舞い降りた希望
アバターで全力疾走していると、まるで車のドライブや、電車の窓から眺める景色のようだった。
物凄い勢いで風景が後ろへ流れていき、風切り音が耳にうるさい。
普段の人間の姿では経験できない爽快感がある。
――後ろから戦車と巨大ロボに追われていなければ。
「京君、京君!? なんか今日は走ってばかりじゃない!?」
「たしかに……」
「今回も抱きかかえられて、ちょっと羞恥心が芽生えてきた私の身にもなってくださいね!」
そんな感じで全力疾走している二人+抱きかかえられている一人。
ある程度巨大タッグ連合を引き離したので、普通に会話ができる。
「で、京太。わざと逃げているように見せかけて、実際は補給物資の地点に向かっているってわけですね」
「えっ!? そうだったの!?」
「ピンキー……何も分からず付いてきていたのか……。今の目標は大型のボムだ」
敵の分厚い装甲に対して、手持ちの武器では歯が立たない。
唯一小さなダメージを与えられた小型のボムだが、さすがにこれで倒しきるのは難しいだろう。
そこでミリタリーボマーズが使っていた大型のボムを補給物資から漁りに行こうというのだ。
「そういえば、いつの間にか補給物資が湧いていたね……」
「湧くというか、たしか空から投下されてるって話だったな」
「それじゃあ、私たちの舞い降りた希望ってことですね!」
舞い降りた希望か、と京太は独りごちてしまう。
本当に目論見通りに大型のボム一発で、戦車と巨大ロボの二体を倒せるか怪しい。
しかし、それでも頼るしかないのだ。
それとミリタリーボマーズが少し気になることを言っていた。
(『最後には
なぜか京天桃血ではなく、京太の名前を出してきたのだ。
それも含みのあるニュアンスで。
そんなことを考えていると、目的地が見えてきた。
コの字型の崖になっている地形で、その中に大きなパラシュート付きのコンテナが置いてある。
それが大型のボムが入っているというレアアイテム用の補給物資だろう。
「これは……取りに行ったらもう逃げられませんね……」
「それでもやるしかないだろう、残りたった五チームだしな」
「そうこなくっちゃ!」
かおるは『これだから戦闘狂たちは……』という表情で渋々了承し、諦めていた。
「っと、まずいな」
そうこうしている内に走りやすい地形の関係か、後方の巨大タッグ連合が追いついてきた。
どうするか京太が考えていると、桃瀬がその場に立ち止まって言った。
「あたしが足止めするね、かおるちゃんと先に行って」
「お、おい」
「実は私も同じことを考えていました。ただし、ピンキーさんと一緒に足止めする気ですが」
困惑する京太だったが、こうしている間にも巨大な敵が迫ってきている。
二人に物理的に手でドンッと押され、走るしかない状況だ。
「京君に託すよ!」
「ここは私たちに任せて先に行ってくださいッ!! ……って、人生で一度は言ってみたかったんですよね~。んふふ~」
「おまえら……」
今回は擬似的なHPがなくなってダウンするだけで、本当に死ぬわけではない。
しかし、ノリ的に熱いモノを感じてしまう男の子の京太であった。
「わかった、行かせてもらう。必ず戻ってくるからな」
「それ戻ってこないフラグですよ!」
そんなことを聞きながら京太は補給物資へ向かってひた走る。
まだ少し距離がある、急がなければならない。
そんな中、背後でいくつもの銃声が聞こえる。
「待ってろよ……今すぐに大型のボムを取ってくる……!」
***
一方、残った二人は巨大な敵と対峙していた。
「さてと……どうしましょうか、これ」
「気合いでやるしかないよ、天羽さん!」
「うわぁ……ピンキーさんって体育会系というか脳筋ですね……」
かおるは口ではそう言いつつも、マークスマンライフルを構えた。
桃瀬は前衛の位置でサブマシンガンを使い、敵を撹乱しながら攻撃をするつもりだ。
「来ますよ!」
射程に戦車と巨大ロボが入ってきた。
両者の撃ち合いが始まる。
「これ、想像以上にきつくない!?」
「まぁそうでしょうね。曲がりなりにも勝ち残ってきた相手ですから……!」
観察してみると、戦車は一人で操縦しているらしく、二つのハッチからフリーの二人が顔を出している。
同じく巨大ロボの方も一人が操縦で、二人が手の平に乗って射撃中だ。
単純に考えてこれだけでも2VS4の人数差だ。
しかも、足場が乗り物なためにいつも有利な位置を取れる。
「このルールを考えた奴、頭ハッピーランチかよ!? 絶対に聖丸のクソバカカス野郎でしょ!?」
「ピンキーさん~……お口悪いですよ~……配信に乗ってますからね~……」
そう言いつつも、かおるも同じことを思っていた。
京太が出場すると決まった直後に発表された近接武器のレアドロップ化、出場ルートに配置された妨害、ヘイトを集めるようなPVを提出したあとに決まった〝指名手配〟ルール、京太の過去暴露。
どれもが悪意あってピンポイントで狙い撃ちされている気がする。
そして、そんなことをする相手といえばかなりの確率で聖丸だろう。
絶対に京太を負かしたい。
そんな意地汚さが見て取れる。
そのついでに個人的な賭けの〝賞品〟にされた、かおると桃瀬はたまったものではない。
「まっ、勝ちゃいいんですよ、勝ちゃ。それが主役ってもんです」
マークスマンライフルを上手く連続ヘッドショットして、巨大ロボの手の上に乗っているパイロットをダウンさせた。
頭防具を装備していても二連続ヘッドショットは耐えきれないらしい。
「ナイス天羽さん! 残り三人だよ!」
「いや、これは……」
巨大ロボは左右の手をガシャンと合わせて、もう一人の無事なパイロットと合流させた。
そこでダウンから復活させて、回復までしていた。
「無理ゲー」
「クソゲー」
ダウンさせたところで、速攻で手の平を安全地帯にして、もう一人が向かうという戦法だ。
これでは絶対に勝てない。
二人が萎え散らかしたところで、戦車が急発進して二人の後ろに回り込み、挟み撃ちされる形となった。
前後から銃弾が襲い来る。
「いたたたた!!」
「結構痛いですよ、これ!!」
「こんな小さい女の子たちを巨大なものでイジメるなんて、戦車乗りとロボット乗りのプライドはないのかー!?」
さすがに二方向からの射撃に対してどうすることもできずに、かおると桃瀬はハチの巣にされてダウンとなった。
「あ~、これはまずい……」
ダウン状態でさらに追撃をかけられると、ルール上の死亡扱いとなって復帰ができなくなってしまう。
それを狙ってか、四つの銃口がかおると桃瀬に狙いを付ける。
「う゛ぁー!! もう配信が終わっちゃう!! こんなおつてんは嫌ですよ~!!」
もうダメだと思ったそのとき――戦車が真っ二つに切断されていた。
――――――――
あとがき
すみません、ちょっと更新が遅れそうです。
ぶっちゃけてしまうと、もう一つの連載である『最強イカダ国家』が急にランキングに入ってしまって、しばらくはそちらを更新してランキング維持したいなと……。
手が足りない……!! 速筆作家の腕を食ってくるか!!
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