第10話 なおみ以前

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なおみの前に好きだったのは、あやこさんだ。あやこさんとは同じ職場で働いていたので仲良くなっていた。もう少しで付き合うところまで行っていたのだが、あやこさんは 突然 栃木県に引っ越してしまった。しかも 栃木県で一緒に住む相手は男だとばっかり 思っていたけど、なんとSNS で知り合った女の子だという。何もかもが信じられないことばかりだった。あんなに綺麗で可愛い文子さんが男ではなく3つ年上の女の子と一緒に住むなんて…にわかには信じられなかった。ただ話を聞いてみるとその女の娘とは半年ぐらい前にSNS で知り合って、色々なことで 趣味とか考え方とかがとてもあやこさんとあっていて だから あやこさんは半年間 時間をかけて相手を選んでいたわけだ。好きなアニメや考え方 いろんな話をしてとても気があったらしい だから彼女となら一緒に生活していけると思ったんだろう。そしてもちろん一緒に住むなんてことは、おばあさんが亡くなって大きな家の部屋が空いてしまったという特別な事情があってのことだった。まあいろんな理由が重なってそういうことになったらしい。それにしても もうあやこさんとはすぐにでも付き合えると思っていた僕は、がっかりだった。仲良くなれるどころか急にお別れをしなければならなくなってしまった。送別会で何かを渡そうと思ったけれど、若い女性が相手なので酒やタバコを贈るわけにもいかず、僕は花を贈ることにした。派手ではない、時期にあった花を。最近 経験した別れの中では一番辛い別れだった。若くて元気な文子さんは 栃木県でもうまくやっているだろうか?まあ何の関係もなかった 俺には未だに何の繋がりもなく連絡もこない。当然のことなんだけど切なく悲しい話だ。同僚だったあやこさんのお父さんとも馬があって あやこさんと一緒にうまく、楽しくやっていけるだろうと思っていたのに残念だ。今では 思い出の他何も残っていない。そんなものなのかもしれない人生も 別れも何も残さない。それでいいのだろうと思う。

別れたはずのなおみは戻ってきた。人妻になって 2人の子供のお母さんになってだ。これは文子さんとの淡い 別れと違って超現実的な、ある意味 重い 再開だ。なおみも2人の子どもの母親になって元気に頑張っていることだろう。母はつよし、よく聞く言葉だけれどお母さんは絶対に強いと思う。子供を守るために母はどうしたって強くなきゃならないんだ。だから僕は 距離を取っておこうと思う。でなきゃ どうしたって お母さんには負けてしまう、初めから勝ち目はない。これは弱い男の知恵だ。

しかしながらなおみとはいろいろあったけれど、未だに繋がりがあるとは驚く。自分の年齢から計算するとなおみと出会ってもうかれこれ 30年近くになる。はじめにちゃんと付き合ったのはたったの3年だったのに。こんなに長く関わりがあるとは驚く。赤の他人というよりある意味で身内という感じだ。30年前 高原のテニスコートで初めて会った女の子が今は人妻になり 2人の子供の親となって一宮で頑張っているわけだ。二人の子はもう中学生と高校生 かな?それにしても もう高校生かぁ高校を卒業して1年後になおみと俺は付き合い始めたわけだ。 恐ろしいルーティーンだ。というかもう恐怖だ時間の罠とでもいうか、あまり考えたくない。できるなら何もかも忘れてしまいたい。せめてもの救いはなおみの子供が2人とも男の子だということだ。本当に良かった。僕はありがたいことに男の子には全然興味がない。

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