背徳天騎士の弱点

 かなりFPSを練習したので、次はリアルアバターを使った練習へと移ることになった。

 しかし、実際に銃撃戦の練習をするとなれば広さが必要になる。


『かおるの部屋の壁をすべて壊せば、それなりの広さになるんじゃないか?』


 と京太が冗談で言ったら、かおるに殴られた。

 実際問題、都内にある公園などでは広さ的に微妙なところというのと、周囲の一般人の迷惑になるというのもある。

 アバターにとっては練習に過ぎないが、その有り余るパワーは一般人にとっては脅威なのだ。

 迷惑なアバターたちは強引にするのだろうが、京太は〝復讐〟以外は常識を持っているので、なるべくそういうことはしたくない。


「――というわけで、私ども美鈴マテリアルの出番というわけですね!」

「ああ、今日はよろしく頼む」


 ゆるキャラ着ぐるみこと鈴木真央に連れられ京太たちがやってきたのは、都内にある美鈴グループの高層ビルだ。

 そのエレベーターに乗って、特殊な操作をすると〝アメコミのコウモリ男〟よろしく地下の実験場へと通された。

 柱のない大型の地下駐車場サイズはあるだろうか。

 光沢を持つ真っ白い壁が、非現実感を高めている。


「これは……映画のような世界だな……」

「美鈴グループで使われている地下実験場です。壁や床が頑丈な素材でできているので、アバターの力でもムチャをしなければ問題はないはずです」


 もしかして以前から秘密裏に兵器でも作って実験していたのか? とも思ったが、京太は口に出さないでおいた。

 こんなヤバそうな大企業相手にやぶ蛇などはしたくない。


「バトロワ大会〝闘魚ランブルフィッシュ〟で実際に使われる銃器も、特殊な物を除き用意しました」


 備え付けのガンラックに大小、様々な銃器がセットされていた。


「色々とありがとう、感謝する」

「いえいえ、京太様たちには珍しい素材をご提供頂いたいますし、配信に美鈴マテリアルの名前が出ることにによって宣伝効果もかなり出てきていますから。では、私は通常業務へ戻りますので、何かあったらお気軽にご連絡ください」


 鈴木真央はゆるキャラ特有の、あまり関節が動かない動作でペコリとお辞儀をしてからいなくなった。


「鈴木さん、普段は何をやっているんでしょうかね?」


 かおるは当然の疑問を口にした。


「Twitterを見たら、商品を持った自分自身ゆるキャラの写真を延々とあげてたな……」

「な、なるほど……。たしかに広報のお仕事……なんですかね……」


 ゆるキャラアバターも色々と大変なんだなと全員が思ったところで、らきめがガンラックの銃を手に取った。


「それじゃあ、まずは軽く銃器の説明をしていくなの~」

「ああ、頼む」


アサルトライフル:AR-MA96

バランスが良い万能武器

これをメインに選ぶ人が多い

C・マイナス社製


マークスマンライフル:ブラックマンバアイズ

アサルトライフルとスナイパーライフルの間くらいの武器

ラインブラック社製


スナイパーライフル:ブラックシャドー

長距離用で一発が高威力なので弾が少なくて済む。スコープを覗かなければ当たりにくいので近距離は苦手

ラインブラック社製


ライトマシンガン:マヒマヒ

重い、中距離での火力が高い。弾消費多い

ハッピーハワイアン社製


ヘヴィーマシンガン:シェイク・ヤーケン

さらに重い、長距離での火力も高い。弾消費多い

長万部銃器機械工業製


サブマシンガン:エレクトリックブルー

近距離が得意で軽量

遠くの敵を狙いにくいのと、弾の消費が激しい

プリンツェツィン社製


ハンドガン:スピアノーズ

一番軽いが火力は低め

スピア社製


ショットガン:I-K

近距離用で弾が散弾

ホワイト&ホワイト社


弓:弓

ハズレゴミ武器

現地住民の手作り


「という感じなの~」

「ふえぇ~……一気に言われてもわからないよ~……」


 京太は男子ということもあって何となくわかったが、桃瀬は銃器という物をよくしらないらしい。


「大丈夫なの! らきめがオススメの銃を選んであげるなの! さぁ、向こうにある射撃場で試し打ちするなの!」


 地下実験場の片隅にある、長いレーン式の射撃場へやってきた四人。

 まずはかおるが銃を渡された。


「メインとサブで二丁持つのがセオリーなんだけど、かおるちゃんはスナイパーライフルをメインにして、サブをハンドガンの構成がいいと思うなの~」

「スナイパー……一番上手い人がやるイメージですね。さすが私……!」

「というか、VTuberアバターは耐久が低すぎて、前に出たらすぐHP0になっちゃうだけなの~」

「……か弱い女子、さすが私。FPSの姫を目指します!」


 コイツのメンタルの強さを見習いたいと思った京太だったが、言うと殴られそうなので黙っておいた。

 かおるは重いスナイパーライフルを構え、スコープを覗く。

 らきめにその体勢を少しずつ修正されながら、トリガーをゆっくりと絞る。

 ゲームっぽい効果音で弾丸が発射され、的へと着弾した。


「うーん、ちょっと中心からズレちゃいましたね。リアルで撃つと思った以上の反動と、ズッシリとした重さが……」

「初めてなら上出来なの~。それに重さは、サブウェポンのハンドガンで軽くしてあるから何とかなるなの~」


 次は桃瀬の番だ。


「あたし、銃じゃなくて直接殴っちゃダメかなぁ……? 人を殴りたい、殴りたいよぉ……」

「武器となる物は持ち込み禁止で、桃瀬っちの肉球グローブも無理なの。それがなかったら攻撃力が下がって、相手を倒せないなの。そもそも致死ダメージを与えないようにする特殊な装備じゃないと、皆殺しタイプのバトロワになっちゃうなの~」

「うっ、あたしのワガママが通る隙がない……。銃、使います……」

「じゃあ、桃瀬っちはタフさと、素早さを活かせるショットガンとサブマシンガンなの~」

「あ、ゲームでも使ってたやつだ! これならわかる!」

「ショットガンは格ゲーのダッシュパンチが届くくらいの距離内で、サブマシンガンはそれ以上の距離くらいで使うといいなの。どちらも軽いから、移動で翻弄しながら撃ったり、有利な場所を取ったりしながらがいいなの~」

「ううう……一気に言われて頭が追いつかないよ~……!?」

「そこは身体で覚え込ませるなの。ほら、ダミーロボットが用意してあるからひたすら位置取りで動いて撃つなの~。練習弾は一万発以上用意してあるの~」

「い、一万発!?」


 スパルタ指導が開始される気配がするのだが、桃瀬ばかりに同情はできない。

 最後は京太の番だ。


「ゲームで見たところ京太はバランスの良い中距離寄りという感じなの。アサルトライフルを中心にあと一丁という感じなの~」

「わかった。試しに撃ってみる」


 アクション映画や、ゲームやアニメでもお馴染みのアサルトライフル。

 細かな持ち方や、装填などのやり方を教えてもらいながら的に向かって構える。

 トリガーに指をかけた。

 呼吸を落ち着かせた。

 あとはゆっくりと引き絞り――必殺必中の気合いで撃ち放つ。


「こ、これは……京太っち……!?」

「ああ……」


 二人はあまりの光景に息を呑んだ。


「「クソAIMすぎる」」


 銃弾は隣のレーンの的に命中していた。

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