9.交差
月人とブルーアースの人間達の戦争は終わった。
戦いに参加したナイトの生存者はハルトとエルーだけ。
だが、ハルトもエルーも、その後、ナイトを辞め、戦う事を捨てた。
シンバの部屋から遺書のような手紙が発見され、プレジデントはシンバの意思を尊重し、月にいる者達をブルーアースに連れて来る計画を立てている。
だが、まずはブルーアースの大きな被害と損害を立て直さなくてはならない。
幸い、小さな国は狙われなかった為、大国のプレジデントはタマルタ国とエストガルト国の二人になったが、全ての国のプレジデントがいなくなった訳ではない。
それからセルコ、ホルグ、ザトックの3人は、生きている。
ハルトは止めを刺さなかった。
だが、重傷過ぎて、リカバリを唱える事ができず、今は病院で集中治療室の中。
最新治療が受けられる国はリュンと、その3人が潰してしまったので、治療に時間がかかりそうだが、回復しつつある。
ある程度、回復して、リカバリを唱えられれば、自己治癒も可能だ。
その時、目覚めた時の、彼等の反応が、どう出るのか、不安はあるが、主を失って迄、戦おうとは思わないだろう。
そして、彼等がブルーアースにいる限り、シンバの遺書は必ず、有言実行されるだろう。
そうでなくては、また戦いが始まる——。
暑い光が空から落ちている今日。
初夏の風がブーケの花びらを攫っていく。
サリアの墓の横に建てられた新しい墓はシンバの名前とリュンの名前が刻まれている。
エルーは、ブーケを墓石の前に置き、祈る。
エルーの後ろでハルトも目を閉じて、祈る。
戦争中に、仲間が死ぬのは当たり前だ。
若かろうが、年老いていようが、死ぬ事が当たり前の世界にいるのが仕事だった。
だが、いざ仲間が死ぬと、体の一部をもぎ取られたように痛く、真っ直ぐに歩けない。
そんな想いを、誰もしない為に、世界は平和にならなければならない。
ここにある墓は、それを一番に望んだ者達の死だ。
ハルトもエルーも、例え世界が平和にならなくても、友の死を無駄にしない為に、戦いを捨てたのだ。
それが平和に繋がる明日になりますようにと——。
一人でも多く、そう想い合えれば、そして全ての人の想いが交わって重なれば、きっと——。
墓参りの帰り道、
「今夜、ベガとアルタイルが会う日だね」
エルーが青空を見上げて、そう言った。
「あぁ、そうだな」
ハルトも空を見上げ、頷く。
「ハル、この辺で、どこか星が綺麗に見える場所、知ってる?」
「いいや、知らないよ」
「じゃあ、今夜までに調べておいて?」
「見に行くのか?」
「行こうよ」
「・・・・・・僕と二人で?」
「駄目なの?」
「そうじゃないけど、もうシンはいないんだぞ? 僕と二人になるんだぞ?」
「わかりきった事、聞かないでよ」
「・・・・・・シンとサリアと同じ事をするのか?」
「そうだよ、シンがサリアを誘って、星を見に行ったように、私もハルを誘って、星を見に行きたいの。シンはリュンさんを誘えなかったから、その分、私達が、二人の代わりに星を見に行こうよ。二人ができなかった事、これからしようよ、私達で! 二人の気持ちは私達の気持ちと同じ。遠くに行っちゃったけど、私は繋がってると思ってるから。会えなくても心は重なって交わってる。だから、行こう?」
「・・・・・・どういう意味で言ってんのか知らないけど、僕は、本気にとるよ?」
「いいよ」
と、笑顔で駆け出すエルーに、いいの!?と、ハルトは追い駆ける。
エストガルトの街並みの中、行き交う人々と、喋り声や笑い声。
そして、二人の想いが重なる手と手——・・・・・・。
First Love ソメイヨシノ @my_story_collection
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