装備作成

 ついに大会前日。

 京太たちはできることはすべてやってきた。

 しかし、まだ一つだけピースが足りなかったのだ。

 それが今、ようやくハマる。


「京太様、ご依頼の品が完成しました」

「おぉ! ついに防弾装備ができたのか!!」


 地下実験場に出向いてきた、ゆるキャラこと鈴木真央。

 その手にはアタッシェケースが握られていた。

 それを見た桃瀬は首を傾げた。


「あれ? 三人分の防具が入ってるにしてはサイズが小さくない?」


 桃瀬が想像していたのは、弾丸を防ぐ強靱な鎧だ。

 京太のアバターが着ているようなサイズの鎧を三人分となれば、アタッシェケース一つには収まらないだろう。


「ああ、それが気になったか。最初は分厚い鎧も考えたが、小火器相手の防弾だけなら金属じゃなくても何とかなるからな」

「なるほど~……。あ、実際に警察が使ってる防弾チョッキ的なもの?」

「いや、参考にしたのはSF系のゲームの物で――以前、かおるが拾ったアクセサリーだ」


 あれか~、と桃瀬は性能を思い出した。


【対9㎜弾電磁障壁発生付属装置:小ダメージを無効にする。リキャストに24時間必要】


「たしか、かおるちゃんの命をギリギリのところで救ったアクセサリーだよね。京君からのプレゼントが弾よけになるなんてドラマチック……!」

「コホン……それは別に知らんが、原理的には同じ物だ」


 開かれるアタッシェケース。

 そこにはキラキラとした宝石がはめ込まれた金具が何個も置いてあった。

 大きさは握りこぶしサイズくらいだろうか。

 京太はさっそく、それを両肩に装備していく。

 スイッチを入れると、バサッと半透明の黒いビームマントのようなモノが広がった。


「か、格好いい……!」

「これは厨二病で男子が大好きなタイプのやつですね……」

「名前は【電磁障壁外套オールバレットキャンセラー】だ」


 京太は黒いビームマントをひるがえした。

 実際の布のように動き、アバターの動きを制限しないようになっているのを確認する。

 手触りはビームなので独特のさらさら感があるのだが、そこまで気にはならないだろう。


「練習用の弾だけでなく、戦闘用の弾も防ぐ事ができるのは実験済みだ」

「すっごい地道にダンジョンで素材を集めていたかいがありましたね……」


 実際は普通のダンジョンではなく、プライベートダンジョンなのだが鈴木真央の前では隠しておく。

 レアすぎる素材の供給に何か気付いていそうだが、そこは大人なので余計な詮索はしてこない。

 きちんと必要以上の素材も買い取りで渡しているので、たぶん今後も平気だろう。

 それに、良い品物を作れたという満足げな口調で説明を始める鈴木真央に悪意はなさそうだ。


「ご説明させて頂きますと、こちらの金具がビームマント発生装置となっております。身につけると使用者本人の意思で出し入れできるようになる他、高速飛翔体が接近すると自動で使用者をガードする仕様です」

「お~、何か便利ですね。でも、私の時のように銃弾が貫通する見かけ倒しの可能性は?」


 かおるは、意外と【対9㎜弾電磁障壁発生付属装置】で銃弾を防ぎきれなかったのを根に持っているのだろう。

 神妙な顔で、無意識に銃創があった部分を手で押さえている。


「FPSアバターが持つ小火器相手なら、短時間の完全防御が可能です。長時間の攻撃に晒された場合は、エーテルコアと呼ばれる結晶体のエネルギー再チャージまではマントが使えなくなります」

「ふーん、短時間はきっちりと守ってくれるということですね。さすが特注品」


 そう言うとかおるも装置を肩に取り付け、ビームマントを発生させてみた。

 ひび割れた天使の輪っかに、片羽根の天使。

 その姿の感想を素直に口に出す。


「なんか、いっそう堕天使感が増しますね……」

「死神っぽくも見えて相手はビビるな」

「とほほ~……可愛いお世話系天使VTuberなのに~……」

「とほほって最近聞かないな」


 次は桃瀬が装備をした。

 格闘ゲームアバターにマントはよく似合う。


「あたし、厳しい山ごもりから戻ってきた雰囲気があるね!」

「修行は修行でも、籠もっていたのは高層ビルの地下だけどな」

「う……たしかに……。なんか現代っ子……」


 少し締まらないが、それはいつものことだ。

 事情を知らない敵側からすれば、この異様な風体の相手とは戦いたくないだろう。

 あとは明日のバトロワ大会〝闘魚ランブルフィッシュ〟を待つだけだ。

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