2. Strongest Weapon ~本人~


——真夜中。

アルファ、シェアト、アルドラ、ウェズン、アダラ、全員がへーラの町に侵入。

町の出入り口となる場所にいた大きな男二人もアルファにより、気絶している。

へーラの町はそれなりに大きい。その分、教会も大きい。

ルートは5つに別れ、一人ずつの行動。

真正面からはシェアト。右横入り口からはアルドラ。左横入り口からはウェズン。裏口からはアダラ。そして塔の天辺に近い一番上のステンドグラスからアルファ。

それが、それぞれが攻め込む場所となる。

集合場所は、この大きな建物の地下にある電子力炉。

そして攻め込む合図はステンドグラスが割れる音——。

銀の十字架にロープがかけられ、アルファは急斜面の屋根を登って行く。

ステンドグラスまで辿り着くと、壁を蹴り、反動をつけ、ステンドグラスを蹴り割った。

硝子の割れる音に、今、全員が教会内に侵入した。

計画通り、硝子の割れる音に、神の使徒達は、アルファの方に集まる。

シェアト、アルドラ、ウェズン、アダラは、時限発火装置を建物の到る所にセットしながら、敵もなく順調に電子力炉に向かっていた。

アルファは三日月で、神の使徒達を蹴散らして行く。

次から次に現れる神の使徒。

言わば、教会の守護者達。EIBELL STRAINのように化け物を倒す力はないが、それなりの護身術を身につけた者達だ。だが、それ等をあっという間に薙ぎ払い、妖しく輝く三日月を鞘に納める。

一息する間もなく、アルファは電子力炉に走り出す。しかし、アルファの足が止まった。

目の前に現れたのは、スピカ!

「・・・・・・ここで何してるんだ?」

思わず、そう問うアルファに、スピカは、アンタこそ・・・・・・と、言うのを止め、

「バイトや」

そう答えた。それはアルファがここにいる理由を、スピカは勘付いたからだろう。

「バイト?」

「うちもシンバと同じや。バイトしながら生きてんねん。親族も知人も世界崩壊の日に、全くおらんようになったから、いろんなバイトして、お金稼いで、御飯食べてんねん。今日のバイトは、この教会におる孤児の面倒と寝かしつけ」

「・・・・・・孤児?」

アルファの眉がピクリと動いた。

「シンバは? 何して御飯食べようとしてんの?」

「俺は——」

「シンバも昔、孤児やったから教会におったん?」

「え?」

「そうやな、記憶ないんやったな。でも親がおらんでも素直な子供って一杯おるんやで。寝顔なんて、昼間、言う事聞かんかった子も、めっちゃ可愛いねん」

「・・・・・・何が言いたいんだ」

スピカはアルファを睨む。

「爆弾、どこに仕掛けに行く気や?」

「・・・・・・さぁな」

「ふぅーーーーーーん」

スピカはアルファに一歩近付いて、ジロジロと見る。アルファはプイッと横を向く。

「どうせ考える事知れとんねん。電子力炉に仕掛けて、町ごと、ドッカーン、てな?」

「へぇ。意外に勘がいいんだな」

静かな間があく——。

「え?」

「電子力炉に仕掛ける。確かに考える事知れてるな」

「え? え? え? えーーーーーーーー!?」

頭を持ち、スピカは大声を出した後、アルファの胸倉を思いっきり掴んだ!

「アホか! アンタ等は! うちは冗談で言うたんや! それがホンマやったって理解できる迄、時間かかったやろ! 大体、そんなとこに仕掛けたら、ホンマに町ごと吹っ飛んでまうやろ!」

「町ごと吹っ飛ばすつもりなんだろ」

「アホか! どれだけの命がなくなる思うてんねん!」

「俺の知った事じゃない」

アルファの冷たい口調と瞳に、スピカはアルファの胸倉から手を離した。

腰の後ろ、つまり尻の方にある鞘から、大きなソードを抜き、スピカはアルファに構える。

「ここを通らな、電子力炉には着かん。ここを通りたかったら、うちを倒すんやな」

「馬鹿だろ。そんな事しても、他の奴等が仕掛けてる」

「でも、シンバは仕掛けられへん。シンバは誰も殺さんで済むやん」

「爆発に巻き込まれ、ここで死ぬって言うのか?」

「それもええんちゃう? うちとシンバの運命や。それが嫌なら、うちを倒すんやな」

鼻で笑うアルファに、ソードが振り落とされ、ギリギリで避けたが、幾つか斬られた黒髪がパラパラと床に落ちる。容赦なくアルファを斬りつけようと、ソードが振られる。

——速い! しかもかなり強い!

スピカは大きなソードを扱う為、小さな体と、柔らかい動きと、しなやかなステップを全て自分のものにし、使いこなしている。

剣に対しては、自分というものを、よく理解しているようだ。

女として、最大限を生かし、男には出来ない動きを身に着けている。

狙いもかなり正確だ。

「驚いたな。強いじゃないか。確かに、その大きな剣の持ち主だ」

スピカの剣を避けながら、アルファは余裕に話しかける。

「当たり前や。このソードはうちのや。それにうちは強い言うた筈や」

剣を振り回すスピカの方も、まだ本気とは程遠い様子。二人、息切れさえない。

「なんでカウンターにソード減り込ませたんだよ? こんなに剣の扱いに慣れてる奴が」

「何べん言うたらわかるねん。あれは避けられたからや。うちがホンマに人殺すと思うか? 脅しのつもりで振り上げた剣の方へ向かって来るから、それ、うちが避けたんや。ほならカウンターに思いっきり入ってしもうたんや」

アルファは壁に追い詰められた。

「もう逃げられへんで」

「そうみたいだな。一つ、聞いてもいいか?」

「なんや?」

「・・・・・・これは脅しか?」

シンと静まる。

「うちは正義を守るんや!」

「正義?」

スピカはアルファに鋭い瞳を向け、剣を振り上げた。ガキーーーーンと響く音が鳴り、アルファは刀・三日月で、ソードを受け止めた。

しかし、スピカのソードは、より力強くなる。

「やっぱり・・・・・・やっぱりアンタはシンバちゃうわ!」

「あぁ!?」

「姿も、声も、癖も・・・・・・癖も似とるけど、全然ちゃう! うちの知っとるシンバは、よぉ笑う前向きな奴やった。記憶失っとるからって、ろくでもない連中と付き合うような、アンタみたいな奴とちゃうわーーーーーーーっ!!!!」

スピカのソードが、再び、振り上げられ、アルファは三日月で受け止める。

アルファにスピカを攻撃する気は全くなく、防御体制から動く気配がない。その事にスピカも気が付き、ソードの動きが、より激しくなるが、全て受け止められてしまう。

「確かにお前は強い。でも俺には勝てない。幾ら足掻いたって女だしな」

アルファがそう言うと、スピカは暗い表情になり、俯いて、ソードを鞘に納めた。

「ハッ、お前、いろんな顔ができるんだな」

勿論、一瞬の笑みだが、思わず、笑うアルファに、スピカは、その場にペタンと座り込んだかと思うと、

「うわぁぁぁぁーーーーーーん」

と、大声で泣き始めた。

「お、おい!?」

この表情も始めて見るが、笑い事ではなくなった。

「は、鼻水出てるぞ」

そう言われ、スピカは、ズズーーーーッと音を立て鼻水を吸い込み、また大声で泣き喚く。

ボロボロと大きな粒の涙が落ちる。

女というよりも、まるで子供の涙。

アルファは左手で髪を撫であげ、面倒そうに溜息を吐いた。

「あのさぁ、お前、もうちょっと女っぽくなんないか? もうガキじゃないんだから、女を生かせよ。剣の扱いは女生かした動きしてた癖に、なんで剣仕舞ったらこうなる? 見た目、イケてると思うし、その髪に飾りをつけるとか、そういう事から始めてみれば——」

何をアドバイスしているのだろう、だが、アルファはアルファなりに泣き止まそうと一生懸命なのだ。

「スカート履いとるやん」

泣きながら、そう答えるスピカに、アルファは頭を掻く。

「そりゃあ、そうだけど。なんて言うか、女らしくって言うか、色気がないって言うか、女って言うよりガキ相手に泣かれても、どう慰めればいいか、わからない」

「慰めてほしいて泣いとんのちゃうわ!」

スピカはポケットからテッシュを出し、ブビ、ブビビビビビビビーーーーッと凄い音を出し、鼻をかんで、そして、そのテッシュを開いて見た。

「・・・・・・見るなよ」

「うちの体内に、どんなんが入っとったんか、めっちゃ気になるやん」

「鼻水だとわかってて、気になるのか?」

——変な女だ。

——泣き喚いた後はスッキリした顔してやがる。

——正直なのか、素直なのか、純粋なのか。

——なんにせよ、誉め言葉しか浮かばないな。

スピカはスクッと立ち上がり、アルファの左手を持ち、鼻をかんだテッシュを無理矢理持たせた。

「スピカちゃんの体液、あ・げ・る!」

そう言って走り出す。

「おい! どこ行くんだ!」

「電力炉に決まっとるやろ! 爆弾、うちが全部、取り除いて、壊したるんや!」

「そんな事したら自爆するかもしれないだろ!」

「どうせ爆発したら町ごとドカーンやで!」

「わかってんなら、町から遠くに逃げたらいいだろ!」

「嫌や! うち一人助かっても嬉しないもん! それにうちは正義を守るんや!」

——正義?

スピカは行ってしまった。

アルファはスピカの体液付きテッシュを投げ捨て、追いかける。

「女の癖に素早いな。どこ行った? 探しながらだと追いつけそうにない。ヤバイな、時限発火装置の方、そろそろじゃないのか? 俺を置いて、みんな逃げてる頃だな」

——なら何故、俺も逃げない?

——何故、あの女を追いかける?

——何故、あの女は逃げない?

——正義ってなんだ?

「くそっ! わからない!」

アルファは舌打ちをし、スピードを上げる。

——電子力炉。

スピカは立ち尽くす。

やっと追いついたアルファも、立ち尽くし、光景を見ている。

アルドラ、ウェズン、アダラの無惨な死体。

今、跪いているシェアト。

しかし、そんな事に、スピカもアルファも立ち尽くしている訳ではない。

シェアトと、今、戦っているのはアルファなのだ。

しかし、余り表情を顔に出さないアルファとは違い、そのアルファは、笑顔でシェアトと楽しむように戦闘をしている。

後、間違い探しで言うならば、バンダナをしていない、服装が違う、左手首の刺青の模様が多少異なっている、という事くらいだ。

黒髪も、泣きボクロも、目も、鼻も、口も、まるで鏡を見ているように似ている。

シェアトはアルファに気付いた。

「アルファ!? お前がアルファなのか!? 記憶が戻って俺達を襲ったんじゃねぇのか? 俺と今、戦っているのは誰なんだ!?」

シェアトの驚きに、アルファに似た、その男は腹を抱えて笑う。

そして、シェアトの腹に思いっきり蹴りを入れた後、その男は軽快な足取りで、アルファとスピカの方へ近付いて来る。

シェアトは腹を押さえ、口から涎と血を垂らしながら、また跪く。

「まさか、こんな所で逢えるなんてね」

それはスピカに向けた言葉?

それともアルファに言ったセリフ?

どちらとも、とれるような目線で、男は二人を見ている。

「・・・・・・誰なんだ?」

アルファの問いに、

「・・・・・・なんだ、お前? 今更、記憶がないのか? 皮肉なものだな。行方不明と聞いていたが、ここで会ったのも何かの縁だ。自己紹介してやろう。オレはシンバ」

「シンバ!?」

アルファとスピカは思わず、声を上げた。

「シンバ・オメガだ、よろしく? シンバ・アルファ」

「俺はシンバ・アルファって言うのか? 何故、知ってる? お前は何者なんだ?」

「オレが何者か?」

オメガの表情が一変する。笑顔がスゥッと消え、何とも言い表せない、そのゾッとするような瞳が、アルファに向けられた。

「何度も言わせるなよ。オレはシンバだ。そして、この世でシンバはオレだけなんだ」

「どういう意味だ?」

「意味? 記憶がない割に、面白い質問だ。この世で『強い』のはオレなんだと言ってんだよ!」

オメガはアルファの持っている三日月に似た武器を両手に持ち、振り上げ、アルファ目掛け飛んだ!

アルファはスピカを遠くに突き飛ばし、三日月で、落ちて来る三日月に似たソレを受け止めた。

「三日月か——。

オレの刀・陽光は最強兵器だ。でもな、幾ら、いい武器を持っていても、その遣い手が何の力もなければ、最強兵器も単なる武器となる。見せてやろう、テメーとオレの違いをな!」

二つの刀が斬り、結び合う。

腕は互角——?

「アルファ、教えてやる。

剣術会得のその一、己の筋力と剣の重量とを把握する!」

三日月が陽光に押され始める。

「その二、速さと威力を剣に兼ね備える!」

オメガの速さと威力が、陽光に増加される。

うろたえるアルファに、三日月の動きも取り乱してしまう。

「その三、剣技ある者、知性で『引き際』というものを悟れ!」

三日月が宙を舞った——。

「アルファ、オレにはお前にはないプラスアルファがあるんだ」

オメガの陽光がアルファの首の位置に輝く。

「プラスアルファ・・・・・・?」

「ああ。確かにお前は資質がある。素質もある。オレはソレに加えて、鍛錬があるんだよ」

アルファは喉顎に向けられた陽光にゴクリと唾を呑みこむ。

「ゼロから這い上がり、今、頂点に辿り着く。シンバはこのオレだ」

シンバ——。

アルファの目に映る映像。それは記憶の破片か——?


『キミを強いと名付けよう』

そうして与えられた名は、シンバ。

ソレは最強兵器として創られた呼吸——。


「シンバァ!!!! もぉやめてやぁぁぁぁーーーー!!!!」

その悲鳴に似たスピカの声に、アルファはハッと我に返る。

気付けば、オメガの陽光が、今、アルファの首を落とそうと、振り切られる瞬間だった。

咄嗟に身を沈め、アルファはソレをかわす。

オメガの舌打ちが聞こえた——。

陽光は鞘に納められ、オメガはスピカに近付いて行く。

「スピカがやめろと言うなら、やめるよ」

「うちの事、知っとる?」

「そりゃあ、知ってるよ。スピカだってオレの事、知ってるじゃないか」

オメガはスピカに優しく微笑む。

「あ・・・・・・あ・・・・・・あのっ! うちがみんなを止めよう思うたんや! でも止めれんかって、そんで、なんか大変な事になったみたいやけど、でも・・・・・・」

「何も心配しなくていいよ。スピカが悪い訳じゃない。寧ろスピカはよくやってくれたよ。どうしてスピカがここにいるのか不思議だけど、逢えて嬉しかった」

そう言ったオメガを見つめるスピカの視線に、アルファは苛立ちを感じる。

「アルファ、また逢おう?」

オメガは左手で軽く髪を撫であげた。

——癖!? 癖まで同じ!?

「そうだ」

オメガは思い立ったように、またアルファに近付き、アルファの耳元で、

「ゴミは持って帰ってくれよ」

と、小声で囁いて、シェアト、アルドラ、ウェズン、アダラを目で見る。そして、

「これ等も忘れずに——」

と、幾つかの壊れた時限発火装置を手渡された。

アルファがオメガを睨むと、オメガは二ヤリと笑い、行ってしまった。

スピカはオメガの後姿を見つめている。

アルファはアルドラ、ウェズン、アダラを三体重ね、乱暴に片腕に持ち上げる。まだ息のあるシェアトを引き摺るように、抱き持った時、スピカが、

「アルファ、うちも手伝うよ」

そう言った。アルファの動きが止まる。

「ん? どないしたん?」

「・・・・・・いや、別に」

スピカの中で、シンバという存在が、アルファではなく、オメガに変わった——。

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