3.能力


シーンと静かな時間が過ぎる。だが、


「ブルーアース? 有り得ないだろ、シンバ、お前、能力を持ってるじゃねぇか! それとも偵察に行った時にブルーアースの連中に寝返ったのか? そういう事か?」


と、ザトックが声を張り上げ、静けさを消し去った。


「能力は月人にだけ与えられたモノだと思っているのか? 月人は元々ブルーアースの者だったんだ、ブルーアースにいて、能力がある者が生まれても不思議はない」


そう言ったシンバに、


「ブルーアースにも能力者がいるって言うのか!? そんな情報、全くないぞ!」


ホルグが驚いて叫ぶ。


「能力のある戦士をダークナイト、能力のない戦士をライトナイトと分けて、ブルーアースでは、ずっと戦士の育成をして来た。特にダークナイトは密かに組まれた組織で育成され、ここ最近、能力をうまくコントロールできる者も増え始め、やっと戦士として活動できる人数に達した。中でも僕達は選ばれて、ここへやって来たんだ」


ハルトがそう言うと、


「最初からブルーアースの者だと? どうやって月へ来て、潜り込み、月人としてソルジャーにまでなったと言うんです?」


セルコが聞く。


「お前達がブルーアースに来て戦いを繰り広げる中、死んだソルジャーのバトルスーツを脱がし、それを着て、生き残ったレベルBやCのソルジャーに成りきって、共に船に乗り込んだだけだ。健康診断で能力を測られ、レベルSとAになり、オレ達は堂々とお前達の中に入り込んだ。健康診断などはあるものの、人口の少ない月という場所でのコロニー生活を送る人間達は、最早、未来を夢見る事はなく、ソルジャーという駒は上からの命令で動くだけ。相手の経歴など気にもしない。名前さえ知らなくてもいい、どうせ、ブルーアースで死ぬかもしれない連中の事など、気にもかけない。それはオレ達にとって好都合だった。誰も見知らぬオレ達を気にも留めないからな。そしてオレは人数の多いレベルDの連中を、何かある度に殺し、厄介な月人の能力者達を少しずつ減らしながら、お前達の性質を探っていた。お前達は能力に頼り過ぎている。その為、能力が低いレベルDですら、能力だけで戦う傾向にあり、戦闘においての基礎である体力作りさえできていない。レベルCも似たようなもんだ。レベルBぐらいで、戦士としての自覚が出て来るが、能力に頼る傾向は拭えない。レベルA、レベルS、その所属ランクが一番厄介な相手となるだろうと考えた上で、なかなかオレ達が動けないでいた理由は、王の存在だった」


説明口調とは言え、こんなに口数多く喋るシンバを見るのは初めてだ。


「確かにレベルSのお前達は脅威だ。本気を出せば一人でブルーアースの国ひとつ滅ぼす力がある。しかもその力は努力で得たものと言うから、余計に厄介だ。それは能力だけでなく、人間の本質である力の限界を知っていると言う事。だが、オレ達も同じ。オレ達とお前達だけならば、勝敗はわからなくなるだろう。しかし、お前達の味方に王が加われば、勝機はお前達にある。それも王が本当にレベルSのお前達よりも高い能力者ならばという事だが。どうやら、それは王の虚言だったようだ。現に王はもういない——」


シンバの話を黙ったまま、聞いているセルコとホルグとザトックは、もう月には戦士が自分達だけしか残っていないのだと悟る。


だが、ここで戦わなければ、勝機は更になくなる事も、3人は理解している。


ダークナイトという名称がつけられる程、ブルーアースには能力者がいるのだから。


もうシンバの説明など必要なかった。


3人の手の中にはソードが持たれ、その場から一斉にジャンプして姿を消した。


シンバとハルトもジャンプし、その場から姿を消す。


ハルトの相手はザトック。


性格は短気だが、3人の中で一番の強さを誇る。


ハルトがギリギリレベルAラインの能力なら、ザトック一人で何とかなる筈。


そして、シンバの相手はセルコとホルグ。


ホルグの性格は調子者で直ぐにふざける傾向にあるが、戦いにまで、その性格を持ってこない。


努力も誰よりも惜しまず、真剣に物事を取り組むからこそ、レベルSになれた。


セルコの性格はわかり辛いが、何にしても理屈で考える所は、戦闘においても変わらない。


知性的な行動は素早い計算で把握できると、相手の一秒先の攻撃などお見通し。


シンバが最高の能力の持ち主なら、最高の努力家と最高の天才、この二人が組めば、何とかなる筈。


ザトックの剣を、ハルトはシールドで跳ね返すが、二度目の攻撃で壊れるシールドに、すかさず、ジャンプで避け、瞬間、背後から飛んでくる銃弾に、身を交わしながら、走って来るザトックを、手の中に剣をつくり、振り切って、攻撃。


ホルグの剣を左手で持った剣で受け止め、シンバは右手に装備した銃をぶっ放す。


ジャンプしながら、銃弾から逃げるセルコ。


セルコの動きを確認しながらも、ホルグの攻撃をも剣で受け止めていくシンバ。


延々と続くような決着のつかない戦いの中、ハルトが、シンバが、ニヤリと笑う。


今、二人が戦いながら、背中合わせに立った。


二人の距離が近付いていた事に、ザトックも、セルコも、ホルグも気付いてなかった。


二人の立ち位置が、クルッと変わり、シンバはザトックの剣を剣で受け止め、銃弾を撃ち放つ!


ハルトはホルグの剣をシールドで弾き、直ぐにソードを唱え、ホルグ目掛け、横に振り切る!


そして二人は、銃口をセルコに向けて、ぶっ放した!


銃弾を咄嗟に避けたが、掠って肩から血を流すザトック。


直ぐに後ろに身を引いたが、剣先が当たり、腹部から血が溢れ出すホルグ。


二人の銃弾から避けきれず、太腿に貫通し、跪くセルコ。


「嘘だろ・・・・・・コイツ等・・・・・・息ピッタシだ・・・・・・なんだよ・・・・・・テメェ・・・・・・チーム組めるんじゃねぇか・・・・・・」


ホルグは腹を押さえながら、単独でしか動けないと思っていたシンバを睨み、そしてハルトを睨むように見て、苦しい吐息と共に、そう言った。ザトックもチッと舌打ちしながら、ペッと唾を吐き、


「勝てねぇ・・・・・・」


などと、らしくない台詞。


セルコは、リカバリと口の中で呟くが、回復とは、直ぐに全回復するようなものではなく、徐々に回復していくものであり、太腿に弾が貫通した傷は数十分はかかる。


しかも、肉が塞がる瞬間など、痛みが伴う為、通常、戦闘中に回復を唱える事はない。


戦闘が終わってから、唱えるものだ。


だが、今、唱えなければ、唱える事は二度とないとセルコは思った。


足の傷は直さなければ、動けない。


動けなければ、戦えない、この二人相手には——!


その時、誰かが駆けて来る足音がして、皆、その場で動きを止める。


使用人達は、皆、パトロール隊の死体を見て逃げた筈。


他の連中も、シンバとハルトが殺した筈。


他に王宮に残っているのは——・・・・・・息を切らせ現れたのはリュンだ。


「・・・・・・ハァ、ハァ、シンッ!!」


と、階段上で、ハルトと背中合わせに立っているシンバを見て、リュンが叫ぶように呼んだ。


「シン・・・・・・? って呼ばせてたのか!?」


ハルトがそう言って、後ろのシンバを顔だけ向けて見ると、


「オレの友達はオレをそう呼ぶだろ、ハルだってそう呼ぶじゃん」


シンバも顔だけ振り向かせ、ハルトに、そう言った。


「だからって、お前、呼ばせるか!?」


「しょうがないだろ、とりあえず、そう呼んでもらわないと、憎む相手を友達って思えなかったから。呼ばれても思えなかったけど」


「情なんて湧いてないだろうな」


「湧いてたら、オレは王を殺してないって」


「・・・・・・手は出してないだろうな、相手は女だ」


「出す対象じゃないだろ、アレ、月人だぜ? しかも姫。興味ない」


笑いながら、そう言ったシンバに、


「笑い事じゃない、月人も遺伝子は僕等と同じ人間だ。住んでる星が違うだけだろ」


と、突っ込む。


「住んでる星が違うだけって、結構な理由だ。違う国の女より地元の女ってね? つーか、そういうもんじゃないの? 知らないけど」


知らないなら、尤もそうな意見を言うなと、ハルトは溜息。


「——誰だ、コイツ?」


ホルグは、表情豊かなシンバに驚き、そう呟く。


ザトックも、シンバの変わりように、驚いている。


「つまり・・・・・・感情さえも、ずっと自分を制御していたって事ですか」


跪いたまま、セルコが、そう呟き、シンバを睨み見る。


「シン! 良かった、無事なんだね」


ホッと息を吐いて、リュンがそう言うから、


「お前の心配して来たみたいだな、自分が騙されてるとも気付かず可哀想に」


と、ハルトが言う。


「どうやらオレ、女を誑かす才能を発揮しちゃったみたい」


「卵が割れて一番最初に見た男に懐いたヒヨコちゃん相手に言う台詞か?」


「月でしか言えない台詞だな、ブルーアースに帰って言ったら、オレ、女の子達からブーイングの嵐で、相手にもされなくなる」


「もともとされてないだろ、ていうか、お前がハニートラップ仕掛けたなんて嘘だろ」


と、笑うハルトに、しかも成功しちゃったと、笑うシンバ。


くだらない話で、笑い合える余裕のある二人に、ザトックは苛立って、下唇を噛み締め過ぎて血を出し、ホルグも拳を握り締め過ぎて震え出す。


「ねぇ、シン、お父様はどこ? どうしてこんな事になったの? 使用人達が外に逃げていくのを知って、話を聞いて急いでここに来たのよ、何があったのか説明して?」


と、階段を上って来ようとするリュンに、


「逃げて下さい!」


セルコがそう吠えた。その怒鳴るような声に、ビクッと体を揺らし、リュンは立ち止まる。


「なんだよ、折角来てくれたのに怒鳴る事ないだろ、可哀想じゃん」


ヘラヘラと、そう言ったシンバに、セルコはキッと睨む。睨みながら、


「リュン様! この仕業はシンバがした事なんです! 彼はブルーアースの者で、月人を殺しに来た死神だったんですよ! アナタは騙されているんです!」


そう叫ぶ。


「何を言っているの?」


わからないと、シンバではなく、セルコを嫌な目で見るリュンに、


「王も殺されたんですよ!!」


と、セルコは声を張り上げて叫んだ。


「・・・・・・お父様が殺された? 誰に?」


「だからシンバにです!」


まさかと、リュンはセルコに首を振るから、


「シンバだって言ってるだろ! 俺達じゃなく、シンバなら信じるのか!? ならシンバ本人の口から聞いてみろ! 俺達は今コイツに殺されようとしてるとこだったんだからよ!」


と、ザトックが吠えた。リュンは震えながらザトックを見て、シンバを見上げる。そして、


「シン?」


と、シンバの名を呼んだ。シンバは、優しい笑顔で、


「ソイツ等を信じてあげなよ、真実だから」


と——。


「どう・・・・・・して・・・・・・? みんなシンが殺したの・・・・・・?」


「そうだよ」


「嘘でしょ?」


「本当だよ」


「どうして? どうしてこんな酷い事!?」


「酷い? お前達月人がブルーアースでやってる事じゃないか」


シンバにそう言われ、リュンは首を振る。


「オレ達は戦士と権力ある王と、その関係者しか殺さない。だが、お前達はブルーアースで、戦わない者までも殺す。年寄りだろうが子供だろうが女だろうが、見境なく殺す。それとこれのどっちが酷いって言うんだ!?」


リュンは知らないシンバの表情に、怖くて、震えながら、首を振り続ける。


「僕達は・・・・・・戦士は、死を覚悟して生きている。だから戦って死ぬのなら、辛くても残された者は、誰も恨まずに、その死を乗り越えて生きていかなければならない。だが、何の力もない、小さな命を無意味に奪われたら、残された者は、呪う事しかできない。僕達は、月人を許す事はできない。卑怯で卑劣で、能力こそ全てだと、何のチカラもない者に対し、遊ぶようにチカラを見せ付ける。最早人間ではない月人を、僕達は絶対に許さない」


ハルトがそう話すと、リュンは、涙を流しながら、


「・・・・・・どうして、その話をしてくれなかったの? シン、アタシ達友達でしょ?」


そう言って、シンバを見つめる。


「シンが傷ついてるなら、アタシ、聞いてあげたよ? だってシンは教えてくれたよね? 友達が悲しんでいる時は——」


そのリュンの台詞を、


「友達が悲しんでいる時、励まさないよ?」


シンバがそう言って、リュンの台詞を止めた。


「無理に元気付けたりもしない。本当の友達は、友達が悲しんでいたら一緒に悲しむんだ。オレはだけどね。ハルの場合は?」


と、シンバはハルトを見る。


「僕? 僕はソッとしとくかな。また笑える時に一緒に笑えばいいかって。ねぇ、リュン様? 友達の扱いって言うのは、友達に教えてもらうものじゃないんだよ?」


「って、ハル、教えてやるなよ」


と、笑うシンバに、そっかと、笑うハルト。


この場に似つかわしくない二人の態度が余りにも 腹立だしく、ザトックは、雄叫びをあげながら、シンバに向かって剣を振り上げるが、シールドで弾かれ、


「そんなわかりやすい攻撃、無駄」


と、シンバに言われてしまう。


「リュン様、部屋に戻った方がいい。オレ達、これからバトルの続きをやるから。さっきも言ったけど、能力がない者を殺すつもりはない。例え、王族とは言ってもリュン様は、まだ王の座に即位した訳じゃないし、リュン様一人に、何もできないとわかっている。オレ達は月を手に入れたい訳じゃない。只、ブルーアースに平和を齎したいだけ」


シンバは、そう言いながら、手の中に剣を出し、再び、バトルが再開された。


リュンは階段を上る。


ゆっくりと一歩一歩、そして、王の間で、王が倒れているのを見る。


自分の目でしっかりと確認する。


泣いている自分の顔に触れ、涙を拭いながら、思い出す。


シンバとの思い出を——。


手の指先から冷えていくのを感じる。


父親が殺されたのは、父には能力がないとシンバに伝えてしまったからだと悟る。


それは言ってはいけなかった。


わかっていた。


例え、どんなに気を許した相手だろうと、愛する者だろうと、絶対に言ってはいけない禁断の呪文のようなもの。


だから母親は存在しなかった。


リュンを生んで、直ぐに口止めの為、暗殺されたからだ。


だが、父はそれをずっと悔やんでいた。


まだ生まれて直ぐの出来事だった為、リュンは、その事をよく理解できず、只、父の悲しみだけは感じていた。


だが、愛して止まない者を殺さなければならない程、それ程にも、王は自分に能力がない事を隠していたのに、リュンはそれを明かしてしまった。


その結果が、月の歴史の最後となるとは——。


リュンが、今、王の死体を抱き締めながら、悲鳴に似た声を泣き叫ぶ。


そして、王の間から出てきたリュンの顔は、いつもの顔ではなかった。


もう涙は出ていない。


ザトックも、セルコも、ホルグも、皆、跪き、もう駄目だと思った矢先、今、シンバの真横に立つリュンの姿。


いつの間に隣に来たんだと、シンバはその気配に、ハッとし、見ると、リュンの目がシルバーに光り、リュンの手の中にソードが現れた。


「なっ!?」


何!?と、シンバは、その言葉を飲み込み、直ぐに、


「シールド」


と、結界を張る。リュンのソードが振り上がったからだ。


しかも、振り落とされたリュンのソードは、たったの一撃で、シンバのシールドを壊した。


シンバとリュンの間に飛び散るシールドの破片が、キラキラと消えてなくなる。


リュンは細い腕に、細い体、しかも戦闘には合わない格好で、ヒラヒラのミニスカートなどを履いて、細い足を剥き出しにしている。


どこからどう見ても、格好ですら、今のリュンの攻撃は想像さえできない。


それに、リュンに能力はないと、リュン自身、そう言っていた。


シンバはシールドを破壊された事に困惑している。


未だ嘗てシンバのシールドを壊した者など、誰もいない。


つまり、シンバの能力よりも、リュンの能力の方が遥かに勝ると言う事か。


リュンの表情がわからなくて、シンバは、呆然としてしまう。


今、リュンが再び剣を振り上げた事など、シンバは気付かない程に。


「シンッ!!!! 逃げろ!!!!」


ハルトが、そう叫んだが、遅かった。


シンバの肩から腹部にかけて、ザシュッとリュンの剣が振り落とされ、シンバの血が溢れ出す。


今、ハルトがジャンプして、倒れるシンバを抱え、リュンを見ると、リュンは無表情で、まるで何かにとり憑かれたかのようだ。


「くっ! リカバリ」


シンバはそう呟くが、やはり、能力が高くても直ぐには回復しない。


シンバは銃をリュンに構え、弾き金を引くが、リュンの瞳がシルバーに光り、リュンの周囲に結界が張られ、シンバが撃った弾は全て弾かれる。


「コイツッ!? 口で唱えずに能力を放てるのか!?」


ハルトがそう言うと同時に、シンバが、


「一旦、退く」


そう言った。そうするしかないだろう、今、ザトックとセルコとホルグは、ダメージが大きくてと言う事もあるが、リュンに対し、驚いて、動きが止まっている。


だが、直ぐに理解し、勝機を感じて戦い始めるだろう。


その3人と、今のリュン相手に、シンバとハルトだけでは勝てない。


ハルトはシンバに肩を貸しながら、ジャンプして、リュンから離れる。


そして、ジャンプしながら、遠ざかっていくシンバとハルトを見ながら、リュンはフッと体の力が抜けていき、その場に倒れた。


「リュン様!?」


と、ザトックとセルコとホルグは、力の限りで体を動かし、リュンが倒れた場所に集まる。


ハルトとシンバは、宇宙ステーションとなるフロアに辿り着くと、シンバはハルトから離れ、自分で歩けると、まだ回復仕切れていない体を引き摺るように歩き出す。


「誰もいないな」


ハルトが辺りを見て呟く。


「あぁ、みんな、ここで何が起こっているのか、わかる迄は、別のコロニーに避難してるんだろう、このステーションも王宮の一角だからな。クソッ、任務完了ならず帰る事になるとは!」


シンバが悔しそうに言う。


「しょがないだろ、まさかの事態だ。だが、もう月に残っている戦士はアイツ等だけ。ブルーアースに帰り、こっちもダークナイトのメンバーを集めれば問題ない」


と、ハルトは、エネルギーが満タンの船に乗り込む。


シンバもハルトに続きながら、


「ダークナイトのメンバーは、この月のソルジャーのレベルC程度の連中しかいないぞ」


そう言って、コックピットへ向かう。


「そうだな、あの姫、レベルSどころの話じゃなさそうだ。レベルC相手に一掃するだろうな。シン、お前が食い止めるしかないだろう、ブルーアースで一番の能力者はお前なんだから。お前しかいないんだよ」


「・・・・・・あの女っ! 大人しい時に殺しておけば良かった」


「シン、操縦は僕がする。ブルーアースに着く頃には、お前の傷も全回復してるだろ。とりあえず、今は気分を落ち着かせろ、まだ負けた訳じゃないんだから」


「あぁ」


と、シンバは椅子に座り、安全ベルトをしながら、リュンの能力を思い出す。


攻撃されて、剣で斬られるなど、今迄、なかった。


こんな痛みを受けたのは初めてのシンバ。


怒りなのか、悔しいのか、悲しいのか、よくわからない感情がふつふつと湧いて来る。


「でも、お前の言う通りだった、シン」


「なにが?」


「あの姫、確かにソックリだな、僕達の愛するサリアに」


「・・・・・・似てないよ。サリアは能力者じゃない。それにサリアは月人でもない」


と、シンバはパスケースを取り出し、少女の写真を見ながら、


「ごめん、終わらなかったよ、戦争——」


そう呟いた。


ハルトも、自分の財布から少女の写真を取り出し、


「大丈夫、必ず終わる。月人はブルーアースには、もう来ないさ。アイツ等が来る前に、僕達が出直してくればいいんだ、直ぐにね」


そう言って、少女の写真を見つめ続ける。


だが、リュンの能力に対抗する能力などない為、直ぐに出直すのは無理だろう。


子供の頃から訓練を受けていた訳でもないのに、あの驚異的な能力を、どうやってセーブしていたのか、それを考えると、リュンは能力を操る事にも長けている。


唱える事なく能力を放つ辺り、まだ理性があるのだろう。


だが、理性を失ったら、暴走するかもしれない。


シンバはパスケースから写真を取り出した。


写真は二枚重なっていて、下の写真の方を見ながら、


「冗談じゃないぞ、ブルーアースで暴走されたら、あんな強い能力、誰が止めれるんだ」


そう呟きながら、一番最初に殺しておくべきだったと思う——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る