビアさんだった。何かあったのか、その顔は青褪め血の気がない。

 乱れた髪にエプロンドレス。その姿に、思わず目を見開き、身を起こす。





「ど、どうしたの、そんなに慌てて…………僕は、命令通り何もしてないけど……」


「なにもして……うっ」







 オリビアさんは今にも死にそうな表情だった。腕を伸ばすと、床が持ち上がり、水の入ったコップが現れる。

 オリビアさんは、一息に水を飲み干すと、コップを投げ捨て、押し殺すような声で言った。


「はぁ、はぁ…………そんな事よりっ、バ、バイカー達が……全滅しましたッ」


「……え? はぁ? ぜ……全滅? 全滅って、どういう事?」


「貴方以外の、近衛が、いなくなったって、事ですよ。全員、処分されました。クソッ、あの無能共がッ!」


 吐き捨てるように怒鳴るオリビアさん。僕への対応は元々そっけなかったが、今の口調はそれ以上にだいぶ荒々しい。


 全員処分されたって、一体――。


 状況が全くわかっていない僕に、オリビアさんが早口で言う。


「……どうやら、バイカー達は、他の王子の近衛を殺して、近衛の座を乗っ取ろうとしたみたいですね。不満を持っている事は知っていましたが――先日チェックした時はそんな馬鹿げた計画はもっていなかったはずなんですが、子分が焼かれたその直後にそんな計画を実行するなんて、油断、しました。多分、再度チェックが来ると思ってすぐに動いたんでしょうが――まさか、お前のようなゴミだけが残るなんて……くぅッ…………」


「え……えぇ…………それは…………大変だね。元気出しなよ。そうだ、チョコバー食べる?」


 ひざまずき頭を抱えるオリビアさんを慰める。


 さすが元盗賊団、血の気が多いな。この高度物理文明の技術を見てまだ殴り込みをするなんて、僕には絶対に思いつかない。

 差し出したチョコバーを振り払い、オリビアさんが顔を上げる。


 青ざめ、汗で髪が張り付いたその表情には鬼気迫るものがあった。



「うるさいっ…………一人ならばともかく、近衛を27人も補充しないといけないなんて…………本当に、まずい。もう時間もないのに、なりふりかまってはいられません」


「どうするの?」


「……こうなったら、トドメはジャンが刺します。市民ならば、誰でも構いません。お前が、残りの近衛を、見つけてこい」


 !? 


 ……なんて無茶振りを。僕、昨日来たばかりなのに……そして、トドメって何の話?


 呆然としている僕に、オリビアさんが大きく深呼吸をして気分を落ち着けて言った。




「馬鹿より、無能の方がマシです。お前が今日からおひいさまの近衛のリーダーです。権限変更、クライ・アンドリヒをクラス3に」



 ポケットに入れていたカードが熱を持つ。取り出すと、刻まれていた星の印が一つから三つに増えていた。


 ………………何もしていないのに二つも階級が上がってしまった。


 オリビアさんが冷ややかな声で言う。



「クラス1じゃ他の近衛を御せませんからね。喜べ」


「……クラス5のオリビアさんでも御せてなかったじゃん」


 つい本音がポロッと出る。オリビアさんが目を見開き、じろりとこちらを睨みつけた。



「…………お前、まさか、この私に喧嘩を売っているんですか?」


「いや、そういうわけじゃないけど……禁止事項なんてつけられるのに失敗しているからさ……」



 普通、あんな力あったら、失敗しないでしょ。バイカー達がやばいことくらい僕にでも一発でわかったよ。僕だったら真っ先に彼らの行動を縛る。

 言い訳する僕に、オリビアさんは頬を引きつらせながら言った。



「……禁止事項の付与も、完全ではありません。服従しないのならば、結局は処分するしかない。お前も気をつけろ。…………まぁ、クラス3では禁止事項の付与は使えませんが」


 どうやら僕はろくに武器もなく近衛を探さないといけないらしい。


 ……まぁ、やれと言うのならばやろう。誰でも良いならもうちょっと大人しい近衛にしたいね、僕は。


「…………新しい近衛を見つけて来いって、都市の入り口に行ってスカウトしてくればいいの?」


「それは……恐らく難しいでしょう。カードの発行枚数から逆算しても、今からコード入りする者は多くありません」



 では、どこから人を集めればいいのだろうか? 帝都から連れてきてもいいなら当てはいくらでもあるんだけど。



 いや、待てよ? 合流した時にサヤやカイザーを引き入れるという手もあるな。まだ他の王族の近衛になっていなかったら、だけど。


 眉を顰める僕に、オリビアさんはため息をつくと、諦め半分の表情でとんでもない事を提案してきた。



「どこからでも構いませんが、罪人から補充するのが一番簡単でしょう。コードの監獄は地獄ですからね。収監されている者から少しでもマシな連中を連れてこい。規定数まで集められなかったらお前も同じ目に遭わせますからね」




 …………本当にこの都市はめちゃくちゃだな。サヤ、カイザー、早く僕を助けに来ておくれよ、もう完全にキャパシティをオーバーしてる。








§ § §








 やれやれ、この私とした事が――失敗したな。


 意識が覚醒し、真っ先にカイザーの脳裏を過ぎったのはそんな思考だった。


 椅子に座らされていた。両手両足には冷たい手枷が取り付けられ、力を入れてみるがぴくりとも動かない。

 金属の手錠くらいならば引きちぎれるはずなのだが、どうやら破壊は難しいようだ。



 油断をしていたわけではない。覚悟も既に済ませていた。

 ただ、コードの技術力と手口はカイザーが想像していた以上だった。

 




 まさか――ソロでレベル8にまでなったハンターの耐性を貫通するような薬物が存在するなんて。




 カードを使い、ゲートをくぐり、その先に通された。面接中に意識が遠くなり――暴れようとした瞬間に、壁際に立っていた機装兵が襲いかかってきた。

 力が入らないなりに何体か壊したところで、意識が途絶えている。



 どこでミスをしたのか。そんな事、考えるまでもなかった。



 初めからだ。あれは、間違いなく、高レベルハンターを捕らえるための装備だった。


 状態異常系のトラップは宝物殿でもよくある類のものであり、ソロハンターにとって致命的な存在でもある。そんな罠を踏むような間抜けな真似はしないが、当然カイザーも高レベルハンターの嗜みとして人間の使う大抵の毒物が効かない程度の耐性は持ち合わせていた。


 状態異常耐性は強化しづらいものだ。カイザーで抗えないのならば、サヤやクライでも無理だろう。


 当然の話だが、依頼自体が罠である可能性についても、カイザーは事前に考えていた。

 本来、そういう依頼は持ち込まれた時点で探索者協会に弾かれるが、今回は事情が事情だ。カードについては探索者協会が調べただろうが、高度物理文明により生み出されたものの安全性を完全に確認できるとも思えない。


 クライもサヤもそのリスクについては考えていただろう。特に神算鬼謀の《千変万化》がその可能性を見落とすなどありえない。


 だが、誰も口には出さなかった。カイザーもその事実に納得した。



 可能性が、低かったからだ。


 そもそも、理由がない。一騎当千の高レベルハンターを、わざわざ難攻不落のコードに侵入させる理由が。だからこそ、警戒しながらも潜入任務を進める事にしたのだ。



 《千変万化》は何も言わなかったが、最善は尽くした。一網打尽を避けるために分かれてコードに入ったし、パスカード自体が罠の可能性も考え、他の連中が持っていたものとすり替えた。偽名も使った。

 それでもこのザマなのだから、問題はもっと根本的なところにあったのだろう。



 不幸中の幸いか、怪我は負っていないようだった。錠さえどうにかできれば戦えるだろう。


 近くで人の気配がする。意識が戻っていない振りをするのは簡単だが、どうせすぐにバレるし、それならば誇り高くあるべきだろう。



 小さく咳き込み、顔をあげる。



「いきなり捕らえるなんて…………いい趣味しているな。これが募集してやってきた相手への対応なのかい?」


「くく…………それは悪かったな。だが、総合評価10000オーバーの怪物に正面から相対する蛮勇は持ち合わせてなくてな」


 小さく押し殺された笑い声。拘束されたカイザーの前に立っていたのは、如何にも仕立てのいい服を着た壮年の男だった。


 髪や髭、整えられた身だしなみ。顔立ちは精悍だが、どこかこちらを自然と見下ろしているような眼差しは、カイザーの経験から察するに、生まれつき権力を持つ者がよくするものだった。

 雰囲気からしてコードの貴族か何かだろうか? その服装も見た目こそ外の世界のものと変わらないが、材質が異なっている。


 男は、見に徹するカイザーを鼻で笑って続ける。 


「まさか、コードの人間ならば一瞬で昏倒するあのガスを吸って、機装兵に抵抗するとは、噂は聞いていたが、高レベルハンターとは本当に信じられないくらい頑丈だな」


「くく……高レベルハンター……? 何を言っているんだ? 何か根本的に勘違いをしているんじゃないかい?」


「君の名前は……カイ、だったか。偽名かもしれないが、まあいい。カイ、とぼけても無駄だ。こちらには人の能力を測る技術がある。総合評価12230。君の能力は、いつもうちが取引しているような連中では用意できないレベルで、突出しているのだよ」


 危険な時程冷静に。男から齎された情報を精査する。

 総合評価12230。その値がどれほどのものなのか知らないが、どうやらその男はカイザーの情報を事前に知っていてピンポイントで狙ってきたわけではないらしい。


「お褒めに与り光栄だよ。だが、だからといって私を高レベルハンターだと判断するなんて、とんだとばっちりだ」


「自分はハンターではないと?」


「ただ、とても強いだけだよ。鍛え上げただけだ。この世界にはハンター以外にも強い連中はいくらでもいるんだぜ」


 嘘ではない。実際に、カイザーが倒した賞金首の中には高レベルハンターに匹敵する力を持った者もいた。

 カイザーの言葉に男は一瞬面白いものでも見るような目をしたが、すぐに肩を竦めて言った。


「まぁ、君の言う事ももっともだな。だが、どうでもいいんだ。我々は探索者協会に三枚のカードを送り、優秀な戦士が二人、引っかかった。ベストは目下最大の敵である探協の戦力が減り我々の戦力が増える事だが、単純に戦力が増えるだけでもまあ…………何も問題はない」


 あの依頼それ自体が罠だった、か。三人のハンターが来るはずだったから、それを捕らえるための準備をして待ち構えていた、と。


 カイザーにとって悪い情報と最高に良い情報がある。


 依頼自体が罠だったこと。三人中二人が捕らえられた事が悪い情報。

 そして、一人取り逃している事が、最高に良い情報だ。


 コードは、失敗した。わざわざ懐に高レベルハンターを誘い入れ、一人取り逃した。


 一騎当千の、レベル8ハンターを。


 依頼が罠だったという事は、王族が貴族に監禁されているというのも虚偽の情報なのだろう。

 だが、そんな事、あらゆる状況を想定し行動するレベル8ハンターならばすぐに把握できる。元々怪しい依頼だったのだ。


「もう一人は女だったが…………君よりも、少し弱そうだな、機装兵を一つも傷つけられずに倒れたよ。まぁ評価としては君より随分低いんだが――どちらが強いのか、一度戦わせたいな」


 どうやら、この男は腹芸というのが苦手らしい。

 いや、素人なのか。都市の力が強すぎて駆け引きの必要がないのだろう。



 漏れたのは《千変万化》か。あっさりと捕らえられたカイザーと違って、クライはすり抜けた。

 これは――最高に悪い情報かもしれない。力量差を見せつけられたのだから。


 いや、あるいはここまであの青年の想定通りの可能性もある。


 あの青年は指揮下に入ったカイザーとサヤに具体的な作戦を何も話さなかった。不自然なくらいに。

 あの時はまだ信頼されていないのかと思っていたが、もしかしたら、捕まる可能性が高いからだった、というのは考えられないだろうか?


 極論だが、カイザー達を、敵の目を惹くための囮として使った可能性すらある。


 一度たりとも依頼に失敗していない。最強のトレジャーハンター。

 戦闘能力は低いと自ら言っていたが、力なくして勝利するにはそれを上回る何か他の要素が必要だ。


 余りにも非情だが、トレジャーハンターたるもの、時にはそういう判断も必要になる。

 ましてや、今回はコードが相手なのだ。最終的な勝利のためにどんな選択をとってもおかしくはない。



「こんな目に遭わされて、素直に命令を聞くと思うのかい?」


「聞くさ。素直に従ってくれるのが一番だが、あいにく君の事は信頼できない。君は、強すぎるからね。そこで、このコードでも貴重品だが、こんなものがある」


 男がうやうやしく箱から取り出したのは、仮面だった。肉のような質感の白い仮面。常に奇妙に蠢いていて、如何にも禍々しい。


「奴隷を作るための仮面だ。かつて罪人を強制労働させるために使われていたようでね。強制力がかなり強い。個数はないが、君に使うならば惜しくないな。何しろ、こちらも勝ちに必死でね。負けたら王になれないどころか、王の子ですらなくなるんだよ。これは、君達には理解できないだろうが、コードでは大きな意味がある。ぞっとする話さ。だから皆、全力になるのだが――」


 何の話をしているのだろうか。だが、今考えるべきはそこではなかった。


 奴隷を作る仮面。高度物理文明の産物。この世界にも痛みをもって相手を強制的に動かす首輪などは存在するが、あの仮面はそんなものとはレベルが違うだろう。


 果たして自分の耐性であの仮面の力に抗えるだろうか? 判断材料が…………なさすぎるな。




 ならば――最善を尽くすまで、だ。


 拘束された手足に力を入れる。体の奥底から、ごきりという音が鳴った。生じる凄まじい痛みに眉を顰める。

 対面していた男の表情が、初めて強張った。


「な、なんだ、今の音は!?」


「なに……少しばかり、骨を折ったのさ。悪いが、私の肉体は他の連中に使わせる程安くないのでね」


 捕まるのはよしとしよう。それは自分の責任だ。だが、自分が任務達成の障害になるのは我慢ならない。

 依頼はなくなったが、コードは敵だ。《千変万化》も、そのように動くだろう。


 過剰に入れた力による身体の悲鳴と痛みに、カイザーは笑みを浮かべた。

 壊させてもらう。テンペスト・ダンシングの基本は肉体の操作。自らの肉体をしばらく使い物にならないくらい壊すなど、容易いのだ。


「馬鹿なッ……カイ、自傷を禁じるッ!」


「ッ!?」


 その男の言葉に、力を入れていた全身が強張る。まるで、肉体が自分の脳以外から命令を受けたかのような違和感。

 これもまたコードの技術なのか。だが、こっちはどうやら強制力はそこまで強くないらしい。


 未知の技術による命令を力づくで押し切り、肉を、骨を破壊する。

 全身から脂汗が流れていた。力を入れても動く身体の部位はもうない。カイザーの生命力では舌を噛み切っても死ねないが、ここまで壊せばしばらくはまともに動けない。


 少なくとも、《千変万化》が今回の任務に目処をつける時間くらいは稼げるだろう。

 笑みを浮かべるカイザーを、男が蹴りつけてくる。


「馬鹿げた、真似だッ! コードの医療技術を、甘く見るなッ! この程度の傷、すぐに再生してくれる」


「…………ふっ」


 乱暴に顔に被せられる、白い肉の仮面。ひんやりとしたその表面から何かがカイザーに染み込んでくる。

 それは、奇妙な心地よさを伴っていて、それが無性に恐ろしい。


 意識が消えるその前に、自ら自分の奥底に意識を深く沈める。精神操作系の能力に対する心の防衛手法だ。

 うまくいけば、操られた後にも影響を残せるだろう。


 後は任せたよ、《千変万化》。



 そして、カイザーの意識は暗闇に深く沈んでいった。

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