3.光
「聞いたか? 今の——」
「・・・・・・」
「おい! 聞いたかって、今の!」
「え?」
「ラジオの緊急ニュース」
「あ、いや、聞いてなかったけど・・・・・・」
シンバは頭の中が混乱状態で、何も耳に入って来ない。
「集団自殺じゃねぇかってよ、カナリーグラス周辺の町の名前が出てたんだぜ、聞いてねぇのかよ」
「町の名前?」
「あぁ、今日の自殺者がカナリーグラス周辺に住んでる奴等ばっかりなんだってよ。未遂も合わせて、相当な人数らしい」
シンバはそう言われ、やっとラジオに耳を傾けるが、電波が悪くなり、殆ど聞こえなくなる。そういえば、ログマト・クリサが自殺未遂だって聞いた事を思い出す。
「オカルトっぽい話だねぇ、集団自殺なんてよぉ」
言いながら、ハバーリは、車庫に車を突っ込む。
「うわぁ! 何やってんすか! なんて入れ方してんすか!!!!」
「いーんだよ、入ってりゃ、文句ねぇだろ、後ろのダンボール、店に持って来てくれ」
——なんで俺が使われなければならないんだ・・・・・・。
——バイト代とかくれない癖に・・・・・・。
シンバはムッとしながら、車から降りると、後ろに積んである箱を持ち、ハバーリの後について行き、妙な店の中に入る。
何かの館のような、おどろおどろしい建物。
客を迎えてくれるのは、バルーンを持った人骨とキャーと言う悲鳴と、何故かだるまと書かれた暖簾。
それがヴィルトシュバイン・ハバーリの店、ワイルドボー。
シンバは暖簾を潜り、中に入り、ワイルドボーと額に赤い文字で滴る血のように書かれたマネキンが上から落ちて来るのを、馬鹿馬鹿しそうに避け、
——ハバーリさんの店、いいんですか? これで。変じゃないですかね?
そう言おうとした時、いきなり、ガッと足首を掴まれ、
「うわぁ!?」
と、驚きの声を出した。
「引っ掛かりやがったな、どうだ、おもろいだろう?」
と、ニヤニヤ笑いながら、トラップに引っ掛かったシンバを見ているハバーリ。
「・・・・・・来る客来る客にこんな事してんすか」
シンバは少し怒り口調でそう聞いた。
「いんや、そら、ランダムで発動するトラップだから、引っ掛からない奴もいる」
「こんなもん作ってる暇があるなら、もっとその知識を有効に使ったらどうですか! 勿体無い! なんで天才的なメカトロニクスの技術を、こんな事に使うんですか!」
「何怒ってんだ? そんなにコレに引っ掛かったのが悔しいのか?」
「悔しくないですよ! 悔しい訳ないじゃないですか! こんなもんに!」
言いながら、シンバは店の奥へと入り、悔しかったオーラ出しまくりの背中を見せる。
クックックッとハバーリは笑いを堪える。
ドカッとダンボールの箱を置き、シンバは振り向き、ハバーリを見て、
「この店って何が目的なんすか?」
と、まだ怒った口調で聞いた。
「目的?」
「駄菓子に、オモチャに、エロ本。高級ワインにヌイグルミ、かかってる音楽はクラッシックでソロピアノ。これらの共通点は?」
「おれの好きなものだ」
——即答かよ・・・・・・。
「じゃあ、趣味でいいじゃないですか」
「趣味が仕事だ。こんな素晴らしい事ってあるか?」
「・・・・・・収入ってあるんすか?」
「おぅ! 何か買ってけよ」
——そうじゃなくて・・・・・・。
シンバはフゥと溜息を吐いて、
「じゃあ、この苺ガムキャンディ」
と、商品を選んだ。
「なんだよ、ケチくせぇな、5千ゲルだ」
「5千!?」
「チッ、5ゲルだ」
——しかも舌打ち!?
——まさか、脅して客から金を騙しとってたりしてないよなぁ!?
「この苺ガムキャンディって言うのはだなぁ、最初、ガムとして噛んでいたら、キャンディのように、口の中で、だんだん、溶けてなくなって行くと言う画期的なガムなんだ! いいか、本来、ガムと言うのは、噛んだ後、味がなくなり、それを捨てる事になる、だが、これは捨てなくていい! しかも誰もが愛する苺味! それが5千ゲルでも誰も文句言わないだろう!」
「何自分が作ったかのように言ってんすか、お菓子メーカーにどつかれますよ」
「バカヤロ。これだけ情熱持って説明してやってんだ、感謝されてもいいくらいだろ」
「何言ってんすか、5ゲルのモノを5千で売ろうとしておいて。大体、本当に5ゲルですか? 俺、これ、小さい時、2ゲルで買った覚えありますよ」
「本当に5ゲルよ」
と、店の奥から出て来たのは、ハバーリの妻、カバン。
「話し声が聞こえたから、誰かと思ったら、ウィルティスさん所の双子ちゃんね?」
——双子ちゃん・・・・・・。
——別にいいが、『ちゃん』付けは、この年齢になると寒気がする。
シンバはペコリと頭を下げ、ポケットから財布を出して、5ゲルを出し、カバンに渡そうとしたが、
「いいのよ、それくらい、持っていって?」
そう言うので、
「そうですか? じゃあ・・・・・・」
と、シンバは苺ガムキャンディを貰う事にした。
「チッ。気前いいなぁ、おい! しかも遠慮もねぇのか」
——って、苺ガムキャンディ貰っただけなんですけど!?
「んじゃぁよぉ、おれ、まだ仕入れ残ってんから、ついでに、このガキ送って行くからよぉ。お前、先寝てろ?」
ハバーリがそう言うと、
「またどうせ妙なモノ仕入れてくるんでしょ、いい加減にしてよね」
と、カバンは呆れた表情で言った。
シンバはカバンに、ペコリと頭を下げ、ハバーリの後を追うように、店を出て行く。
シンバが出口に向かって歩いて行くと、何処かに設置されたセンサーが作動し、
『御利用有リ難ウ御座イマシタ。又、ワイルドボーヲ御利用クダサイ』
と、言う音声を浴び、外に出て、振り返り、店を見た。
「ハバーリさん」
「ん?」
「この店、ワイルドボーって言うんですね」
風で揺れている暖簾。
「あぁ」
「俺、だるまって店かと思ってました」
暖簾に書かれた『だるま』と言う文字。
暖簾を見ていたシンバが振り返り、ハバーリを見ると、とっくに車庫から車を出して、シンバが乗るのを待っている。
「酷い車の入れ方しといて、よくアッサリと車出せるなぁ」
そう呟き、シンバは助手席に乗る。
シートベルトをするシンバに、ハバーリがメモリーカードを差し出して来た。
「なんですか?」
「モナリザ」
「え!?」
「昔、イオン教授に頼まれたモノだ。特殊な電磁波と、熱作用も含め、とある高度技術を利用し、ありとあらゆる方法で、調査され、絵の具の層なども解析した結果のようなもんだな。後、過去に出た仮説を幾つか。大したもんじゃねぇが、やるよ。多分、プロジェクトチームYHWHで使おうとした代物なんじゃねぇか?」
「結局、使わなかったんですか?」
「あぁ、必要ないとされたんだ」
「そうなんですか? なんでだろう? 俺もモナリザについて少し調べてたんです」
「で、何かわかったのか?」
「どうでしょう?」
「気になる答え方だな」
ハバーリはそう言って笑いながら、アクセルを踏んだ。
「モナリザってのはなぁ、幾つかの仮説があんだよ」
「はぁ」
それはさっきも過去に出た仮説が幾つか、この受け取ったカードに入っているような事を言っていたので、それを見ればいいだろうと、シンバは、どうでも良さそうに頷く。
「昔から、モナリザは不可解であり、神秘的であり、人々を惹きつける謎の絵画とされて来たようだ。モナリザを描いた奴の事は、もう当然、知ってんだろう? レオナルド・ダ・ヴィンチ。そのレオナルド自身だと言う説。モナリザは男女融合されていると言う説。レオナルドの愛人と言う説。イエス・キリスト説。もう一枚のモナリザ説。様々だ。人間は愚かだよな、謎を暴く為、X線解析などをやってみる。するとどうだろう、モナリザの下には少なくとも3種類のモナリザが隠れている事がわかった。解析結果も、当の昔に出ている。3次元イメージングでモナリザの調査もな。さぁ、ここで質問だ。イオン教授の息子なら、おれが長々と話した中で何に一番、興味を示した? 解析結果か? 3次元イメージングか? それともイエス・キリスト説か?」
「・・・・・・もう一枚のモナリザ説」
そう言ったシンバに、ハバーリは大笑いし、
「やっぱイオン教授の息子だな、お前」
と、更に笑う。
「人間ってのは謎の意味をわかっちゃいねぇ。その絵画が、誰であろうが、何者であろうが、例え、只の商人の女だろうが、依頼されて描いただけの絵だろうが、本当の髪型は後ろで束ねてようが、男だろうが女だろうが、眉毛がなかろうが、関係ねぇんだよ。コンピューターで、絵の具の色を当時、描かれた時のまま色褪せる前に戻した所で、その絵に魅入られなきゃ、只の色褪せた絵を綺麗に元に戻しただけで終わりだろう。謎が解ける訳がねぇ。レオナルド・ダ・ヴィンチって奴が、未来、謎が消えてしまうような謎を残すと思うか? 天才が、残す謎は、とても簡単で、アホにわかるが、同じ天才にわからない程、難しい。だろ?」
「・・・・・・つまり、今、見たままの絵画に謎があるって事ですか」
「そりゃそうだろう、いちいち3Dにして何の謎がわかるってんだ? モナリザが妊婦かもしんねぇって事か? そんな事なら、とっくに説として知られてるんだぜ? 見たまま、妊婦なら、それでいいんだよ、その証明なんていらねぇんだ、そうだろう? 例え妊婦じゃなくても、妊婦に見えるなら、妊婦なんだよ、だろ?」
「・・・・・・はぁ、まぁ、美術ですから見る側の視点で言うなら理屈はそうだと思いますけど——」
「背景がどうこうって話もあるが、どこの景色を描こうと、空想した背景を描こうと、あの背景の場所なんて、どこだっていいんだ、メッセージさえ含まれてればな」
プロジェクトチームYHWHもそう思い、このディスクを使わなかったんだろうかとシンバは手に持ったディスクをジッと見つめる。
「・・・・・・それで、もう一枚のモナリザ説って言うのは?」
「あぁ、今はどこにあるのかも知らねぇが、モナリザは二枚あるらしいな。勿論、どちらもレオナルド・ダ・ヴィンチの時代に描かれたモノと言われているが、それがガセだろうが、レオナルドの作品じゃなかろうが、レオナルドは、モナリザの複製画が出る事も当然、予測済みだったんじゃねぇか? 例え、只の商人の女だとしてもだ、依頼されて描いただけの絵だろうがだ、複製画だろうが、モナリザはもう1枚あるんだよ」
「・・・・・・拘りますね、その商人の女とか、依頼されたとか」
「あぁ、拘るねぇ、そういう仮説があるんだが、その仮説が真実だとされてんだよ」
「・・・・・・成る程。だったら、謎の美女じゃないと言いたい訳ですね」
「そうだ、多分、今、お前とおれの頭の中は一緒の事を考えているだろうな」
「モナリザは二人いた」
シンバがそう答えると、ハバーリは二ヤリと笑い、軽快にハンドルを回した。
「光に当たったモナリザが商人の女か、依頼されて描いただけの女か知らねぇが、闇に葬られたモナリザがいるかもしれねぇよなぁ」
ハバーリがそう言った時、シンバの頭の中で、父親の書斎で見つけた双子の写真の裏に書かれた『光あれ』と言う文字が浮かんだ。
「それでハバーリさんはモナリザの謎が解けたんですか?」
「・・・・・・」
黙り込むハバーリに、
「解けたなら教えて下さいよ」
と、突っ込むシンバ。
「・・・・・・ハッキリとわかんねぇんだ」
「それって解けてないって事ですか?」
「そうかもしれねぇ。レオナルド・ダ・ヴィンチが何が言いたかったのか、わかんねぇんだからなぁ」
「それってメッセージは掴んだけど、メッセージが何を指しての事かは謎のままって事ですか?」
「ま、そういう事にしとくか」
「教えて下さいよ! いいじゃないですか!」
「口にしていいのか、悪いのか、わかんねぇんだよ。わかるだろ? 決して福音じゃねぇって事だ。しかも大したメッセージなのか、どうなのかも、謎だ」
「・・・・・・」
シンバは少し考え、結局、謎は謎のままなのかと思う——。
ジギスタンの駅で降ろしてもらい、シンバはハバーリと別れ、駅の自転車置き場でブレーキの切れた自転車のキーを外し、跨ってペダルを踏む。
頭の中はゴチャゴチャだ。
モナリザ、イエス・キリスト、最後の晩餐、双子、レオナルド・ダ・ヴィンチ——。
これだけ頭の中がゴチャゴチャしていたら、蝶の羽模様は浮かばない。
まず、ひとつひとつ解決して行きたいが、どれもこれも繋がって来るので、中途半端になってしまう。
古びたビルのようなアパートの駐輪場に自転車を止め、シンバは階段を駆け上がる。
エレベーターは故障中。
だが故障してなくても使わない。
古いビルに古いエレベーター。
メンテナンスをしている所など見た事がないせいもあるだろう、なんとなく閉じ込められる確立を計算してしまう。
502ルーム。
シンバは部屋の前にうずくまってるラテに足を止めた。
ラテはシンバに気付くと、立ち上がり、
「おかえり」
笑顔で言った。
「どうした?」
「うん、エノッチと食事してたんだけどね、シンちゃんにおみやげ」
と、ケーキの箱を見せるラテ。
「そうじゃなくて、鍵、持ってんだろ?」
「私も今来たとこなの。ベル鳴らして、シンちゃん出てこなかったから、まだ帰ってないのかなぁって、なんとなく、ここに座ってただけ」
「ベル鳴らして出てこなかったら鍵開けて入ってればいいじゃん」
「うん、あんまり遅かったら、そうしてた」
そう言って笑うラテ。
「・・・・・・お前、また父親と喧嘩したのか?」
シンバは言いながら、ドアの鍵を開け、扉を開けると、暗い部屋へ入って行き、電気を付けた。ラテも、部屋に入って来て、小さいテーブルの上にケーキの箱を置いて、
「そんなんじゃないよ。シンちゃん、今まで大学にいたの?」
と、聞いて来た。
「いいや」
留守電が点滅しているが、シーツからの父親が倒れたと言うメッセージが入っているだろうと、ラテがいる手前、聞くのを止め、
「何か飲む?」
と、ラテを見た。
「私が入れるよ、ココアにする? 紅茶? コーヒー?」
「そんなもんねぇよ! 牛乳ならあるけど」
「何言ってんの、私、置いて行ってるじゃん、ほら、ここに」
——知らなかった、俺の部屋の小さなキッチンの棚に、あんなもんが・・・・・・。
シンバは棚にコーヒー、ココアの粉、紅茶のパックなどが、ズラッと並んでいるのに驚く。
ラテはキッチンでお湯を沸かしながら、
「大学に行ってなかったなら、どこに行ってたの?」
そう聞いて来た。
シンバはベッドにもなるソファにドカッと座り、
「あぁ、ちょっとな」
と、答えた。ラテは、ふぅんと頷くと、笑顔で、シンバを見て、
「今日、泊まるね?」
サラリとそう言った。
「別にいいけど、いいのか? お前、今日、誕生日だろう? 家に帰った方が良くねぇ?」
「いいの! それより誕生日ってわかってて、どうして一緒に食事に行かない訳? どうせ大した用事もなくブラブラしてたんでしょ」
「一緒にってエノッチと3人でってか!?」
「エノッチに誘われたんでしょ? シンちゃんも一緒にどうかって」
「誘われたけど——」
誘われたが、あんな引き攣った笑顔で誘われて、ハイそうですかって一緒に行ける訳ないだろうと言えないシンバ。
「誘われたけど、なに?」
「・・・・・・俺もいろいろと調べ物があんの!」
「ふぅん。デートだったんじゃないの?」
「んな訳ねぇだろ、誰がデートしてくれんだよ、俺を選ぶくらいなら——」
「シーツ君を選ぶよね」
「わかってんなら、聞くなよ」
「でも、シーツ君にふられた女の子が、この際、兄の方でもいいわぁって」
「そんな女は俺が嫌だ」
「シンちゃんに選ぶ権利あんの?」
「権利なくても主張はする。てか、お前、俺がデートでもしてると思って、誕生日、祝ってくれないって、外で座って拗ねてたのか?」
「なにそれ、思い込み激しー!」
そう言いながら、ラテはシンバにベェッと舌を出した後、クルリと背を向け、沸いたお湯で紅茶を入れ始めた。
いい香りが部屋中に広がると、シンバは空腹だった事に気付く。
「お腹空いてるの?」
「考えたら、何も食ってねぇ」
「じゃあ、何か作るよ、ケーキはその後ね」
ラテは笑顔で、そう言うと、冷蔵庫を開けて、
「何もないね」
と、呟いた。そして、
「ねぇ、この卵っていつの?」
と、怪しそうな表情で、卵を見つめる。
「先週、エノッチが持って来た。インスタント麺に卵入れるとかって言って」
「そんなものばかり食べてるからエノッチもシンちゃんも、いっつも難しい表情しちゃってるんじゃないの? 美味しい物、食べなさい? 幸せな顔になるから」
「エノッチはお前見てるだけで幸せそうだけどな」
「えぇ? 私、そんなにお気楽かなぁ?」
そういう意味ではないのだが、そういう事にしとくかと、シンバは机に向かい出す。
「シンちゃん、また勉強?」
「そういうんじゃないけど、とりあえず、気になってる事あるから」
「どうしてエノッチもシンちゃんも勉強なんて好きなのかなぁ、私は嫌いだけど」
「俺だって好きじゃねぇよ、気になった事は調べないと気が済まないだけだって」
「そういう気持ちが勉強熱心にさせて天才を生むのね、きっと」
「違うだろ、努力せずに、生まれながらにして、天才と言う能力がある奴を天才と言う。例えばシーツみたいな? 俺は天才を真似てるだけってトコかな。中には努力家の天才もいるけどな、エノッチみたいな」
言いながら、コンピューターを起動し、メモリーカードを入れる。
「シンちゃん、今日はバイト休みだったの?」
「あぁ、休んだ」
「どうして?」
「どうしてって、お前の——」
ラテの誕生日を祝おうとバイトは休みをもらっていたなど、言えないだろうと、シンバは台詞を飲み込み、
「お前の働いてる図書館で気になる本を持ち出したんだけど、それを調べたくて休みもらったんだ」
と、うまく言い直せた。
「勝手に本を持ち出したの!?」
「あぁ、近い内、ちゃんと返すから」
「そういう問題じゃないでしょ! 全くもぅ!」
コンピューター画面に、ハバーリが調査したモナリザの解析データーが映し出される。
——モナリザが何者なのかって説、こんなにあんのか。
「モナ」は貴婦人と言う意味、「リザ」はエリザべッタの愛称。
エリザベッタの愛人からの依頼による絵画——。
レオナルド自身説、聖母マリア説、レオナルドの弟子説、商人の妻説、イエス・キリスト説、マグダラのマリア説——。
様々な説に、シンバは面倒そうな表情になる。
ひとつ、ひとつ、説を読むが、最初の2行ばかり読むと、どれもこれも、シンバにはピンと来ないのか、削除して行く。
男女融合説、これもシンバは見て直ぐに削除した。
モナリザを半分に切り取り、半分が男性、半分が女性。
芸術を切り取る事での謎を残すくらいなら、芸術では謎を残さないだろうと思ったからだ。
天才を甘く見すぎだ、全ての分野に万能の天才が、わざわざ芸術で謎を残すとしたら、それは芸術そのものを見てくれと言う事だろう、深い勘繰りはいらない。
芸術そのものを見る。
そう思っていても、勘繰ってしまうのが、天才を真似ようとしても真似できない愚かな人間の一人であるとシンバは自分が嫌になる。
ましてや妊婦であると言う説が正しいならば、余計にモナリザを切り裂くトリックはないだろうと、シンバは、その手の説は全部、削除する。
特殊な赤外線と3D技術で解析したモナリザ。
3次元イメージングを見て、やはりモナリザは妊娠中であると知った所で、何が謎なのか。
だが、芸術そのものを見るだけで、何かわかるのだろうか、見失っている何かがあると言うのだろうか。
——ん? これ、なんか普通のモナリザと違うな。
一枚のモナリザが、どことなく、違うように見える。だが、直ぐに当初、描いたままの色褪せてないモナリザなんだとわかる。
——あぁ、ハバーリさんが絵の具の色を当時のままに戻したからか。
——色褪せないと、やっぱり色合いも明るいなぁ。
——あれ? これ、道じゃなくて、川だったんだ?
背景に川がある。
色褪せて、薄茶色に見えた場所は曲がりくねった道ではなく、川だったのだ。
——おかしいなぁ、だったら、なんで湖みたいな所も色褪せて薄茶色にならないんだ?
——同じ水を表して描いたなら、絵の具もそう変わらないだろう?
とりあえす、色褪せてないモナリザを、もう一枚コピーし、反転させたモナリザと鏡合わせのように並べてみた。
背景が重なり、まがりくねった道だと思っていたものは、大きな湖から、流れ出る川となった。
「シンちゃん? エッグサンド作ったよ」
と、ラテが紅茶とエッグサンドを持って、シンバの隣に来た。
「誰これ?」
「さぁ? モデルが誰かって事より象徴的な人物像と考えた方がいいかもな。とりあえず、わかってるのは、モナリザって言う謎の美人の妊婦さんってとこかな」
「妊婦なの?」
「らしいな」
「だったら、これ描いた人、とっても意地悪だね」
「意地悪?」
「だって、妊婦さんの肖像画を描くのに背景に川なんて描く?」
「え?」
「流れろって言ってるようなもんじゃない? 意地悪だよ」
「流れろ? 流産!」
シンバはラテにそう言われ、慌てて、画面を見直す。
大きな湖から流れ出る川。
湖を子宮として見ると確かに流産をイメージする。
「それに妊婦さんなのに、そんな色合いの服装だなんて、まるで喪服みたいで可哀想じゃない? なんかまるで赤ちゃんが生まれないよう願ってるみたい。これじゃ、妊婦さんだって幸せに笑えないよね、怒ってるようにも悲しんでるようにも見えるもん」
「ラテ、お前って、本当の天才かもしんない」
「え?」
「これ、川が流れてるだろ? でもさ、月日が経つと、湖はそのままだけど、この川は乾いて薄茶色の道になるんだ。色褪せたって事なんだけど、天才のトリックは、これだったんだよ。そうか、もう一枚のモナリザがあるとしたら、ダヴィンチのトリックのないモナリザと言う事になるから、色褪せないままの川があるんだ。いちいちコンピューターで、絵の具の色を当時、描かれた時のまま色褪せる前に戻す必要なんてないんだ。これは色褪せてこそ、完成の絵なんだ」
「何の話?」
「レオナルド・ダ・ヴィンチがこの絵に謎を残したんだ。誰も解けない謎。解けない筈だ、謎は、極当たり前の事だったんだから。極当たり前に、自然にそうなるよう、だけど不自然だと気付くよう、とても簡単で、とても手の込んだトリック。誰にも気付かれないよう、だけど、誰かが気付くよう、なんて人間の心理にも基づいたトリックなんだ、やられたよ。これはさ、天才に興味のない人間には簡単にわかるが、天才に興味のある人間には全くわかんねぇようなトリックだよ。笑っちゃうよな、血眼になって、この絵の謎を解こうとした学者が、山のように存在するんだぜ、きっと。あれこれ考えて、仕舞いには絵を半分に切ってみたり、下書きのモナリザを赤外線で調べたり、モナリザが誰なのか推測したり。そうだよな、レオナルド・ダ・ヴィンチが、未来、謎が消えてしまうような謎を残す訳がない。消えたとしたら、それこそ、それも計算済みな筈。相手は天才なんだから」
「・・・・・・ふぅん。それでトリックって? 何がトリックだったの?」
それさえ、わかってないラテに、シンバは笑う。
そして、ラテの手に持たれた皿をシンバは奪うように、もらい、エッグサンドを食べ始める。ラテは紅茶を机の端に置いた。
「でもメッセージがわかんねぇなぁ。胎児が流れるよう、祈るって事か? でも、もう一枚の方は、川が消えて道が出来たって事は、胎児が生まれるよう、祈るって事か? でもモナリザの服装はどちらも喪服のようなままだし、生まれてほしくはないが、生まれるって事になるのか?」
ハバーリが『口にしていいのか、悪いのか、わかんねぇんだよ。わかるだろ? 決して福音じゃねぇって事だ。しかも大したメッセージなのか、どうなのかも、謎だ』そう言っていた事を思い出す。
——多分、ハバーリさんも、このメッセージに辿り着いたんだな。
——胎児って何を指しているんだろう?
——川の水が乾いてから、どのくらいの月日が流れたのだろう?
——相当、昔に遡るだろうな。
——でも問題は乾いた時ではなく、未来を指しているとしたら、それはいつの事だ? 今、か?
ふと、コンピューター画面の端にあるデジタル時計に目をやると、0時を少し回っている。
ヤバイと振り向くと、ラテが、急に振り向かれた事で、驚いた顔でシンバを見る。
「・・・・・・あ、いや、うまいよ、このエッグサンド」
「あぁ、何かと思った、びっくりしたぁ、急に振り向くんだもん」
「いや、あの、その、そう、えっと・・・・・・誕生日、過ぎちゃったな」
「あ、もうそんな時間?」
「おめでとう言う前に終わってしまった・・・・・・ごめん」
「おめでとうより嬉しい言葉もらったよ」
「え?」
「『ラテ、お前って、本当の天才かもしんない』って。天才なんて言われた事なかったし、しかも、ウィルアーナの生徒に言われるなんて最高」
笑いながら、そう言ったラテに、シンバはホッとする。
「天才だよ、ラテは。ウィルアーナの生徒なんか大した事ないくらい、ラテは天性の天才だよ」
「言い過ぎ。返って嫌味だから」
と、笑うラテだが、シンバは本当にそう思っている。
エッグサンドを食べ終わったシンバの皿を受け取り、
「洗ってくるね」
と、ラテはまたキッチンへと戻る。
シンバは、またモニターを見る。
——ウィトルウィウス的人体図?
ハバーリのメモリーカードには、モナリザの他に、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品が調べられてあったものが入っていた。
その一つがウィトルウィウス的人体図。
古代の建築家、ウィトルウィウスの理論を元に描かれた図。
精巧な人体描写とデザイン。
レオナルドは、内部を知り、絵をより美しく真実に近づけようとする目的で最初に動物の解剖を行った。
後に人体の解剖に立ち会うようになり、また自分自身の手でも行い、極めて詳細まで書き込んだ解剖図を多数作成している。
人体及び解剖学に関する成果は、時に工学的に表現され、最古のロボットの設計との評価も受けた。
「・・・・・・レオナルド・ダ・ヴィンチって、俺達に近い」
シンバはモニターを見つめながら呟く。
「・・・・・・この人の中に神は存在しない」
シンバの中で、レオナルド・ダ・ヴィンチと言う人間が創造されて行く。
——この人は完璧な科学者だ。
ウィルアーナの学科でも、それぞれ、様々な学問に分かれているが、細かく分かれている訳ではない。
例えば医学。
医学にも様々ある。
基礎医学、臨床医学、社会医学など。
その中でも、また分野が分かれる。
基礎医学ならば解剖学、病理学、薬理学、衛生学など。
臨床医学ならば内科、外科、小児科、産婦人科など。
社会医学ならば農村医学、工場医学など。
だが、それ等全てが医学だ。
生物学もそうである。
動物学、植物学、微生物学、形態学、生態学、生理学、分類学、遺伝学、発生学など。
だが、科学と言うのは学問的知識を言う。
個別の専門分野から成る学問の総称である。
ウィルアーナの学科で、シンバが科学に選ばれたかった理由はソレだ。
自然科学、社会科学、人文科学など、どこかの専門分野にあるようなモノだ。
歴史学も化学も生物学も、語学でさえ、サイエンスに入る。
だからこそ、シンバは思う、レオナルド・ダ・ヴィンチが科学者であると言う事を。
——この人は神がいる時代で、神がいない事をよく知っている。
でもモナリザの絵だけでも仮説として、イエス・キリストだの、マリアだの、宗教が出て来るのは何故——?
——余りに違いすぎる仮設なら、残らない。
——つまり、絵は、それなりに宗教じみてるって事だ。
——それに最後の晩餐などは、宗教の絵画だ。
——もっと他にも宗教の絵を描いただろう。
だから宗教じみた説が残っている。
科学者が神を受け入れる理由。
その時代の大衆の考えが、科学=異端という考え方があった為、それによって宗教団体からの批判や弾圧を避ける為か。
もしくは宗教=科学だと何か結びつく接点を見つけたか。
——なんで神は消えたんだろう?
ふと、何故、自分が生まれた時代に神の存在がないのか、わからなくなった。
神など存在しないとわかっている。
わかっているからこそ、神が消えても不思議には思わなかった。
だが、世の中の人間、全てがシンバと同じ考えだと言う事は在り得ない。
——神が消える事、それを全ての人間が納得した?
——絶対にない。
——こうして宗教に少し触れただけでも、わかる。
——人間の心理上、神は絶対に存在する。
シンバは色褪せたモナリザの絵画を見つめる。
たっぷりと水の入った湖があるのに、川だけが乾いている。
「・・・・・・道が閉ざされた。DEAD ENDか」
デッドエンド、苦境や行き止まり、行き詰まったなどを意味する。
流れ出ない湖の水が余計にそう思わせた——。
シンバは、フゥと溜息を吐いて、父親の書斎から持って来たディスクを取り出した。
ふと、ラテが気になり、振り向くと、ラテはソファーで眠っている。
「・・・・・・あぁ、結局、ケーキ、食べなかったな」
シンバは独り言を呟き、膝掛けになるような大きなバスタオルを、ラテにかけた。
そして、ポケットから取り出すプレゼント。
小さな可愛い袋に入っている中身はなんだろう——?
中身が何であれ、渡し損ねている。
シンバは溜息を吐いて、その小さな袋をグシャグシャにするように、握り潰すと、またジーンズのポケットに入れた。
シンバは、机に向かう。
ディスクを切り替えると、モニターに映る双子達——。
解読不可能な文字。
翻訳できるキーを探す為、シンバは無言で、カチカチカチとコンピューターのキーを打つ。
何度やっても、文字は解読できない。
しょうがないので、シンバはウィルアーナのメインコンピューターにアクセス。
必要なサイトを引き出し、翻訳できそうなスキルをコンピューターにダウンロードして行く。すると、一つの文字がヒットした。
古代文字。
その中でも神聖文字と呼ばれる古代ヘブル語に似た文字だ。
シンバは早速、その神聖文字でディスクの中の文字を解読して行く。
神は言われた、「光あれ——」
神は光を見て、良しとされた。
神が最初に、この世界に創造されたモノ。
「光あれ・・・・・・双子と何か関係あるのか? これ?」
神は光と闇を分けた。
「ふぅん、光と闇ねぇ。ん? ユダヤ教徒? キリスト教とは違うのか?」
ユダヤとはユダヤ人の事である。
ユダヤ人とはユダヤ教を信仰する人々をユダヤ人と言う。
ユダヤ人は血縁よりも信仰が重要視された。
「おい、待てよ、人種がある時代だろ? 信仰で何人か決まるってのか? 俺達のように言葉も共通してしまえば、血縁関係なくアーリス人となるのはいいが、宗教で統一するのかよ? まてよ、俺達だって一つの種族になる必要ってあったのか!? これじゃあ、神がいないだけで内容は宗教時代と同じじゃないか」
ユダヤ教はキリスト教よりも長い歴史を持ち、キリスト教の源であり、旧約と呼ばれる書物はユダヤ教の聖書そのものであり、新約と同じく重要な書物である。
キリスト教とユダヤ教の区別は、聖書に記されたイエス・キリストである。
イエス・キリストが救世主であると考える人々をキリスト教。
救世主は存在せず、その出現を待ち望む人々がユダヤ教。
「成る程。イエス・キリストが神の名を呼んで処刑されたってのは、ユダヤ教徒にって事か。でも、なんで同じ書物の神を崇拝してるなら、そこで違いが出るんだ? イエス・キリストはユダヤ教に何を言ったんだ? 神の名を言っただけで処刑されるのか? 同じ神を冒涜したのか? 大体、神って誰だ?」
ユダヤ教は、絶対神YHWHを崇める一神教である。真の神はYHWHしかおらず、異教の神は一切認めない。
「出た、YHWH。だからそれは誰なんだ?」
神は言われた。「我々にかたどり、我々に似せて人を造ろう」
「我々? 神は一神教で、一人じゃないのか? 複数存在するのか?」
ユダヤ教は隠された教義があり、それを説いた者がいる。
それがイエス・キリストである。
イエスは新しい宗教を開いたわけではない。
彼は、一般のユダヤ教徒に隠されていた聖書の奥義を開示し、神との新たな契約を結んだに過ぎないのである。
「・・・・・・イエス・キリストはレオナルド・ダ・ヴィンチと同じ謎を掴んだって事か?」
——聖書の謎に触れ、解読し、手に入れた者、それがイエス・キリストだったってのか?
——彼は神になり、いや、神と言われる程、崇拝される救世主となった。
——だが、処刑された。
——それを知っているレオナルド・ダ・ヴィンチはどうする? 俺だったらどうする?
——処刑されないよう、救世主となる為、聖書の謎よりも、簡単に謎を残す。
「イエス・キリストが口にした神の名前ってなんなんだ・・・・・・」
——処刑される程の名前。
——神と同じくらいのチカラがあり、だが反発するモノ。
——宗教文明を崩すかもしれないモノだ。
——なんなんだ、信じているモノが全て崩されそうになる程のモノ。
——神を信じている者が信じなくなるかもしれないモノってなんだ!?
「科学だ」
シンバはYHWHが科学と言う名である事に勘付く。
イエスの父は大工のヨセフであり、母は聖母として知られるマリアである。
イエスは神が造り出した言葉である。彼の父は神であり、ヨセフではない。
「意味わかんねぇな、これ。言葉?」
シンバは神が最初に吐いた言葉を思い出す。
「光あれ」
口にして、ハッと気付く。
「光と闇」
シンバはレーヴェが調べていた絵画、最後の晩餐のデーターを取り出し、それを開いて見る。12人の使徒に囲まれ、イエス・キリストが中央にいる。
ある筈の聖杯がないと言われるレオナルド・ダ・ヴィンチが描く最後の晩餐。
だが、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画の中で、完成された作品のひとつだと言う。
聖杯がないのに——!?
「どこかに聖杯が描かれてるのか? 俺が見えてないだけで——」
中央のイエス・キリスト。向かって左の人物が定説で言われている使徒ヨハネ。
最後の晩餐と言う絵画はレオナルド・ダ・ヴィンチだけではなく、他の人も名画として残している。
ヨハネは最愛の弟子と言う事から、晩餐画の伝統として、イエスの胸に寄りかかる姿が描かれるが、レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐のヨハネは違う。
裏切り者のユダでもないのに、顔を背き、まるでイエスとは正反対の態度。
そう、他の使徒がキリストの言葉に驚いて慌てた仕草をしているのに対し、この人物は手を組んで落ち着いている。
使徒ヨハネだとすると、この落ち着きはおかしい。
衣装も、赤い服に、青いマントのキリスト。逆に青い服に赤いマントのヨハネ。
絵画の衣装からすると、キリストとヨハネの階級は同じ。
だが、この者がヨハネとして描かれた事は確実だろう。
他の人物である筈はない。
イエス・キリストの12人の使徒。
ヨハネも含めて12人なのだから。
なら、何故、こんな描き方なのだろうか。
モナリザにも似た、手を組み、落ち着いた仕草。
見たまま、言うならば、神という象徴のイエスについている12人の使徒。
その中でも最愛とする弟子ヨハネは神に忠実だったに違いない。
だが、イエスが信じる神と、ヨハネが信じた神は違っていたとしたら——?
「宗教時代に光が当たるのは当然、神。闇に葬られるのは科学。だが、神のいない時代に光が当たるのは科学だ。闇に葬られたのは宗教。それが今の時代。それを指しているんだとしたら、今の時代に何かが起こるって事か? 何が起こる? もしくはもう起こっているのか——?」
イエス・キリストもレオナルド・ダ・ヴィンチも、科学を信じたとして、何を掴んだのだろうか、大した科学の発展のない時代で——。
この沢山の双子の画像は一体、何を意味するのか——。
「えっと、誰だっけ、ハバーリさんが言ってた記者の名前・・・・・・。思い出せないな、なんとかアフェ。その人がどんな記事を書いたか調べれば早いかもしれないな」
振り向いて、ソファーで眠っているラテを見る。
なんだか、笑えて来る。
間違いなく、ラテは自分にとって、光であると、シンバはそう思う。
何の警戒もなく、寝息をたてるラテ。
それがとても嬉しくて、心地いい。
光とは、眩しくて、綺麗で、温かくて、歓びに似た感情を表したものに似ている。
「ふが・・・・・・」
「ふがって何だよ、ふがって。ヨダレ出てんじゃん」
シンバはラテの寝息に笑う。
疲れている事など、忘れてしまうのは、ラテを見てると癒されるから——。
だから、明日も、明後日も、光はこのままあるのだと、疑いもしなかった。
——この時の俺は、まだ光の意味を理解していなかったんだ。
——闇がなくなり、光だけがある世界とは、この世界に何もなくなるって事なのにね。
——本当の恐怖は、光なんだって、俺は知らなかったんだ。
——余りにも恵まれていたから。
——シーツ、お前が生まれて、俺は本当に心から良かったと思っていたから・・・・・・。
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