第54話 日米配信者イベントー6

 四番打者 雨神龍一が打席に立つ。


「なんかあいつ一人で世界に入ってるけど……」


『ホームラン!!』


「昔っから俺の方がバッティングは上なんだよな」


 龍一も蒼太に続きホームラン。

 そして次の打者が仕留められて一回終了2-0。

 日本リードで始まった野球ゲームは、想像以上の盛り上がりを見せた。

 

 二連続ホームランを打たれたバレッドは流石はプロゲーマーの精神で持ち直し二回を守り切る。

 蒼太は二回も三者三振を決めてノーヒット。

 今回のゲームはエキシビションのため五回まで行うというルールだった。


 そして続く三回。


「……残念、良い感じなのに」


 蒼太は敬遠をされて歩かされる。

 コメントはブーイングの嵐だが、バレッドはファックポーズで視聴者を煽った。

 もともと彼の芸風のようなものだがそれに対してブチギレ。日本を応援する声はさらに強くなる。

 龍一も、そしてラヴァーも敬遠され、他のプレイヤーが打ち取られる。



――――コメント――――

・アメリカせこくて草。

・勝ちに貪欲といえば……いや、でもなんかなー。

・バレッドムカつくんだが?

・日本がんばれぇぇ!

・こいつマジでBANされないの?

・絶対ざまぁしてください!!

・でもこのままいけば勝ちでしょ!

――――――――――――

 


 そして2-0のまま迎えた四回。

 一周回ってもう一度マウンドに上がるのは、Mrレジェンドこと、クリストファー。

 

「敬遠するか?」

「はっ! 冗談」

「だよな、了解」


 そして蒼太&龍一VSクリストファー二戦目。


(敬遠するかって言ったけど蒼太もいい感じだし……一回でクリストファーさんは打ち取った。さすがにレジェンドっつっても経験ないゲームはこんなもんかな?)


「君達は強いな……」

「どうも」


 打席に立つクリストファーは龍一に話しかける。

 龍一もそれにぶっきらぼうながらに答えた。


「良いコンビだ。若く……向かうところ敵なしといったところかな」

「いえいえ、そんなことないですよ」

「いや、その通りだよ。怖い物なし、敵もなし。自分達の道を阻む者など存在しない。きっと二人なら世界の頂点すらも……といったところかな?」

「……」


 龍一はその言葉のニュアンスがあまり読み取れなかった。

 英語は話せるとはいえネイティブではない。

 AI翻訳されているとはいえ、言葉をそのまま受け取るなら褒められていると思う。

 だがクリストファーの表情はそうではないような気がしたからだ。


 そして会話は終わりバッターボックスに立つクリストファー。

 龍一はそれを見て蒼太にサインを送った。

 内角低めにカーブ、昔から様子見で投げるときの安パイの球。

 

 龍一は後ろからクリストファーを見る。

 第一打席でも思ったが、バットの握り方も打席での立ち方も素人同然。

 問題ない、俺達なら問題なく打ち取れる。


 サインを受け取った蒼太は頷き振りかぶり、手を振った。

 

 その瞬間だった。



 ――ぞわっ。



 突如龍一の全身に痺れるような寒気が走る。

 思わず目を見開きクリストファーを見る。

 するとバッドの握り方も、立ち居振る舞いも完璧で、あまりに雰囲気を出す強打者が其処に立っていた。

 その時龍一は先ほどまでの行動がブラフだと気づいた。

 だがもう遅い。


「怖いもの無しのルーキーへ先達せんだつからのアドバイスだ。勝利の女神は相手を侮ったものには決して微笑まない」


 蒼太の腕は振り切られようとしている。

 そしてクリストファーは鷹の眼のような鋭い眼光でそれを見つめ言った。

 

「そして君達が思っているよりも……」


カキーーン!!


「――世界は広い」


 完璧なスイング、弾丸のように飛んでいく白球。

 それを見ることすらできない蒼太は、何度も食らってきたあの最悪な気分を味わっていた。


『ホームラン!!』


 ほんの少しの心の隙を完璧にまで捕らえられた一撃。

 龍一と蒼太は放心するように立ち尽くす。


――――コメント――――

・うわぁぁぁ……

・入っちゃった…………。

・失投?

・いや、俺はいい球に見えたけど。

・THIS IS LEGENDS

・なんでも超人かよ。

・ひぇぇぇぇ……

・で、でもまだ2-1!! 2-1!

・俺野球やってるけど、スイング完璧すぎん?

・さすがに経験者だよな? さすがにね?

・世界広すぎワロタ。

――――――――――――


 ゆっくりとダイヤモンドを一周してきたクリストファーに龍一は、苦笑いしながら皮肉を言う。


「騙されましたよ……一打席目はブラフですか?」

「ははは、違うさ。あの一回で調整しただけだ。打ち取ったのは君達の実力だよ」

「……その一回で調整したなんてふざけるなって感じです」

「……だが君達が気を抜いたのは事実だろう?」


 クリストファーは龍一の肩を優しく叩きながら言った。


「お節介焼きからもう一つアドバイスだ。全てを死ぬ気でやらねば世界など取れはしない。君も、彼もな」

「――肝に銘じて起きます」


 騒然とするコメント欄、たった一球ですべての流れを断ち切る一撃。

 

 勝負ごとに流れがあるのは当然だが、その一閃は全ての流れを引き寄せる。

 それからも蒼太はマウンドに残ったが、一度崩れたら立て直すのは難しくヒット三連続。

 気づけばノーアウト、満塁の大ピンチ。

 

「……ふぅ」


 蒼太は落ち着けようと息を吐いた。

 昔から崩れやすい部分はあることを龍一は知っている。

 コーチにも課題はメンタルで、いかに気持ちを乗せれるかだと言われた。

 

 今は明らかに集中を欠いている。

 見かねたチームメイトの大福がタイムを取ろうとした。

 だが、龍一が止めてその場で敵味方関係なく全員に聞こえるような大きな声で叫んだ。


「蒼太! くっそきついな! 大ピンチだ! さすがNo1。やられたよ!!」

「……他人事みたいに言いやがって……おい! お前のリードなんか変だったぞ!!」

「そりゃそうだ! こうなるためにやったんだからな!」

「……はぁ?」


 だが相方から返ってきた言葉は、この状況すらも計算の内だという。


「もし今から全員三振させたらどうなると思う!! ほら、バカな頭で計算しろ!!」

「……てめぇ」


 そういわれてムカつきながらも目を閉じて計算を始める蒼太。

 1番のクリストファーに打たれて、連続三人ヒット。

 次は5番バッター、もし全員三振すれば7番まで打ち取れる。


 なら最終回はどうなる?


 8番アウト、9番アウト……そして一周回って最後は1、つまりその相手は。


「……勝ちっぱなしであの人、国に返していいのか?」


 世界最強、クリストファー・ガーフィールド。

 蒼太と龍一は、アメリカサイドのベンチを見る。

 腕を組んでいる最強は、その燃えるような視線を返した。

 

「リベンジしようぜ。てっぺんに。俺達二人で、頂点に!」

「――それ最高」


 その三人共が笑っている。

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