光の剣

「えっ」


 かおるはポカンとした表情で声を出していた。


「どんな銃弾にも耐える戦車が……」「嘘だろおおおおお!?」「修理費がああああ!?」


 戦車系TPSゲームチームのパンツァースリーの三人も、驚きの声をあげている。

 切断された戦車の向こう側から徐々に見えてきた。

 黒いマントをはためかせた背徳天騎士――八王子京太の鋭い眼光が。


「待たせたな」


 京太の武器は本来なら弓だ。

 しかし、今持っているのは――光剣だった。


「な、なにぃ!? 銃じゃなくて剣だと!?」

「それでオレたちの魂の乗り物……戦車をやりやがったのか……」

「うおおおお!! 許せねぇええええ!! 銃殺だあああああ!!」


 怒り狂ったパンツァースリーの三人は切断された戦車から飛び出してきて、持っている銃で京太に照準を定めた。

 放たれた銃弾。

 至近距離では普通なら避けられないだろう。

 だが、京太は背徳天騎士だ。


「スキル【神一重】」


 普段から銃弾と同じような速度の剣を見切っていたので、単発のハンドガンなど容易く回避できる。

 そのあとに続くのはいつもの――


「【天撃】……!」


 必殺のカウンタースキルだった。

 一閃。

 横薙ぎの一撃で、パンツァースリーの三人はダウン判定を食らった。

 チーム全員がダウン判定を食らうと失格なので、連鎖的に死亡判定となった。


「お、オレたちが一瞬で負けただと……!?」

「相手が悪かったな」


 パンツァースリーの三人は悔し涙を流していた。

 きっと、この大きな大会に敗北して悔しいのだろう。

 京太も大会のために努力をしていたので、その気持ちはわからないでもない。

 健闘を称える言葉をかけてやろうと思ったが――


「チクショウ!! 戦車の修理費どうすんだよ!!」

「うおおおおお!! 金がああああ!!」

「なんか光剣で斬られて軍服だけ破けたぞ……。なんでお前はこれを野郎に使った……可愛い女の子に使えよ……需要を考えろバカヤロウ!!」


 京太は無言になり、別に何も声をかけなくてもいいなと思った。

 それを見ていたかおると桃瀬も「サイテー……」「こんなのに負けそうだったなんて……泣きたい……」と言っていた。

 ちなみにこの光剣は練習用で、アバター本来のHPは削らないようになっている。

 こういう仕様なので本来なら人体が真っ二つのエグい場面になってしまうのだが、人体は切れないので安心だ。


(人体以外は斬れるという不思議法則も恐ろしいけどな……)


 京太は呆れながらもそんなことを考えていると、かおるから当然の疑問が寄せられた。


「京太、その光剣はどこから……? 大型のボムを取りに行ったはずじゃ……」

「いや、それが補給物資の箱の中には……大型のボムと、光剣が入っていたんだ」

「あ~……そういえば……」


 かおるはミリタリーボマーズとの最後のやり取りを思い出していた。


『京天桃血を絶望一歩手前まで追い込んだボムが入っていたパンドラの箱、最後には京太殿の希望が入っているでありますよ』

『希望……?』

『グッドラック。絶対に銃子嬢ちゃんを呪いから解き放ってやれよ』


 ――その希望とやらが、京太得意の近接レア武器である光剣だったのだろう。

 京太はその補給物資の中から急いで光剣を持って、ここに駆け付けたというわけだ。


「まったく、ミリタリーボマーズもちゃんとハッキリ光剣が入っていると言ってくれればいいのに!」

「ロマンでも求めたんだろう……きっと」

「男の人ってそういうのが好きですよね――って、うわわ!?」


 突然、京太たちの足元に銃弾が撃ち込まれてきた。

 それはずっと放置されていた、チーム鋼の魂だった。


「オレたちを無視するとは……」

「身体は闘争を求める」

「チーム京天桃血、すべてを焼き尽くしてやる……」


 空気を読んで今まで攻撃しなかった彼らは、実は配信者としてわきまえているのかもしれない。


「別にすぐ撃ってきても構わなかったぞ。それくらい避けられるからな」


 その京太の言葉にチーム鋼の魂は逆上した。


「な、舐めやがって!! 歓迎してやる、盛大にな!!」

「身体は闘争を求める!!」

「やってやる……やってやるぞ!! ――って、あれ? どこ行った?」


 チーム鋼の魂は京太を見失っていた。

 視点の高い巨大ロボの両手と、頭部モニターからの索敵なので遠くへ逃げたとしても簡単に見つけられるはずだ。

 だが、盲点があった。

 巨大ロボがガクッと傾く。


「ど、どうした!? ちゃんと操縦をしろよ!!」

「身体は闘争を求める!?」

「ち、違う……これは足にダメージを受けている……まさか!?」


 京太は逃げたのではない。

 相手の視界が届きにくい、巨大ロボの足元へ瞬時に移動していたのだ。

 普通なら銃器で破壊できないので踏みつぶされるという自殺行為だが、鋼鉄をも切り裂く光剣なら別だ。

 相手の目が届かない位置でダルマ落としをするようなイージーさがある。

 ズバズバと足を斬っていくと、すぐに巨大ロボはバランスを崩して倒れてしまった。


「足元がお留守だぜ」


 ズズン……と倒れた巨大ロボからパイロット一人と、手に乗っていた二人がヨロヨロと出てきた。

 落下の衝撃は普通に痛かったらしい。


「くそっ、巨大ロボが小さい相手に慣れていない弱点を突くとは……何たる極悪非道……」

「身体は闘争を求める……」

「プランDをやるぞ! 所謂パイロット同士の戦いだ!」


 京太は「俺はパイロットじゃないぞ……」とツッコミたかった。


「うおおおおお!!」


 雄叫びをあげているのは京太ではない。

 パイロットたちだ。

 その手には小さなハンドガン。

 京太はそれを軽々と回避しながら、疑問を問い掛けてみた。


「なんで全員ハンドガンを使ってるんだ……? 巨大ロボに乗ってたなら、重量を気にせずアサルトライフルとかスナイパーライフルとかでいいだろ……?」

「ロボット物のパイロットは、降りたら大体はハンドガンやろがい!」

「そういうこだわりなのか……【天撃】」

「ぐわぁー!! オレのパイロットスーツがああああ!!」


 巨大ロボから降りたら信じられない雑魚さなので、ゆる~く一人目を倒した。

 今回も男のパイロットスーツが破れたので、たぶん需要はないのだろう。

 いや、もしかしたらイケメンだったら需要もあったかもしれないが……。


「歓迎しよう、盛大にな!」


 二人目はヘルメットをかぶったパイロットスーツ男だ。

 なぜか両腕を広げてやられる準備をしている。


「……抵抗しないのか?」

「パイロットが生身で勝てるはずないだろ! せめて良い感じにやられたい! ヘルメットとパイロットスーツを一閃で斬り裂くようにやってくれ!! 格好良くな! 遠慮無くビリビリにな!!」

「……【天撃】」


 京太は武士の情けとばかりに、渋々言われた通りに斬ってみた。

 相手は派手に吹き飛び……自分でジャンプしているように見えたがスルーした。

 これでチーム鋼の魂は残り一人となった。

 操縦席にいた、髪の短い小柄な人物だ。

 どうやら腰を抜かしていて、ガクガクと震えていた。


「ひっ、いや……いやああああああ! 止めてええええええ!!」

「ま、またそういうロールプレイ的なものか……。それならさっき奴と同じように遠慮無くやってやる方がいいか……」


 京太は溜め息を吐きながらも、光剣を素早く振るって相手のHPを0にした。

 当然のようにパイロットスーツがビリビリに破けたのだが――


「え……女だったのか……?」

「だから嫌だって言ったのにー!!」


 短い髪で、胸の膨らみがあまりなかったので女性だとは気付かなかったのだ。

 ただの少年アバターだと思っていた。


「よ、よし――」


 背後でギャン泣きする半裸の女性パイロット、何とかまとめようとする京太。


「――勝ちは勝ちだな!」

「サイテー……」

「こんなのがチームメイトだなんて……泣きたい……」


 逆転勝利を得たのだが、桃瀬とかおるの冷たい視線が突き刺さっていた。

 さすがに京太は耐えられなくなって、女性パイロットにひたすら平謝りをしたという。



――――――

あとがき

約束通り戻ってきたぞおおおおお!!

結構、約束しても時間が経つと色々と予定が変更されてしまったり、言えないことが間に挟まったりして、意図せず実行できないこともあるので……。



執筆のエネルギーとなるので★★★とフォローをお願いします……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る