第4話

「それで、今日はこれだけもらったと?」

「……うん」


 俺が帰宅すると、部屋のリビングの机の上には菓子が散乱していた。

 まあ、こんな事は日常茶飯事だ。

 この見た目小学生はそれはそれは甘やかされる。

 昼休みなんてお菓子を大量に渡される。

 あめとかマカロンとか駄菓子とか小学生が好きそうなものばかりだ。

 しかも、それをあ~んとかしてくるそうだ。

 ……男子高校生があ~んとか言うのなんかこっぱずかしいな。


「……食べる?」


 依織が物惜しそうな顔をしながら菓子を差し出してくる。

 ……あげたくないならあげなけりゃ良いのに。


「気持ちだけもらっとく」

「……食べて」


 そう言ってずいっと寄せてくる。

 顔は相変わらず物惜しそうな顔をしてる。


「いや良いって」

「……む」


 依織の顔が物惜しそうな顔からむっとした顔に変わった。

 ……どっちなんだ結局。


「……分かった」

「ん?」


 何が分かったんだ?

 そんな事を考えてると依織は持っていた菓子の袋を開けてこっちに差し出してきた。


「……あ~ん」


「………………は?」


 どういう流れでそんな考えに至ったんだ!?

 訳が分かんない!


「いや、遠慮しとく」

「……むぅ」


 やんわり断ろうとしたら依織は更に頬を膨らました。

 あ、これ断れないやつだ。


「……あ~ん」


「………………分かったよ」


 目の前にある菓子を食べた。

 くそっ、何て極刑だコレ!


「……たーくんもやって」


「………………え゛」


 依織は目を閉じて口を開けていた。

 まるで何かが入るのを待っているように。

 まるで、親鳥が餌をくれるのを待っているひな鳥のように。


「……早く」

「やんなきゃだめか?」

「ダメ」

「えぇ……」


 何でそこだけ食い気味なんだよ。

 ……致し方ない。

 俺は机の上に置いてある駄菓子の袋を開けて口に持ってった。


「…………ほれ」


「……あ~んは?」


「……言わなきゃダ」「ダメ」


「…………はい」


 くっそ、すげえ食い気味だぞコイツ!

 いつもの間の抜けた話し方はどうした!


「……あ~ん」

「……パク」

「ふおお!?」


 コイツ菓子だけじゃなくて俺の指もくわえやがった!

 うわ、口の中あったか!

 すげえ指舐めてくるし、何か音出てるし、なんか変なことしてる感じというか……。


「……チュパッ」


 依織は指を舐めまわしたあと、良い音を出して指から離れた。

 指は艶めかしく光っていた。

 うわぁ……恥ずかしい……。


「……フフ」

「!」


 コイツ!

 俺は仕返しに晩飯で依織が嫌いなニンジンを大量に出してやった。

 

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