第47話 龍王との邂逅ー3

「ちわ! ぶっ殺されてきました! あの王様怖すぎっす!」


 あの後俺達は龍王城へと戻り、もう一度天龍と会うことになった。

 あの時の映像がなんだったのかわからないが、今から話を聞けるんだろうか。


「よう戻った。そこに座るがよい」


 そういって最初に通された広間で俺と龍一と天龍が向かい合う。


「我が王は……元気だったか?」


「元気過ぎて殺意マシマシニンニクありって感じでした」

「……これは推測ですが……龍王は魔王の軍勢と戦って亡くなられたのでしょうか。この首飾り……突然光だして過去の情景が流れました」


「……そうか、それはエルディアが作った首飾りだったな。あやつはそういった物を作るのが得意だったからのぉ……」


 そういってシルヴァーナは何か遠い昔を思い出す眼を閉じてゆっくりと口を開いた。

 

「語るとしようか。もう100年前のことだ。この世界に魔王が復活することがわかった。我々、龍人族、そしてお前達天空族、さらに海人族と森人族。最後に人族の五種族は手を取り合って戦うことを決意した。天空の勇者だけが魔王を倒せるという古の伝承を無視してな」


 そこから語られるのはこの世界の歴史。

 もしかして俺は今初めてこの世界の歴史を聞いてるんじゃないだろうか。

 考察勢が涎垂らして知りたい情報だろうな。


 だがやっぱり魔王ってあのトワが石になって封印してたあいつのことか?


「懐かしい日々だった。敵対していた五種族が手を結んだのは間違いなくトワとアイギスのおかげだった」


「アイギス?」


「あぁ、天空族の王のことだ。あやつは良き賢王であった。あやつが世界を駆けずり回り五種族をまとめ、過去の亀裂を埋めたからこそ我らは手を結べた。そして天空族で最も才ある剣士トワと、人族の王子ディンが我が王の元へと修行にきたのだ。今でも鮮明に思いだす。旦那様に毎日のように叩きのめされて泣きべそを書いている童二人。子が為せなかった我にとってはまるで幼き子供ができたような……そんな煌めく宝石のような日々だった」


 俺達が見た一ページ。

 あれは龍王の元へと修行に来て修行していた二人の一ページだったのだろうか。


「準備は万全だった。魔王すらも打倒できる。我らは信じて疑わなんだ。だが我らは魔王の力を見誤っていた。魔王には一つ恐るべき力が宿っておったのだ。それが死者を使役するという力。激しい戦いで倒れる我が同胞達は次々と魔王の手に落ち、敵となった。昨日まで味方だったものが敵になる。遂には形勢は逆転し、我ら五種族は滅びる寸前まで追い込まれた」


「だから伝承では天空の勇者しか勝てないってことか。数が多いほど不利なタイプの敵ってことな」


 相手は増えるのに、こちらは消耗するばかり。

 そんな糞げー、ゲームならまだしも戦争で勝てるわけがない。


「そうだ。結局撤退戦となった戦いはトワによる魔王奇襲作戦に切り替わり、残り四人の王が魔物の軍勢を受け持つことになった。そしてその中でもたった一人で半分以上を受け持ったのが我が王だ。我ら龍人族は既にボロボロで戦える状態ではなかった。そして我もこの城で意識を失っていた。だが王は我らにここを死守せよと厳命した。だがそれは果ての岬へと向かい魔王の軍勢相手にただ一人、戦い抜くためだったのだ。そして……我が王は一人で全てを切り伏せ……死んだ」


 ゆっくり語っていたシルヴァーナは、静かに泣いていた。

 我が王、そして我が夫。

 つまり旦那だったのだろうな。

 この世界はゲームだ。でも……まるで全部の生き物が本当に繋いできたかのような世界だ。


 俺はその涙をただのゲームの演出だとはどうにも思えなかった。


「あの日ほど泣いた夜はない。最後の言葉すら交わせずに我ら龍人族は守るべき王に守られたのだ。……だが我が王は……オルフェンは……死してなお、今でもあの岬で我らを守ってくれている。死者を使役する魔王の支配にすら強靭な精神で抗いこの先には誰も通さぬとただその一点だけを胸に抱いて。敵も味方もわからずに近づく者すべてを切り伏せる修羅となってもなお……我らを守ろうとしてくれている」


「あの岬で100年ずっと……」


 俺が最後に見た光景は、龍王オルフェンが魔王の軍勢を一人で止めた光景だったのだろう。

 絶対にここは通さない。その強い一念があの一瞬だけでも感じ取れた。

 まるで呪いのように、ただその願いを成就するための屍となって永劫の時を戦い続ける。


 それは守られた者にとって、愛していた者にとってどれだけ辛いことだろうか。


 そして何もできずただ見ることしかできないのはどれほど辛いことだろうか。


「だから頼む。我ではオルフェンには決して勝てぬ。極みへと至らんとする技がいる……だから!」


 そういって頭を下げる天龍シルヴァーナ。

 その姿はあの偉大な太陽のような姿ではなく愛する人を思う優しい女性にしか見えなかった。

 涙を流しながら嘆願する。


「お前達の手でオルフェンを……眠らせてやってくれ……あの人はもう十分戦ったから。もう……休ませてあげて……」


ピロン♪


『孤高の龍王、解放するは天の使い。ユニークシナリオが開始されます。受注しますか?』


 すると俺の眼の前にスカイパッドが現れてメッセージが表示される。

 隣を見ると龍一も同じような現象になっていた。


 俺は龍一を見る。

 同じように龍一も俺を見た。


 そして笑う。


「これで『いいえ』押す奴はゲームやめた方がいいとおもうんすよ、なぁ人の心が無い人代表の龍一君」

「いや、俺ゲームの選択肢とかで『いいえ』とか押すの心痛むタイプだから」

「はっ! 失笑で候」


 お前は嬉々として世界を救ってくれますかと言われれば、いいえを押して相手の反応を楽しむタイプだろう。

 とはいえ、さすがにこのちくちく大魔王もこの状況でいいえを押すほど人の心は失っていなかったようだ。

 そして俺達は指を伸ばして選択肢を選ぶ。


▶はい


▶はい


『クエストを受注しました』


「……我が王は我よりも遥かに強い……それでも立ち向かうか。勇者達よ」


「もちろん! 勇なる者と書いて、俺と読みますから!」

「こいつはバカなんで……まぁ俺が面倒見ますよ。任せてください」


「……ふふふ、やはりお前達二人はあやつらに似ておるな。あい、わかった!! ならば我ら龍も覚悟を決めようぞ!」


 膝をぽんっと叩いて立ち上がるシルヴァーナは、にやりと笑って大きな声で宣言した。


「我が夫、最強の龍オルフェン! 龍族の総力を挙げて天空の勇者と共に倒すことを宣言する! 報酬は言い値で払おう!!」


 おそらくは報酬100億円、人類史上最高額報酬のクエストの開始を。

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