第61話 炎上ー5
「悪いけど、くるなら普通に切るぞ。こっちも命かかってんだ」
静かに、ゆっくりと蒼汰は声に出す。
それでもその切っ先は鋭く、間違いなく勝てないと思わされるだけのプレッシャーはあった。
「う、う、うわぁぁぁ!! 僕は悪くないもん!!」
それに負けた男は、叫び声を上げながらレイレイの部屋から逃げていく。
荒れた部屋で蒼太とレイレイは二人きりになった。
後ろですすり泣くレイレイを見て、蒼太は安堵と共に息を吐きその頭を撫でた。
「その……なんだ……今回は俺も悪かった。軽率だったよ。別に友達が泊まりに来るぐらいって思ってた。悪いことじゃないってマジで思ってたわ」
「ううん、私が悪いの……私が考え無しだったから」
「…………しかしあれだな。俺もお前もつい最近まで一般人だったから有名人って意識が色々欠如してんな。龍一があの日滅茶苦茶怒って絶対にバレるなよって言った意味がわかったよ。はは、やらかしって奴だな。次は気を付けようぜ」
「ごめんね……私のせいで……ごめんなさい」
そして蒼汰は後ろで膝をつきながら泣いているレイレイに目線を合わせる。
「大丈夫、なんとかすっから。だからもう一人で勝手にどっか行くなよ」
「……うん」
「まぁ龍一がなんとかするだろ。友達は頼り倒せってな」
「……ふふ」
冗談を言いながら笑う蒼太を見て、レイレイも思わず笑ってしまう。
その後龍一も遅れながらもきて、騒動は一旦の終結を見せた。
警察には連絡し、すぐに監視カメラの映像から発見されるだろうとのこと。
とりあえずそれまでは危険なので、蒼太が見張りを兼ねて、もう一度蒼太の家に泊まるということで一旦決定した。
今後どう対応するかは分からないし、その寝泊まりが炎上した原因だが、命には変えられない。
それにもう泊っている証拠は取られているんだから今更でもあった。
◇蒼太視点
翌日、ライブスター・プロダクションズ本社。
「ということでフィーバーさん。炎上対策お願いします!」
「おねがいしゃーーす!!」
俺達はライブスターの本社へと来て、フィーバ社長に相談しにきていた。
「派手にやったね! 了解! 任せなさい!」
「い、いいんですか? わ、私ライブスターの所属じゃないし……」
無所属のレイレイは流石にいつものような元気はなく、伺うように社長に聞く。
だが相変わらずアフロでサングラスのフィーバー社長は、決めポーズと同時に任せろとニッコリ笑って白い歯を見せた。
「まず蒼太君はうちの大事な大事なストリーマー。所属するうちとしても対応するのが会社として当然!」
「あざっす!!」
「それにレイレイ君は俺の頼みで無理言ってうちのイベントにも出てくれた子だ。個人的には助けたい! 子供は宝! ストリーマーは宝石!」
「……すみません。私迷惑ばっかり……」
「ノープロブレム! うちはそういうの得意だから! 輝きの強い子ってのは大体ちょっとズレてる! だから良く炎上する! ほんとに良くする! まじですぐ炎上する! 困っちゃうぐらいに炎上する! だから悲しいかな、ノウハウだけは溜まっていく!」
それでも申し訳なさそうなレイレイに視線を合わせるようしゃがむフィーバ社長は言った。
「その前に一つ聞かせてもらおっか。本当にしてないのかい? 蒼太君は魅力的でかっこいい。本当にしてないのか? 俺を信じて全部話してほしい」
「ちょ、してないですって。フィーバ社長!」
「シャラップ! 今、レイレイ君に聞いてるんだ。だからね、君の言葉で真っすぐと本当のことを話してほしい。それが信頼というものだろ?」
そのサングラスを取って光を映さないその眼でレイレイを真っすぐと見る。
レイレイは驚くような表情だが、目を閉じ、そして開きながらはっきりと言った。
「ムラムラはしましたが、エッチなことはしてません! ブルー君のガードが堅かったです! 本当に私は未経験ってことを誓います!」
そのはっきりとした言葉を聞いたフィーバ社長は優しくただうなずいた。
「OK! その言葉に嘘偽りなしと判断する! 信頼には信頼で返そう! あとよく頑張ったな、蒼汰君。偉いぞ! 男として尊敬する!」
「ほんとギリギリでした!! もっと褒めてください!」
「お前らまじで反省しろよ?」
「わ、私なんでもします! どうしたらいいですか! 謝罪動画とか!」
「NO!!」
するとフィーバ社長はいつものごとくホワイトボードを取り出した。
この人教師に向いてそうだな、有名進学塾の動画の講師並みに濃いし名言飛び出しそう。
「炎上の心得! その1! それ以上燃料を与えるな!」
「燃料?」
「そう。炎上したらね、どれだけ言葉を繋いでも基本的に消えない。心を込めようが関係ない、むしろ悪化するのがほとんどだ。だから時がたって沈静化するのを待つ。そういう意味ではレイレイ君は今回燃料を投下しすぎた。初動でミスったな。あれでファンは反応し、投稿は拡散され、火は燃え広がる。逆に蒼太君! 君は何もしてないだろ? だからそんなに燃えない。まぁ二人の配信スタイルの違いもあるけどね!」
「そ、そうですか。わかりました!」
それからもフィーバ社長は炎上についての対応をたくさん教えてくれた。さすがは配信者を多く抱えるプロダクションだけあって内容はとてもためになる。
レイレイはそれを必死に効いてメモし、どうすればいいのかを考えた。
何か自分にできることを……そう考えているのがすごく伝わるほどに真剣だった。
「はい、先生! 質問です!」
「社長と呼びなさい! はい、蒼汰君どうぞ!」
「今回、基本的にみんなの勘違いなんですがそれを否定してもいいですか!」
「いい質問だ! 本来はスルー。だが今回は色々初動でミスっている。だから否定はしないとだめだろう! でも証拠がないからはっきり言うと難しいだろうね。良く芸能人がお泊りデートとかしてマンションに入るのをスブリングバズーカされるだろ? その時、男女の仲ではありませんって言葉よく聞かないか?」
「確かに……でも信じたことないっすわ。いやいや、してるでしょって。あぁ……そっか、それと今同じ状況か……」
「そう。だが証拠になるような何か……もしくはそれに準ずるお泊りの動機などがあれば信ぴょう性も増すんだが……」
するとそこで遮るように手を上げた男がいる。
「……正直どうやっても完全に証明することはできない。でも……俺とレイレイと蒼太は三人でぶっ通しでゲームをやった日があるだろ?」
「夜から朝までな」
「うん、あれ以来も何回かやったよね」
「そう、で一つ俺から提案があるんだが……」
そういって知将は笑う。
「――龍王倒さねぇ?」
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