第二章 剣 ~NOT PEACE but a Sword~


エノツとは学部が違うので、大学内で別れ、シンバは自分のクラスにいた。

「この間のリーフウッドのビレッジにいた女だろ?」

——噂話か・・・・・・?

何人かの生徒が集まって、話をしている。

「彼女、刑務所行きだってよ」

——!?

「ああ、イオン博士が決めた事なんだろ」

「全く、どうかしてるよ。折角の研究材料だってのによ、勿体無いよな」

「本当だよ、イオン博士も何考えてんだか」

シンバはプロフェッサールームへと、足を走らせていた。そこにはイオンがいる。

——何故、彼女が刑務所に!?

——どうして簡単に手放す?

シンバはノックもせずに、プロフェッサールームの部屋を勢いよく開けた。

「シンバ? 何事だ!?」

「何故だ! 何故、リーフウッドのビレッジにいた女を刑務所なんかに送るんだ!」

シンバは物凄い見幕で吠えた。

「・・・・・・何事かと思えば、そんな事、当然ではないか。あのビレッジでは人々が殺されていたと報告を受けている。違うのか?」

「それは・・・・・・それは違わないが、彼女が殺したという報告はない筈だ!」

「彼女だけが生きていた。血のついた刃物も手に持っていた。十分な証拠だと思うが?」

シンバはイオンを睨みつける。その視線から逃げるように、イオンはシンバに背を向け、窓の外を眺める。

「——シンバ。プロジェクトチームが決まったよ。狂い始める世界を元に戻すチームがな」

「今そんな話、どうでもいいだろ!」

「後で発表はされるが、お前もその一員だ」

「なっ、なに!?」

「チームのリーダーは今年の医学生の中で、最も優秀であるヴァイス・レーヴェが選ばれた。彼の指示に従い、お前は、その結果を持ってくる。頑張りなさい」

「ちょっと待てよ、何故、研究生の奴がリーダーなんだよ! 俺も、何故チームに加わる必要がある!? そういうのは研究員の仕事だろ!」

「今回のチームは生徒だけで組まれた」

「なんだって!?」

「きのうの会議に出席した、それぞれの学部の生徒がチームに選ばれている」

「ちょっと待て! それで何故ヴァイスがリーダーなんだ! そんなの納得いかない!」

「シンバ、自分がリーダーに選ばれると思ったか? 私の息子という事で——」

「・・・・・・何だよソレ」

「ウィルアーナの制服は着用しない。私に対しては、その口の態度。授業もろくに出席していない。そんなお前にリーダーの資格はない。例え、私の息子という事でトップに立てたとしても、誰が、そんなお前に付いて行くと言うのだ。いい加減、親離れしたらどうだ? シンバ」

窓の外を眺めたままの姿勢で、淡々と話すイオンに、シンバはググッと拳を握り締める。

「・・・・・・そんな話を聞きに来た訳じゃ・・・・・・ありません。彼女を刑務所へ送る理由を——」

「シンバ、授業を受けに行きなさい。要らぬ詮索はせんでいい」

「要らぬ詮索って何だよ! ・・・・・・何ですか」

「いちいち上のやる事に質問や疑問を抱くなと言っているのだ。反抗の種を見つける暇があったら、ウィルアーナの生徒として、学ぶ事を考え、素直に規則や命令に従え」

握り締めた拳に、更に力が入り、奥歯がギリッと軋む。それでも、シンバは冷静な声を出そうとする。決して、負けたくないからだ。

「・・・・・・彼女をサンプルとして調査する事は沢山あります。ですから——」

「もう遅い」

「!?」

イオンはゆっくりと振り向き、シンバを見た。

「刑務所から迎えが来たようだ」

窓の外を眺めていたのは、シンバの視線から逃れようとしていたのではない。刑務所からの迎えを待っていたのだ。そして、タイミングを計って、会話をしていたのだろう。イオンは冷静である。

「シンバ、お前はお前のするべき事を考えろ。他人の事などを考える暇はない。チームは、もう結成されたのだからな」

シンバはイオンをキッと睨み見て、急いで、外へと走り出た。

——俺はどこへ行こうとしてるんだ?

シンバの意思とは関係なく、身体が勝手に動く。

キーンと耳鳴りが始まる。


『アポストロス・・・・・・

 アイオーンネフェシュ・・・・・・

 ハレルヤ・・・・・・ ハレルヤ・・・・・・

 ハレルヤ・・・・・・』


わからない言葉が、シンバの頭の中で、繰り返し、繰り返し、聞こえ、響く——。

頭痛と鳴り響く言葉が、シンバを狂わす。

気絶しそうな程、痛苦しく、全ての神経が途切れそうな中、手の中は熱く、集中していた。

——オーパーツ。

ハバーリから受け取った、イオン博士の財産。

シンバの手の中で、熱く、鼓動を打つ。

「うわああああああーーーーーーッッッ!!!!」

——うわ!? 俺、何吠えてんだ!?

ブワっと風が舞い上がり、オーパーツと言われる石が剣に姿を変えた。

その剣、美しく、聖者が持つに相応しく、禍々しく、邪神の物となりて似合うべくもの——。

——何だ? 何なんだ? 何だよ? 何なんだよ、この剣ッ!

シンバは走りながら、手の中の大きな剣に、酷く驚いている。

——ちょ、ちょっと待ってくれ、俺は剣なんて扱えないぞ!

——誰か、俺を止めてくれ!

しかし、シンバは剣技の構えに入っていた。

思考と行動が全く違うが、思考も、次第に呑まれてゆく。


『ハレルヤ・・・・・・』


今、車に乗ろうとしている、あの女性が、大きな剣を携え走ってくるシンバに気付く。

シンバの右目、アクアの瞳が不自然に輝く。

剣も妖しい輝きを見せる。

「うおおおおおおーーーーーーッ!!!!」

シンバは叫びながら、剣を振り上げる。

シンバを中心として、風が舞い上がり、気が付くと、車を真っ二つにしていた。

——嘘だろ!? なんて破壊力なんだ。 

自分自身がした事なのに、まるで他人事のように驚く。その一瞬の隙——

シンバは後頭部に重い衝撃を感じ、目の前が、白い闇へと広がってゆく——。

「・・・・・うぅ・・・・・・・・・・・」

前のめりに倒れるシンバを目の前に、アクアの瞳が美しく、女は当然かの如く、無表情。

いつの間にか、大きな剣は、シンバの手の中、黒い石に姿を戻していた——。


この時代、真剣など、古典の中でしか存在しない。

その古代の書籍の中で、剣とは、戦争、裁き、分裂、苦痛の象徴とされている——。

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