神の存在証明(仮)
「うーん、他人の金で食う弁当は美味い」
「逆に……奢るというのは身体を抉られるような気分ですわ……」
京太の軽口に対して、かおるはおっさんのようなシワの寄った渋い表情をしていた。
「機材や素材購入、クリエイターさんへの依頼料……その他諸々で万年貧乏VTuberの天羽かおるです……こんてん……」
「面白いな、その顔。ますます美味く感じる」
「京太、良い性格してますね……」
普段ならなんてことないシャケ弁だが、こういう特別な環境下だとご馳走に感じてしまう。
世界が大きく変わったあとの最初の食事だったり、奢られていることだったりもあるが、人の家で誰かと一緒に食事をするというのが初めてだというのも要因かもしれない。
京太は特に苦手な食べ物がないので米粒一つ残さずに完食した。
一方、かおるの方はおかずと苦戦しているらしい。
「食べないのか? 野菜」
「生の野菜って苦手なんですよねぇ……。なんか腐ってそうで……」
「コンビニで売っているものが賞味期限前に腐っていたら大問題だぞ。ったく」
そういうと京太はヒョイッと箸でつまんでパクッと食べてしまう。
「うん、美味い」
「助太刀、感謝す」
「なんだその感謝の仕方」
苦手な食べ物があるのは仕方がないのだが、かおるの場合はただの印象で好き嫌いが決まってそうなので改善はできそうな気がする。
いったいどんな生活をしたら生の野菜=腐ってるというイメージになるのかは不思議だが。
「さてと、食べ終わったら次は――」
「あ、〝ご馳走様〟をしていませんよ」
「……ゴチソーサマでした」
京太は普段部屋でぼっち飯をしているために、ご馳走様は言い慣れていない。
指摘されて渋々言うのだが、言わされている感が強い。
「はい、ご馳走様でした」
それを見透かしたかのように笑顔で言い慣れた感じのかおるは、少し眩しい存在に見えた。
年下のはずなのに、どこか年上のようだ。
VTuberとしての振る舞いは二十二歳というお姉さん設定もあるので、それが影響しているのかもしれない。
「さて、気を取り直して【プライベートダンジョン】を使うぞ」
「ようやく配信ですね!」
「あー、そのことなんだが……」
「はい?」
そういえば、次は一緒に潜ると約束していたことを思い出してしまった。
このタイミングで新たに試したいことが出てきて、まだ一緒に潜るのは危険と判断してしまう。
「確認しておくが、まだサイクロプスとの戦闘の動画はYotubeにあげていないな?」
「まだあげてませんが……それがどうかしたんですか?」
「ちょっと一人で試したいことがあってな。これは今のタイミングでしかできないから、ちょっとだけ待っててくれ。そのあとに一緒に潜れるかどうかの研究もしてみる」
「も~、可愛い女の子を待たせるとか~」
「冗談だとはわかるが、なんかお前が言うと不思議とイラッとするな」
溜め息を吐いてから、京太は【プライベートダンジョン】に呪文を入力していく。
「またゴブリンですか?」
「いや、今度は【サイクロプス】だ」
その呪文一つだけを入力して、
「これは……やはりそういうことか……」
内部で生成されていたモンスターは、京太が見た現実世界のサイクロプスたちだった。
想定外の強さのサイクロプスに出会う前に、ゲートからかおるの部屋へと退却する。
「あれ、もう戻ってきたんですか?」
「ああ、中にサイクロプスがいたのを確認した……それも俺たちが見たやつだ」
「えーっと、それがどうかしたんですか?」
そういえば、かおるには説明していなかったなと思い出した。
「かおるがいない間、俺はあのサイクロプスがどこのゲーム……もしくはアニメや映画、そういうモノかを調べていた。しかし、ネットで画像検索しても、どこにも存在しない種類のサイクロプスだったんだ」
「えーっと、ようは現実世界オリジナルサイクロプスってことですか? どこか気になるところでも?」
「ちなみに、検索しても出ないということは、俺たちが戦ったサイクロプスもまだ時間が経っていないからか、ネットに画像も動画もあがっていない状態なんだ。それはつまり――」
そこでかおるは何か気が付いたのか、アッとした表情になった。
「この呪文――【サイクロプス】は何を参照にして、内部にモンスターを発生させているかということ……。今までのと合わせると、超常的な何者かのデータベースを参照している説が有力だ」
最初に京太もかおるも知らないゲームの〝骨のゴブリン〟が生成された。これだけならネットを参照しているだけという可能性もあった。しかし、ネットに出回っていない現実オリジナルのサイクロプスが生成されたということは、そういうことだ。
「まぁ、これだけ大きく世界を改変した何者か……と考えるのが自然だろうな」
「実感してくると、とてつもなくスケールの大きい状況ですね……」
「ああ……この状況を引き起こした何者か……神とでも呼んでやるか……?」
そう呟く京太の心の中にはどす黒いモノが渦巻いていた。
消えない炎がさらに風に煽られて勢いを増したようだ。
「よし、俺の方のタイミング的に優先すべき検証は大体終わった。あとはかおるの希望とすり合わせつつでも試せることが多いな。一回、
アバターの姿から人間に戻った瞬間、今までにない立ちくらみが京太を襲った。
「くっ」
「だ、大丈夫ですか!?」
かおるに支えられ、やっと立っていられる状態だ。
「大丈夫だ――……とは言えないな。これでは強がっても、ダンジョンの中で死ぬ可能性が高い。それに一日の
「こんなときまで冷静ですね……それがMMOプレイヤーというものなんですか?」
「全員が全員、そういうわけじゃないだろうな」
かおるは、そっと京太をクッションに座らせた。
「さすがに今日は色々とありましたし、休んでくださいよ」
「おいおい、妙に優しいな。配信が絡むと『死んでもやってください!』とか言うと思ってたが……」
「まったく、口だけは元気なようですね。配信はしたいですが、京太が死んだらどうにもなりません。ほら、お布団を出してきますからちゃんと横になってください」
「いや、待て、布団って……それはいい、俺は大丈夫だ」
女の子の部屋で布団と聞くと、何か急に意識してしまう。
慌ててどうにかしようとするが、かおるは聞く耳を持たない。
「急に恥ずかしがっちゃうんですか? 今さらウブなねんねですか」
「ウブなねんねってなんだよ」
「ご主人様が使っていただけなので、細かい意味は私もよくわかりません。けど、今さら京太といて身の危険も感じないのでお気になさらず」
汚部屋に布団を敷くスペースがなかったので、散らかっていたものを片付け――もとい強引にブルドーザーのように横に退かして寝る場所を作ったのであった。
「ちなみに私のベッドは譲りませんよ!」
「そっちの方が気まずくなるから、俺は布団でいい……」
今日合ったばかりの年頃の男と同じ屋根の下で寝るつもりとか、コイツの頭の中はどうなっているんだ――とツッコミたいが、そんな元気も無いので横になって休むことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます