反撃の血祭りタイム
「は?」
「えっ!?」
「な、なんで無事でいるんだ……?」
視界が晴れ、京太の本性――少しだけ垣間見える狂気の笑みが見えてきて、周囲は呆気にとられていた。
「そんなに気になるならこっちに来いよ?」
余裕タップリで言い放つ京太に対して、数十人の敵は逆上してしまう。
「な、舐めやがってえええええ!!」
「こっちの方が断然有利だ!」
「きっと偶然、弾丸が全部外れてたんだ……!」
「見えてるところじゃ外しようがねぇ! 一気に撃ってぶっ殺そうぜ!!」
先ほどと同じように銃を構え、トリガーハッピーで撃ちまくる数十人の敵たち。
その銃弾は京天桃血に命中――したかに見えたが、それらは黒いマントに弾かれていた。
「なっ!?」
「それじゃあ、今度はこっちの番だね! 血祭りに上げちゃうよ~!」
「やべっ、ほとんどの奴らがリロード中に来やが――」
桃瀬が格闘アバターの〝前ダッシュ〟を使って、前傾姿勢で体勢を低くしながら疾走する。
あまりに素早く、小さい身体なのでほとんどの銃弾が当たらない。
敵の一人である大男の股下にすべり込みながら、上へ向けてショットガンをぶっ放した。
「そこは――うぎゃああああああ!?」
周囲の者たちはゾッとした。
いくら練習弾は死なないとはいえ、当たればそれなりに痛い。
男性の急所ともなれば想像を絶することになるだろう。
配信を見ているリスナーたちも思わず股間を押さえてしまっているはずだ。
しかも、それだけではない。
大人数の敵陣に飛び込むことによって、銃による同士討ちを狙うこともできる。
これで安易に桃瀬を撃てなくなり、逆に桃瀬は一方的に撃ちまくれる。
「拳や蹴りだけじゃなくて、意外と銃もスッキリするかも!」
桃瀬はアクション映画のようにショットガンをクルッと回しながらリロード――スピンコックと呼ばれる方法を行いながら、眼前でビビる相手に容赦なく撃ち込んでいく。
「く、くそっ! でも数はこちらが勝って――」
「私たちも忘れてもらっちゃ困りますねぇ!」
遅れてやって来たかおるもハンドガンを撃ちまくった。
無防備な敵の後頭部に練習弾が当たり、HPが減りきる前に気絶してしまう者も出てきた。
「うわっ、容赦ないな……うちの女性陣……」
少数側の圧倒的な蹂躙、さすがの京太も少し引いてしまっている。
敵は同士討ち覚悟しながら射撃しても、黒いマント――【電磁障壁外套オールバレットキャンセラー】によって防がれてしまう。
それに残弾の問題も、倒した敵から奪い取れば問題ない。
それどころか銃すらも奪って、二人は最初に想定した最適装備を手に入れていた。
京太といえば、手持ちのライトマシンガン:マヒマヒではクソAIMで当たらないので、少ししてから弓を探しに行こうというノンビリな考えでいた。
そんなところへ、頭上からPVで見た相手チームがやってきた。
「間に合ったぁ! アタイたちは弾幕STGアバターで集めたチーム〝弾かすり至上主義〟だぜー! ヒャッハー! このボムで全員一網打尽にしてや――」
頭上から飛翔してくるチーム〝弾かすり至上主義〟の三人。
箒に乗って飛んでいたり、翼で羽ばたいていたりとバラエティ豊かなチームだ。
その特異なる移動方法で、最速のルートを通ってきて間に合ったのだろう。
手には小型爆弾らしき物を持っていたのだが、それが〝どこからか飛んできた銃弾〟に貫かれて大爆発していた。
「キュウウウウウウ!?」
「地上の二人の援護をしようとしたら、何か上の方にいる奴らに当たってしまったな……」
京太の奇跡のクソAIMによって、知らないうちに敗退したチーム〝弾かすり至上主義〟であった。
結果から言うと、この寄せ集め数十人との戦いはチーム京天桃血の勝利で終わった。
「マントの耐久値が切れそうだったから危なかったね」
「ああ、いったん消して再チャージするまで派手な使い方はできないな」
今さら言っても仕方がないが、敵が【電磁障壁外套オールバレットキャンセラー】の耐久性能を知っていれば、もっと時間をかけて潤沢な銃弾を拾ってから戦いを挑んでいただろう。
途中で弾切れを気にして、銃弾をケチり出すという行為をしていては倒すことはできない。
そしてそれらを強奪しながら、〝塵も積もれば山となる〟でチーム京天桃血は充分すぎるほどのアイテムを集めていったのだ。
銃と弓をカスタムアイテムで強化して、回復アイテムや銃弾などの消耗品も手に入れた。
残念ながらまだ近接武器などのレアアイテムはなかった。
そちらは途中、ランダムな地点に出現するという補給物資に期待するしかないようだ。
「おい、お前が京太だよな……?」
HPを削られてリタイアした男が、京太に声をかけてきた。
負けた悔しさより、意地悪くニヤニヤと笑っているように見える。
「俺が京太だが、どうかしたか?」
「ハハハ! あんた、過去に受けたイジメで大炎上してるぞ!」
男は、言ってやったという満足感でいっぱいだった。
集団で挑んだのに負けて、鬱屈した気持ちを番外戦術でぶつける。
とても情けないことだが、小さい人間としてはそうやってストレスを発散するしかないのだろう。
次に見たいのは京太のネガティブな表情だ。
驚くのか? 情けなく泣くのか? 絶望するのか? 弁解するのか? とにかく何か胸の空くようなものを見せてほしい! 自分に対してそういうものを向けてほしい!
だが、京太は――
「そうか」
一言だけそう呟いて、もう男には興味がないというように視線を外した。
「お、おい。わかってんのか? 有名な炎上配信者にたれ込まれて、イジメ写真が拡散されて、それが有名炎上まとめサイトにも取り上げられて、イジメられる側にも問題があるってトレンドにもなって……みんなが……みんなが言って……」
京太は気にせず弓をカスタムして、具合を確かめていた。
ドローンが飛んできて男へ警告をする。
『敗退したチームメンバーは直ちに離脱してください。これ以上留まるとゲーム妨害となります』
「おい、何でだよ!? なんでそんなに平然としていられるんだよ!! 何とか言えよ!! イジメの件はお前が悪いんだろう!? みんながそう言ってんだぞ!!」
ヤケクソ気味に叫ぶ男はチームメイトに引っ張られながら、その場からいなくなった。
残されたのはチーム京天桃血の三人だけだ。
各自が様々なチェックをしつつも、桃瀬とかおるは気にしていた。
「京君……あたしのせいで……ごめんなさい……」
その中でも一番気にしていたのは桃瀬だ。
自分を助けることが発端となった過去の京太のイジメ。
彼女は自分が傷付くより、誰かが傷付く方が辛かった。
「俺は後悔していない、それだけだ」
「京君……」
「さぁ、次の戦いに備えましょう! 手を組んで襲ってくるような雑魚い人たちは一気に倒せましたが、本命の他のチームたちはまだまだ残ってますし!」
かおるはハキハキとした口調で言うが、他の二人や古参リスナーには空元気だとバレていた。
炎上の辛さや、その対処の難しさはVTuberであるかおるが一番わかっているためだ。
一般人にはわかりにくいだろうが、炎上というのは心をジワジワと焼いていくものだ。
たとえば、学校の一クラス――数十人から敵意を向けられた経験がある者はいるだろうか?
実際になくても、想像は容易だ。
それを十倍にして数百人、百倍にして数千人、千倍にして数万人。
場合によってはもっと多くの人数から敵意を向けられ、心ない言葉を投げかけられるのだ。
リアルには影響がないじゃん? と思われるが、そうでもない。
周囲には炎上を鵜呑みにして話題に出してくる者もいるし、言わないだけで炎上の印象を引きずる者もいるだろう。
炎上のターゲットにされたものは憔悴し、それを表に出すとさらに炎上してしまうために自分の内に溜め込むのを選ぶことが多い。
この状態でも、まだ周囲に理解者がいたり、相談できる者がいれば多少は心が和らぐ。
だが、もし――言えない状態だったら結末は――
「俺はこのチームで良かった。ありがとうな、桃瀬、かおる」
「あたしも京君が一緒で良かったと思う……」
「リスナーさんも味方ですけどね! 普段は京太に強く当たってる人も、見に来てくれるファンでツンデレですから!」
以前だったら他者の目はあまり好きではなかった京太だが、かおるの言葉が今なら理解できる気がする。
「ああ、そうだな。リスナーたちにも感謝だ」
――――――――
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