6.宝物


急な事だった為、通信で、会議が行われ、モニターに、それぞれの国のプレジデント達の顔が映し出されて、話し合いが続く。


どこの国が襲撃に合うか、わからない。


ならばシンバとハルトをよこせと言う事で、もめ始める。


大体、エストガルトのプレジデントが、相手の提案に何も反論できずに、何をしていたんだと責められ、エストガルトにシンバとハルトを置くならば、その他全員のライトナイトとダークナイトを他国へよこせと言う意見も出る。


それどころか、シンバとハルトは月へ何しに行っていたんだと迄、言われる始末。


相手は4人だけと言う事も、月人の言う事など信じてどうするんだと怒鳴られる。


この失態はエストガルトの責任とされ、一刻も早く手を打たなければと言われるが、どう手を打てと言うのか、それすら、話し合いで決まらない。


それぞれの国のライトナイト達は、襲撃に合わない町へ、人々達を避難させている。


街は大移動で、パニック状態。


ダークナイト達は、戦いに備え、精神統一などをして、能力を高めようとするが、今日、明日中に、急激なレベルアップは当然、難しい。


シンバは、誰もいないブレイクルームで、もう既に飲み干した缶コーヒーを片手に、ぼんやりと椅子に座っていた。


今、誰も休憩なんてとっている暇はない。


静かなブレイクルーム。


カチコチと壁にかけられたアナログな時計が音をたてる。


『シンに教えてもらった事をしてるだけよ』


『シンに教えてもらった友達の作り方。上手に笑えてるでしょ? アタシ』


『シン、アナタの大事なモノ、壊してあげる。アナタが教えてくれたようにね』


——オレのせいだ。


——オレがあの女をあんな風にしたんだ。


シンバはグッと缶コーヒーを握り締め、ベコンと缶が凹む。


——リュンとの出会いは、レベルSに配属されて、直ぐだった。


王に呼ばれ、オレの年齢を聞かれ、『若いとは思っていたが、娘と同い年だ。その年齢で、レベルSの能力を遥かに上回るとは! 素晴らしい!』と、王はべた褒めだった。


オレは王に忠実だった。


怪しまれないよう、だが、忠実である故に、言う事だけを聞いているので、深入りはせず、情が湧かないよう、うまくやっていた。


『シンバ、娘と友達になってやってほしい。ここだけの話だが、娘はこの私よりも能力が上なのだ、つまり、シンバ、キミよりも——』


王からの信用も得て、その話を聞いた時、なんとしてもリュンに近付き、毒でも飲ませて殺さなければと思った。だから、喜んで友達になる事を引き受けた。


能力がオレより高いなら、戦って勝てる相手ではない、近付いて、信用させて、安心させた上で、確実に殺さなければ——。


だが、余りにもリュンが、サリアに似ていて、会った時、『わぁ、アタシ、同年齢の人、初めて! 嬉しい! 仲良くなれるかしら』そう言われたにも関わらず、言葉が何一つ出てこなくて、リュンを怒らせてしまった。


王には、姫がとても美しすぎて緊張したと言い訳すると、大笑いされ、更に気に入られ、『娘と仲良くやってくれ、怒っていても、アイツは単純だから直ぐに機嫌も良くなる』と、オレはリュンに近付く事を許された。


意味もなく、何度も部屋に通った。


勿論、ドアの前で追い返されるばかり。


ある日、王と共にリュンの部屋に行く事になった。


その時はドアの前で追い返される事はなく、部屋に入り、王の後ろで、王とリュンの話を聞いていた。


『月姫の即位式には、このドレスなんてどうかしら? でもこっちのドレスも素敵だと思うの、あぁ、でも色はあっちのドレスがいいと思わない? ねぇ、お父様?』


『あ? あぁ、リュンは何を着ても似合うから、どれでもいい。それより——』


王はリュンを早く一人前の王族として、皆に認めてもらいたいようだった。


今思えば、能力のない王が、自分の地位を守る為、月姫と言う地位にリュンを起きたかったのだろう。


只の娘という血で受け継ぐだけの王の証ではなく、能力ある王という座にリュンを置き、能力のない王は、少しでも長く王の座に居座り続けられると考えたのだろう。


オレは、地位など、どうでも良くて、この時は王も能力者だと思っていたし、リュンも強い能力があると考えていたので、兎に角、気に入られなくてはと、そればかり考えていた。


『シンバ、本に興味があるのかね?』


本棚をずっと見ていたオレに、王が尋ねてきた。


『あぁ、はい、そうです、どれも知らない話ばかりで興味深いです』


『知らない訳ないだろう、これなんか、子供の頃、よく聞かされた童話だ』


と、王は、一冊の本を取り出すが、オレにとって、月の物語など、どれも聞いた事がない。


だが、そんな事、言える筈もなく、


『はい、懐かしいです』


と、笑顔を作る。


『リュンに借りるといい、リュン、シンバが気に入った本を貸してあげなさい』


と、王はシンバにウィンクをして出て行く。


この時から、王は考えていたのかもしれない。


死に際に言っていた婚儀の話。


オレとリュンを結婚させようと——。


オレの能力とリュンの能力を引き継いだ子供が生まれるのを期待したのかもしれない。


王が出て行った後、オレは、


『沢山、本がありますね、全部、リュン様の本ですよね、リュン様はどの本が一番、お好きですか?』


尋ねた。


『どれでもいいでしょ! 趣味を探られているようで嫌な質問だわ』


『すいません、どれも大事にされているようなので、どれが一番おススメなのかと・・・・・・はい、探ってみました』


『人の心を探るなんて、絶対にしてはいけない事よ、最低だわ』


『すいません』


『謝って欲しい訳じゃないわ、早く本を選んで、出て行って下さい』


『はぁ・・・・・・どれがいいか多すぎて・・・・・・』


『読みたい本も自分で決めれないの? それでよくソルジャーが務まるのね! 素早い決断が生き死にを左右する職業なのに』


『ご尤もです、リュン様。では、コレをお借りします、それと——』


オレは、リュンが右手に持っているドレスを指差し、


『リュン様は、このドレスが似合うと思います』


そう言って、部屋を出た。


一歩二歩、歩いた所で、リュンの部屋のドアが開き、


『じゃあ、これにするわ!』


と、顔を真っ赤にして、オレが選んだドレスを持って見せるので、オレは笑顔で、


『お似合いです』


それだけ言うと、その日は、立ち去った。


次の日、部屋を訪ねると、いつもなら、ノックをした時点で、帰れと言われるのだが、リュンが扉を開いて、顔を出し、


『何か用?』


と、怪訝な顔。


『用はないのですが、折角、友達になれたのに、友達らしく話をしたりしたくて』


『友達? でも最初に口も聞いてくれなかったのはアナタの方よ!』


『すいません、あの時は緊張していたんです、本当です』


『お父様に言われて仲良くしてるだけでしょ! 本当はアタシと仲良くなんてしたくないのよ!』


『友達ぐらい、命令じゃなく、自分でつくれます』


『・・・・・・』


『また明日も来ます、こうやって、お話しましょう、それから本を読み終えました』


『え? もう?』


『はい』


本当は読んでなかった。


言葉はブルーアース語と変わりない月の言葉。


だが、文字は少し異なり、読めなかったのだ。


本を返し、オレが背を向けると、


『新しい本、借りてく? い、いいよ、別に! 貸してあげるよ! 教えてあげる、アタシが一番好きな物語!』


と、顔を赤くして言うリュン。オレは振り向いて、笑顔で頷き、リュンの部屋に入った。


リュンが一番好きな物語。


読んでおいた方がいいかと、月文字を解読しながら読んだので、時間がかかった。


これも仕事だと自分に言い聞かせながら、他意はないと言い聞かせながら。


それから本の貸し借りが始まった。


リュンはとてもわかりやすい。


怒ったり、笑ったり、直ぐに表情や態度に出す。


そして優しくて、虫一匹さえ殺せず、怖くて触れないから、必死に喚きながら外に逃がす。


王の言った通り、単純でもあり、直ぐに何でも信用してしまう性格で、でもそれは、オレの知っているサリアでもあった。


『ねぇ、シンバ』


『シンで』


『え?』


『シンとお呼び下さい、友達である証の呼び方です』


どうしても、リュンにそう呼んでもらいたかった。


サリアではない事はわかっている。


でも、リュンは、サリアが生きていたらと言う願いが叶ったような存在だった。


『シン』


リュンが、オレをそう呼んだ時、もう後戻りできないような気がした。


それ程、オレはサリアを大好きで、サリアを愛していた。


子供が想う愛なんて、一瞬の想い出に過ぎないかもしれない。


それでも、あの頃、サリアはオレの全てだった。


親もいない、ましてや仕事なんてない、そんなガキのオレは全てをサリアに捧げられた。


宝物だったんだ、サリアが——。


なのに、思い出すのは、リュンの事ばかり・・・・・・。


シンバはハァッと溜息を吐いて、更に俯く。


「ここにいたのか」


と、ハルトと、エルーが、ブレイクルームに入って来る。


「・・・・・・なんだよ、2人でいる時に、何もオレの所に来なくても」


そう言ったシンバの頭をバチンと叩くハルト。


「なに?」


と、エルーが聞くから、


「虫がいたんだよ」


と、ハルトは苦笑い。


「シン、落ち込んでんの? らしくないよ? だってさ、しょうがないよ、月のお姫様、サリアにソックリ! そりゃ、アンタ達、ミッション失敗に終わるわって納得だよ」


エルーは、シンバと向かい合わせに座り、そう言った。


「もうなるようにしかならないだろ、グダグダ考えんのやめよう? な? 僕等はやれるだけの事はやったんだ。後は隊長からの命令を待って、戦いに備えるだけ」


ハルトはシンバの隣に座り、そう言った。


ふと、エルーの小指に嵌められたビーズの指輪に気付く。


「なんだそれ? オモチャの指輪なんてして」


シンバがそう言うと、コレ?と、手を広げて、指輪を見せて、


「サリアとお揃いの指輪なんだ、女の子達の間で、ビーズアクセサリーが流行ってて、でも私は不器用だから作れなくて、そしたら、サリアが作ってくれたの、お揃いだよって。もうすっごい嬉しくてさ、コレ、今でも私の宝物なんだよね、もう小指に嵌めるのも厳しいんだけどさ、時々、こうやって嵌めて、あの時の気持ち思い出すの。すっごい嬉しかったから。思い出したら元気になれるんだ。頑張ろうって気持ちになれるの」


そう話して、えへへと笑っている。


「僕もあるよ! 僕のはビー玉。ビー玉が流行ったの覚えてる? デジタルの世の中で、アナログな遊びが流行った時期があったよな、あの時、サリアとビー玉、交換したんだ。僕が持ってたビー玉が綺麗だって言うから、じゃあ、交換する?って聞いたらウンって頷いてさ、サリア、笑顔でありがとうって。忘れないよ、あの時の事。だって、僕の方が、たくさんのありがとう言わなきゃならないのに、逆に言われたんだもん、なんか、嬉しくってさ、今でも寮の机の引き出しの奥に、そのビー玉、とってあるんだ」


と、ハルトも嬉しそうな笑顔で、話した。


二人の宝物、なのだろう。


大事な宝物。


「シンは? そういうのないの?」


と、エルーが尋ね、シンバは無言になる。すると、


「私ね、一時期、シンの事、大嫌いだったんだぁ」


などと言い出し、シンバは、え?と、顔を上げた。エルーは、


「だって、シン、私の知らない間にサリアと手話じゃなく言葉で喋ってて、すっごい仲良くなってて、私のサリアを取られちゃった感じになって、私、シンの事、大嫌いだった」


と、ムッとした顔で言う。


「わかるわかる。別に女と仲良くなりたい訳じゃないとか言っておいて、仲良くなってんだもん、先越されたーってショックだったねぇ。僕だって女の子と仲良くなりたいのにって。あ、その辺、ちょっと、マセてたから、僕」


「ちょっと! 私も女ですが!?」


「エルモは女と言うよりも仲間って気持ちが先に来ちゃうからさ」


「あっそ。なんかムカツク! でもやっぱムカツクのはハルよりシンだわ。サリアと一番仲良くしてたよね。私のサリアだったのに!」


プゥッと頬を膨らませて、そう言ったエルーに、


「でも・・・・・・友達だった・・・・・・」


シンバはそう呟いて、ぼんやりしている。


「そりゃそうだよ、だって、友達でしょ?」


キョトンとした顔で聞き返すエルー。


「まだ幼いからな、好きって言っても、付き合いは友達と変わらないだろ」


と、ハルトがそう言って、シンバは俯く。


そんなシンバに、ハルトが、


「サリアが生きていたら、恋人にできたかもって?」


そう聞いて、シンバはハッとして、顔を上げて、ハルトを見る。そして、そうじゃないと首を振り、


「サリアはもういない。わかってる。でもわからないんだよ、あの女、オレの大事なモノを壊すって、何を壊すんだろう? もう壊された、そうだろう?」


そう言いながら、ソレはサリアが死んでしまっている事なのか、それとも変わり果てたリュンに対しての事なのか、シンバはわからなくなっている。


「私情を挟んでいるのはわかってる。今はアイツ等がどこの国を襲うか、それを阻止する為には、どうしたらいいか考えなければならない。オレの大事なモノなんて、どうでもいい時だ。でも、オレ、オレ——・・・・・・」


シンバの勢いが途切れ、何も言えなくなる。


サリアが宝物だった。


そのサリアに生き写しのリュンを、シンバは知らぬ間に宝物だと感じていた事を、変わり果てたリュンを見て、気付かされたのだ。


リュンに能力がない事、月姫という座が王の座ではないと言う事、それ等が、リュンを殺す必要がない理由となり、殺さなくてもいいと、シンバに安心感を与えていた。


例え、月とブルーアース、離れ離れでも、生きているならばそれでいい、そう思っていた。


恨まれても構わない。


戦争も終われば、平和な世界になり、サリアの想いも叶う。


そんな事、考えていた訳じゃないが、無意識の内に、そう思っていたんだと、思わされている。


だが、そんな事、ハルトとエルーに話せない。


今、宝物と聞いて、直ぐに思い浮かんだのが、リュンが好きな物語だったのだから——。


サリアとリュンの間で揺れるシンバ。


人は残酷だと、シンバは思う。


どんなに大切でも、どんなに宝物でも、記憶は薄れていく。


そして、今の方が大事で、今の方が宝物になってしまう。


能力のない人間達の社会の中で、能力がある事が逆に障害となり、閉鎖された養成所で隠されるように生きてきた日々。


それがダークナイトとして活躍できるようになり、ヒーローとまで言われ、子供達からは憧れの存在になったのは、サリアの御蔭だと、大袈裟ではなく、本気で思っている。


サリアと笑い合った日々。


明日も明後日もサリアと笑っていられると思っていた。


月人が襲ってこなければ、サリアは殺されずに済んだ。


なのに、どうして・・・・・・リュンは月人なのだろうか。


何故、サリアに似ているのだろうか。


俯いたままのシンバの顔を上げさせる事はできないと、ハルトもエルーも黙ったまま。


だが、エルーが、


「シン、あの人の事、好きなら、好きって言っていいよ? 私、責めないよ、だって、シンの時間が動き出したと喜ぶべき事だと思う。友達として——」


そう言って、ハルトが驚いた顔をする。


シンバはゆっくりと顔を上げて、エルーを見る。


「寧ろ、似てて良かった。似てない人を選んだら、責めたかも。だって、サリアが好きな人ってシンだったから。女の子同士で、そういう話するからさ、誰が誰を好きとか、その時、サリア、シンって照れながら言って、すっごい可愛かったよ。内緒ねって、約束やぶっちゃった。でもあの人なら、サリア、喜んでくれるんじゃない?」


「何言ってんだよ、お前!? サリアは月人に殺されたんだぞ!?」


「でもあの人のせいじゃないでしょ!」


「アイツは、月人の王族の血が流れてんだよ!」


「だから! それもあの人のせいじゃないでしょ! ハル、怒鳴らないでよ!」


「怒鳴りたくもなる! サリアが喜ぶ訳ないだろ!? あの女はサリアじゃないんだぞ! お前、まだ錯覚してんのか!?」


「してないよ、でもシンの気持ちを優先に考えようよ! シンは生きてるんだよ! いつまでも死んだ人に縛られるのは良くない! シンは、もう充分、大事に思ってる! それでいいじゃない!?」


エルーに、怒鳴り返され、ハルトは黙ってしまう。


「違うんだ、エルモ。オレ、多分、好きじゃない。それこそ錯覚してるだけなんだよ。だって、もし、あの女がサリアに似てなければ、オレはこんなにショックを受けてない。だから、あの女を好きなんじゃなくて、今も、オレは、サリアを忘れられないんだ。でも、頭ではわかってんのに、どうしても錯覚から逃れられない。あの女がサリアとは違う態度をとると、オレは悲しいんだよ。情けないけど、どうしたらいいか、わかんなくて、こんなとこで一人、ぼんやりするしかなくてさ」


「・・・・・・どうすんだよ、お前、戦えないだろ! ブルーアースをどうすんだよ!?」


ハルトにそう言われ、シンバはまた俯く。


「恋してないって言ったろ? 言ったよな!?」


「してないよ。してない。でも——」


「今更、でもとか言うな!! 僕は認めない!! ブルーアースが負けたら、サリアが望む平和は来ないぞ!! サリアの夢を叶えてやるんじゃないのか!? 僕等はその為に誰よりも頑張って来たんじゃないのか!! お前の能力が誰よりも高いのはサリアの為だろう!! 月人に負けて、ブルーアースを譲ったら、サリアはどこに存在するんだよ。このブルーアースにいたサリアは、どうなるんだよ!? サリアは能力者じゃないんだ! ブルーアースの人間なんだよ!!」


「わかってる!! わかってるから苦しいんじゃないか!!」


そう吠えたシンバに、ハルトは一瞬、黙り込んで、


「ごめん」


呟くように、そう言った。


ハルトもわかっているのだ、シンバがどんな気持ちでいるのかと言う事ぐらい。


だからこそ、何度も確認した。


リュンを好きにならないように、恋なんてしていないよなと——。


「ブルーアースなんて関係ないよ。月も関係ない。同じ人だもん。サリアなら多分、そう言うよ。だって、サリア、よく言ってたよ。月の人と仲良くしたいって。月人は急に来て、無意味に人を殺していく連中だけど・・・・・・サリアに似たあの人は、話したらわかると思う。そういう人が月にいるなら、戦わずに済む方法があるかもしれない」


エルーがそう言って、シンバとハルトを見る。


「実は、オレ、少し期待してて・・・・・・あの女、どこの国も襲わないんじゃないかって・・・・・・オレを困らせたいだけなんじゃないかって・・・・・・」


シンバがそう言うと、ハルトは、溜息を吐いて、


「忘れるなよ、お前はあの女の父親を殺したんだぞ」


と、現実を口にする。


「エルモもシンもどうかしてる。僕はサリアが成長した姿を想像しても、リアルに持って来たりしない。サリアは僕等にとって、もっと神聖なものだった筈。エルモが言うシンの時間が動き出したって気持ちもわかるよ。シンはサリアに対して、引き摺りすぎてる。これがあの女じゃなく、ブルーアースの女に対し、シンが悩んでるってなら、僕は幾らでも背を押してやるよ。シンの動き出した時間に一緒に喜んでやるよ。でも、あの女は月人。しかも姫だ。サリアを殺した月人の頂点と言っても過言ではない。あの時、誓ったよな、僕達。ブルーアースを平和に導こう、その為に月人を倒そうって」


ハルトが、そう言い終わるのと同時に、シンバとハルトの携帯が鳴った。


至急、会議室に集合と言う電話だった。


電源を切っていたエルーも、急いで電源を入れると同時に電話が鳴った。


そして、エストガルトのダークナイト全員が会議室に集められ、シンバとハルト以外のダークナイトは他国へ配属される事になり、エルーも行ってしまう事になった。


幸い、エルーが配属された国はエストガルトから近い。


シンバは自分の気持ちに悩んでいるままで、ハルトは少し怒っているようで、3人がバラバラになってしまう事に、エルーは、サリアの大切な宝物が消えるのを感じていた。


『アタシはねぇ、シンとハルとエルモが3人一緒にいるの、大好きなんだ、仲良しで、見てて幸せ! 3人がアタシの宝物なの。呼ぶと、3人がいつも一緒に振り向いてくれて、笑ってくれるのが、とっても嬉しい』


そう言っていたサリアを思い出しながら、エルーは、


「このままじゃ、サリアに笑ってあげられないよ、シンもハルもバラバラじゃん」


と、ビーズの指輪を握り締め、呟き、大きな瞳から涙を一粒落とした。

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