第52話 日米配信者イベントー4
東京ストリーマーショーは始まった。
ルールを説明しよう。
ゲームをする。順位に応じてポイントがもらえる。
すると日本チームとアメリカチームにポイントが合算される。
つまりこれは日本VSアメリカという構図のようだ。
勝った方のチームには、豪華黒毛和牛のすき焼きセットが送られる。滅茶苦茶うまそう。
「それでは張り切ってまいりましょう! 最初のゲームは!! 『ただ上へ!』 です!! では選手の皆さんはログインを! フィーバー社長。後はお願いします」
「では、ここからはラヴァー選手もプレイヤーに戻りますので。ライブスター代表の私が司会を務めさせていただきます。フィーバーです。はじめまして!」
司会が変わり、俺達はそれぞれ準備を始めた。
ユリカゴからのファントムでのログインは初めてだが、快適だな。
最初に選ばれたゲームは、少し前に大人気になった障害物競走の空に昇っていくバージョンとでもいうべきゲーム。
プレイヤーはVR世界に入り、様々な障害物をパルクールで超えながらただ上を目指していくゲームだな。落下した時は普通にちびりそうになる。
ふふふ、だがこのゲームのタイトルを聞いた瞬間、俺は勝利を確信した。
なぜならこのゲーム、既に俺はクリア済みよ。すまんね、雑食系縛りゲーマーがいきなり一位とらせてもらっちゃって! プロゲーマーといえど縛りゲーマーには勝てないことを証明しなくてはな。
そして仮想世界に俺達日本9名、アメリカ9名の合計18名は降り立った。
【レディ! ゴ!!】
開始の合図、俺達はそれぞれ登ろうと……レイレイさん? なんで俺の足を掴んでるんですか?
「一緒に昇ろ!」
「恐怖のゆとり世代!!」
おてて繋いでみんなでゴールはこの世界では許されないんだよ! くそロスった! ええい、離せ、レイレイ!
ってか全員うめぇ! さすがプロ集団といったところか。もう見えなくなってきたぞ。
「あぁん!」
「世の中弱肉強食じゃけーの! あばよ、レイレイ!」
「も、もう! すぐ追いつくんだから!」
全世界に今の醜態を晒しながら俺は駆け上がっていく。
途中で大福さんが空から落下してきて、サムズアップしながらウィンクと共にどや顔で落ちていったのは思わず笑ってしまったが俺は順調に登っていく。
ブッダさん、ゼウスさんを超えた先。
そこには必死に壁をロッククライミングしてる我が友、龍一がいた。
「あばよ、とっつぁん!」
ので頭を踏んで煽っといた。
煽りは挨拶! ただし気心知れた相手に限るぞ! 野良でやるのはマナー違反だからな!
「あ、てめぇ! 蒼太、お前絶対経験者だろ!」
「がはは! 得意なゲームばっかりやらずに見識を広めたまえよ。プロゲーマー! 例えば縛りプレイするとかな! ほいほいほいっと!」
そのまま俺はスイスイと昇っていく。
うん、良いペースだ。このままノーミスなら間違いなく一位では? いやーいきなり俺何かやっちゃいましたか? がでちゃうか!
プロゲーマー? いえ、ただのアマチュアですけどね。え? もしかして俺が一位ですか? あはは! 運がよかったですね! よし、勝利者インタビューはこれでいこう。
今日は時間制限があるので頂上まではどうやってもつかないが第一ステージの終わりがゴールラインとなっている。
大体そこまでノーミス最短10分といったところ。うん、10分は切れないが制限時間の12分以内にはギリギリ到着しそうかなっと。
『タイムアップ!!』
その文字が表示された瞬間、俺は第一ステージのゴールへとよじ登った。
おっしゃ、ギリギリゴール! 俺がNo1だ……と思ったのだが……。
「ははは、まじかよ。もしかして二人ともこのゲームやりこんでます?」
「さすがだね、ブルー。もう緊張は解けたかい?」
「お前が勇者ブルーか。動画はみた。少し興味があったんだ……面白いプレイをするな」
そこには先着が二名いた。
変態仮面こと日本最強、ラヴァーさん。
そして、やはり別格か。世界最強、クリストファーさん。
あ、ちなみにAI翻訳で英語はリアルタイムで日本語になってるので普通に会話できる。
そしてゲーム画面が終了し、俺達はリアル世界へと戻ってくる。
ラヴァーさんが登壇し――忙しいな、あの人――順位発表。
そしてその結果、一位ラヴァーさん。11分32秒。同じく一位クリストファーさん、11分32秒。
三位、俺。12分00秒。
くそ、レイレイのせいだな。あれがなければ……でも30秒か。それでもギリギリか? ってかこの人達このゲーム初見だよな。
さすがVR世界での体の使い方が完璧って感じか。
そしてなんと4位から11位まではヘラクレスゲーミングが独占。
日本チームはポイント的には大きく離されてしまった結果となる。
ゲームに関してはあちらの国の方が今だ世間一般的に権利を得ており、プロゲーマーの数も豊富。
そういう意味では日本よりゲーマーの社会的地位は一歩進んでいるとはいえ、さすが米国トップレベルのプロゲーマー集団。
龍一も負けたのか……あ、俺が踏んだせいか? いや、関係ないか。
多分俺に追いつこうとして無理なプレイしてミスったな。
その後も多くのどちらかというとパーティーゲームで見る人も楽しめるようなお祭りゲームが進んでいく。
思ったよりも緊張を忘れて楽しめていた俺は、やはり生粋のゲーマーなのだろう。
雑食で手当たり次第にゲームに手を出していたこともあり、俺はプロ相手にも有利に戦えているようだ。
たまに勝利者インタビューされてちょっと噛みながらもボケて会場を沸かせたりと、意外とうまくやれているのかな。
こんな俺にもファンと呼べる人が何人かいるようで、ありがたい限り。
~お昼休憩。
「お疲れ、みんな! イベントは大成功中! 同接は90万の大台に乗った!!」
「おぉぉぉ!!」
昼休み、控室でフィーバーさんがイベントの成功を称えてくれた。
高級焼肉弁当が差し入れで入り、俺達は少し豪華なランチとなった。
「あれ? レイレイは?」
「ほら」
すると龍一がスマホを見せてくれたが、どうやらこのイベントの配信のようだ。
そこにはレイレイが別室で某有名宅配サービス『出前飯』で頼んだ弁当の食レポ? をしていた。相変わらず良い笑顔で飯食うな。
「あいつここがメインのスポンサーだからさ。CMもでるんだとよ。大手だし、結構売れてるな」
「まじめに仕事やってんなぁ……」
食レポもできる殺人鬼、でもなんだろう。
最近一緒に過ごしたせいか、俺は猟奇的サイコパス以外の感情をレイレイに感じていた。
真っすぐで素直。
思ったことをすぐに口に出す直観で生きているような……でも俺は案外レイレイとの日々は嫌いじゃなかった。
底抜けに明るいというか、感情に真っすぐすぎるというか。
「へいへい! もう少し手抜いてやろうか!」
すると突然、控室を開けて現れたのは、ヘラクレスゲーミングの一人。
ドレッドヘアでサングラスをした厳つい男、確か名前はバレッド。
今俺の次なので4位だったはずだ。
「エンタメなのに、一方的でちょっと悲しくなってくるからよ! 俺は日本が好きだからな! ほら、日本語もしゃべれる! もう少し手抜いてやろうか?」
そういえばAI翻訳もせずに流暢な日本語だ。
かといって煽っていいとは言わないが、しかし日本が今しっかり負けているのも確かな話。
「つまり八百長ってことだよ! その方がリスナー達も盛り上がるだろ! なぁ! お前らが弱いから仕方なく提案してやってるんだぜ!! はは……いてぇ!?」
煽りに煽って龍一あたりがそろそろ切れそうになった時だった。
後ろから小突かれたバレッドは頭をさすりながら後ろを向く。
「クリストファーさん……でも俺はこのイベントのことを思ってやってですね……」
『お前はいつも品位が足りない。……失礼した。日本のストリーマー諸君。一応は良かれと思ってだと見逃してやってくれ。ほらいくぞ!』
「ドラゴン翻訳、起動! ハリアップ!」
「…………悪かったってよ」
AI翻訳を使わずとも英語が喋れる龍一が翻訳してくれた。
一応は謝ったようだな、そのままクリストファーさんに連れていかれてバレッド達は出ていった。
だが去り際に、クリストファーさんが静かな声で言った。
『だがもしも……必要なら相談してくれ。私達もできればイベントの成功を願っている。これは真剣勝負ではないエンタメだからな』
バタン。
「……なんて?」
「…………手を抜いて欲しかったら言え。抜いてやるだってよ」
龍一の言葉が控室にいた全員に聞こえる。
それは事実上の勝利宣言と同義であり、舐めまくられたのと同義であった。
するとラヴァーさんがくふふと笑いだす。
「くふ♥ いいのかい? みんな。僕とクリストファーが同点。時点でブルー。だがそれ以外は全員が負けている。彼らの言っていることは事実だ。このままだと勝負が決まったまま消化試合を視聴者達に見せることになる。それも日本開催で日本の負けとしてね」
立ち上がりながら両手を広げてもう一度問う。
「いいのかい? そんな姿をファンに見せて!!」
「フゴフゴ、それは嫌だね」
「舐められっぱなしは流石に許せんで! 金払ってきてくれてるみんなにも申し訳たたん!」
「俺もです。ちょっと気いぬけてました。反省です」
どうやら今の言葉で全員のゲーマー魂に火が付いたようだ。
もしかしたらこれすらもあの人の計算なのかな? でも良い流れのような気がする。
メラメラとゆるかった雰囲気が一変し、全員が本物のプロの顔になっていく。
これならいけそうだ。
ちょっと雰囲気堅そうだけど。
「お疲れ様でーす! 食レポ終わりました! あれれ? なんかみんな雰囲気違うくない? 笑顔笑顔!!」
「……お前をがいるとなんか安心するよ、レイレイ」
「え? ブルー君、私のこと好きってこと?」
「そのお花畑具合は好きだよ」
~お昼明け。
俺達日本チームは快進撃とも呼べるほどにポイントを稼いでいった。
適当にしていた声かけも、真剣に勝つために行い、点数を稼ぐために時には味方が犠牲になるなど完全にチームとして動き出す。
最善を尽くす行動をとりだす。
そこはやはり一線で活躍するプロゲーマー、スイッチが入るとやはりものが違う。
接戦に次ぐ接戦。
ただのパーティーゲームが、ここまで白熱すると誰が思っただろうか。
日本チームが全力で勝とうとしているという熱は、やはり配信を通じて真っすぐと視聴者達に届いていく。
その熱はなんとなしに応援していた視聴者達の応援にも身が入るというもの。
どちらの国が勝つのかとヒートアップ、だが日本に勝ってほしいとコメントが荒れるように盛り上がっていく。
そしていよいよ、最後の種目。
「それでは! ただいまの得点を発表します! 日本1250ポイント! アメリカ1300ポイント! なんと午前中の300ポイントの差から一転! 50ポイント差!! 最後の競技は勝者に100ポイントとなりますので、これは素晴らしい! このゲームの勝者こそが今日の勝者に決定します!」
まるで台本のようなシナリオだ。
だが俺達当事者はそうでないことは知っているし、フィーバー社長がそんなことをさせるわけもない。
ギリギリの戦いが生んだギリギリの勝負。
勝敗の行方は最後の種目に託された。
そして最後の種目は。
「最終種目! やはり日本とアメリカが戦うといったらこのスポーツしかないでしょう! ゲーム名は!」
これまたとってつけたような。
「――
シナリオだな。
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