5.宣戦


墓参りを済ませ、ブルータワーへ戻ると、何かあったのか、騒然としている。


シンバとハルトは、エレベーターでプレジデントのいる階へ急ごうとしていたら、


「お前等、どこに行っていたんだ!?」


と、隊長が走り寄って来て、調度、開いたエレベーターに一緒に乗り込んだ。


「すいません、プレジデント、待ち草臥れて怒ってるんですか!?」


そう聞いたシンバに、


「そんな事はどうでもいいんだよ、それより、月人が来てるんだ」


と、青冷めた顔で言うから、シンバとハルトは、眉間に皺を寄せる。


「話しがあるとプレジデントを待っている。攻撃を仕掛けて来ないので、こちらも、銃を構えているものの、動きはない。だが、プレジデントに何かされては困る。シンバ、ハルト、プレジデントの護衛に徹してくれ」


「はい、勿論です。ていうか、月人って、誰が来てるんですか!?」


シンバの問いに、


「4人で来ている。どこかに停めてある船には、他にも一緒に来た者が、いるかもしれないが、ここに来たのは女1人と男3人だ」


隊長は早口で、そう言った。


まさかと、シンバとハルトはお互い見合う。


「エルーの奴はどこへ行ったか知ってるか? さっきから携帯に連絡をしてるんだが、電波が届いてないらしいんだ」


「アイツは今日、休暇ですから、休暇の時は電源切ってるんです」


ハルトがそう言うと、


「なにぃ!? なんで電源切るんだ、休暇でも電源入れろって言ってるだろ、いつも!! だが、さっきまでいたんだぞ!? 見た者がいる!」


と、エレベーターの中、怒声を上げる。


「いたのは、多分、僕達が帰って来たから、僕達に会いに来ただけで。でも多分、まだどこかにいると思います、帰ったら、一緒に飯食おうって約束してたんで。な?」


と、ハルトはシンバを見て、シンバはコクンと頷く。


「そうか、探すしかないな。お前達はプレジデントと一緒に付き添って応接室へ行ってくれ。決して、プレジデントから離れるんじゃないぞ」


隊長がそう言うと、エレベーターの扉が開き、シンバとハルトが降りると、


「エルーを探してくる。アイツも他のダークナイトに比べ、強い能力を持っているからな。いた方がいいだろ」


と、隊長はエレベーターに乗ったまま。


シンバとハルトは頷いて、プレジデントの部屋へ向かう。


プレジデントの部屋では、他のダークナイト達が警備にあたっていたが、シンバとハルトの登場で、皆が敬礼する。


シンバより年上は結構いるが、シンバより能力が高い者はいない。


ダークナイトでは、能力の高さが物を言う。


幾ら先にダークナイトに入団していた者でも能力が低ければ、後から入団した能力の高い者に頭を下げる。


「月人は応接室に通してあるそうです、オレ達がお守りしますので、ご安心を!」


シンバがプレジデントに頭を下げ、そう言うと、ハルトは、ドアを開け、その横に立ち、頭を下げる。


プレジデントは立ち上がり、頷いて、部屋を出て行く。


その後ろにシンバとハルトが付いて行く。


エストガルトのプレジデントは若い。


三十代後半辺りの年齢だが、二十代後半でプレジデントに伸し上がった。


そのプレジデントが、今、歴史上、初の出来事に向き合わなければならない。


月人が国を訪れて、プレジデントと話がしたいなど、未だ嘗てない事だ。


それは全ての国の代表者のようなもの。


気が重いのだろう、プレジデントは深い溜息を何度となく吐いている。


「あの、申し訳ありませんでした、オレ達が、月へ行って、月人のソルジャーを全滅させてくる計画が駄目になってしまって・・・・・・」


シンバがそう言うと、プレジデントは振り向き、


「いや、キミ達が無事で帰って来て何よりだ。キミ達がいなくなったら、それこそ、ブルーアースの終わりだからな」


と、苦笑いで、そう言うと、また前を向いて歩いて行く。


応接室の前のローカから、ズラッと並ぶライトナイトの連中。


プレジデントが通る度に、皆、敬礼して行く。


そして、応接室の扉の前に立つと、扉の横にいたライトナイトが、扉を開け、プレジデントと、シンバとハルトが中に入ると、ソファーにはリュンが一人座っていて、その背後に、セルコ、ホルグ、ザトックの3人が立っていて、その4人を、ダークナイトやライトナイト達が、銃口を向けて、立っている。


——コイツ等!?


——オレ達と数時間遅れで、ブルーアースに来たって事は・・・・・・


——あの後、直ぐにオレ達を追って来たってのか!?


——何考えてんだ!?


この異様な光景に、驚かれたのだろう、プレジデントは息を呑んで、黙って突っ立ったままでいると、


「お座りになって下さい」


と、まるで自分の城の中のような台詞で、リュンは、目の前のソファーに手を差し出した。


プレジデントは頷いて、ソファーに座り、シンバとハルトはプレジデントの後ろに立つ。


「お話をする為に来ただけですので、まずは銃を下ろすよう言って下さい」


リュンがそう言って、ニッコリ笑う。


プレジデントは戸惑い、チラッと振り向いてシンバを見る。


「下ろすよう命じて大丈夫です」


シンバが耳打ちで、プレジデントに、そう囁くと、プレジデントは頷いて、皆に、銃を下ろせと命じた。


「ハハハッ! 本当にブルーアースの戦士だったんだなぁ!」


と、シンバとハルトを見て、ザトックが態とらしい笑い声を出して、そう言った。


「ザトック、失礼な口の聞き方は許しませんよ」


リュンが、そう言うと、ザトックは、スイマセンと頭を下げる。


——なんだ? オレの知ってるリュンじゃない・・・・・・?


——なんで急に王者の風格が漂ってんだ!?


「セルコ、こちらの王に、例の用紙を渡して?」


リュンがそう言うと、セルコはファイルから一枚の紙切れを取り出し、それをプレジデントに手渡した。


プレジデントは、その用紙を目に通す。


「ちゃんとブルーアースの文字で書きましたので、読めると思います、間違いがあれば、ご指摘下さい、直します」


と、リュンは、落ち着き払った態度と台詞。


プレジデントは、不思議そうな顔で、


「間違いはないが、これは一体なんでしょう?」


そう尋ねた。リュンはニッコリ笑い、


「ブルーアースにある国々の名前が書かれています、大きな国が10ヶ国あります。これからアタシ達が攻撃を仕掛ける国です」


と、天使の笑顔で、恐ろしい宣言をする。


ゴクリと唾を飲み込む音が、プレジデントの喉から聞こえるのがわかった。


「そちらの戦士から指摘された事を考えました。アタシ達は、戦士以外の者も殺して来てしまい、戦えない者を容赦なく攻撃して来たようです。ですが、それこそがアタシ達、月人の敗因であると気付いたのです。大きな街があるからと言って、そこが国の一角であっても、国本体ではない事に気付いたのです」


——何言ってんだ、この女ッ!?


「ですから、予め、キングがいる街の中心となる国だけを狙う方法で攻撃する事にしました。そこに戦士を集め、キングをお守りするようにして下さい。戦えない者は、その用紙に記入されていない街などに避難させて下さい。記入していない場所は攻撃致しません」


——淡々と言いやがってッ!


「キングを倒せば、その国は終わり、復興は難しいでしょうね。アタシ達はキングを倒す為、全力でいきます」


「ちょ、ちょっと待ってくれないか。どこの国を襲うって言うんだ? この書かれた順番通りに襲っていくのか!?」


プレジデントが震える声で、そう聞いた。


「それは言えません。アタシ達はこの4人で戦うのですから、どこを攻めるかは、その時の気分で決めます」


「キミ達だけ4人で!?」


「ハイ」


「他の戦士は使わないのか!?」


「いません、アタシ達だけなんです。ですから、安心して下さい」


と、ニッコリ笑うリュンに、安心できる訳ないだろと、シンバとハルトは思う。


「くれぐれも国のキングを、その用紙に記入されていない場所に避難させようなどとは、お考え願いませんように。もし攻めた国にキングがいなかった場合、ルール違反として、用紙に記入されていない場所も攻めます、キングを探す為にも」


プレジデントは表情を固め、開いた口からは、何も言葉が出てこない。


「では、そういう事で」


と、立ち上がるリュンに、プレジデントはうろたえる。


「あ、そうだわ、時間を決めた方がいいですよね、次に、この国で、太陽が上がる時に、ゲーム開始といきましょう。24時間以内で、一国しか攻めません、そういうルールでいいですよね?」


リュンは笑顔を絶やさずに、そう言うと、部屋を出ようとして、また立ち止まり、


「あ! そうそう!」


と、振り向いて、プレジデントに、


「ブルーアースって、全て蒼いのかと思っていました。そうじゃないんですね、でも、空は想像通りでした。後、季節というものがあるのですね、少し暑く感じて、温度調整はどうなってるのかと思ってしまいました。でも、とても綺麗な星で気に入ったわ」


と、ニッコリ笑う。黙っているプレジデントに、ふふふと声を出して笑い、


「では、失礼します」


と、セルコ、ホルグ、ザトックを引き連れて、部屋を出て行く。


呆然とするプレジデントの肩を揺さぶり、


「プレジデント! プレジデント! いいんですか!? このままで!?」


シンバがそう言うと、プレジデントはハッとして、


「直ぐに他国に連絡せねば!」


と、急いで部屋を出て行き、ハルトが急いで、プレジデントを追いかける。


シンバは、リュン達を追いかけた。


その頃、エルーは、鼻歌を歌いながら、ブルータワーに戻って来た。


「そろそろシンとハル、プレジデントへの報告を終える頃かな」


なんだかエレベーターが混雑しているなぁと思いながら、階段を上り、ローカを歩いていると、向こうから、リュンとレベルSの連中が歩いてくるが、エルーは、どこかの国の偉い人かなぁと、擦れ違い、そして、立ち止まり、


「サリア?」


と、振り向いて、そう言った。スタスタと行ってしまうリュンに、


「サリア!? サリア!!」


と、大声で呼ぶので、リュンは、何事かと振り向き、レベルSの連中も足を止め、振り向いて、エルーを見た。


エルーはサリアだと、笑顔で駆け寄り、


「サリア? どうして?」


と、リュンの手を握る。


レベルSの3人は、しかめっ面で、首を傾げ、エルーを見る。


リュンも、首を傾げ、


「サリア?」


そう聞き返す——。


シンバは、どのローカを使って帰ったんだと、リュンを探しながら、走り続ける。


今、やっと、突き当りのローカで、リュンとレベルSの連中を見つけるが、その中にエルーがいるのを見つけ、シンバは急いで走り寄り、エルーの腕を掴んだと思うと、自分の背後へ引っ張り、


「どういうつもりだ!? エルモに何をした!?」


そう怒鳴った。リュンは長い髪を耳にかけ、


「友達になったの、それだけよ」


そう言った。


「友達!?」


「そうよね、エルモちゃん? 友達になったのよね?」


ニッコリ優しく微笑み、リュンがそう言って、シンバの背後にいるエルーを見つめる。


エルーは、シンバの勢いと雰囲気が怖くて、頷くしかできない。


「ふざけるな!!」


そう吠えたシンバに、ビクッとしたのは、何故かエルーひとり。


「シンに教えてもらった事をしてるだけよ」


「なんだと!?」


「シンに教えてもらった友達の作り方。上手に笑えてるでしょ? アタシ」


にこやかに笑うリュンが、怖い——。


「・・・・・・エルモに何かしたら許さない」


「ふふふ、そうなんだ、エルモちゃん、大事にされてるのね」


「・・・・・・ブルーアースに何しに来たんだよ!?」


「何しにって・・・・・・アタシは宣戦しに来たのよ。終わらせましょ。その為の戦いをするには、4人しか残っていないアタシ達には、ルールが欲しいだけ」


リュンがそう言うと、エルーが、


「シン? 何の話? 彼女、サリアじゃないの?」


と、リュンをサリアと錯覚したまま、その気持ちに、何て答えて言いかわからず、シンバは無言になる。


「エルモ」


と、ハルトが駆けて来て、シンバに、


「プレジデントは安全な場所にいる」


と、耳打ちすると、


「今日ね、シンとサリアの墓参りに行って来たよ、墓石が綺麗に磨かれていたよ。毎日、通ってるのか? サリア、天国で喜んでるといいな」


と、エルーの頭をクシャクシャに撫でながら言う。


エルーは、サリアが死んだんだと、我に返る。


ガクンと落胆する、わかりやすいエルー。


リュンは首を傾げ、


「サリアって、誰なの? 亡くなってるの?」


そう聞いたが、シンバとハルトは、無表情で、いや、寧ろ冷めた表情でリュンを見るが、何一つ答える気はないのだろう、無言だ。


「その表情、おれ達が、よぉく知ってるシンバだな」


と、ホルグが言い、ザトックが、


「俺達が、どこの国を攻めるか、予想ハズすなよ? 国が終わるのは、予想ハズしたお前等のせいになるからな」


そう言って、笑みを浮かべる。


「ですが、予想した国に、シンバくん達が出向いたら、この国は手薄になりますね」


と、メガネを中指で上げるセルコ。


まるで嫌な心理戦だ。そして、


「シン、アナタの大事なモノ、壊してあげる。アナタが教えてくれたようにね」


リュンはそう言って、


「宣戦よ、壊されるのが嫌なら、精一杯、守るのね、死守するしかないわよ」


と、背を向けて去っていく。


セルコもホルグもザトックも、リュンの背後に付いて行く。


シンバとハルトは、4人が見えなくなるまで、硬直したまま、見送っていた——。


「宣戦なんてできるような女じゃなかった・・・・・・それともオレが騙していたつもりが、騙されていたのか? 何も知らない無垢な女だと思わされていたのか?」


わからないと、シンバは拳を握り締める。


だが、事実、能力などないと騙されたんだと思い出し、


「騙されていたのは、オレの方だったんだな」


そう呟く。そして、ハルトが、


「受けて立つしかないな、宣戦」


と——。

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