京天桃血VSミリタリーボマーズ
敵と遭遇する場合、パターンは三種類ある。
一つ目は最も不利とされる〝相手から発見される〟だ。
先ほどのガンガールのように誰かが開幕犠牲になることも珍しくはない。
二つ目は〝お互いに見つける〟パターンだ。
これは曲がり角を曲がったら目と目が合うような恋愛のようなもの。
どちらにもチャンスが与えられる。
最後の三つ目は――今まさに桃瀬が陥っている状況である〝敵を先に発見した〟だ。
(いた、撃つ!)
桃瀬は即決した。
これが、らきめから鍛えられる以前なら『ど、どうしよう。撃っていいの!? それとも待った方がいいの!?』と慌てふためいていたことだろう。
しかし、今回は事前にチームで決めておいたのだ。
敵を見つけたらすぐに撃って良い、と(ただし別の敵と交戦中を除く)。
普通のバトロワルールなら、下手に相手を撃たずに隠れ続けるという手段もありだろう。
今回は違う。
特別なルールで、最初に等間隔で決まった場所へ各チームが配置されているのだ。
時間によって狭まるフィールドによって移動しなければならないのだが、等間隔に配置されているので絶対に逃げる先にチームが潜んでいると考えていい。
つまり、狭まるフィールドから逃げるには敵を倒さなければならないのだ。
戦うにしても全員に知らせてから一気に狙った方がいいのでは? と思う者もいるかもしれないが、状況は刻一刻と変化しているのだ。
一秒後に射線が通っているかもわからない。
――なので、桃瀬は即決で撃ったのだ。
「前の方に三人いた!!」
「了解です!」
「わかった。この建物を拠点にして戦う方向で」
チーム京天桃血は現在、建物の中に入ってアイテムを漁っているところだった。
そこへ突然の発砲音と桃瀬の声。
京太は頑丈そうな建物から考え、一瞬にしてここで戦うという判断を下したのだ。
最初の建物と違って、練習弾では壊されることはないだろう。
絶対に。
「ごめん、数発当てたけどサブマシンガンじゃ距離的に倒しきれなかった」
「気にするな。回復アイテムを消費させることもできた」
今回は空間にアイテムを収納するようなインベントリスキルは使用できないので、アイテムを消費させるというということだけでも充分な成果なのだ。
回復アイテムは使用するのにかなりの時間がかかるというのも大きい。
その間に複数ある出入り口にチーム京天桃血は散らばり、どこからでも対処できるように配置することができた。
「さて、これでこちらは鉄壁ですね。相手はどう出るでしょうか」
この場合、相手がしそうな行動はいくつか予想できる。
まずは距離を取りつつにらみ合い。
一気に全滅させることはほぼ不可能なので不毛なアイテムと精神の削り合いとなる。
次に被弾覚悟で建物まで突撃。
これは建物側が地形的に有利なので勝負を仕掛けるならこの形になるだろう。
敵チーム側に被害が大きく出るはずだ。
最後に――敵は交戦を避けて逃げる。
これが無難かもしれない。
鉄壁の建物に立てこもるチームなど相手にしてもあまり旨みがない。
他にも縮小するフィールドの位置関係などもあるのだが、今はまだ一回縮小しただけで、次の縮小範囲がわからない。
もう考慮すべきことはない――と思ったのだが、ふと気になることがあった。
「なぁ、ピンキー」
配信に声が乗っているので桃瀬ではなく、ピンキーと呼ぶ。
「どしたの、京君?」
「敵はどんな格好だった?」
「えーっと、顔をマスクで隠してたかなぁ」
「まずい! すぐに建物から離れろ!」
京太がそう言った数秒後、敵チームが建物へバスケットボールサイズの物体を投げつけてきて――大爆発した。
その時に見えた敵の姿で、京太は敵チームが〝ミリタリーボマーズ〟だと確信した。
***
「あたた……」
桃瀬は爆発で吹き飛んだ建物から、外の草むらへ放り出されていた。
どうやらダメージはマントがある程度肩代わりしてくれたようだが、そのせいで完全に使えなくなってしまったようだ。
キーンとした耳鳴りの中、まだ戦っている最中だと思い出して立ち上がろうとする。
しかし、平衡感覚が戻っていないのでフラついてしまう。
「これ、絶対に練習用のHPだけじゃなくて、普通のHPも削れちゃうって……」
そんな不満を言いながら周囲の確認をしようとしたのだが、危険な気配を察知した。
横方向から脳に針を刺されるような感覚。
明確に説明できる理由はなく、本当に勘のようなものだ。
すぐさまフラつく足で横っ飛びをした。
銃声。
直前まで桃瀬がいた場所に銃弾が突き刺さる。
「へぇ~、これを避けるとか野生動物もビックリであります。ウサギ殿」
「絶対に倒してやるっていう気配がすごかったからね……」
遠くから話しかけてきた覆面の男――ミリタリーボマーズの一人だ。
桃瀬はすぐに銃で反撃を考えたが、ショットガンとサブマシンガンでは距離的に不利だ。
近くには味方も遮蔽物もない。
「撃ち返してこないでありますか? それともウサギ殿は、サブマシンガンより長い射程の武器を持ってないとか?」
「もしかして、あたしに撃たれた人?」
「肯定、結構痛かったであります。……けど、その撃たれた感覚と銃声で相手がサブマシンガンだってわかったから、距離を取らせてもらっているであります」
それだけでミリタリーボマーズがかなりのやり手だとわかった。
この状況で一人の桃瀬は勝ち目が無いとも察した。
今は少しでも話を引き延ばすか、情報を引き出すかでもしておきたいところだ。
「さっきの爆弾っぽいのはもう投げてこないの? 名前がミリタリーボマーズだし、爆弾がメインっぽいけど?」
「本来なら爆弾を出せるスキルもありますが、この〝闘魚〟ではルール違反なのです。レアな補給物資から大型の爆弾を一発だけ拾っただけであります。もう手持ちにはなっしんぐ」
ここで桃瀬はおかしいと気が付いた。
こちらの質問に答えて、何でも話してくれるのだ。
実力あるチームなら、ここまで時間稼ぎに付き合ってくれるのだろうか?
いや――相手側の立場で考えると――
「もしかして、時間稼ぎしてる?」
「ウサギ殿もそうなんでしょ?」
桃瀬は速効で前ダッシュをした。
別の場所で銃声が聞こえた。
待っても京太やかおるが来ないのは、分断されて戦っている最中だからだ。
時間稼ぎして合流すればいいと思っていた自分に、桃瀬は甘えを感じてしまう。
「あーあ、弱そうな相手をやった仲間が合流するのを待ってたのに。やっぱりウサギ殿は野生の勘が鋭いでありますなぁ」
そう言いつつミリタリーボマーズはアサルトライフルを撃ってくる。
立ち止まり、しゃがみ姿勢で命中率を上げてくるスタイルらしい。
たぶん出身ゲームが、あまり動き回らないFPSなのだろう。
前ダッシュ中の桃瀬の頭部を、正確に狙ってきている。
「上級者に当たると確実にヘッドショットを狙われるってコーチから聞いた! だから――」
桃瀬は大きな肉球グローブが付いた両腕を前に出して、ガードの体制を取った。
「そこだけ正確に防ぐ!!」
「なにぃっ!? ありえないであります!?」
信じられないことに桃瀬は銃弾をガードしていた。
実戦では初めてなので成功するかは怪しかったが、練習では何度もやっている。
アサルトライフルはかなりの連射速度なのでガンガンHPが削れていくが、しばらくは持ちそうだ。
「なーんてね、実は自分は格闘ゲームも多少嗜んでいるのでありますよ。こうすれば攻略可能!」
アサルトライフルの狙いを、桃瀬の足元に移した。
――すると桃瀬はその場でしゃがんでガードをして動きが止まってしまった。
「クソッ!! 同業者かよ!! 格ゲーに浮気するなんてウンコ踏んで死んじまえ! 格ゲーから逃げるな!!」
「か、可愛い女の子がそういう言葉は使わない方がいいであります……」
なぜ桃瀬がしゃがんで止まってしまったか?
それは格闘ゲームのシステムにある。
格闘ゲームでは立ちガードと、しゃがみガードの二種類がある。
大雑把に言えば上半身への攻撃が立ちガードで防げ、下半身への攻撃がしゃがみガードで防げるのだ。
ゲームでは前に移動しつつ、攻撃が来る一瞬だけガードというのが可能だが、この現実世界のアバターではしゃがみの動作にリアルな時間がかかる。
つまり足元へ攻撃され続けるとガードで動くことができないのだ。
「削りだけで負けるのは、敵ながらちょっと可哀想でありますな」
「クソ野郎! ウンコ野郎! トイレで死ね! きっと毎日お排泄物みたいな頭でハッピーなんだろうな!!」
「うーん、やっぱり格ゲーの民へ同情はしなくてもいい雰囲気が……」
敵のアサルトライフルの
その内、こことは別――周辺の銃声も止んでいた。
「お仲間もやられたようでありますな。最後に聞こえたのはこちらのレア補給物資でカスタムした銃の音に間違いないでありますよ」
最後の銃声は、勝利者側のものと決まっている。
ミリタリーボマーズの彼は勝利を確信していた。
しかし――
「銃弾の無駄だから、後ろに回り込んでウサギ殿のガード向こうの位置から味方に撃ってもらうであ――あえッ!?」
ヒュッと小さな風切り音だけが聞こえた。
瞬間、ミリタリーボマーズの彼は頭部を殴られたかのように横方向へ倒れる。
「え、あれ? どういうこと……?」
桃瀬すら意味がわからず、周囲を見回してみた。
すると、ゆっくりと草むらから立ち上がる京太の姿が見えた。
「三人目。これでミリタリーボマーズは全滅だ」
「京君!? どうして!? 京天桃血はあたし以外やられちゃったのかと……」
「かおるはダウンしてたから、あとで起こしに行く」
「えっと、天羽ちゃんはやられてたんだ……」
かおるがダウンしている位置まで移動しながら、京太が説明してくれた。
建物が爆破された瞬間、分断して各個撃破されると危惧した京太。
そこから即第二職業アサシンのスキル【隠密行動】【逃走】【気配察知】などを使って相手から位置がわからないようにした。
かおるが二対一でフルボッコにされていたのを見て、敵の位置を把握。
そこからアサシンスキル【強襲:格下相手へ背後からの大ダメージ攻撃】を使って、弓で倒していったということだ。
これが思いのほか上手くいった。
弓は銃と違って音がほとんど出ないのと、相手のゲームに弓がなくて対処が遅れたのだ。
「――で、最後に派手な銃声を出していたピンキーのところへ駆け付けたという感じだ」
「京君だけで三人を……。さすがあたしのヒーロー!」
「い、いや……その、敵の注意を惹きつけておいてくれた二人のおかげだし……」
「あはは、照れてる照れてる。たぶん、京君のツンデレはリスナーさんから『誰得』とか言われてそう」
「へいへい、可愛くなくてすまないな」
二人は楽しそうに笑い合った。
桃瀬はこっそりと『あたし得だよ』と呟いたが、京太には聞こえていないようだった。
――――――――
執筆のエネルギーとなるので★★★とフォローをお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます