第46話 龍王との邂逅ー2
「まどろっこしいのは嫌いでな。単刀直入に言おう。我が夫でありこの龍人の里の王。龍王オルフェンを倒してほしい」
「――詳しく」
なぜ王を倒すんだ? 王様闇落ちしたとか?
もしかしてクーデターのお誘いですか?
「詳しく話していただけますか。まだ僕達はこの世界のことをよくわかっていないんです」
すると龍一が敬語で話し出した。
こういうところ結構ちゃんとするタイプなんだよな、こいつ。
「そうだな、お前達には100年前のこと。話さねばならんな。だがまずは一度我が王に会いに行くと良い。女神アルテナの加護を持つお前達ならば問題ないだろう。特にブルーよ。おぬしはまだ一度も我が王に会っていないようだからな」
「え、それってつまり死ぬってこと?」
「十中八九のう」
いきなり自殺してこいとはこの金髪美女やはりあの糞龍か。
でもちょっと興味あるな、龍族の王様か。
「了解です。……いくぞ、その方が話も早い」
「え? 死にたくないんですが」
「バカか。確実にお前がまだ龍王に会ってないから起きてるイベントだろうが。つべこべ言うな」
確かに。
それから俺達は一旦天龍を後にしてスカイディアに戻り、バンクと呼ばれる建物へと向かった。
バンクとは、読んで字のごとく銀行のことでアイテムを預けたり、スカイコインを預けたり、還元したりとモロモロの作業ができる場所である。
俺の武器と龍一も大事なアイテムなんかを預けてロスト対策、これでデスペナは痛くなくなる。
アイテムを失うというのがこのゲームのデスペナなのだが、高レベルプレイヤーの武器は下手すると数十万かかっている。
それを失うとは、パチンコで翌月の家賃をすったときほどは辛いだろう。
でもギャンブルは絶対に失ってはいけないお金に手を付けてからが本番ともいうからな、あれ何の話してたっけ?
それから俺達は龍人の里へと再度転移。
「こっからは戦闘は無理だから全力ダッシュな。30分もあればつく」
「うぃっす!」
俺と龍一は真っすぐ目的地へと向かった。
龍神の里をぐるっと回って北上していく。
東、つまり進行方向右側は火山地帯ヴォルカニカと霊峰イカロスが見える。
こうみると、龍人の里は海と火山地帯に挟まれて天然の要塞みたいになってるな。
となるともし敵がくるとなる俺達が進んでいるこの道からかな? ……と思ったら急に道が狭まってきたな。
左隣は断崖絶壁で下は海。右隣は隆起する高き岩山。
といっても幅100メートル以上はあるので余裕で通れるんだが。
それから30分ほど龍一と走るのなんか若干懐かしいなとセンチメンタルになりながらも俺達は目的地に着いた。
【果ての岬】
画面上に、現れたその文字の存在感たるや龍一が説明するまでもなくここが件の場所であることを表している。
先ほどまでの一本道が広がり、岬となって草原が広がる。
風がなびいて気持ちよい。
その先には、また一本道が続いていて、ここを通らなければ向こう側にはいけないようにはなっている。
綺麗な場所だった。
だがそこに圧倒的存在感で立つ男が一人。
剣を地面に刺し、俺達が来た方向に背を向けているのは一人の真っ黒な着物を着た男だった。
その隣には一本の枯れた木がある。
まるで何かから守るように立つ。
ここから先には誰も行かせない。
そう物語る背中は、動かずして俺の心をぐっと掴んだ。
「……あれが龍王?」
「そうだ……このゲームで死ぬのは久しぶりだな」
「とりあえずやれるだけやるか?」
「いや、無駄だな」
そういって龍一が前に進むので、俺もしぶしぶと前に進む。
距離50メートルぐらいだろうか、その瞬間その侍はこちらをゆっくりと見る。
その片目には眼帯をして、着物を着ている。
真っ黒な着物に、真っ黒な長髪、佇まいが美しく一つ一つの所作だけで達人であることがわかる。
年は若く見えるが、なんというか……うん。お腐れ女子様が大歓喜しそうなほどに滅茶苦茶イケメンの武士だった。
だがその眼には光が宿ってはいなかった。
暗く塗りつぶされ、まるで操られているかのように。
「雰囲気すっごい」
「……二度目だけど相変わらず震える」
はっきり言おう。
その圧は、天龍をも遥かに凌ぐ。
まるで抜き身のナイフを喉元に刺されているかのような鋭い剣気は、今にも発狂してしまいそう。
そしてその長髪侍は、剣に手をかけた。
俺は一応は抵抗しようと思った瞬間だった。
『――龍王覇気』
黒い波動があたり一帯を埋め尽くす。
回避不能の全体攻撃、もちろん俺も龍一も食らった。
そして龍一が無駄だといった意味がわかった。
「あぁ……金縛りってこと?」
「そういうこと、ちなみに死ぬまで動けないから。だからこいつは攻略不可の敵として有名」
あ、だめだ。まじで少しも動けない。
これは戦いとか依然の問題だな。
その時だった。
『……通さぬ。誰一人として……ここは通さぬ』
龍王からの身が切り裂かれるようなプレッシャーを受け取る。
「は?」
「え?」
その瞬間、首飾りが光り輝き俺達の視界を埋め尽くす。
◇
「ん? ここは?」
目が開いたとき、俺がいたのは先ほどの場所だった。
だが間違いなく時系列が違うとわかるほどに視界が白みがかかり演出はまるで過去を表しているようだった。
そして眼下には、二人の少年が稽古をつけられている。
どこかで見たような……。
「いってぇぇ!! 折れた! 絶対に折れた!!」
「手加減を! 手加減を所望します!! オルフェンさん!」
「笑止千万! そんなことでは、魔王を倒すなど夢物語! 死ぬ気でやらねば叶う夢など無し!! それにディンよ! あれぐらいで折れたりは…………折れてるな」
一人はトワだった。
もう一人は見たことはないが人間だったがディンと呼ばれていた。
トワが最後に口にしたオルフェン、ヴェイン、ディン、エルディアのうちの一人だろうか。
「ははは、こっちへこい。ディン、我が手当してやろう。旦那様は手加減というものが苦手だからな!」
「シルヴァーナさん! もっと言ってやってくださいよ! この人……いや、この龍、自分が最強種って忘れてんすよ。人間の俺は脆弱なのに!!」
「ははは! 英雄様がいう言葉ではないな、未来の英雄王!」
そうか、これは過去なのか。きっとこれは過ぎ去った歴史の一ページなのだろう。
トワとディン、その師匠としてのオルフェンに、妻のシルヴァーナ。
とても仲がよさそうに見えた。
まるで家族のようにすら見えた。
「トワ、ディン。こちらへこい」
そういって、オルフェンは二人を一本の巨大な桜の下に呼ぶ。
あの桜が、オルフェンの横に立っていたあの枯れた木なのだろうか。
「ここに願いを刻め。必ずや成し遂げたい願いをな」
「おっしゃ!」
「了解っす!」
そうしてトワとディンは小さなナイフで桜の木へと願いを刻んだ。
『打倒、魔王』
『トワに勝つ』
「なんだその願い」
「うるせぇ、てめぇには負けねぇ」
「この願いを書いてる時点でもはや負けを認めてるんだよなぁ」
すると二人の頭をわしゃわしゃと掴んだオルフェンは優しく笑う。
「かかか! いずれ来る災厄の日。必ずや我らで乗り越えようぞ!!」
「うっす!」
「はい!」
「そしてその時は、もう一度」
そして三人はその王桜と呼ばれる巨大な木を眺める。
「この桜の木の下で、次の願いを刻もう」
……
するとそこで場面が切り替わる。
空が赤い。
空が暗い。
場所は先ほどと何も変わらない。
だが一つ違うとすればそこには魔物の軍勢がいた。
数えるのも馬鹿らしくなるほどの魔物の軍勢、果ての岬へとなだれ込んでくる。
このままいけば、龍人の里へと直撃だった。
だがたった一人、それを止めようとする男がいた。
黒髪長髪の侍、龍王オルフェンだった。
「……この先には我が守るべき民達がいる。愛する妻にも、守るべき子供達にも、お前たちの邪悪な刃など決して届かせはせぬ」
そして刀に手をかけたオルフェン。
「たとえこの身朽ちようとも、たとえこの命ここで尽きようとも、ここだけは通さぬ、ここだけは通せぬ!!」
万どころの数ではないモンスターの大軍が叫びをあげて世界が震える。
「……トワよ。お前ひとりに託してすまぬ。龍の民達よ……お前達を残していく不甲斐なき王を許せ。そして、シルヴァ……いつも苦労を掛けるな……」
ゆっくりと刀を抜いたオルフェンは前を向いた。
「我……龍王オルフェン。誇り高き龍族の守護者
その燃えるような瞳には、微塵の恐れも映さない。
「――
◇
「――!? なんだ今の……」
「蒼太、お前も見えたのか?」
気づくと俺達は元の時間に戻っていた。
今のは過去の記憶だろうか。
なるほど勇者の首飾りが何なのか不明だったが、過去が見れるタイプのアイテムってことね。
「あ、でも死ぬのは確定なんですか」
「……みたいだな」
ザクッ。
そして俺達は龍王に一刀されて死亡した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます