銃子チームの思惑

「おいおい、らきめちゃんよ~。なんで京太チームのコーチングなんてしてるのさ?」


 冒険者ギルドにある一室で、銃子チームの打ち合わせ中――聖丸の声が響いた。

 その声はいつもと違い不機嫌そうで、低く、明らかに敵意を持っている。

 それに対してらきめは、ぶりっこのような仕草で答えた。


「え~、なんでそのことを知ってるなの~? サプライズにしようと思ったなの~」

「ふざけんなっての。かおるちゃんの配信で普通に出演してたじゃん、らきめちゃんさぁ」

「かおるちゃんに目移りしたってこと~?」

「……はぐらかすんじゃねぇよ。答えろ、なんでアイツらのコーチングしてんだ。このボクを倒そうとしてるんだぞ、アイツらは! せっかく、ルールに介入してアイツらの勝率を下げてるってのに!」


 聖丸は普段の余裕がなくなり、イラついたのか机をドンッと叩いた。


「ぴゃっ!? 大きな音でビックリしちゃったなの!?」


 らきめは、とりあえず驚いたフリをしておいた。

 面倒臭いなぁ、どうしようかなぁ……と考えていたのだが、それまで腕を組んで黙って見ていた銃子が口を開いた。


「別にええんやないの? 向こうさん、FPSに関してはシロウトや。一方的に倒してもおもろないやろ」

「いや、でもボクが万が一負けることが――」

「……なんや、ワイの腕を疑っとるんか?」

「ひっ」


 銃子に睨まれ、カエルのような表情を見せた聖丸。

 眼力強く、まるで銃口を向けられたような感覚に陥ってしまったのだ。

 ただトリガーを引くだけでお前を殺せるぞ、と言われているように。


「わ、わかったって。たしかに女の子を手に入れるには、障害物が多少あった方が楽しめるからね……」


 聖丸はその場に居にくくなったのか、逃げるように部屋の外へ出て行ってしまった。

 ホッとしたらきめは、銃子にお礼を言う。


「ありがとうなの、銃子っち」

「まったく、あんまムチャせんといてな。そういうことばっかりしとったあの子――〝ふつつ〟を思い出してまうわ」


 表情を緩めた銃子は、どこか遠い目をしていた。

 らきめは表情の色をなくし、目を逸らしながら呟く。


「妹はもういない」

「……ふつつのいない世界、つまらん世の中や」


 そう言いつつ、銃子はいつもの食事を摂った。

 パキッと栄養補給用の黄色いバーを噛み砕き、サプリメントをザラザラと口の中に入れてペットボトルのミネラルウォーターで流し込んでいく。


「人のマネしてわろうても、何もおもろない」

「それは仕方ないよ……修子はそういう事故の後遺症だもの……。だから、ふつつは関係ないでしょ……」


 つい二人きりになると、銃子の本名である神田修子の名前を呼んでしまう。

 銃子も慣れているのか、そんなことは気にせず話を続ける。


「ウチの脳の結構な部分が機能低下して、フツーの人間と同じ感覚を得られないって医者が言うとったな。せやけど、ふつつがいた三人チームだった頃は不思議といつも心から笑えたんや、楽しかったんや」


 銃子は他者から模倣した笑みを浮かべていたが、らきめからすると泣いているように見えた。


「なんで自殺なんてしてもうたんやろなぁ、ふつつは」

「それは……わたしが悪くて……」

「思い出させてすまんなぁ。別にらきめは悪ぅない。このけったいな社会が悪いんや。せやから房州さん率いる冒険者ギルドで――」

「……修子は本当にそう思っているの?」

「さぁなぁ。もう本当はどうでもええのかもしれんな。あのチーム三人が揃わない、この退屈で空っぽな世界なんてなぁ」


 そう言って銃子も部屋の外へ出て行こうとしたが、らきめは大きな声で感情を露わにした。


「修子……! わたしは京太チームを……以前の私たちの――ふつつがいたチームと同じくらい熱くさせるから! あなたを本当に笑わせてあげるから!!」

「そっか、楽しみにしとるでぇ」


 銃子は後ろを向いたまま、目線すら合わせずに手をヒラヒラと振った。

 閉められるドア。

 部屋に残されたのは、らきめ一人だ。


「あなたを……振り向かせてみせるから……。これがあの子を殺してしまったわたしの贖罪……。どんなモノを……いくらでも利用して、取り込んで、醜く歪なきめら・・・になっても……わたしは……」

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