4.帰還


シンバとハルトは、ブルーアースに帰還し、二人が所属する国の戦士控え室で、月での事を報告する為に、シャワーを浴びていた。


プレジデントに会う為に、綺麗な格好にならなければならない。


「シン、傷どうだ?」


「問題ない、塞がってる、痛くもない」


シャワー室は、幾つも個室が並び、その中で、浴びる為、隣の個室同士、シンバとハルトは話をしながら、体を洗っていた。


ドアは、体の部分が隠れる程度の敷居があるだけ。


「ミッション完了ならず、なんだって?」


と、女の声が聞こえ、シンバとハルトはシャワー室の入り口を見ると、


「隊長が怒ってたよ? 何しに帰って来たんだって」


と、ショートヘアで、ブラウンの髪とハニーの瞳の可愛らしい女がそう言うから、


「嘘だろ!? 髪スゲェ短い!!」


と、シンバとハルトは2人揃って、同時にそう叫んだ。


「えへへ、ベリーショートにしちゃった、似合う?」


「似合うけど、勿体ないなぁ、あのロングヘアをそんなバッサリ切っちゃうなんて。ていうか、エルモ、ここは男性シャワー室なんですけど」


と、ハルト。


「エルモ、そこにあるシャンプーとって」


と、シンバ。


エルー・テラ・モーベリック、それが女の名前。


シンバとハルトはエルモと呼んでいる。


エルーはシンバが指差した棚にあるシャンプーを取り、シンバに手渡す。


「で、シンとハルの顔って向こうにバレちゃったんでしょ?」


「あぁ、ブルーアースのダークナイトってバラしちゃったしな」


シンバがそう言うと、


「終わると思ったからな」


と、ハルト。


「敗因は何?」


「敗因って、別に負けて帰って来た訳じゃない。只、情報不足で、ヘマしちゃっただけ。オレより強い能力者が現れたからさ」


「シンより強い!? 有り得ないでしょ」


「それが有り得ちゃうんだよ、しかも女だぜ? 僕は自信喪失しちゃうね」


「強い女戦士ならここにもいるじゃない?」


と、エルーは自分を指差す。


「つーかさ、その女、能力なんてないって言ってたんだよ、わかんないよな、王が能力ない事はぶっちゃけて、自分が能力がある事は隠すなんて」


シンバがブツブツと文句を言うように、そう言うと、


「女だからじゃない? やっぱり男の前では強くいたくないでしょ、守ってもらいたいから。特に好きな人の前だと——」


なんて言うから、シンバもハルトも、エルーをジッと見て、


「またフラれた?」


と、同じ台詞。エルーはぷぅっと頬を膨らませて、


「だって、自分より強い女は無理って、なんで!?」


と、怒り出す。


「だから髪切ったのかぁ。てか、そんな男、こっちから断ってやれよ」


ハルトが笑いながら言う。


「そうだよ、そんな小せぇ男、なんで好きになるかなぁ?」


と、シンバも笑いながら言う。そして、二人揃って、


「ていうか、何回、失恋して、何回、恋する訳?」


と、同じ台詞。


「だって、命短し恋せよ乙女って言うじゃない? 常に恋してたいの!」


そう言ったエルーに、また二人揃って、


「じゃあ、オレにしとけば」


「じゃあ、僕にしとけば」


と、同じ台詞。


「嫌よ、アンタ達に恋しても報われないもん。私は両想いの恋がしたいの!」


「その割りに、いつもフラれてる癖に」


「だよな、だったら僕に片思いでいいと思うけど。恋は恋だろ」


と、シンバとハルトが言うから、エルーは、


「アンタ達だって、いつまでもサリアに恋するのやめたら?」


と。


「そういうエルモだって、サリアが好きな癖に」


「そうだよ、僕達がサリアを忘れて違う女に走ったら、絶対に怒る癖にな、エルモは」


「当然でしょ、サリアと私は大親友だもん。でもサリアは天国で、いい人とラブラブでいてほしい。アンタ達を忘れてね!」


「ひでぇな」


と、笑うシンバと、


「女って勝手だよな」


と、やはり笑うハルト。


エルーはポケットから少女の写真を取り出し、


「会いたいなぁ、サリアに」


と、呟く。


エルーも持ち歩いている写真の少女。


大切な友達だったのだろう。


少女だけが幼いままで、時間が止まっているのが、悲しくなり、エルーは涙目になる。


「バーカ、写真見て泣いてんなよ! オレ達が写真持ち歩くのは、いつも一緒にいるって意味で、思い出して泣く為じゃないだろ」


と、腰にタオルを巻いて、個室から出てくるシンバ。


「でもやっぱ似てるよなぁ」


ハルトも腰にタオルを巻き、髪から雫を落としながら出てきて、エルーが持っている写真を覗き込み言う。


「似てるって?」


エルーが聞き返すと、


「シンバより強い能力を持った女。サリアに似てるんだよな、サリアが成長したら、あんな感じになるんじゃないかって想像通り」


ハルトがそう言って、シンバを見るが、シンバは黙っている。


エルーは気に入らないのだろう、プゥッと頬を膨らませて、


「サリアに似てるなんてわかんないじゃん。想像通りなんて、そんなのハルの勝手な想像でしょ! どう成長するか、わかんないもん。ていうか似てるなんて思って、好きになったりしてないでしょうね!? その人とサリアは違うんだからね! ましてや月人でしょ!」


不安そうな声で怒鳴るから、シンバは笑う。


「ハルは知らないけど、オレみたいな一途な男に、その説教は必要ないな」


「何言ってんだよ、シン! 最初に似てるって言ったのお前だぞ? それにな、一途って言うなら僕の方だろ」


どう見ても、いつものシンバとハルトだと、エルーは安心して、


「もういいから、早く着替えて! プレジデントが待ちくたびれてるよ!」


と、いつもの説教口調で、そう言って、更衣室から出て行った。


ロッカーに入っている着替えを取り出し、ハルトは、


「本当に好きになってないだろうな?」


と、シンバに聞く。


「しつけー! お前は似てたら好きになるのか? お前は似てたら好きになるのか!?」


「なんで二回言うんだよ」


「しつけーからだ!」


「しつこくもなる。あの姫と接触した日、お前、嬉しそうだったから」


「気のせいだろう、オレは一途だって言ってんじゃん、オレよりお前の方こそ、早く告った方がいいぞ。そうでなくても恋愛対象に入ってないんだから。少しは意識させた方がいいって。じゃないと、本当に他の男とくっついちまう。エルモ、惚れっぽいから」


「あぁ、まぁ、いいんだよ、エルモはサリアを愛する僕を好きなんだから。事実、サリアを愛してるのは本当だしな。僕等が愛したサリアは、僕等の宝物だったよなぁ」


「・・・・・・過去形にするなよ、オレは今でも宝物だよ。アイツがいたから、オレ達、ここで存在できてるんだって思ってる。だから思うんだ、オレ達のチカラって、何の為にあるのかって。アイツを守れなかったのに——」


少し暗い雰囲気になるから、ハルトは顔を上げて笑顔を作り、


「とりあえず、プレジデントへの報告は隊長がやってるだろうし、僕達の愛するサリアに会いに行きますか」


と、明るい声を出し、ロッカーを閉めた。


シンバも顔を上げて笑顔で頷き、ハルトを見て、ハルトもシンバを見て、お互いの耳を指差し、


「ピアス取り忘れてる」


と、同じ台詞。


二人、笑いながら、ソルジャーレベルを表すSとAのピアスを外した。


「ピアスの穴って塞がるかな」


「リカバリで?」


「つーか、月の戦士の方が服のセンスはある」


「確かに。ていうか、この堅苦しいスーツ姿も好きじゃないんだけど、なんで、プレジデントに会うだけで、こんなの着なきゃなんないんだ?」


「正装だから?」


と、話しながら、シンバとハルトはブルータワーを抜け出す。


ブルータワーとは、国々にあり、青いビルのような建物で、国のプレジデントの城と言えば、わかりやすいだろう。


プレジデントに関わる者達や、国を動かす知識ある者の研究所などもあり、勿論、ライトナイトとダークナイトの軍基地は別にあるが、殆どのナイトはここで待機し、いつ月人が来ても戦えるように準備している。


ここエストガルトのブルータワーは、どこの国よりも高く聳え立ち、立派だ。


エストガルトはブルーアースの中でも、大きな国で、他国とも繋がりがあり、ここを攻められたら、世界も終わるだろうと言われる程。


その為、ライトナイトもダークナイトも、他国より強化された戦士が多い。


駐輪場で、バイクに跨るシンバ・・・・・・と、思いきや、バイクの横に停めてある自転車に跨るシンバ。


「お前、月のエアーバイク乗った?」


自転車の後ろに乗り、ハルトが尋ねる。


「乗った乗った。アレ便利。バイク欲しいなって思っちゃった」


「買えよ、そしたら時々貸して?」


「ハルが買えよ、そしたら時々貸してくれ」


二人は自転車に乗って、街中を走る。


ダークナイトの正式スーツを着て、自転車で走っている二人は目立つ。


皆、振り返る。


小さな男の子が、


「ママー! ダークナイトだ! かっこいー!」


と、指を差し、大声で叫ぶから、バイバーイと、シンバとハルトは手を振る。


「かっこいい、か。自転車なのにな」


シンバが笑顔で、そう言うと、


「いやいや、自転車じゃなくて、僕達がかっこいいんだから、例え一輪車、三輪車でも、かっこいいのさ」


と、ハルトも笑顔で、


「サリアが起こした奇跡が、未だ、残ってる気がするよ」


そう言った。


サリア。


彼女はシンバとハルトとエルー、3人の幼馴染。


元々、3人の出身は、エストガルトではない。


今はもうない小さな国の小さな田舎町の能力者養成所で訓練を受けていたシンバとハルトとエルー。


その頃は、まだダークナイトという存在もなかった。


能力者は忌み嫌われ、赤ん坊の頃に、能力があるとわかると、親は子を躊躇いなく捨てる時代だった。


国は捨てられる能力者をうまく使えないかと、養成所を設立したが、能力をうまくコントロールできない子供に対し、暴走を恐れ、能力を放出できないアームリングを付けた。


アームリングを外せるのは、養成所の中だけで、リングは錠のようになっていて、鍵は先生が持っていた。


また能力者は喋ってはいけなかった。


言葉で能力を引き出すので、養成所では手話も教え、外では人々に安心を与える為に、手話で話さなければならなかった。


人々から恐れられて、近付いてさえもらえない存在だった能力者。


仕方ない事だった、月人は能力を持ち、突然、現れたかと思うと、皆殺しにして帰って行くのだから。


その月人と同じ能力がある、恐れられるのは、当然だ。


もっと昔の能力者は能力があると言うだけで殺されていたのだから、こうして生きていけるだけ有難い事だと言う話も聞かされたが、子供ながらに、そんな事、よくわかる筈もなく——。


シンバ達がいた養成所には、シンバとハルトとエルーの3人だけ。


他の子供達は普通の学校へ通っていた。


養成所は寮もあるが、放課後は、外で普通に過ごせる。


だが、外に出る場合は手話で話さなければならないし、他の子供達は誰も相手にしてくれなかった。


いつもシンバとハルトは、広場でボール遊びをする子供達を見て過ごしていた。


『仲間に入れて』


と、手話で話してもわかってもらえない。


いや、シンバとハルトの腕に光るアームリングを見ると、能力者だと石をぶつけられる事もあった。


特にエルーは女の子だから、同じ女の子の友達と遊びたくて、毎回懲りずに近付くのだが、いつも泣かされて帰って来る。


壁の高い養成所だけで、自分を出せる生活。


外では誰からも相手にされずに親という温もりさえ、知らず、孤独に耐える。


そんな日々がいつまで続くのだろうか。


救いは能力者が独りではなく、シンバ、ハルト、エルー、3人がいた事。


それでも、やはり、人と仲良くしたい、もっと友達が欲しい。


そう思うのは、子供として当然だろう。


そんなある日、サリアは現れた。


シンバとハルトが手話で話している中、


『こんにちは』


と、手話で声をかけて来た少女。


『アタシ、サリア。昨日、この町に引っ越して来たの、アナタ達、学校で見なかったけど、耳が聞こえないから? だから学校に来ないの?』


キョトンとするシンバとハルトに、


『アタシは耳が聞こえるんだけど、おねえちゃんが聞こえなくて、うちは家族全員が手話を使うの』


と、笑顔で手話を続ける。すると、


「サリアちゃん! 駄目だよ、ソイツ等、能力者だよ!」


と、子供達が集まって来た。


「能力者? って、月人の事?」


「そう、月人と同じ能力を持ってる奴等なんだよ、ほら、あのアームリングがその印なんだ、パパとママが言ってた」


そう言われ、思わず、アームリングをしている手を後ろへ隠すシンバとハルト。


首を傾げるサリアに、


「サリアちゃん、知らないの? アームリングの事。養成所があるでしょ? あそこの子達なんだよ、能力があるから親にも捨てられたんだよ」


と、子供達が口々に言う。


「アタシが前に住んでた所には養成所も能力者もいなかったから」


サリアがそう言うと、じゃあ、教えてあげると、子供達がサリアを引っ張って行ってしまった。


シンバとハルトはお互い見合い、


『話しかけて来られてビックリしたな。行っちゃったけど』


『別に女と仲良くなりたい訳じゃないし、行っちゃってもいいよ』


と、手話で話す。


もう二度と話しかけられる事はないだろうと思っていたが、次の日、サリアは、エルーと一緒にいた。


いつものようにエルーは、しつこく、女の子達に仲間にいれてと言って、イジメられていたらしく、そこへサリアが現れ、一緒に遊ぼうと言ってくれたらしい。


『わかってるのか? ソイツも、オレ達と同じ能力者だぞ』


シンバが手話でそう伝えると、わかっていると頷き、


『アタシ、能力なんてないけど、友達になってくれるってエルモちゃんが言ってくれたの。うれしー!』


と。


シンバとハルトはその台詞にポカーンとした。


能力なんてないけど・・・・・・まるで自分の方が劣っているかのような言い草。


『私も嬉しい! 初めての私の友達! サリアちゃんは私の大事な友達!』


シンバとハルトは、初めて嬉しそうなエルーの顔を見た。


いつも泣いている顔しか見た事がなかったから。


シンバとハルトは同じ年齢だったが、エルーはひとつ下。


妹のように可愛がってはいたが、やはり女の子相手に、何を話していいか、わからない時もあり、それはエルー自身も感じていて、だから初めての女の子の友達は、本当に嬉しかったのだろう。


それからエルーは、サリアにベッタリになった。


逆にサリアは、他の子達から、無視されるようになり、シンバはソレに気付いていた。


ある日、エルーが熱を出し、外に出られない時だった、いつもの場所でサリアがエルーを待っていたので、


『来ない。熱が出て、寝てるから』


と、シンバが手話で話しかけた。


『大丈夫なの?』


『うん、医者が来て、大した事ないって。でもハルが心配して付き添ってるけど、オレ、つまんないし、外に出たんだけど、やっぱ帰ろうかな、ハルいないと、誰もいないし』


『アタシがいるよ』


『お前、女じゃん』


『女とは友達になれない? 能力があるとか、ないとかで、友達の幅を狭くしちゃうのって勿体無いけど、男とか女とかで、幅を狭くしちゃうのも勿体無いよ。アタシのおねえちゃんね、耳が聞こえないってだけで、友達できないの。変だよね、ちょっと違うってだけで、仲良くなれないなんて』


『・・・・・・ちょっと?』


『うん、ちょっとだよ。アタシ、沢山の人と友達になりたいもん、みんなそれぞれ違うじゃない? 同じ人なんていないもん、だからちょっとした事で友達になれないなんて変』


と、ニッコリ笑うサリア。


『だけど、お前、エルモと仲良くするから、他の友達とうまくやれてないだろ。エルモと仲良くしなければ、もっと友達できるのに』


『誰かと仲良くしなければ、誰かと仲良くなれるなんて、それも変。みんなと仲良くでいいじゃない?』


『みんなと・・・・・・?』


『アタシ、月の人とも仲良くしたい』


『本気?』


コクンと頷き、


『アタシ、戦争がない方がいいと思う。月の人とも仲良くできたら戦わなくていいのに』


サリアは、そう言って、


『誰も傷付かないのがいいよ。だって同じ人でしょ? なのに争うなんて変だよ、きっと仲良くなれる人、いるんだろうなぁって、毎晩、月を眺めちゃう。アタシと気が合う人、きっと月にもいるよ、エルモちゃんみたいな! アタシ、将来は、たくさんの友達つくって、月の人とも仲良くなって、戦争がない世界になるようにしたいって思ってる』


楽しそうに、夢みたいな事を、夢見るように語った。


『シンバくんの夢は?』


『オレは、能力があるから、これで何かするんじゃないの? よくわかんないよ』


『そっか。ねぇ、どうして手話なの? 本当は喋れるんでしょう?』


『声で能力が発動するから喋っちゃダメなんだ』


『でもそのアームリングつけてるのに?』


『それでも怖がられるから』


『アタシは怖くないから何か喋って?』


『無理だよ』


『どうして?』


『規則だから・・・・・・』


シンバの手話が止まる。そして、シンバが俯くから、


『ごめん、シンバくん。ごめんね、無理言っちゃって。只、シンバくんの声が聞いてみたかったの。どんな声で喋るのかなって。本当にごめんなさい』


俯くシンバに手話を見せる為、必死で、屈みながら、手話をするサリア。


「シンでいいよ」


シンバは顔を上げ、そう言った。サリアの手の動きが止まる。


「ハルもエルモもそう呼ぶから」


「・・・・・・うん!」


嬉しそうに頷くサリア。


それから長い時間、日が暮れるのもわからず、サリアと一緒に喋っていた。


次の日も次の日も、ハルもエルモも加わり、サリアといろんな話をしたり、町外れの森で探検ごっこや木登りなどをして遊んだ。


やがて、それが子供達の目に、楽しそうに映ったんだろう。


一人のガキ大将的存在の奴が、気に入らないらしく、よくわからない因縁をつけに来た。


そしたら、サリアが、


「ドッジボールしようよ、いつもここで男の子達がやってるボール遊び、ドッヂボールって言うんだよね? アレなら女の子もできるもん。あそこにいる女の子達も誘って、みんなでやってみない? それで勝った方が勝ちなの!」


そりゃ、勝った方が勝ちだろう、だが、子供はそれで納得するものだ。


最初は嫌がっていたが、負けるかもしれないから? などと聞かれると、意地になって、やってやると言うものだ。


メンバーは、シンバとハルトとエルモとサリアと弱そうな女の子達がチームになり、それでもシンバとハルトとエルモは、養成所での訓練で、運動神経抜群の為、ドッジボールだろうが、なんだろうが、負ける事はなく。


「お前、卑怯だぞ、能力つかってんだろ!」


「つかってないよ」


「いいや、つかってんね!」


「つかってたら一瞬で、オレ、あっち迄、瞬間移動するよ」


「・・・・・・一瞬で? 瞬間移動?」


「あぁ!」


「そんな事ができるのか?」


「・・・・・・ボールなんて弾き返せる盾みたいなものも出せるよ」


「すげぇ! かっこいい!」


直ぐにシンバとハルトは、男の子達の人気者になった。


運動神経がいいのと、喋れば普通だと言う事など、能力の話は男の子達にとって、スーパーヒーローのようだった為、仲良くなるのに時間はかからなかった。


シンバもハルトも、みんなと遊べるようになった。


みんなと友達になった。


エルーも、女の子達と一緒にいられるようになった。


全部、サリアの御蔭だった。


サリアが起こした奇跡だった。


だから、シンバとハルトとエルーは、沢山の友達が出来ても、サリアだけは特別に思っていた。


サリアもそう思ってくれてるといいが、みんなと仲良しのサリアに特別はあったのだろうか、それはわからない——。


そして、小さな町に、たくさんの大人が、これからの研究になると、普通の子供達と、能力のある子供達が一緒に過ごす環境を見に来た。


最初は町の大人達が、能力者と遊んでは駄目だと子供達を叱ったが、それでも隠れて遊んでしまう為、なら目の届く所で遊んでもらう方がいいと、叱らなくなり、そうなると、普通に接している子供達に対し、いつの間にか、大人達も、能力者と普通に接するようになった。


それは小さな町から広がるサリアの想いのように、いろんな所で、能力者と普通の人が仲良くしていると言う情報が流れ始める。


能力がある事を隠している者もいたが、隠す必要もなくなった時代が訪れようとしていた。


「また月人が、どこかの街を襲ったんだって」


サリアが、そう言って、溜息を吐く。


「大丈夫だよ、サリア。ここは田舎町だから、襲ってこないよ」


と、エルーは慰めるように言うが、そうじゃないと、シンバは思う。


サリアは、どうして仲良くなれないのだろうかと悩んでいるのだ。だから、


「きっと、まだ気の合う奴に出会ってないんだよ、だから大人は戦争するんだ。でも気が合えば、仲良くなれるよ、オレ達みたいに」


シンバはそう言って、サリアに笑顔を取り戻させる。


サリアが笑顔でいる事は、シンバにとって、とても嬉しくなる事だった。


「でも怖いよね、急に現れて、攻撃してくるなんて、友達になる瞬間、あるのかな。あっという間にやられちゃいそう・・・・・・」


「やられないよ、僕達がサリアを守ってあげる」


「うん! そうだよ、私達がサリアを守る! ね? シン?」


シンバは誓うように、ハルトとエルーの台詞に、強く頷いた。


「守るよ。サリアはオレ達と一緒。ずっと一緒だから。きっと攻撃しないで守っているだけなら、月人も攻撃をやめるよ。その時、友達になる瞬間が来るかも」


大好きなサリア。


みんなとの架け橋になってくれたサリア。


愛するサリア。


サリアの為なら何も怖くない——。


言葉を発した時に、シンバはそう感じていた。




「シンッ! 花屋通り過ぎた!」


その声で、ハッとして、


「おっと、オレ、トリップしてた!」


と、自転車に急ブレーキ。


「僕を後ろに乗せといて、トリップしてただと!?」


「昔を思い出してたんだよ、サリアとの想い出を!」


言いながら、自転車を停めて、花屋に入り、シンバとハルトは、可愛い花のブーケを購入。


「いつも頑張ってるダークナイトさんだからね、安くしといたよ」


と、花屋の店員が愛想良く、そう言って、シンバとハルトは、笑顔で、


「ありがとうございます!」


と、頭を下げる。


可愛いピンク系のブーケをハルトが持って、また自転車に跨る二人。


そして、来た場所は墓地——。


シンバとハルトとエルーが、ダークナイトとして、エストガルトに配属が決まった時、3人はサリアの家族を説得して、サリアが眠る墓を、エストガルトに移した。


「ただいま」


シンバとハルトは、サリアと刻まれた墓石に、同時に呟いて、無事の帰還を知らせる。


幼い頃、住んでいた田舎町は、月人の襲撃で、全て壊され、なくなってしまった。


人も、皆、死んだ。


田舎町だっただけに、戦える人は誰もいなくて、あっという間に、皆、殺された。


襲撃された時、調度、養成所にいる時間帯で、アームリングは外されていた為、ジャンプで逃げる事ができた。


その為、生き残ったのは、シンバとハルトとエルーの3人だけ。


シンバは、目の前で、サリアが殺されるのを見ていた。


動けなかった。


助けると誓ったのに、子供のシンバは、初めて人が人を殺し、殺される所を見て、怖くなって動けなかったのだ。


それも一番大事な人が殺されてしまうシーンを見てしまったのだ。


シンバだけじゃない、ハルトもエルーも、サリアの死に、絶望を感じた。


絶望から這い上がると、残った気持ちは、復讐心だけだった。


月人が全滅しなければ、この世界に平和なんて来ない。


アイツ等は、只の破壊者だ。


アイツ等さえ、ブルーアースに来なければ、サリアは死なずに済んだ。


今も、横で、サリアは笑顔を見せてくれた。


みんなから愛され、幸せに、生きていた筈だ。


シンバも、ハルトも、エルモも、サリアの御蔭で、独りじゃなくなったのに、サリアを独りにしてしまったと思っている。


独りで逝かせてしまった。


だから、シンバは決めていた。


月人を全滅させ、この世界にサリアが望む平和が訪れたら、サリアの元へ逝こうと。


ハルトとエルモは考えてないだろうが、シンバは、サリアと、サリアが望んだ平和な世界で、二人、生まれ変わるんだと、そう信じている。


——サリア、そっちで寂しくない?


——オレは寂しいよ、サリアがいないから。


——でも、もうすぐだよ、もうすぐ終わるから。


——もうすぐ逢えるよ。


——そしたら、この世界に一緒に帰ってこような。


——サリアが望んだ世界に、オレがしてみせるから。


——だから一緒に帰ってこような。


サリアの名が刻まれた墓の前、祈りを捧げ、


「もうすぐだ、もうすぐ終わるから」


と、シンバは目を閉じて、囁く。


なのに、ふと、リュンが脳裏に浮かび、シンバはハッと目を開ける。


目の前は、墓石があり、さっき買ったブーケが風で揺れていて、シンバはホッとする。


横で祈り続けているハルトに、


「エルモとうまくいくよう願って、サリアにも協力してもらえよ」


そう言うと、ハルトは目を開け、シンバを見て、


「サリアが望む平和が来たら、エルモに気持ち伝えるよ。まずはサリアが喜ぶ顔が見たいからさ、自分の気持ちより、サリアの気持ちを優先したいんだ」


と——。


そっかと、頷くシンバ。


「もうすぐだな」


「あぁ、もうすぐだ」


「後はアイツ等を倒せば終わりだもんな」


「あぁ、終わりだ」


「シン、必ず生き残ろうな、サリアが望む平和を見届ける為にも! また月へ行っても、必ずまた帰還しよう。サリアはここにいるんだから。サリアの所へ帰って来よう」


「・・・・・・あぁ、サリアの所へ——」

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