第49話 日米配信者イベントー1
ジュージュー。
食欲をそそる軽快な音。
香ばしい焼肉の匂いとさぁ私を食べてと起立する白米ちゃんが俺の鼻孔を貫いていく。
結構良い肉買ってきたな。
「ほんとにドラゴン先輩とリアルで友達なんだね!」
「…………あぁ。というかなんでお前がいるんだ」
「ブルー君の家でラブラブ同棲中です!」
「はぁ?」
「真に受けるなよ」
どうやら二人は知り合いだったようだ。
というか案の定、昔レイレイが天空のトワイライト内で龍一に突撃したらしい。
しかも不意打ちで、背後からの暗殺者の一撃クリティカル。
龍一は死んだ。
その時結構大事なアイテムをロストしたらしくまぁこんな感じになっている。
「まぁまぁ、お代官様。お肉でも食べて機嫌を直していただいて! おいレイレイ! お前も謝っとけ」
「ごめんね、ぶっ殺しちゃって♥」
「はぁ?」
「それは謝罪ではなく、煽りといいます」
なんでこの子はこう……言葉が足りないのか。
やはりブチギレ大魔王となった龍一がレイレイを睨む。
「お前あれで俺に勝ったと思うなよ? アイテム確認してたらいきなり背後からぶっ刺しやがって。無効だ、あんなの」
「ドラゴンせんぱーい、常在戦場って言葉知ってる?」
ブチッ。
あぁ、俺よりも負けず嫌い極まる龍一にそれは悪手です。
何かが切れる音とともに、次の言葉も予想できた。
「ファントム、持ってきてるんだろうな?」
「ふふ……私とヤリたいの? ヤリたいならヤらせてくださいってお願いできたら……優しくやってあげる♥」
「殺す」
「あぁ……なぜゲーマーとは争う運命にあるのか……アーメン」
ぶちぎれた龍一と煽りまくるレイレイ。
俺はそれを肴に焼肉を美味しくいただきます。うま、この肉。今のうちに全部食ったろ。
そういって二人はファントムを装着して、意識をあの世界に飛ばしていく。
フレンドの決闘は、配信してなくても観戦できるのは良い機能だなと、テレビをつけてぽちっと。あ、始まった。
ってもレイレイが龍一に勝てるわけもないだろうが、特殊勝利はかましそう。
100回やれば99回は龍一が勝つだろうが、たった一回はやられたと思わされる負け方をさせる。
それがレイレイの怖いところだ。
勝利するためなら口にナイフ仕込んだり、丸一日地面に埋まってたり、一週間ぐらいフレンドみたいに親しんでから背後から殺すとか、狂気のプレイをするからなこいつ。
プライベート配信では案の定、龍一にボコられているレイレイ。
しかし、二人を見てるとなんか歌舞伎町でバックレたらホストに殴られている地雷系ファッションの女の子って感じだな。
女を殴るイケメンか、それでもイケメンは許されるのだからやはり顔。あ、レイレイが死んだ。
何か見てると俺もやりたくなってきた。
久しぶりに龍一にも稽古つけてやりますか!
そして俺も焼肉をかっこみ、ファントムを装着した。
今日こそは夜に寝ようと思っていたのに……。
……
ピヨピヨ。
小鳥がさえずる早朝、燦々と降り注ぐ真夏の太陽が俺達を照らす。
気だるそうな顔で俺達三人はリビングで、なぜあんな時間をと後悔していた。
「龍一、俺は今日こそは夜に寝れると思ってたんだ。なのになんでもう朝なんだ?」
「…………俺も昼からモデルの撮影なんだが」
「私も今日CM撮影なのに……二人にめっちゃくちゃにされた……私もう膝ガクガク。二人とも体力ありすぎ」
「お前CMなんて出るのか……腐っても売れっ子配信者か。……もはやツッコミ入れる元気もないので、俺は寝る!」
「三つぐらい一気に契約したんだ……人気者は困る。はわわ、わたしもちょっと仮眠」
「……ソファ借りるぞ」
バカなことをやったと思うが、まぁ高校生なんてこんなものか。
結局朝までコースとなり、俺の生活リズムは相変わらず終わっている。
まぁでもこんな日常も悪くないかな。
~数日後。
俺は検査入院を終えた愛理を迎えに行くことになった。
今は病院の先生から結果を聞いていたのだが……。
「……そうですか」
「はい。愛理さんは介護が必要なレベルに達しておりますのでご自宅で難しいようでしたら……介護施設に預けるのが良いでしょう」
「わかりました」
やはり愛理は介護が必要と判断された。
日常生活でも急に倒れることがあり、誰かが近くで見ておかなければいずれ大変なことになるとのこと。
だがこれを見越して、既に手続きはすませてある。
俺は愛理を連れてタクシーに乗り、日本で唯一の石化病患者用の施設へと向かっている。
ここは凛音に教えてもらった場所だ。
石化病はとても珍しい病気だが、生涯発症リスクという一生の中で発症する可能性という指標を使うとは現在300名にひとりという数値らしい。
それも年々増加傾向にあり、この国全体でいうとすでに数万人近くは疾患している。
だからこういった施設もあるのだ、べらぼうに高いけどな。
「ごめんね、お兄ちゃん。迷惑かけて……しかもここ凄く高いんでしょ?」
「それは言わない約束だろ。それに金のことは気にすんな。湯水のごとく入ってきてるわ」
俺は冗談交じりで実は本当のことを言う。
この介護施設、お世辞にも安くはないのだが今の俺の収入と黄金龍の鱗のおかげで普通に入れる状態なのである。
稼いでいてよかった。
場所は都会から離れて緑が豊富な空気の美味しい自然の中。
うん、良い場所だな。
優しそうな施設の職員さんに挨拶して、俺達は部屋に通された。
そこから一緒に説明を受けたが、事前に目を通していた資料と同じ内容通りで、とても快適に過ごせそう。
「では、天野さん。またきますね」
「はい、これからお世話になります」
「お願いします!」
職員さんに挨拶をして俺と愛理だけが部屋に残る。
「ここが今日から私の部屋か、全然今の部屋よりも大きいね……でもお兄ちゃんと離れるのちょっと寂しいね」
「そのために、これを持ってきたんだろ。よし、設定は任せろ。俺も今日は隣でやってやる」
「うん!」
俺がもってきたのは最新機種のファントム。
愛理はフルダイブが初めてだが、今日初めて天空のトワイライトにログインさせる。
どうしてもこれからは、あの世界がメインになっていくことだろう。
でも大丈夫、あの世界は想像以上に現実だし、現実の距離なんて関係ないって教えてくれる。
「すごい……すごい! なにこれ! こんなにすごいのゲームって!?」
「ははは、そうだろ。もはやリアルと何が違うのかもわからん。よし、今日は俺がこの世界を案内してやろう!」
初めて天空のトワイライトの世界に降り立った愛理。
大興奮しているが、わかるぞ。こんなに自由に体が動いて美しい世界他のゲームではあり得ないからな。
「よし、ちょっと地上で遊ぶか」
「うん!」
それから俺と愛理は、地上に降りてゴブリンと戦ったり、綺麗な湖で泳いだりした。
その後スカイディアのリアル店舗のお店でウィンドウショッピングしたり、映画をみたりした。
戦闘ではゴブリンに凌辱されそうな妹は中々絵的にはショッキングだったが、愛理はなんやかんやセンスがあったのか、初心者の癖にゴブリンを一人で倒してしまった。
俺と愛理は何年振りかに兄妹二人っきりで丸一日遊びまくった。
気づけば夕方。
「あぁー楽しかった! 一生やってられそう!」
「やっぱお前は俺の妹だよ」
幸せそうな愛理、心配はしてなかったがこの世界を気に入ってくれたようだ。
この世界は本当になんでもある。
モンスターもいれば、スポーツだってできるし、映画館すらもある。
まるでこの世界だけで生きていくために作られたような世界。
愛理のような現実で生きられない人が世界に取り残されてしまわないように作られたような世界。
リアルのお金すら稼げるのはもしかしたら……そういった意図すら感じるほどに、俺にはこの世界が石化病の人のために作られた世界とすら思えた。
娯楽に溢れ、遊び尽くせないコンテンツに退屈などしない。
日常と何も変わらないように、寂しくないように。
そんな優しい感情すら俺はこの世界から感じてしまっていた。
そしてスカイディアに戻ってきた俺達は、墓守の灯台のクランに向かう。
事前に話を通していた通り、高級マンションのロビーのようなフロントでは凛音と黒豆が待っていた
「この世界では初めまして。愛理ちゃん」
「り、凛音さん! リアルはこんなに美人さんなんですね……す、すごい。モデルさんみたい……」
「ふふ、ありがとう」
実は先日、凛音に直接会いに行ったのである。
その話はまた今度だが、愛理を墓守の灯台に入れて欲しいとお願いした。
快諾してくれたので、そして今日から愛理は墓守の灯台のクランに所属する。
このクランでたくさんの友達ができるだろうと思ってだ。
あと凛音が色々相談に乗ってくれると思ったからもある。なんやかんやこいつ優しいからな。
「じゃあ、これからも愛理を頼むな、凛音」
「ええ、任せてください! 墓守の灯台は石化病患者すべての味方ですから!」
そして黒豆を預かり俺達はクランを出た。
「あれ? どこいくの?」
「ふふふ、今日この日のためにな。俺は頑張ったのだ。なぁ黒豆」
「ワン!」
「ん?」
広大なスカイディア、某夢の国とほぼ同じほどはある巨大な空に浮かぶ島。
その一区画北西エリアは、別名居住エリアと呼ばれ多くのクランハウスが立ち並ぶ。
つまり一般人がレンタルできるエリアということだ。
そう、だから。
「じゃーーん! クランハウス! 天野家でございまーす!!」
「……え? えぇぇ!! クランハウス!? 凄く高いって聞いたことあるけど!? クランハウス!?」
俺は愛理がこの世界で生きれるようにクランハウスをレンタルした。
木造の温かみのある小さなクランハウス、我が家の実家よりも少し小さいぐらいの安物だ。
でも立地は悪くないので月10万ほどのレンタル料がかかる、リアル世界の家賃かよと思うほどにバカ高いのだがスカイディアでの土地は今それほど高騰しているのだから仕方ない。
本当は墓守の灯台のクランハウスに混ぜてもらうのでも良かったのだが、やっぱり女の子だしプライベートは欲しいだろうと思ってな。
「ほら、こっちこい」
俺はドアの前に立つ。
するとウィンドウが表示され、俺の名前しかない所有者に愛理を登録する。
中を開くと、外見と同じように温かみのある暖炉のある木造の家。
お世辞にも豪邸ではないが、とても優しい感じの家だった。
「愛理……まぁなんだ。がんばろ――!?」
「お兄ちゃん大好き!!」
俺に飛びついてくる愛理。
優しく頭を撫でた。
これから辛い闘病生活が続くんだ。せめてこれぐらいはと準備に頑張ったかいがあったな。
よし! じゃあ一番準備にかかったとっておきを見せてやろう!
「愛理! とっておきのプレゼントを受け取ってくれるか!」
「まだあるの!? うん! 嬉しい!!」
満面の笑みを返されたので、俺も満面の笑みで家に設置されているテレビを起動する。
これが俺の切り札。
長い闘病生活で愛理が自分を失わないように!
「見ろ愛理! この世界なんとゲームなのに、ゲームまでできるんだ!! このアイコンを押すと起動できるんだが、俺の超おすすめ鬼畜難易度ゲー100選をダウンロードしておいた! 全部一癖も二癖もあって、正直吐きそうになるほどに滅茶苦茶きつくて楽しいぞ! あんまりゲームに慣れてない愛理だと全部クリアしようと思ったら多分5、6年ぐらいは楽しめるんじゃないか!! どうだ!! すごいだろ!! さぁ、どれからやる!! これなんてどうだ! ヘル・ランニング! 途中セーブできないのにクリアするまで俺でも10時間は最低かかるいわゆる障害物競争的な死にゲーなんだが、防具無しでやるとほんとに秒で死ぬから最高に脳みそがバカになれるぞ! あ、いや、こっちもいいな。『ただ上へ!』これもセーブという概念が存在しないひたすらパルクールで宇宙目指して昇っていくゲームなんだが、途中でミスって運悪く一番下まで落下した時なんてげろ吐きそうで鳥肌ものだぞ! どうだ、愛理!」
「あ……う、うん。うれ……しい……ありがとう。オニイチャン、ダイスキ」
あとがき。
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あなたの一票が力に変わるので、どうかここまでで少しでも心躍ったならば★を入れて作者を小躍りさせてください。
ではこれからも頑張っていくんで。
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