第十章 神 ~Final Greeting~


銀色の月と黄昏の中の蒼い星と——。

黒い翼が不器用にバタついている。

二人、手を握り合い、愛を確かめ合うように、近付いて行く。

長い時間を超えた分、深い愛。

今、よく知っている笑顔を見せてくれた——。

「ラテ、キミがアーリスとみんなを守ったんだ」

ラテの優しい微笑みと・・・・・・瞳がブラウンに戻る——。

「シンちゃん——・・・・・・」


「シンちゃん、シンちゃん、シンちゃんったらぁ! 起きろぉーッ!」

「うわっ!?」

鼓膜が破れそうな程、耳の奥がジンジンして飛び起きた。

「ラ? ラテ? あれ? ここは?」

辺りをぐるーりと見回して、自分の部屋だと知る。

しかし頭の中は?マークで一杯。

——? ? ? ? ? ? ? ?

「なぁに、まだ寝ぼけてるの? シンちゃん、今日は会議なんでしょ? 大事な会議だからモーニングコールしてくれって言ったのはシンちゃんなのに、全然、電話とってくれないから、心配して直接来てあげたの! ジギスタンまでの電車賃、貰うからね!」

「え? 今日・・・・・・会議? あ、ああ、そうだ、会議だ! 俺、科学生の代表なんだ・・・・・・っけ?」

とりあえず、ラテに急かされて、シンバは急いで支度を始める。

洗面所で歯ブラシにニョッと歯磨き粉を多くつけ、咥える。

「じゃあ、私もバイトあるから、先に行くね」

「え? 一緒に出ようぜ?」

「シンちゃん待ってたら遅れちゃうもん。シンちゃんが通る頃、私、図書館の前、掃除してるよ。手振ってあげる」

「そっか、そんじゃ、今日の夜、待ち合わせしよう」

「え?」

「ラテが言ったんだろ、誕生日には行きたいレストランがあるから、来年は連れて行ってって。だから、そこ予約してあるんだ」

「嘘? 本当? 約束覚えてたんだ?」

「俺が約束忘れる訳ないだろ」

「だよねー! シンちゃん、約束は絶対に守ってくれるもんねー!」

と、ラテの表情は、とびきり明るくなる。

「待ち合わせ、クレマチスの駅でいい?」

「うん! えー、何着て行こうかなー? どうしよー! ウレシー!」

と、ラテはウキウキしながら、ピョンピョン跳ねて笑う。

シンバは、ラテのこの表情が見たくて、バイトも頑張った。

だが、ちゃんとしたプレゼントはまだ用意していない。

どうしたもんかと、考える。

もっと喜んでほしいけど、何をあげれば喜んでくれるだろうか。

「あ、じゃあ、私、行くね。また後で」

「ああ、また後で」

部屋から出て行くラテを見送り、洗面所へ戻り、うがいをし、バシャバシャと顔を洗う。

鏡に映る自分——。

左右アンバーの瞳。

「あれ・・・・・・? なんだこれ・・・・・・? 黒い・・・・・・羽・・・・・・?」

シンバの肩についていた小さな羽。

——枕か布団の中身かな?

その小さな黒い羽をテーブルの上に起き、シンバは制服に着替える。

鞄の中に、ノートコンピューターを入れて、急いで部屋を出て、大学へと向う。

自転車を走らせ、混み合う地下鉄に乗り、クレマチスに着く。

目の前を行く自転車に乗ったエノツ。シンバが声を掛けようと走り寄った時、エノツの自転車のスピードが上がった。

そして、

「おはよ、シン」

「え?」

「バーカ、そりゃ、弟だよ」

その声に振り向くエノツ。

「あ、あれ? シン? あ、シーツ君か、ごめん、そっか、そうだよね、制服じゃないもんね、シーツ君は・・・・・・」

エノツは全く見分けのつかない二人に苦笑いする。

シンバとシ—ツは、着ている物以外は、鏡を見ているままにソックリそのままである。

髪型も、表情も、瞳の色も——。

「兄貴、おはよ」

「おはよ」

「今日の会議、生物学の研究員として、ボク、出席するんだけど、研究生も出るって聞いたんだ。もしかして、兄貴は科学生の代表者として選ばれてる?」

「当たり前だろ、俺以外に誰が選ばれるんだよ」

「だって兄貴、遅刻やサボり多いじゃん」

「成績と関係ないだろ」

「でも態度悪いじゃん」

「だからそれ成績と何の関係があるんだよ」

「パパのおかげで代表者になれたって思われるよ?」

「お前が思ってんだろソレ!」

「ボクまで品性疑われるんだからね」

「お前、朝から喧嘩売ってる?」

「いっつも思うんだけど、二人共、仲いいよね」

突然、エノツがそう言って、シンバとシ—ツは声を合わせ、

「仲悪いよ!」

そう言った。声が揃う所にエノツは笑う。

ムッとするシンバとシーツ。

「あ、そうだ、シーツ、お前さ、来月の連休、ロックフェス、一緒に行こうぜ」

「え? ボクと?」

「チケット取ったから、その日は空けとけよ? それからいちいち親に言うなよ? 俺が怒られんだから」

「・・・・・・兄貴、友達と行かないの?」

「え? あぁ、そうか、お前、友達と行きたいか? だったらチケット譲るけど・・・・・・俺も行きたかったしなぁ・・・・・・シーツの友達と俺も・・・・・・って、そうすると、チケットないしな・・・・・・しょうがねぇな、俺は兄貴だし、譲ってやるよ」

「そうじゃなくて! ボクは友達なんていないよ・・・・・・小さい頃から研究員としているから・・・・・・同年齢の子とか仲イイ人いないし・・・・・・」

「だったらいいじゃん、俺と行けば」

「いや、だから、兄貴は友達いるでしょ、友達と一緒の方がいいんじゃないの?」

と、シーツはチラッとエノツを見る。すると、エノツは、

「僕は、ロックは聴かないかな」

と、苦笑い。

「音楽の趣味はお前とが一番合うんだよ。お前が他に行く奴いないなら、俺と行こうぜ」

そう言ったシンバに、シーツは嬉しそうに頷く。

「エノッチ、後ろ乗せろ。シーツ、また会議室でな」

「うん」

シンバはエノツの自転車の後ろに乗り、シーツに、またという風に手をあげる。

シーツも頷く。

「シーツ君、またね」

エノツもシーツに手をあげ、自転車を走らせた。

コンビニの横を通り過ぎ、通学、通勤などで急ぎ足の人々を抜き、自転車で風を切る。

「ねぇ、シン」

「うん?」

「ラテの誕生日プレゼントって、もう買ったの?」

「まだなんだよね。何が欲しいんだろ・・・・・・なんだったら喜ぶかなぁ・・・・・・」

「僕、知ってるよ」

「え!? なんで知ってんの!?」

「ラテから欲しいモノ聞いてるから。だからさ、昼休憩に一緒に買い物に行ってあげてもいいよ? 夜はラテ誘って、食事でもするんでしょ? その時にプレゼント渡せるじゃん」

「・・・・・・お前はそれでいいの?」

「なにが?」

「だって、お前だってラテの事・・・・・・」

「勿論、好きだけどさ、シンが、とっかえひっかえ女の子と遊んでるような奴だったら、僕も諦めないんだろうけど」

「なんだそれ? 俺、とっかえひっかえできる程、モテないんだけど」

「シンは、僕とラテ以外の他人には、愛想ないからねぇ・・・・・・でも、これは僕の計画なんだよね」

「計画?」

「そう! シンは僕がいないと、ラテの事、何一つとして決めれないよね?」

「は?」

「ラテの好きな色は?」

「え?」

「ラテの好きな飲み物は?」

「な? 何が?」

「ラテの好きなキャラクターは?」

「キャラクター???」

「ほらね、何も知らない。そんなだから誕生日プレゼントも決められない。僕がいないと何もできない。そんなシンに、ラテは、いつか呆れる。そこに現れる僕という存在!!」

「現れるって、お前、常に現れてるけど?」

「一番ラテを理解している僕に、ラテは惹かれるって訳!!」

「恐ろしい計画たててんだな」

「でしょ? だからシンの協力してる優しい僕に、何の魂胆もないと、油断しててよ、直ぐに僕がラテの彼氏になってみせるから」

と、笑うエノツに、笑えないと、シンバは溜息。

図書館の少し離れた所のシグナルで、自転車が止まる。

「あ、シン、ラテが子犬とじゃれあってる」

シンバは自転車から下りて、ラテと子犬を見る。

「どこの犬だ?」

「ラテぇーッ!」

エノツが手を振る。

ラテも気が付いて、子犬を抱き、シンバとエノツに手を振る。

シグナルが赤から青に変わり、シンバとエノツはラテの所まで走った。

シンバは自転車に乗ってるエノツと違い、軽く息を切らせる。

ラテは大きなホウキを置き、走って来たシンバとエノツに子犬を見せながら、

「迷い犬なの」

と、少し困った顔で言った。

「へぇ・・・・・・かわいいな・・・・・・」

シンバは、本当にそう思っているのか、謎の表情で、しかし、子犬の頭は撫でる。

「うちで保護しようと思ってるんだけど。とりあえず名前、決めたんだ、シェラ!」

「シェラ?」

シンバとエノツは同時に聞き返した。

「シンちゃんのシ、エノッチのエ、ラテのラ、シェラ!」

もう飼う気でいるラテに、シンバとエノツは二人、顔を見合わせ笑う。

「なによ、なんで笑うのよ?」

と、ムゥッとした顔で、二人を睨むラテ。

「思い出し笑いだよ」

と、エノツ。

「思い出し笑い?」

と、首を傾げるラテ。

「覚えてねぇの? お前、ガキの頃、クレマチスのお化け屋敷に大ネズミ退治しに行って、大ネズミがウサギだっただろ? あのウサギにも同じ名前付けてただろ」

シンバがそう言うと、

「そうだっけぇ? そういえば、そうだったっけ」

と、ラテが笑い、シンバもエノツも笑う。

「確か、あのウサギ、小学校のウサギ小屋から逃げたんだよね」

と、エノツ。

「そうそう、懐かしいな」

と、シンバ。

「懐かしいと言えば、だるま、覚えてる?」

と、ラテ。

「だるまって、あの店、まだやってんのかよ」

「ちゃんとやってるよー!」

「なんだっけ、よく買ったよね、苺ガムキャンディだっけ?」

「アレなんでさぁ、苺しかねぇの?」

「ラムネがあるよ、ラムネガムキャンディ!」

「マジで!?」

いつまでも続くような三人の笑い声は、忙しい街に溶け込んで消えて行く・・・・・・。

そんな楽しそうな三人を横目で見ながら、通り過ぎていくシーツ。

「シンバ? シーツか?」

「あ、パパ、おはよう、シーツの方だよ」

「あぁ、シーツか、おはよう。調度良かった、紹介しとこう、ほら、彼女、覚えてるだろ、この間、お前がリーフウッドで見つけたビレッジの長の孫娘さんで、リステア・フィン・クロリクさんだ」

クロリクはぺコリと頭を下げる。

シーツもぺコリと頭を下げた。

「それでシンバは?」

「兄貴なら、さっき図書館の前で友達と話してたから、もうすぐ来るんじゃないかな」

「全く仕方のない奴だ。今日の会議に出席する事を忘れとるんじゃないか」

「大丈夫だよ、兄貴の事だから」

「あいつの事だから心配なんだ。まぁいい。シーツ、彼女は我々の知らない種族で言語も違うが、我々の調査に協力してくれるそうだ。また文明を進化させる一歩だ。シーツ、お前も協力してくれるな?」

「はい、勿論です!」

シーツが頷くと、クロリクのブラックの瞳が柔らかく微笑んだ。

なんとなく、シーツも笑顔になる。

綺麗な長い黒髪が、とても魅力的で、シーツはクロリクに見惚れてしまう。

そのクロリクの後ろから、シンバとエノツが喋りながら、こちらに向かって来るのが見える。

シンバとエノツも、イオンとシーツとクロリクの存在に気付き、足を止める。

「シンバ、今日は会議だぞ! わかっとるのか!」

「なんで怒鳴ってんの? ちゃんとこうして朝早く来てるだろ」

「お前はシーツと違って怒鳴らなきゃわからんだろう!!」

「怒鳴らなくてもわかってんだろ!!」

「兄貴、パパ、みんな見てるからやめて」

シーツにそう言われ、シンバもイオンも黙り込む。

エノツは苦笑いし、クロリクは面白そうにクスクス笑っている。

そんなクロリクに、シーツも、なんだか嬉しくなって笑顔になる。

「エノツ君、キミも確か会議に出席するのだろう? 電子工学生の代表だったな」

「はい」

「進級試験も近いが、調子はどうだね?」

「はい、なんとか。でも色々と難しくて。今度、クレマチスに帰った時に、だるまのおじさん・・・・・・あぁ、いえ、えっと、ヴィルトシュバインさんに色々と聞きたいなと——」

「おお、ヴィルトシュバイン・ハバーリ君か。彼には、うちの大学に臨時でいいから教授として来てくれないかと声を掛けてるんだが・・・・・・まぁ、個人的に話せるなら、彼から色々と学び、教えてもらいなさい」

「そういえば、ガキの頃、色々教わったよなぁ。ヤバイ事一杯、教えてもらって、ハバーリさん、奥さんにいっつも、どつかれてたしな」

と、想い出を口にするシンバに、

「あはは、そうそう、ホント懐かしいね! 覚えてる? あの一番ヤバかった奴!」

と、想い出話に花を咲かせるエノツ。

「・・・・・・シンバ、エノツ君、ヤバイ事って、一体、彼に何を教えてもらってたんだ?」

「・・・・・・行こうぜ、エノッチ」

「うん・・・・・・遅刻しちゃうからね」

「あ、待ちなさい、シンバ! 待ちなさいッ! エノツ君も止まりなさい!!」

逃げるシンバとエノツの後ろで、怒鳴るイオン。

シーツとクロリクは二人見合い、クスクス笑う。

——これは夢だろうか?

——それとも夢だったのだろうか?

——こんな平穏な日々の時間もあるのだろうか?

「エノッチ、また後でな」

「うん、じゃぁ、また会議室でね」

自転車置き場に向かうエノツと別れ、シンバは自分のクラスへ向かう。

ローカを歩きながら、ぼんやりと窓の外を見ていた。

空が高く高く、青く美しく広がっている。

今、大きな影が横切った。

——ドラゴン!?

「きゃあ!」

「あ、悪りぃ」

「もう! 余所見しながら歩かないでよ!」

「そっちこそ雑誌見ながら歩いてんなよ。あれ? ログマト、その雑誌、ウェイブ? お前、女の癖にスケベだな」

「そんな事言う方はウィルティス・シンバ君のほうね? 言っておくけど、私が女のヌード見て、脳下垂体が性腺刺激ホルモンを分泌するとでも思うの? 私が見てたのはラハン・アフェって人が書いた記事よ。ウェイブが売れてるのは、この人の真実と拘りの報道があるからよ。記事も面白いしね」

「・・・・・・へぇ」

「ウィルティス君も、ヌードばっかり見てないで、こういう記事にも目を通したら?」

クリサは、そう言うと、ウェイブ片手に行ってしまった。擦れ違いにレーヴェが現れる。

「ウィルティス。ウィルティス・シンバ」

「フルネームで呼ぶな! 何か用か?」

好感のない口調でシンバはレーヴェを見る。

——シーツと俺を一度も間違えた事のない奴。

——制服着てる方が俺だからとか、そんな理由じゃない。

——同じ服を着てても、コイツは間違えないだろう。

——親でさえ間違えるのに。

「先程、防衛組織の航空自衛軍の提督ガジョーナ・クリツァという人からの連絡を受けた。新型ミサイル付き戦闘機の研究報告が遅れているそうだ。直ぐに連絡してほしいと、イオン博士に伝えてくれ」

「はぁ!? なんで俺が! 連絡受けたのはお前だろ! お前が伝えろよ! 大体、なんで研究生の、しかも医学生のお前がそんな連絡受けてんだよ!? テリトリー違い過ぎるだろ!!」

「悪いが、俺は会議の準備で忙しい」

「無視かよ!? そして俺も会議出るんだけど!!」

「キミはイオン博士の息子という事で、多少、遅刻してもいいだろ? いつもそれで遅刻してるんじゃないのか?」

「それで遅刻してるわけじゃねぇ!!」

「ならば、それを生かし、堂々と遅刻すればいい」

「あほか!」

「ウィルティス、イオン博士はホスピタルの院長ルームにいるそうだ。頼んだぞ」

「おいっ!!!! くそっ!」

シンバは、行ってしまうレーヴェの後ろ姿に殴る真似をする。

——俺はお前のパシリじゃねぇんだよ!

せめて、後少し早ければ、イオンは直ぐそこにいたのにと、シンバは舌打ちをする。

仕方なくホスピタルへと走る。

大学と病院を繋ぐ外ローカと中庭。

シンバは足を止め、中庭の花壇に咲いているグラジュールを見る。

あれは古代植物の一種。

今、女の子が走って来て、花壇の傍に座った。

その女の子の隣に——

「あ! 兄ちゃん!」

「何見てたんだ? あぁグラジュールか、綺麗だな」

「グラ? ジュース? お花の名前?」

「うん、グラジュール。ほら、面白い形の花だろ?」

「なんかお空を突き刺すような形してるねぇ」

「うん、グラジュールは剣って意味があって、別名グロビュールとも言われてんだ。グロビュールの時の花言葉は新しく生まれる。グラジュールの時の花言葉は永遠の愛」

「兄ちゃんって物知りだね」

「そうか? さ、ノエル、病室に戻るよ?」

「うん!」

仲の良い兄妹——。

二人は手を繋いで、シンバの横を通り、ホスピタルの方へ歩いて行く。

シンバが、またグラジュールに目をやると、花壇に何か落ちているのに気が付いた。

面会者カードだ。

シンバはそれを拾い、見る。

「マンダリンカ・チィウ」

カードには、そう名前が書かれていた。

さっきの兄妹のものだろうと、すぐに追いかけたが、見辺らない。

仕方なく、受付に落し物として、そのカードを届けた。

そして院長ルームへと走る。

——全ては夢だったのだろうか?

自分の中に氷解しきれないものが沢山残っている。

それがなんなのか、思い出せそうで、全くわからない。

まるで遠い過去の出来事のように——。

なんとなく記憶にあるような、ないような、ぼやけた写真のような感じ。

只、あの時間は、自分にとって、未来なのか、過去なのか、今なのか、夢か現実かの区別もつかず、謎が氷解する事はないだろうとわかる。

白衣を着た二枚目風の男——。

今、院長ルームへと走るシンバと擦れ違う瞬間、微かに肩がぶつかり、男が持っていた患者のカルテが落ちて、散らばった。

シンバは、それ等を拾い集めながら、

「急いでて、すいません」

と、謝罪し、『ヤソ・ヤーウェイ』と、書かれているカルテを見て、

「これで全部かな」

と、集めたカルテを男に渡すと、また急いで走り出す。

男は走って行くシンバの後ろ姿を見つめる。

「——ウィルティス・・・・・・シンバ君の方か・・・・・・?」

男はそう呟きながら、ポケットからネームを取り出し、胸ポケットにつけた。

Doctor ルシェラゴ・フレダー

そして、その足は第4診察室へ向う——。


ヘンテコな帽子を被り、丸い眼鏡。顎には白い髭が生えていて、どこにでもいるお爺さん。

外灯のベンチに座り子供達に御伽話をするのがお決まり。

そろそろ子供達がお話の続きを聞きに来る時間。

確かお話は、もう終わりの方だった——。

「おじいちゃーんっ!」

子供達が走って来る。

お爺さんは優しく微笑み、顔の皺が柔らかく動く。

あっという間に子供達はお爺さんを囲む。

「おじいちゃん、お話の続きしてぇ」

「ねぇねぇ、月からワープして、それからどうなっちゃったのぉ?」

「アーリスには戻って来れたのぉ?」

お爺さんは次から次に話し掛けて来る子供達に、うん、うんと頷いて見せる。

「ねぇ、おじいちゃんはどうして面白い話を知ってるの? おうち何処に住んでるの?」

そう尋ねた男の子に、お爺さんは優しい笑顔を見せ、

「わしは何処の時間にも住んでおる。だからここにもおるんじゃよ」

そう答えた。

「ふぅん・・・・・・それって——」

いつか信じられない事が起こるかもしれないあなたへ——。

やはり人は幼い頃から信じているのだろう。

例えそれが、目に見えないものでも、どんなに否定されているものでも、信じられるのだろう。

自分の都合のいい時だけ唱えるのかもしれないが、それも信じているからだろう。

例え理解できないものでも、あなたは生きている限り、信じているに違いない。

きっと行き止まりにはならない進める道がある。

きっと誰でも辿り着ける場所がある。

まるで導かれるように、選んだ道がある。

そんな長い人生の内、一度でも、あなたは必ず口にするだろう。

目には見えず、触れる事ならずの者を。

「——それってさぁ」

そして、信じる者は救われる。

救われた事を覚えてなくても、アナタは救われている。

「——それって神様!?」


Yes indeed!

I am coming soon!


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DEAD END ソメイヨシノ @my_story_collection

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