第51話 日米配信者イベントー3

 とりあえず怖いので、俺達は控室に戻ることにした。

 ラヴァーさんはまだ何か打合せとかがあるようで、一旦別れることとなる。


 なんか……こう……とんでもない人だったな。

 

「お疲れ様で――す」


 レイレイが元気よく控室に入る。

 すると同じようにお疲れ様ですと言う声が帰ってくるが、見渡せば見たことある顔が何人もいる。

 超有名配信者からプロゲーマーまで、たくさんの有名人が今日のイベントのために集まっているようだ。


「ではレイレイさん。こちらでメイクお願いします」

「はーい、お願いしまーす。じゃあね、ブルー君、ドラゴン先輩」

「あぁ」

「あれ? 朝メイクしてたのに?」

「プロにしてもらうの! ブルー君もするんだよ?」

「男なのにするのか?」

「ふふ、時代遅れ? じゃあまたね!」


 そういってレイレイは行ってしまった。

 その後龍一が呼ばれて、俺も呼ばれることになる。

 メイクルームで言われるがまま座っていると、丸坊主だが個性的な……なんというか……ピチピチの服を着たやけに所作が美しいおっさんが現れた。


「あら、あなたブルー君ね。配信みたわよ。はじめまして、スタイリストの早乙女です」

「なんというか……想像通りですね」

「じゃあ早速始めちゃうわね! お任せでいいわよね?」

「糞イケメンにしてください! 龍一ぐらい!」

「……うふふ、素材的に無理」


 その後メイクをされたがなんか糞イケメンにでもしてくれるのかと思ったがどちらかというと顔色が良く見えるなというような化粧だった。

 まぁビフォーアフターしても仕方ないし、髪をセットしてもらっただけで大分印象が変わるな。


 その後控室に戻るとレイレイと龍一も戻っていたが、誰かと話している。

 歯に衣着せず言えば、デカい。

 横にデカい、つまり太っている。

 パイプ椅子から尻が半分以上はみ出しているし、今もポテチ片手にぼりぼりとうまそうに食べていた。

 魔法少女っぽいアニメTシャツを着ているが、魔法少女が可哀そうなほどに横に伸びてデブってる。

 

「あ、ブルー君! 凄い良い感じ! かっこいいよ!」

「悪くないんじゃね」

「顔面偏差値壊れてるお前らは俺に近づくな。俺を引き立て役にするんじゃない。で、えーっと……」


「フゴフゴ!! 初めまして、ブルー君! 僕はたらこ唇! 会えてうれしいよ、あ、ポテチいる?」


 フゴフゴと笑う巨漢の男は、プロゲーマーのたらこ唇さんだった。

 体形はちょっとまぁあれだが、龍一の先輩で天空のトワイライトもやってるらしい。


「今日はね、ライブスター+その他VSジャパンeスポーツって構図だからね。僕らは仲間だよ! よろしくね!」

「あ、そうなんですね」


「でも敵ってわけやないけどな!」


 するとたらこ唇さんの肩を叩くにやっと笑った八重歯が可愛い女性がいた。


「あ、大福ちゃん。ポテチ食べる?」

「開口一番ポテチって! お前はいい加減痩せぇ! なんやこの腹!! おらおらおらおら!! 引きちぎったろかぁ!」

「いててて! 脂肪にだって痛覚はあるんだよ!!」


 なんかすごい元気な人だと思ったら、プロゲーマー兼配信者の大福さんだ。

 年は20代ぐらいの姉貴という感じでショートカットのボーイッシュ美人。

 短パンにTシャツと健康的なスポーティーで、気持ちの良い笑顔の人だった。


「初めましてやね。私はジャパンeスポーツの大福や。御三方とも、噂はかねがね。特にブルー君。動画みたで。かっこええやん。ゲームもうまいし」

「ありがとうございます! 大福さんも生で見る方が美人ですね!」

「あはは! お世辞も行けるねんな! …………なぁ自分、彼女おんの?」

「全力で募集中です!」

「はいはいはい! 私!! 私!! 私が立候補します!」

「シャラップ! サイコパス猟奇殺人鬼!」

「……しゅん。最近冷たい」


 横で泣いているレイレイはウソ泣きだし、俺をからかって楽しんでるだけなので無視しておいて、大福さんはなんというかちょっと大人の甘えたくなる姉という感じ。

 口調は奥歯がたがた言わしたろかって感じの荒々しさはあるが、そういう配信スタイル……というわけでもなく元々の性格がそうみたいだ。

 

「私も最初はうちとライブスターの対戦って構図やと思ったけど、どうやら今回は国対抗戦っぽいで。アメリカさんとのな。あ、一応うちの身内紹介しとくな。あれがブッダ、あれがゼウス、あれがフェイク。全員中二病や」

「ひどい自己紹介だな……」


 まぁ確かにプロゲーマーの名前は少しかっこいいぐらいがちょうどいいと思う。

 男はいつだって中二病なのだから。

 すると控室端で煙草を吸う三人の男がこちらを向いて手を振ってくれているので、俺達は頭を下げた。

 どうやら高校生は俺とレイレイと龍一だけであとは全員年上のようだな。


 参加者はここにいる合計9名、全員のチャンネル登録者数合わせれば3000万人にも達しそうなほどの有名ストリーマーばかり。

 俺が参加者の顔と名前を一致させていると扉を開けてアフロ社長こと、フィーバーさんが入ってきた。


「おはよう! 輝かしきストリーマー諸君! 今日はみんなで視聴者達に夢を魅せてくれ! さぁステージの準備が整った! 移動を開始しよう!」


 どうやら時間が来たようで、俺達はそのままスタッフさんに言われるがままに案内される。

 

「ふふ、緊張してる? あ、手繋ごっか?」

「子供か」

「いつも通りやれよ。あ、でも服は脱ぐなよ」

「わかってるわ!」






 

「レディース&ジェントルマン! 紳士淑女の方々! 本日は配信者達によるゲームイベント! 東京ストリーマーショーへようこそ! 本日の司会は私、ラヴァー!が担当させていただきます!! 私がプレイ中は、わが社のCEO! フィーバーに交代させていただきますので、ご来場者、並びに御視聴者の皆様方! よろしくお願いいたします!」


 すると聞こえてくるのは、ラヴァーさんの声。

 なんとあの人、プレイヤー兼司会進行までやるらしい。

 自分がプレイするときは、フィーバー社長が代わりに司会をやるとのこと。

 なるほど……司会者が濃い……でも視聴者は嬉しいだろうな、ラヴァーさんはあまり配信をしないが人気は最強レベルだからな。


「それでは一人ずつ入場していただきましょう! ジャパンeスポーツから! ゼウス!!」

「「おおおおお!!!」」


 一人ずつ呼ばれ、拍手喝さいの中来場者達が座るエリアまで伸びたランウェイを歩いていく。

 うわ、やべ、めっちゃ緊張してきた。

 俺の時拍手無かったらどうしよう。

 龍一が呼ばれてランウェイを歩く姿は、やはりモデルか。すました顔しやがって。

 拍手よりも黄色い声がすごいな。あいつ女性ファン多いしな。


「みんな、元気! レイレイだよ!!」

「うぉぉぉぉ!! レイレイちゃーーん!!!」


 レイレイも元気よくランウェイを飛び跳ねて手を振っている。

 さすがの熱量。

 会場の気温が2度ぐらい一気に上がったな、オタク雲が発生しそう。

 

 そしていよいよ、俺の番。


「あ、やべ。足フルエル……」


「そして最後の一人! あの神回をご覧になった方も多いでしょう! 急遽参戦! 我らがライブスター、期待の新人! 勇者ブルー――!!!」


 俺はガチガチになりながら前に出る。

 うひゃー、人の数やばすぎ!! なんだこれ。

 拍手されてるんだが、何も聞こえない。

 頭が真っ白になりながらガチガチの体で前に進んでいく。

 あ、やばい。こけそう……。


「おっと……安心して、ブルー。僕がそばにいるよ」


 すると緊張してる俺を感じてかラヴァーさんが隣にきてくれた。

 肩を組みながら一緒に手を振りながら歩いてくれる。

 ふわっと香る甘い匂いが、真っ白だった世界を現実に戻してくれた。

 

「ほら、ワントゥーワントゥー右左右左。くふっ。すぐに慣れるさ。君はスターだからね」

「ラヴァーさん……はい!」


 落ち着きながらランウェイを歩き、先頭付近。

 すると想像以上に会場が良く見えた。


「さぁ、もう大丈夫だね。この拍手も視線も声援も! 今は全て君のものだ。さぁ! ファンのみんなに目一杯の愛を伝えておいで!!」


 そういって俺の背中を押すラヴァーさん、俺は一人ランウェイの先頭を歩く。

 なんだろう、さっきまで緊張していたのに今は会場が良く見える。

 俺が手を振ると、会場中に響いていた拍手喝采が、もう一回り大きな波となって声援とともに会場を満たす。

 

 これがスターの気分か。

 すごいな……なんというか、気持ちいい。


 ゆっくり戻っていき、俺のために用意されていたユリカゴに座った。


「ガチガチだったな、ラヴァーさんにありがとうって言っとけよ」

「あの人、ほんとに良い人だった……」

「ブルー君、スターって感じだったよ!」

「あはは……お前ら慣れてんな」


「えーそれでは。日本選手の紹介は終わりました! ただいまから遠くアメリカから海を渡って来日したアメリカプロゲーマーチーム! ヘラクレスゲーミングの紹介です!」


 会場がざわめくし、俺達何も知らない出演者もざわめく。

 ヘラクレスゲーミングといえば、世界的にも有名なアメリカのプロゲーマーチーム。

 フィーバー社長が金かけたといってたが、ほんとに滅茶苦茶お金かけたんだな。出演料相当高かったはずだぞ。

 次々と呼ばれて入場していくヘラクレスゲーミングのプレイヤー達、俺も知っている人が多くいる。


 だが、やはり彼だろう。


 この会場にいる全員が知っている。

 

 いや、ゲームをしている人なら彼を知らないものはモグリだ。


 俺だって彼の動画を何度も見て、感動し、勉強し、吸収しようとした。


 俺達の世代にとってはまさしく伝説、憧れの男。


「そして最後は、やはりこの男でしょう! くふっ、やっぱりオーラが違うねぇ……世界最強の名を欲しいままに! Mrレジェンドこと格ゲー界の王! クリストファー・ガーフィールド!!」

「わぁぁぁぁぁ!!!!」


 今日一番の大歓声の元、その男は真っ白なスモークの中から入場した。

 そこから現れたのは金髪碧眼のイケメンおじ。


 年は既に30を超えたらしいが、それでも十年以上プロゲーマーとして最前線でトップを張っている。

 鋭い目はまるで鷹のようで、黒のジャケットを着たハリウッドスターのみたいなかっこいい人だった。


「それでは役者も揃いましたので、ただいまより東京ストリーマーショーを開催いたします!!」

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