第59話 炎上ー3
”私あの子と中学から一緒なんですけど~結構悪い噂ばっかりで”
”パパ活してるでしょww”
”友達の彼氏奪いまくったとか噂あるよね”
”ほら、見た目も派手だ。見るからに遊んでそう”
”止めてくれる親もいないなら当然かなって思います”
”配信見てても普通の子じゃないのはすぐわかる”
”やってるでしょ、これはwww”
”売名かな? ブルーって今めっちゃイケイケの配信者でしょ?”
”ブルーさん、サイコパスに狙われて可哀そう”
”賠償金で人生オワタ、AVデビュー待ってます”
”悪いけど、そのAVは凄く抜けるww”
”迷惑かけるなら一人でやれよ、まじで糞女”
”昨日からシカトしてるみたいだけど、はやくなんか言えって思う。責任感なさすぎ”
"自分のことを可愛いと思ってる勘違い女"
”もしもーし。早くなんか釈明文でも投稿してくださーい”
・
・
・
私は布団にくるまりながら身を守るようにして、震えながらエゴサを続けた。
傷つくのがわかっているのに、止められない。
せめて少しでも良い意見が見たくて、擁護してくれるような人を探して。
もしかしたらとそんな淡い希望と、だれか一人でもいいから味方が欲しくて。
"俺レイレイちゃん、ずっと応援してるんだよ。配信の初期からずっと。すごく頑張っててさ"
「…………」
”でもファンやめるわ。裏切られた。死んでほしい”
でも誰一人として味方はいなかった。
「……そっか。私死んだほうがいいのか……はは、みんな大好きって言ってくれてたのにな……私はみんなを精一杯愛そうとしてたのにな……」
あんなに毎日愛してるといってくれたファンたちは一瞬で全てがひっくり返ってしまった。
私には愛とかよくわからないけど、私を好きだと言ってくれるみんなにはせめてありがとうを返したいと目いっぱい感謝を伝えていたつもりだった。
でも一方通行だったみたいだった。
ピロン♪
私は寝不足と涙で真っ赤になった目でブルー君からの新規メッセージの通知に目を向けた。
一瞬開こうとしたが怖くて押せなかった。
だって見たくなかったから。
ブルー君も多分すごく怒っている。
私が無理やりのような形で家に押しかけて、ふざけて……そして迷惑をかけた。
愛理ちゃんのためにお金を稼がないとダメなのにノリでとかいって困っているのがわかっているのに無理やり足を引っ張った。
私のせいでブルー君も少なからず炎上してるし、配信者にとってこれはとても大きな損失で未来を奪われるような行為。
全部私が悪い。
私が何も考えてなかったのが悪い。
きっとこのメッセージを開いたら怒りのメッセージがたくさん来ているだろう。
誰のせいでこうなった! 謝れ糞女! とか。
だから怖くて開けなかった。
他の人の言葉よりも友達になれたと思ったブルー君からの言葉はきっと私をもっとえぐる。
だから怖くて見れなかった。
ほんとにこの人なら好きになれるんじゃないかってぐらいに……かっこよくて……居心地がよくて……優しくて。
でもその関係も一方通行だったから……私は一人だから……。
「……ごめ˝ん˝な˝さ˝い˝。許し˝て˝く˝だ˝さ˝い˝」
だからせめて嫌われたくないと心から思った。
見なければ嫌われていないかもで終われるしあの優しい笑顔が変わって欲しくない。
怒らないで欲しい。
もうきっと会えないけど、二度と許してなんてもらえないけど、ブルー君も私に死ねって思ってるけど。
「……死んだらいいの? 死んだら許してくれるの?」
死ねという言葉を何度も見た。
その一つ一つがナイフのように胸をえぐる。
心が弱るといつもこれだ。
死ぬ勇気なんてないのに、死んだらどうなるんだろうなんて考えてしまう。
私の悪い癖だな、ははは。メンヘラっぽいって言われるのもこれのせい? みんなが地雷臭って笑うのはこれのせい?
ねぇ、今死んだらみんな許してくれる?
みんな責めすぎたって謝ってくれる? 後悔してくれる? それとも……笑う?
有名人が誹謗中傷で自殺するなんてよくあることだってすぐに流れて終わるかな。
でも誰かが同情してくれるならそれもいいかな。
私は気づけばキッチンに立っていた。
包丁を握り、手首に当ててみる。
手首を切って、水をかけ続けたら確か死ねるんだよね。そっか簡単だな。
よし……死んじゃお。
「……うっうっ」
でも結局怖くてできない。
泣きながら私は包丁を地面に落とした。
そのときだった。
ピンポーン♪
「……誰?」
ピンポーン♪
またチャイムが鳴る。
誰だろう、もしかしたら大谷さんだろうか? 契約時に住所は教えてるし賠償金の話かもしれない。
今はできれば会いたくないけど。
ピンポーン♪ピンポーン♪ピンポーン♪ピンポーン♪
ピンポーン♪ピンポーン♪ピンポーン♪ピンポーン♪
ピンポーン♪ピンポーン♪ピンポーン♪ピンポーン♪
「な、なに?」
いきなり連打されるインターホン。
なぜかわからないが、私はそれがすごく怖かった。
あれ? そういえば。
ガチャ。
私鍵って閉めたっけ。
◇
一方、蒼太。
「まじでこの辺なのか!? 全然いないぞ!」
「仕方ねぇだろ。そこまで絞っただけ褒めろ!! 俺は今から大谷って人となんとか交渉するから、お前は足動かせ」
「あぁくっそ! 了解!」
蒼太は龍一とスマホを押しながらひたすらとピンポンダッシュ。
誰かが出てきては人違いでしたと謝るを繰り返している。
龍一がSNSの発言や画像、噂から何まで調べに調べ、この周辺であることだけはわかったが決定打のような情報がない。
なので引き続き調査し、蒼太はしらみつぶしに当たるという作戦にでた。
だがそれでもそもそも数が多すぎる。
「レイレイ!! どこだ、おい! 返事しやがれぇぇ!! 怒ってないからでておいでぇぇ!!」
蒼太は龍一がリストアップされたマンションをひたすら探し続ける。
だがいない。
そもそもチャイムを押しても出てこないだけの場合もあればそもそも家に帰ってないのかもしれない。
あまりにも情報が少なすぎる。
それでも蒼汰はただ探す。
「はぁはぁ……なんでこんな嫌な予感がするんだ。まじで。……ショック受けて寝込んでるとかで頼むぞ、はぁはぁ……」
一方、龍一。
「だめだよ、さすがにフィーバー社長の紹介でも契約者の個人情報は渡せない」
「そこをお願いしてます! 電話番号だけでも!」
龍一はレイレイが仕事する予定だった大手化粧品会社へと来ていた。
契約したなら住所を知っていると思ったからだ。
フィーバー社長はその化粧品会社と伝手があるようで、担当者まではどうにかわかった。
そして案の定、住所を知っているようだ。
それはレイレイの担当者、大谷だった。
だが、当たり前のように個人情報を渡せるわけがない。
「自殺してたらどうするんですか!」
「いやいや、そんなわけ……それに昨日電話したら問題なかったし……」
冷や汗をかきながらも、ただのサラリーマンの大谷は半笑いで龍一をあしらった。
「じゃあ今電話してください! それでひとまずは引きさがります。どうかお願いします!! 友達なんです!」
「……はぁ、わかったよ。電話だけだよ? ちょっと待って…………………あれ? でないな……うーん、取り込み中かな?」
「出ない?」
龍一は目を閉じてもう一度考える。
レイレイは現代っ子らしくスマホを肌身離さずもっている。
通知は切っていたとしても電話に出ないことはない。
ましてや今はまだ昼間、寝ているということはないはずだ。お風呂の可能性などはあるが今はそんな心境じゃないと思う。
「寝てるのかな? とりあえずまた電話しとくから今日のところはおひきと――」
ドン!!
「人の命がかかってるって言ってるでしょうが! 悠長なこと言ってられないんすよ!!」
フロア中に響く野球で鍛えらえたよく通る声が、机を強く叩いた音と共に響く。
「日本中から叩かれて! 到底払えないような賠償金の話されて! 家には守ってくれる親もいないで一人ぼっち!! ただの女子高生が命を絶つのに十分すぎる状態でしょう!!」
「し、しかし……」
「しかも蒼太に迷惑かけるようなあんな写真を取られたら責任感じて!! もしこれ…………――!?」
大谷の煮え切らない態度にまくしたてるように切れそうになる龍一はふと思い出したように口を押えて目を見開いた。
「そうだ…………なんで気づかなかった。住所突き止める方ばっかり考えてた。そうだ、なんでだよ。だめだ……やばい……」
「ど、どうしたの?」
その瞬間、龍一は大谷の肩を強くつかんで目を見て話す。
「大谷さん、もう一度お願いします。レイレイの住所を至急教えてください。本当にレイレイがやばいんです。……あの蒼太とレイレイのツーショット写真、普通は取れないんですよ。レイレイは変装して蒼太の家にいきなりきた。俺だって知らなかったし、誰も知らないのにですよ。なのにバレた」
「え、えーっとつまり?」
「ここまで言って分からないですか! つけられてるんです! レイレイの家から蒼太の家までずっと!! つまりレイレイには、いるってことですよ!!」
「な、なにが!!」
「やばめのストーカーが!!」
ガチャ。
「え?」
なんで扉が開くの? 何で何も答えてないのに扉が開くの?
鍵は確かに閉めてなかったと思うけど、なんで?
「レイレイちゃん……こんにちわ!!」
野太い声が狭い部屋に響く。
汗の匂いを漂わせ、よれよれのシャツを着た中年の男がレイレイの家に足を踏み入れた。
「だ、誰ですか!? いきなり入ってきて!!」
「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。ほら、僕だよ。ミサワだよ! 毎日君の配信で愛を伝えたでしょ。君もありがとうっていってくれた! これはもう相思相愛! 結婚と同じ!! なのにレイレイちゃんったら……変な男の家に寝泊まりなんて……でも大丈夫! 僕は優しいからね。妻の不貞は一度ぐらい許すよ! だってぼくは……」
小太りで汚い中年は笑いながらもうたまらないとレイレイへと走ってくる。
「ひっ!」
「レイレイちゃんが大好きだから!! ほらほらほら! いつもみたいに言ってよ!!」
壊れたような笑顔と共に。
「私も大好きだよーーって!! はやく!!」
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