第50話 日米配信者イベントー2
日曜日、早朝。
今日は、日米配信者イベント当日。
「じゃあ、愛理。黒豆。いってくる!」
「うん、今日は黒豆ちゃんとずっとここでイベント見てるね!」
「ワンワン!」
「おう、活躍してくるわ!」
天空のトワイライトのクラン『天野家』を後にして、俺は現実世界へと戻っていく。
顔を洗って、今日は少しだけおしゃれな服。といっても俺が選んだわけではないんだが……。
「うん、良い感じ! 今風の高校生らしくて爽やか系! ブルー君はこういうのが裸の次に似合うね! さすが私のセンス!」
「さすがに裸でイベントに言ったらフィーバーさんに迷惑かけるからな」
朝起きたらレイレイがいる日常にも少し慣れてきてしまったのが悔しいが、早朝6時。
朝飯を食べて俺達は準備を終えた。
「うはーー。太陽まぶしぃ!! この時間に外出るの久しぶりだな……じゃあ。いくか!!」
「おぉーー!!」
そして俺とレイレイは、二人で今日のイベント会場へと向かった。
レイレイは相変わらずなぜかセーラー服なのだが、これが配信者としての制服らしい。
カシャッ。
「ん?」
何か後ろからシャッター音みたいなものが聞こえたと思ったが、なんだ?
振り向いても誰もいなかったが……。
「どうしたの? ブルー君」
「いや、なんでもない……(気のせいか)」
イベント会場、幕張メッセ。
「出場者入り口は……あ、あっちっぽいよ! すごいおっきいね!」
「まじか……俺はてっきりもっと小さいイベントかと……こんなデカい箱でやるのか?」
会場についた俺は初めての幕張メッセを見渡す。
デカい。
俺はもっと小さな会場でこじんまりしたのをイメージしていたんだが……昔父さんといったプロ野球のドームかと思うほどにデカい。
「ははは、今日2万人以上お客さんくるんだよ? 小さいわけないじゃん」
「数のイメージが全然できてなかった。やばい……緊張してきた」
「あはは、ブルー君って緊張とかするんだ」
そして俺達は出場者入り口から入り名前を伝えると、スタッフさんに会場に案内された。
中では何人ものスタッフさんが所狭しと慌ただしく行き来しており、今日のイベントが遊びでないことが如実に伝わる。
スタッフだけで100人近くはいるだろうか。滅茶苦茶金かかってんな。
「うわぁーー。中はもっとすごいね!」
「まじか」
外から見るよりも中から見た方がずっと広く感じる巨大な会場。
パイプ椅子が本当に万を超えるほど用意され、壇上にはおそらくは出場者用の……ユリカゴ? ユリカゴ!? あれ全部!? 30個ぐらいあるぞ!?
「すげぇ! 一個200万はするユリカゴだぞ、レイレイ! 今日あれ使えるのか!?」
「すごいね! 私も欲しいと思ってたんだ!!」
フルダイブ専用可動式ベッド――通称ユリカゴ。
まるで卵型のカプセルのような見た目の可動式ベッド。
フルダイブは普通はベッドで寝ながら行うのが基本だが、長時間すると特定の箇所にのみ圧力がかかり体を痛める恐れがある。
そのため最大でも24時間と推奨されているのだが――まぁ守ったことはないけどな!――そのために開発されたのがユリカゴだ。
体の負担を最小にするために、最新技術が取り入れられており一台なんと200万円なり! ちなみにアテム製です! やばいね、アテム。なんでもやってるわ。
「ヘイヘイヘイ! お疲れ! ネイキッドボーイ! デンジャラスガール!」
すると聞いたことのある陽気な声がした。
「あ、フィーバーさん! お疲れ様です」
「本日はお招きいただきありがとうございます。精一杯頑張らせていただきます」
「え、お前敬語とか使えるの?」
「あぁ! 私のことバカにしてるな!」
レイレイがアフロ社長に想像以上にきっちりと挨拶をしたが、実はこいつも常識はあるけどあえてフル無視するタイプか?
ってかCM決まってるとかいったし、意外としっかり仕事してるのか? このサイコパスが? うっそだぁ。
「ははは、今日は盛り上げてくれよ。蒼汰君、レイレイ君! チケットは完売御礼! おそらくネット配信も同接100万いくだろう! 二桁億は準備にかかってるイベントだからな! いや、まじで成功して……失敗したら会社傾く……」
「まじですか……すげぇ」
「がんばりまっす!」
結構適当に二つ返事でOKしてしまったが、配信者としてぺーぺーの俺が出ていいものなのだろうか。
今日の開始は10時開始の18時終了の8時間ほどのイベントらしく結構な長丁場だが、内容は事前に明かされていない。
俺達のプレイヤーとして事前知識なくリハーサルもなしで、ライブ感を出したいとのこと。
基本的にはゲームをするのだろうが、緊張するが普通にワクワクもするな。
「まだ時間あるけど、控室いく?」
「そうだな……他の出場者は……ん? お、あれ龍一じゃね?」
すると遠くに誰かと話している龍一が見えた。
なんだ、ついてるなら言ってくれればいいのにと俺は龍一の元へと向かった。
「海外はどうでしたか、ラヴァーさん。また大会荒らしてきたって」
「HAHAHA! 人聞きの悪いことをいうじゃないか! 楽しかったよ。でも少し不完全燃焼かな。好みの味はいなかったよ。君みたいにフレバーな香りのする子はね」
「あ、あはは……」
龍一が誰かと話してると思ったら……え? 変態?
全身ピチピチの赤いタイツを着て、真っ赤なバラの絵柄の銀色のベストを着ている。
髪すら真っ赤でオールバック、だが顔は見えない。目だけ隠れるような貴族っぽいお面、確かベネチアンマスクというものをしていた。
一言で言うと、変態仮面。
「ラ、ラヴァーさん…………」
俺は龍一と話しているその人を見て思わずつぶやいた。
日本でゲームをしている人なら誰だって知っているその名前。
愛戦士、謎の仮面、変態……様々な呼び名がある彼は、日本最強のプロゲーマー。
配信活動はほとんどしないが、たまにするだけで同接数が常に一位まで跳ね上がる化け物プレイヤー。
名を『ラヴァー』、だが一番呼ばれるのはやっぱりこのあだ名。
「あぁ! 変態仮面様!」
「ん? 君は……レイレイと……くふっ♥ ブルーじゃないかぁ。そうか、君があの動画のブルー……会いたかったよ。ブルー」
「は、初めまして!」
するとラヴァーさんは、仮面ごしに笑顔で俺に向かって手を出した。
握手かと思ったので、俺は手汗を拭いて、それに応じた。光栄です!
その瞬間だった。
「え!?」
突然引っ張られたと思ったら、まるで社交ダンスの決めポーズように俺は腰を持って倒された。
俺の目の前にはラヴァーさんの仮面、え? キスされる? 嘘でしょ?
「テイスティングターーーイム!!」
「へえ? どういう……」
「あ、それ。ぺろりんちょ……」
「ひぃ!?」
耳を舐められた!? え? 舐められたの今!? 俺の耳舐められた!?
いや、もう舐めたと言うかかじられた!?
「こ、これは……」
するとフラメンコポーズから俺を戻したかと思うと、いきなり震えだすラヴァーさん。
自身の体をぎゅっと抱きしめてほほを赤くしてわなわなと震えだした。え、どうしたんですか? ちょっと怖いんですが。
「これは……これは、これは!! これは!!!」
そして突如、馬鹿ほどの声量で叫び出す。
「フレバァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「ひぃ!?」
会場中が一体何がとこちらを見るが、叫んだのがラヴァーさんだと気づいてすぐに視線を戻す。
いや、おかしいでしょ。人の耳舐めといてフレバーってどういうこと? 怖いんですが。
「な、なんというフレバーな闘争の味!! 甘さの奥にはほろ苦いビターな味が隠れていて、まるでそう! ビターチョコレート!! 甘さと苦みが同居して、より一層深みへと沈んでいく。かと思ったらそのさらに奥に眠るは荒ぶる獅子!! 闘争の味! エゴイストの味! 誰よりも何よりも、自分が一番だと信じて疑わぬ芳醇な闘いの香り!! 初めてだよ、ブルー! ここまで僕の好みの味は君が初めてだよぉぉぉ!!! 実にエクセレントでフレバーだぁぁぁ!!!」
「龍一、助けてくれ。俺は今心の底から恐怖を感じている」
「ラヴァーさんは変だけど、悪い人じゃない。変だけど……変態だけど……」
俺は思った。
なんでこの界隈変態ばっかなんだろうか。
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