出場者PV撮影しようとしたら、左右の女二人が変顔で煽り始めた件

 リアルアバターでの練習も順調にこなしていた――ある日。


「あ、そういえば出場者PV撮影があったなの」

「出場者PV撮影?」


 突然のらきめの言葉に、京太は思わず聞き返してしまった。

 かおると桃瀬も、射撃の練習の手を止めて銃を下ろした。


「あ~……、こういう大会とかは出場者の〝格好良いシーン〟を集めたりしたものを開始前に流したりしますね」

「格闘技で言う事前インタビューとかみたいなものかな?」


 なるほど、と思った。

 京太は勝つだけを目指していて、そんなことは頭の片隅にすらなかった。


「まぁ、大会に参加させてもらう立場だ。やれというのなら、素直にPV撮影するか」

「助かるなの~。どんなものにするかは、各自自由に決めていいなの」

「自由に……と言われてもな……」


 陰キャ引きこもりゲーマーな京太は、誰かにアピールするための動画の撮り方など知らない。

 ぶっちゃけもう面倒だからテキトーでもいいんじゃないか? とすら考えていた。


「それじゃあ、この地下実験場でパパッと撮影を――」

「京太!? 本気ですか!?」

「え?」


 かおるが物凄い剣幕で迫ってきた。

 小柄なクセに圧が凄い。


「そうだよ! 京君!! こんな場所で撮影をするだなんて!!」

「そ、そうなのか……?」


 今度は桃瀬が迫ってきた。

 というか格闘アバターの馬鹿力で体当たりしてくるような勢いだ。

 スキル【神一重】で回避をしなかったのでダメージ表示が出ているくらいだった。


「ど、どうしてここで手早くPV撮影をしてはいけないんだ……?」

「ここ、真っ白い背景でクッソ地味じゃないですか!?」

「うん! こんなところで相手に気迫を伝えることはできないよ!!」


 女性陣二人からここまで言われると、さすがに従わざるを得ない。


「そ、そうか……。じゃあ、別のところで撮影をしよう……」




 ***




「結局、場所はどこがいいんだ?」

「コイツには勝てねぇ……というのが伝わる場所がいいですね」

「天羽さんに同意だね。格闘家は実際に戦う前から舌戦が始まっている。お前を絶対に殺すというアピール合戦を制さなきゃ負けも同然だよ……」

「お、おう……? 何か嫌な予感がするから、できれば爽やかな方向がいいぞ……」

「爽やかなら、こことかどうかな」

「いいね、桃瀬さん。予約なしでチャーターできるか電話してみる」

「……え? かおる、桃瀬……おまえら何を……?」


 三人で相談――もといほぼ女性陣二人で相談した結果――




「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」


 京太は地表3500メートル、つまり死ぬほど高い空からダイブしていた。

 時速200キロで落下しているので、強風が顔面に当たってブルドッグのような表情になっている。

 超高高度から落ちるという人間の根本にある、原初の恐怖が襲ってくる。


「どうしてこうなった!? 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬだろこれえええええ!?」

「大丈夫ですよ! インストラクターさんと一緒なので!」


 たしかに冷静に考えれば、インストラクターと寿司のネタとシャリのようにくっついて落下していて、パラシュートもきちんと開いてくれるので安全だろう。

 しかし、怖いものは怖い。


「それならもうパラシュートを開いてくれええええええぇぇぇ……」

「ダメだよ、京君! この落下中にPV撮影をしなきゃなんだから! 終わるまでパラシュートは開けないよ!」

「いやああああああ死にたくないいいいい!!」


 度胸が据わりすぎている女子二人がいるために、一般人的な反応のはずなのに情けないようになってしまっている憐れな京太。

 冷静になれば死ぬはずもないのだが、実際にいきなりスカイダイビングで落下すれば結構な確率でこうなるだろう。

 意外と男はこういう恐怖耐性が薄いのだ。

 どこかの論文でも女性の方が耐性があるとデータがあったはずだ。


「じゃあもうPV撮影を終わらせてしまおう!!!! 早く!! 早く!!」

「はい、了解。それじゃあ各自アピールしていく感じでいきましょう。撮影開始しまーす。京太からどぞ」


 落下死ながらの……もとい落下しながらの出場者PV撮影が開始された。

 京太は頭が真っ白になっているのだが、一生懸命に考えていたセリフを思い出していく。


「FPSというジャンルは慣れてなく、初心者からのスタートだが頑張らせてもらう……! 正々堂々、お互いに戦おうじゃないか……!!」


 京太は言い切った。

 もうこれでパラシュートを開いてくれと思ったが、どうやら三人終わらないとダメらしい。

 次は左にいるかおるの番だ。


「――なーんて言うと思いましたか? 我々は勝つためだけにやっているんです! 正々堂々と握手を求められたら、その手を握り潰すのが京太のやり方です! 死を覚悟してくださいよ、アナタたち!!」


 とんでもないことを言いやがったと突っ込みたかったが、京太は半分意識が飛びかけている。

 顔はぶるぶるのブルドッグだ。

 そんな京太の気持ちも知らず、締めの桃瀬が右手側で奇声を上げ始める。


「殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害殺害! 戦場というリングでは、初心者に情けをかけた軟弱者から死んでいく!! 頑張る頑張る皆殺し! 京君が言いたいのはそういうことだよね! あたしたちの勝利のポーズは首に親指を当てて――キルユー!! 中指上げてファッキュー!」

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」


 京太は完全に意識が飛び、白目を剥いていた。




 無事にパラシュートが開いて母なる大地に降り立ったのだが、そこで憔悴しきった京太は真顔で言い放った。


「……お前ら、頭おかしい……」


 かおると桃瀬はキョトンとしていた。

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