第58話 炎上ー2


 そのニュースは文字通り光の速度で広まった。


 そこにはレイレイが、蒼太と一緒に家から出てくる写真が取られていた。

 表札に書かれた天野という苗字も含め、蒼太とレイレイが短期間といえほぼ同棲のようなことをしていた証拠写真。


 悪意あるツイートともにものすごい速度で拡散されている。


「な、なんで! ち、違う!!」


 レイレイは、大きな声で化粧品会社の担当者大谷に訴える。


「君達まだ高校生だよね。別に法律違反ではないけど……契約内容的にアウトだと思う。契約のイメージを損ねるような行為に該当する」

「ち、違います! 私達そんな……それにただ泊っただけで!!」


 すると大谷は頭を振りながら言葉を並べる。


「品位・信用・企業イメージ・商品イメージ等を損なうような言動をしてはならず、品位・信用・企業イメージ・商品イメージ等を損なうような言動をしない。これが契約内容に記載されている。君は……配信でも公言しているよね。その……未経験だと。だから弊社もそういったイメージで若い子向けの化粧品として今回のCMは作らせてもらっている。だが……これは……そのイメージを著しく損なうものだ」

「わ、私してません! ブルー君と……してません!」


「それを証明することはできない。男の家に泊まって何もなかったですを信じるほど世間は甘くない。例え本当に何もなかったとしても軽率だったと言わざるを得ない」

「そ、そんな……」

「厳しいことを言うが……おそらく賠償問題になると思う。では……また連絡しますんで」


 そういってレイレイは撮影現場を追い返される形になった。

 再度スマホを見ればその画像は悪意ある投稿ともにものすごい速度で拡散されている。


「…………どうしよう、どうしよう」


 レイレイは撮影現場を離れ、蒼太の自宅へと帰る。

 でも蒼太はまだゲーム中、なのでレイレイは荷物をまとめて出て言った。

 これ以上いたら、いや、もうすでにだが蒼太に迷惑をかけると思ったから何よりも早くここから出ないと。


 正常な判断ができず、頼れる人もいないレイレイはただ逃げた。

 その間もレイレイが蒼太の家からでてきた画像は拡散され、炎上は加速していく。


 レイレイは自分の家に帰るために駅のホームで座る。

 もしかしたらもう収まっているかもしれないとスマホを開く。

 そんな淡い期待は、すぐに打ち砕かれた。

 100件以上のDMには、おそらくファンの人達からの罵詈雑言。

 

 ”だましたな、死ね”


 もっとも多かったメッセージがそれだった。

 他のメッセージも怒りに満ちていた。

 ”見た目通りビッチかよ”

 ”今までの投げ銭返せ”

 ”未経験だって公言してたよな? どうしてくれんの?”

 ”お前も、ブルーとかいう奴も殺す”

 ”謝れ”


 しまいには蒼太を殺すという殺害予告のような言葉まで投げかけらえた。

 自分はまだいい。

 でも蒼太に迷惑をかけていることが一番辛かった。


「そ、そうだ……謝罪! 謝らないと!」


 とりあえず謝罪文を投げないと。

 今回のことはみんなの勘違い、誤解さえ解けてくれれば問題ないはずだ。

 正常な判断もできずレイレイは電車の中で謝罪文を書いた。


 精一杯自分の言葉で慣れない敬語で丁寧にできるだけ事実を。

 そして蒼太に迷惑をかけないように。


 でもそれが悪手だった。


”お騒がせして申し訳ありません。この度は私の軽率な行動でご迷惑をおかけしました。確かにブルーさんの家に寝泊まりはしましたが、男女の仲のようなことはありません。全面的に私が悪いのでブルー君には攻撃しないでください”


 寝泊まりしたことを認め、そして謝ってしまった。

 さらに蒼太を庇うような文面は、二人の仲を勘違いさせるような文章だった。

 謝罪文としては悪手で、そして炎上の対応としても悪手だった。


 事実など、どうせ誰もわからないし証明する方法などない。

 でも状況だけみるならばレイレイと蒼太がそういう関係だったと思われても何もおかしくはなかった。


「……な、なんで!」


 案の定、さらに燃えた。

 引用してはまるで見てきたかのようにレイレイを語る人達。

 レイレイは静観し、落ち着いてから大人に相談、そして適切な対応を考えるべきだったのに燃料を次々投下した。


 でもレイレイには頼れる大人なんていない。

 ずっと一人で生きてきて、施設を抜けてすぐに配信者になった。

 高校もやめてしまい、せめて気分だけでもとセーラー服を着続けている一人暮らし。


 その謝罪文を皮切りに投降はさらに拡散され、気づけばネットニュースに。


 今話題の蒼太と、大手配信者であり無所属のレイレイのスキャンダルなど絶好のネタだった。

 レイレイは言い訳ととられるような投稿を連投してしまう。


 時に特定のアカウントと喧嘩のような形になり、レスバとなったが相手はそういう粗を探すのが得意な相手。

 言葉足らずで素直なレイレイは簡単に言い負かされてそれも拡散されていく。


 収拾がつかない。


 レイレイは怖くなってスマホを閉じた。

 通知が鳴るたびに、浴びせられる言葉のナイフは、純粋で素直で子供のようなレイレイをいともたやすく傷つけた。

 

「……どうしてわかってくれないの。違うのに……」


 電車の中で一筋の涙が流れた。

 そのままふらふらと家に帰って、スマホを投げ捨てる。

 一人暗い部屋でベッドに潜った。


 その日一日は何もできなかった。

 スマホを見れば通知が鳴り、暴言が飛んでくる。

 何もしなければきっと収まる。

 レイレイは全ての通知を切って泣きながらただうずくまった。

 蒼太からの連絡すらも気づかずに。


 翌日。


 当たり前のようにむしろ悪化し大炎上、テレビニュースにも取り上げられてレイレイは最悪の形で全国デビューを果たした。

 炎上は一度燃えたらそう簡単には収まらない。

 特に今回の火付け役は、レイレイのファンだった200万人の視聴者の中でもレイレイにガチ恋していたような特定の信者達。

 ガワだけを見て、レイレイの内面を何も知らずに好きになった男達は、一瞬で手のひらを返し暴徒と化した。

 

 プルルプルル♪


 着信が鳴り、一日中怯えていたレイレイは憔悴した状態で恐る恐るスマホを取る。


「レイレイさんですか? 大谷です。今回の件、わが社としても残念ですが契約不履行でCMは無し。損害賠償の請求をさせていただくことになりました」

「そう……ですか……いくらでしょうか」

「1億円ほどになるかと」

「え!? そ、そんな……払えません! それにこの仕事そんなに高い金額のお給料じゃ……」

「全て白紙になったんです。多くのキャストを抑えてスタッフも何か月も準備しました。それぐらいは相場かと……契約書にも書かれているはずです」

「そ、そんな!」

「払えない場合は……法的処置も行うことになるかと。彼氏さんのブルーさんと相談されてはどうでしょう。あちらも大手配信者ですのでいくらかは用意できるかと。ブルーさんも責任を感じておられるのではないでしょうか。いずれにしても弊社としてはそう決定しましたので、また連絡させていただきます」

「ブルー君は関係ない!」

「そうですか……ではまた連絡します」


 ツーツーツー。


 もう何が何だかわからなかった。


 二日前まであんなに楽しかったのに、心がすり減って憔悴していく。


 一瞬で世界中が敵に変わった。

 もともと味方なんて誰一人いないこの世界で、今はみんなが敵に見える。


 私は親にも捨てられた独りぼっちなのに。


 誰も愛してなんてくれないし、守ってなんてくれないのに。






 一方蒼太。


「くそ! あいつ返信返さねぇ! SNSの連絡先しか知らねぇんだよ!」

「いつここ出た!」

「朝からずっとゲームしてたから知らん!」

「死ね、廃人!!」

「あーくそ!! あいつなんか変なとこまじめというか、素直だからな。悪い方に考えてなきゃいいが……とりあえず特定班急げ!」

「愛ちゃんの時とは違いすぎる! 情報が少ねぇ!! お前がもっと色々ひねり出せ、アホ!」

「よく考えればあいつのこと何も知らん!」






あとがき。

これ結構調べたんですが、アイドルの不祥事とかでマジでこんなことできるらしいっすね。イメージを著しく損なう行為だって。たしかに恋愛禁止のAKBあの子とかがくっそ叩かれてたからあの時CMとか決まってたら多分ポシャってなってたなと納得はしてる。ひどい契約だけど。


あとこの世界未成年でも収益化できるという点はゆるして。

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