第11話 その後
なおみと再開した後も何度か会ってお茶をしたり、食事をしたり、昔よくデートした場所に行ってみたりしたが、思い知らされたのは過ぎさった時間の長さばかりだった。同じ場所に行っても、何も変わっていないようでずいぶん変わってしまっていた。
同じ場所にあって、店の名前も同じなのにメニューが全然違っていたり、店そのものがなかったりした。10年近い時間が経っているんだから、それは仕方のないことなのかもしれない。10年はやはり 長い。高校を卒業したばかりの女の子が結婚して、2人の子の親になり、名古屋の熱田区から 岐阜県に近い一宮に越して生活している。アパレルの会社で働いていたなおみは今は介護福祉士になっている。僕の方も 35年務めていた予備校を退職して、今じゃその日暮らしのパートタイマーだ。実質 働いているのは月に10日ぐらいかな、まぁこれぐらいがちょうどいいけどね。
なおみ、子供達が いくら お父さんが違う人になってもいいよと言ってくれたとしても、離婚は考えた方がいい。自分にとって離婚が最良の選択だったとしても、子供達にとっては実のお父さんはただ一人だ。それに 僕の方もいくら 昔付き合っていたとは言ってもいきなり2人の子供の父親になれと言われても正直困ってしまう。はっきり言って それはかなり無理だと言うか、僕には いきなり2人の子供の父親になる自信がない。それにもう65歳の僕にとって二人の子供の親になるだけの経済力を持っていない。君に離婚の話を聞いた後 僕はまた入院してしまって君とはまだこの話ができていない。いつか ゆっくり話そう。会わないうちに もう3年も経ってしまった。その間に母もなくなってしまって僕には父も母もいない。身内は妹 1人ということになってしまった。ぐずぐずしている間にこんなことになってしまった。もう参った。
自分の人生なんだから自分のために行きたいと思うのは普通だが、一人になってみると、自分のためだけに生きていくなんてことは、できそうでできやしないものだ。
それにしても 夢子さんには全然出会えない。これはもうダメってことだな。次に付き合うとしたら夢子さんだったのに…。全然会えないから仕方がないか。
それにしたって60を過ぎてから そう簡単に出会えるんだろうか 。ちょっと難しそうな気がする。さすがにナンパはもう無理だし。同僚の中から探す と言っても適当な相手が今はいない。それにもうさすがに 年だし、ナンパはそろそろ引退したいと思っている。だから一番いいのは夢子さんに出会うことなんだけどなぁ〜。
夢子さんにはぜんぜん出会えない。あえそうなところには行ってみたのに全然ダメだ。夢子さんの噂も聞こえて来やしない。
初めて会った時にはすごくいい感じだった。趣味も合いそうだし、 全然 飾り気のない 夢子さんがいいなぁと思っていた。使い込んで襟のあたりがよれかかってるようなトレーナーの上に作業着みたいな服を着ていてまるっきり可愛らしさとか綺麗さとは無縁だった。着るものにまるで無頓着な感じが返って新鮮だった。可愛らしい人なのに化粧や着るものには全く無関心な感じが良かった。細くて一見 華奢に見えるのに体を使う仕事をしているせいか意外に肩幅があって、丈夫そうな感じだった。以前同じ大学の出身の女の子でアーチェリー部の首相をしていた娘とちょっと付き合ったことがあったけれど、その子に似てるなと思った。あの子も夢子さんみたいに女性としては肩幅が広かった。スポーティーでかっこいいんだけどもう少し 女らしく華奢な感じの方がいいかな。
夢子さんが自転車に乗ってるところを見たことはないけれども 似合うだろうなと思った。自転車っていうのはかなり 腕の力も使うので夢子さんも肩幅が広くなったのかなぁ。夢子さんとは付き合ったことがないので よくわからないけれど仕事のやり方 なんか見ていると真面目なんだろうなと思った。販売や値段の交渉 なんて慣れない仕事にも頑張って 手を抜かないんだろう。たった半日 家に来てもらっただけだったけど そんなところまでわかる気がした。
なおみもテニスは好きだったみたいだったけど そんなに熱心にやってる感じではなかった。僕と同じで友達と遊ぶためのリクレーションとしてやってるという感じだった。そのせいなのかななおみは肩幅も狭く 華奢な感じだった。足は太くはないんだが腰幅は結構あった。いわゆる 日本人的な体型だった。肩幅の広い 夢子さんとはちょうど逆の感じだ。2人とも とびきり可愛いのに面白いものだと思った。男が頭で考えるのと、実際の彼女たちに会って思うのとは 微妙に違っているのかもしれない。
夢子さんにはまだ触れたこともないのだが、筋肉質で思っているより硬いのかもしれない。なおみの形のいい唇が柔らかそうに見えて、意外に硬いのと似ているのかもしれない。女の体は柔らかいようでいて 特に若い女は驚くほどしっかりしていて硬いと思ってしまうことさえある。女の体の全てが 乳房や太ももの内側のように柔らかではないのだ。なおみの体で最も柔らかな部分に触れた時のことは今でもよく覚えている。女の太ももの内側はあんなにも柔らかいということを知らなかった。ふれた部分から先がなおみの中に溶けて含まれてゆくようだった。どこまでも柔らかななおみの中に果てしなく落ちてゆくようだった。あんなに柔らかなものは他に知らなかった。
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