隠れた適性

 京太のゲーム内でのAIMは、そこまで悪くない。

 むしろFPSプレイ時間を考えればかなり良い方だった。


「おかしいなの……。ゲーム内の腕と、アバター性能はジャンルが違えどそれなりに比例するはず……。まさかここまでの〝謎の最弱AIM〟だとは信じられないなの……」

「謎の最弱AIMと言われたら少しは傷付くぞ……俺でも……」

「き、きっとアサルトライフルとの相性が悪かっただけなの! 他も試してみるなの!」


 マークスマンライフルは二つ横のレーンへ飛んだ。

 スナイパーライフルは三つ横のレーンへ飛んだ。

 ライトマシンガンは斜め上へ飛んだ。

 ヘヴィマシンガンは上へ飛んだ。

 サブマシンガンはかおるへ飛んだ。

 ショットガンは桃瀬へ飛んだ。

 ハンドガンはらきめへ飛んだ。


「きょ、京君……痛いよぉ……」

「う~~~ん……、練習弾じゃなかったら全員死んでるなの……」

「京太、お前船降りろです」


 女性陣から辛辣なコメントを投げつけられ、さすがの京太も凹んでいた。


「な、なぜだ……なぜこんなクソAIMに……」

「もしかしたら、京太っちの背徳天騎士は類を見ないほどに現実で強化されているので、そこですべての力を使い果たしている説……なの?」

「マジか……」

「つまり近接以外はポンコツ」


 たしかにそう考えれば納得できる。

 汎用性を捨てたからこそ、京太の異常な強さがあると考えても不思議ではない。

 しかし、現実問題これでは勝ち残ることができない。


「ごく稀に配置されているという近接武器狙いでいくしかないのか……?」

「うぅ~ん……さすがにそれまで無能枠だと、どう考えても勝ち残ることができないなの」

「む、無能枠……」

「京太、無能枠でも落ち込むことはないですよ」


 いつも無能枠とリスナーから煽られるかおるがニヤニヤしながら、京太の肩をポンポンと叩いている。

 イラッとするが、今の状況ではぐうの音も出ない。


「でも、京君がこの状態で……勝てなかったらあたしと天羽さんは大変なことになってしまうのでは……」

「あ……」


 ようやく敗北したときのリスクを思い出したかおるは、他人事ではないと気付いた。


「ど、どどどどどどどどどどうするんですか!? 京太!?」

「俺、無能枠だからなぁ……」

「い、いやいやいやいや! やる気を出してくださいよ! さっきはせっかくのチャンスだからと見下しまくって悪かったですよ!?」


 京太も負ける気はないのだが、さすがにここにある武器をすべて試してダメだったのなら実戦はキツいだろう。

 一応、本戦はレアとして近接武器と、途中で投下される補給物資で特殊武器が用意されているらしいが、それは当てにできない。

 どうしたものかとガンラックを眺めたとき、〝それ〟に気が付いた。


「……いや、まだ試していない武器が一つだけあったな」

「え?」


 京太はハズレ枠と言われた〝弓〟を手に取った。


「さすがに弓は……」

「銃相手に弓で戦うのは常識的に考えてきついですよ……」


 浮かない表情のかおると桃瀬だったが、らきめだけは真剣な表情をしていた。


「弓は確かにゴミ武器ですが、それは普通の人間が使ったときの場合……。たしか、銃子が縛りプレイで弓を使っていたときはトップを取ったことも――」


 京太はすでに弓を射ち放っていた。

 的の赤い中心に突き刺さっていて、二射目は一射目の矢尻を割っている。

 三射目、四射目、五射目と同じように、一ミリも誤差なく射る。


「え?」

「マジデスカ」


 かおると桃瀬はポカンとしてしまっていた。


「どうやら、背徳天騎士の第二職業である〝アサシン〟にある弓適性で狙いやすくなっているようだな」

「す、すごい……」

「京太っちの武器は弓に決定なの~!」




 それからは練習をしつつ、休憩時間に〝闘魚ランブルフィッシュ〟のルールなどを確認していくことになった。


「現時点で何か質問はあるなの~?」

「そういえば、武器ってランダムに落ちてるんだよね? 今から、どの武器を使うなんて決めていて意味なんてあるの?」

「桃瀬っち、良い質問なの」

「やった、褒められちゃった」

「理由は――」


 フィールド上――主に点在する建物内などにまとめて物資が置かれている。

 銃のカスタムパーツや手榴弾、銃弾、HP回復アイテムや銃本体だ。

 何が置かれているかはランダムなのだが、それなりに数が置かれているので、序盤は無理でも中盤辺りには狙っていた銃が手に入ることがほとんどである。


「なるほど~」

「ククク……それに敵チームを倒して持っている物資を奪い取っても良いですしね!」

「天羽さん、邪悪な笑みをしてるねぇ~……」

「敵チームなんて、私のところに物資を運んでくるだけの歩く宝箱ですよ! 勝利の撮れ高は私たちチームが手に入れるので!!」

「ということで、他の基本ルールもおさらいしておくなの~」


 三人構成のチームで、一人はVTuberアバターで配信をすること。

 フィールドはすでに解放済みの廃墟エリアを使う。

 最初は目隠しで初期位置に連れてこられて、他チームとは一定の距離を保った状態でスタート。

 フィールドは時間がたつと狭まっていき、範囲外に出ると失格。

 ランダムに落ちているアイテムを駆使して、最後の一チームになった時点で勝利。


 武器の持ち込みは禁止で、特殊な空間にアイテム収納できるようなスキルなども使用禁止。

 ドローンが各チームをチェックしていて、たとえ聖丸だろうと試合中の禁止行為はできない。

 ただし防具は持ち込めるので、そこは美鈴マテリアルが完成させてくれるのを待つだけだ。


「HPというのは本来のものではなく、練習用武器で減らすことのできる特殊なものなの。だから、実際に死ぬことはないから安心してほしいなの」


 ちなみに練習用武器などは、難易度の低いダンジョンからもドロップするためにかなり流通している。

 神とやらは、日々鍛錬したアバターたちの戦いが見たいのかもしれない。


「さてと、それじゃあ休憩しながらおさらいもしたし、練習再開なの~」

「ま、まだやるのぉ~……」

「ゲームのFPSも、大会前は普通に毎日十二時間以上みっちりやる感じなの~」


 それを聞いた桃瀬は、硬い地下実験場の床に倒れて頬をぺったりと付けていた。


「ゲームって大変だぁぁぁ~……。あ、床ちべたくて気持ちいい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る