第5話

「……一緒にゲームしよ」

「え?」


 夏の日が沈む夕方7時。

 俺がリビングのソファで今日出たばっかのヤングジャンプを読んでいるといつもだったら引きこもってる動物パーカーを着たゲーム中毒者が唐突にそんなことを言ってきた。


「どうした急に」

「……メンバーがいない」

「ああ、そういうことか」


 コイツはいつも数人のネッ友とゲームをしているのだが、今日は皆都合がつかなかったらしい。

 それでそのメンバーの代わりに俺が選抜されたらしい。


「面倒くせえ……」

「……ダメ?」

「っ!」


 年齢の割に小さい体に見合うサイズの整った顔で目をうるうるさせながら上目遣いで聞いてきた。

 クソッ、こんな言われ方したら……断れねえ。


「……っはぁー、何するんだ?」

「……コレ」


 そう言って依織が見せてきたのは最近発売されたばかりの格ゲーだった。

 元々アーケードでしかなかった今年発売から25周年を迎える超人気ゲー。

 依織ほどではないが一応ゲーマーの俺はかなりやりたいと思っていた。

 ……一緒にやりたいなとも少しは思った。

 でも、それを言ったら絶対調子に乗るから絶対に言ってやらない。


「おっけ。やるか」

「……うん」


 依織は嬉しさを隠しきれてない顔をしながらテレビ台の下にあるゲーム機本体を取り出し始めた。

 ……この顔は相変わらずだな。


「……準備できた」

「よし、じゃあやるか」


 依織が用意してくれたコントローラーを手に取り、ソファに深く腰掛ける。

 依織はいつもの定位置である俺の隣に座ってくる。

 1Pの依織が対戦モードをセレクトしてキャラクター選択画面に飛ぶ。


「……たーくんはどれ使う?」

「ん〜」


 このゲームには色々なキャラがいる。

 有名なのだと拳闘家、力士などだ。

 その中で一番使いやすそうなのは……。


「……これかな」


 選んだのははちまきを巻いたを持った拳闘家のキャラクター。

 このゲームと言えばこのキャラと言われるほどの知名度を誇っている。


「……私はこれにしよう」


 依織が選んだキャラクターは格闘家の女のキャラクターだ。


「……負けたら罰ゲームね」

「は?」


 いきなり何を言い出すんだ?


「……私が勝ったらたーくんは私のお願いなんでも聞くの」

「はぁ!?」

「たーくんが勝ったら私はたーくんのお願い何でも聞く」

「いや、おま」

「はい決定」

「ちょっ!待て!」

「……問答無用」


 そして始まった試合。

 依織は、強かった。

 さすがゲーマーと言うべきか。

 だが俺だって負けちゃいない。

 ……はずだったんだがなぁ。


「……ふふん」

「くっそぉ……」


 結果は惨敗。

 パーフェクトされた。

 まさかここまで差が出るとは思わなかった。

 俺はやけくそ気味にテーブルの上にあったコップに入った麦茶を一気飲みした。


「……ふふ」

「なんだよ」

「……何でもない」


 何かすげえニヤついてるんですけどコイツ。

 何なんだ一体。


「……じゃあ、約束通りお願い聞いてもらうね」

「うぐっ……」

「……まずはお風呂入って来て」

「はい?」

「……ほら早く」


 依織は俺を急かすように、ソファに置いてあったバスタオルを投げ渡してきた。


「えぇ……」

「……行かないなら私も入る」

「それはマジで勘弁してくれ!」


 俺は慌てて部屋着を持って脱衣所に向かった。

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