ダンジョン生成の仕組みを解明していく

「お帰りなさい。ご飯にします? お風呂にします? そ・れ・と・も……」

仮想変身アヴァタライズしているときはそれっぽく聞こえるが、汚部屋住人の中身を知ってしまったら違和感ありまくりだな」

「VTuberは騙し……もとい遊園地のキャラのように夢を与えてなんぼですから!」

「バレたら刺されそうだな」

「バレなきゃ平気ですよ! それがエンタメの世界!」


 何やら知りたくなかったことを知ってしまった気もするが、とりあえず仮想変身アヴァタライズを解いてクッションに座った。

 アバターの時は強靱な身体だが、普通の人間に戻ると疲労を感じて現実世界だと教えてくれるようだ。


「ふぅ……。飯も風呂もあとで欲しいが、今は情報の整理がてら報告だ」


 京太は中での出来事をかおると共有していく。

 かおるとしては頑張って聞こうとはしているらしいが、理解までは無理らしく難しい顔をしてひたすら頷いている。


「――というわけだ。非常にヤバい」

「……ヤバいですね!」

「一応聞いておくが、何がヤバいか理解しているか?」

「……ヤバいですね!」

「お前、それを言いたいだけだろ……」


 呆れながらも、かおるでもわかるように説明していく。


「ダンジョン自体は万人が想像してそうなダンジョンだった。ここは今のところ平気だ。しかし、問題はモンスターだ」

「モンスターですか? たしか【ゴブリン】という呪文によってゴブリンが出てきただけですよね?」

「一層目のゴブリンに関しては問題はなかったし、むしろ想像通り過ぎた。その次の二層目がこの【プライベートダンジョン】の仕様を教えてくれた感じだ」

「どういうことです?」

「最初のゴブリンと、ゴブリンキングは俺がプレイしていた〝World Reboot Online〟のモンスターだった。メジャーなゴブリンだが、作品によってちょっとずつ外見が違うから見分けは付く。で、問題は――」


 京太は内部で見た骨のゴブリンの外見を説明した。


「一緒に紛れていた骨のゴブリン――これは俺が知らないモンスターだということだ。念のためだが、かおるはコイツを知っているか?」

「いえ、知りませんが……。それがどうしたっていうんですか?」

「いいか、今から割と絶望的な仮説を立てるが、やる気をなくすなよ?」

「甘く見ないでください、VTuberのテッペンを目指す私がやる気をなくすはずないじゃないですか! 絶対に、絶対に大丈夫です!」


 フラグのようだが、とりあえず話を進める。


「俺……いや、敢えて俺たちと言おう。俺たちが入力した呪文は【ゴブリン】の一言だけだ」

「はいはい、そこまでは理解していますよ」

「そこからも理解してくれよ……。で、ダンジョンに生成されたモンスターは俺の知っているゴブリン二種と、知らないゴブリン一種だ」

「私からしたら全種知りませんけどね!」

「で、話は戻るがこの呪文――【ゴブリン】という定義はなんだと思う?」


 いきなり初歩的すぎる質問に対して、かおるは首を傾げてしまう。


「なんだと思う? と聞かれてもですねぇ……。それって、現実でたとえるのなら『リンゴの定義ってなんだと思う?』みたいな感じですよね。普通に答えていいんですか?」

「まぁ、そんな感じだな。思ったままを言えばいい」

「そりゃ、ゴブリンの定義は〝ゴブリン〟ですよ。〝緑肌〟だとかは赤肌もいたりバリエーション豊富で当てはまらないし、それ以外言いようがないというか……」

「じゃあ、ゴブリンを定義するのは誰だ?」

「えっ、そりゃ――……あれ?」


 そこでようやく気が付いたようだ。


「【ゴブリン】と呪文を打ち込んだのは俺たちだが、俺たちが認識していないゴブリンまで出現したということは――〝【ゴブリン】を定義している者〟は俺たちじゃない〝何者か〟だ」

「つ、つまり?」

「俺たちの知らない危険なゴブリンが出てきたら、とてつもなくヤバくて【プライベートダンジョン】なんて使えたもんじゃないということだ」


 そこでようやく京太の言いたいことに気が付いたのか、かおるは慌て始めた。


「い、いやいやいや! 京太は強いんだし、種類があるとはいえゴブリンくらいは――」

「強さと、未知のモノを警戒するのは両立する。むしろ警戒していたからこそ俺はゲーム内でも強くなれたと言っても過言ではない。今、いきなりゴブリンの神みたいなチート設定の奴が現れたらゲームオーバーだ」


 いくら強くても、知らない搦め手を食らえば簡単に死んで経験値をロストしてしまうし、単純に知らない敵が負けイベ確定クラスで強い場合もある。

 MMOとは、どれだけ事前に情報を集められるかというジャンルでもあるのだ。


「えええええええ!? そんなの私たちの利点である【プライベートダンジョン】が使えないスキルだってことになっちゃうじゃないですか!? あ、しかも、そうすると二人でいる意味がなくなって――」

「早くもコンビ解散の危機だな」

「いやああああああ!! 絶望しました!!」

「フラグ回収はっや……。けど、コンビ解散はもう少しあとで考える。今は情報を集め、仮説を立て、検証することが優先だ」

「そ、そうですよね! まずは情報ですよね!」

「まぁ、それからでもコンビ解散は遅くないというだけだけどな……さすがに協力スキルがダメだったらかおるといる利点が薄すぎるし……」

「いやあああああ!! やっぱり絶望しました!!」


 そんな天丼ネタをかおるが披露しているのを横目で見つつ、京太はネットで情報を集めることにした。


「かおる、そこにあるデスクトップPCを使っていいか? PCの方が慣れているから、スマホより情報を集めやすい」

「あ、はい。どうぞ。ログインパスは〝tanakakaoruko0520〟です」

「本名と誕生日の組み合わせ……セキュリティガバガバだな……」

「では、役立つことを証明するように、有能な私はコンビニでご飯を買ってきますね。他に何かいるものとかあります? 底辺個人勢VTuberなので懐は寂しいですが、今日は助けて頂いたので超特別に媚び売りで奢っちゃいますよ」

「それじゃあコーラを頼む……って、ちょっと待て!? コンビニがやっているのか? この状況なのに?」

「うーん、やっぱり不思議とライフラインとかに関係するものはモンスターに破壊されていないようですね。それにここらへん一帯は支配地域解放がアナウンスされて、早めに安全が確保されたというのもありそうです」

「それでコンビニまでやっているのか……。いや、今はありがたいと思っておこう。他に考えるべきことがあるからな」

「じゃ、行ってきまーす。ちゃんとお留守番してるんですよ~」

「いってら」


 ドアが閉まり、外から鍵がかけられた音が聞こえたところで『これって何かヒモっぽいな……』と少し感じてしまったのだが、それは頭を振り払って忘れることにした。


「まずは骨のゴブリンが何者なのかを調べるか……」


 検索サイトでゴブリンの特徴を打ち込んで、しらみつぶしにクリックしていく。

 大手のゲームや、アニメの敵で骨のゴブリンは存在したが細部が違う。


「普段は気にしないが、ゴブリンでもこんなに色々なやつがいるんだな……」


 そうしていく内に、まだ出回ったばかりのゲームに同じ骨のゴブリンがいるのを発見した。


「なるほど、俺もかおるも知らないわけだ……。となると、打ち込んだ呪文【ゴブリン】を定義しているのは……ネットのデータか? いや、三種の内、二種が俺がやっていた〝World Reboot Online〟からだとすると……」


 世界の根幹を揺るがすような、恐ろしい仮説が浮かんでしまった。

 それを確かめるために【プライベートダンジョン】を発動させようとしたが、反応はなかった。


「やっぱり協力スキルというくらいだから、かおるが近くにいないとダメか。今はそれ以外を調べていこう」


 京太はもう一つ優先して調べたいことがあった。

 それはゲームではよくある〝成長要素〟だ。

 今はモンスターが強くても、ゲームシステムでレベルがあるジャンルなら、時間が経てば人類側が圧倒できるだろう。

 現状もそう悲観すべきものではない、となるのだ。

 だが、それも見据えてさっきのダンジョンで試していたのだが――


「ゴブリンを倒してもステータス上では経験値が1も入っていないな。たぶんサイクロプスでも増えていない」


〝World Reboot Online〟では、どんな敵でも倒せば経験値1は入っていた。

 京太はレベルキャップに到達しているが、次のバージョンアップまで溜まり続ける〝累計経験値〟の表示に変化がなかったのだ。

 これは方法が悪いのか、それとも京太だけの現象なのか。

 それを今からネットで調べていく。


「数時間前に調べたときと違って、かなりネットに情報が出回っているな……」


 SNS、匿名掲示板などを見て回った結果――

 モンスターを倒してもレベルは上がらない。

 どうやらこれが結論のようだ。

 他の成長システムがあるジャンルでも、それらは凍結されている。


「つまり、人類はこの限られた現状のアバターでモンスターと戦わないといけないのか……」


 ネットの情報を見ると、一部の強いアバターを除いてかなり苦戦しているようだ。

 ほとんどは京太が見たような、サイクロプス一体に負けてしまう程度のアバターなのだろう。


「そりゃそうか……。現実よりもアバターに情熱を注ぐ俺たちみたいな人種はどこかおかしいからな……」


 自虐的にそう言いつつ、とある書き込みを見つけた。


「ん、これは……」


 それは、ダンジョンで宝箱を見つけて、その中に装備が入っていたというのだ。

 そして、その不思議な装備を身につけたら力が強くなったと。

 他には倒したモンスターの角を武器にしてみたら、硬かった相手を簡単に倒せたというのもある。


「成長しないアバターたちでも、装備を集めて強くなれ……ということか」


 絶望的な人類側だと思ったが、一筋の光明が見いだせた気がする。

 というところで、ドアが開く音がした。

 かおるが買い物から帰ってきたのだ。


「ただいま~。少ないけど残ってたお弁当と、コーラを買ってきましたよ~。品物不足になる物もあるけど、食糧輸送に関しては平気っぽいと言っていました」

「おかえり、こっちも必要な情報は集めておいた」

「あ、変なフォルダとか開いてないですよね? 乙女の秘密だってあるんですよ」

「別にネットを検索していただけで、変なものは~……」


 というところで、今まで意識していなかったブラウザの履歴がチラッと見えてしまった。


・個人で出来る発声練習

・世界の雑学

・流行のゲームトップ100

・人を退屈させない心理学

・ザ・ボイストレーニング

・最新喉ケア

・配信アプリの上手な使い方

・百万人超えのVTuberたちにインタビュー特集

・今から知っておこう確定申告の基礎

・一日一時間で上手くなるダンスレッスン

・開催中オーディション一覧

・オーディションに落ちて死にたくなったときのメンタル術

・エゴサのススメ

・エゴサして死にたくなったときのメンタル術

・男子の胃袋を掴むレシピ


「……見てはいないぞ」

「な、なんですか、その微妙な間は!!」

「さぁ、早く買ってきた弁当を食べよう。ちなみに俺は男子の胃袋を掴むレシピとか関係なく、何でも食べるタイプだ」

「うわあああああああ!! やっぱり見てるじゃないですかー!?」

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