第45話 龍王との邂逅ー1

「ふんふん♪」


 温かい湯舟に漬かりながらレイレイは鼻歌を歌った。

 施設暮らしの癖で、一人暮らしを始めてからも毎日シャワーばかりだったので湯舟に漬かるのは久しぶりだった。


「やっぱりブルー君優しいな……」


 だが蒼太が風呂沸かしといたから勝手に入れとレイレイに行ったのでその言葉に甘えることにした。

 今日から数日、愛理の部屋で厄介になることも渋々だが了解してくれた。


「好き……かぁ……これでいいのかな? 好きになれるのかな?」


 レイレイは蒼太に好意を持っているように振舞う。

 だがそれは好意を持っているからではない。


「やっぱり……わかんない……好きって……何?」

 

 レイレイは好きという感情がよくわからなかった。

 施設で育ち、誰からもろくに愛情をもらった記憶がない。


 誰かに愛されたい。


 それは欲求としてあるが、愛を与えてもらわず育った子供は往々にして愛の意味が分からない。


 レイレイも例に漏れずそうだった。

 世界で一番愛してくれるはずの親に捨てられたという事実は、簡単に子供の精神を歪ませる。

 それでも体だけ大人へと成長したレイレイは、愛を知りたかった。


 でもわからない。

 愛し方もわからないし、愛と性欲の違いもわからない。


 いつだって異性から自分に向けられるのは性欲だけだったから。


「いつか私も誰かを好きになれるかな……」


 だから気に入った人に、知識だけで知っている好きという行動をとってみる。

 愛が知りたいなら、形から入れば愛を知れると思ったから。

 でもやっぱりよくわからない。


 蒼太のことは気に入っている。

 ゲームをしてるときは素直にかっこいいと思うし、もし誰かパートナーを選ばなければならないなら蒼太がいいとすら思っている。

 でも心から好きだとは正直言えなかった。


 だって愛が何かわからないのだから。


「あーあ、高校生にもなって初恋もまだなんて……私もみんなみたいに燃えるような恋したーい!」


 同年代の普通の女の子から伝えに聞く恋とは、心の奥がぎゅっとなり、燃えるよう、そしてコントロールすらできないものだと聞く。

 

 でもレイレイはまだ知らない。


 愛したことも愛されたことも本当の意味では生まれてから一度もないから。


 でもだからこそ、誰よりも愛が欲しい。



◇蒼汰視点、龍人の里。




「やや!? そこにいるのは勇者ブルー殿ではござらんか?」

「そうです、いかにも私があの有名なブルーです」


 侍のような龍人が流暢な日本語というか、若干時代を感じさせるような言葉で俺を呼び留める。

 なんで歌舞伎ポーズしてるのか分からないが、いぶし銀な髭面おっさん侍が俺に話しかけてきた。

 

「おぉ! やはりでござったか! その一糸まとわぬ堂々とした立ち居振る舞い。やはり我が姫様に認められし勇者殿とお見受けした次第で候!」

「やや! 一糸まとわぬは言い過ぎでござる。このパンツが目に入らぬか! ところでそういう貴殿の名は? 候!」


 なんでこんなノリなのかわからないが、ちょっと楽しくなってきた。

 いちいちこの侍オーバーリアクションで、歌舞伎みたいなポーズとるんだよ。候の使い方が間違ってる気がするがノリでいいか。


「これは失敬、さすがはパンツの勇者! 堂々たるものでござるな! 拙者は、火龍丸かりゅうまると申す者! 以後お見知りおきを! それでですな、ブルー殿! 拙者と一緒に来てくださらんか?」

「やや! それは問題ないでござるぞ! 候!」


 歌舞伎ポーズに歌舞伎ポーズを返しながら俺は火龍丸に連れられて龍人の里へと足を踏み入れた。

 土の地面、木造の古い建物が並び、団子屋のような店もある。

 まるで時代劇の城下町だと思ったが、完全に江戸時代である。


 街行く人々? いや、龍人々? は着物を着て頭には角が生えている以外は完全に着物を着ているだけの人間だった。


「どうでござるか? 我らの里は」

「活気に満ち溢れて候」


 スカイディアではチュー爺以外ゴーレムしかいない。

 そう思うと意思疎通できるキャラって珍しいのでは? 

 いや、しかしもしかしてこの世界の人全員に高度なAI搭載されてるのか? やばすぎないかこのゲーム。

 

「勇者殿をお連れした。姫様に面会を所望す!」

「よし、通れ!」

 

 俺達がしばらく歩いていると街の中心にそびえる巨大な城へと到着した。

 近くで見るとまたでけぇ、ゲームの中とはいえよくこんなの建てたな。


「この城の名は、龍王城。かつて我らが王、オルフェン様が建てられ、我が里を長きにわたり守護した由緒正しき城でござる」

「オルフェン様はいずこに?」

「それは我が姫様から聞くと良いでござる。某で語るにはあまりに重く……」


 オルフェン……確か四体の王の一体だよな。

 トワがオルフェンさんによろしくって言ってたが、龍人の王ってことか?

 

 そのまま俺は城を上っていき、巨大な広間に通された。

 なんだろう、将軍様が出てきて家来がははーっと頭を下げるようなそんなデカい広間。

 

「お連れ様もご到着されたようでござる。しばしお待ちを」

「お連れ様?」


 よくわからないが、待てばいいのか。

 暇だしリスナーと遊ぶか。

 

「おっす、みんな。なんか龍王城ってのに来たみたいだぞ」


――――コメント――――

・龍王城ってこうなってるんだ。

・ってか中に入れたのは初めてでは?

・龍人の里にはいけたけど、中は入れなかった。

・ではこれ超貴重映像では!?

・ワクワク

・惜しむらくは今深夜3時ということぐらいか。

・もう少しまともな時間に配信しませんか?

――――――――――――


 俺がリスナーと会話しながら世間話を楽しんでいると後ろの金ぴかの装飾のふすまが開く。

 そこから現れたのは。


「お主でござったか。わが友、龍一!」

「なんだそのしゃべり方。ってかそうか、お前が里に来たから強制イベント始まったのか。というかブロック解除しろ、アホ」


 同じく勇者ドラゴンこと、龍一だった。

 そういえばお前も勇者の首飾りもってたな。裸じゃないから見落としてたぜ。

 ブロックはお前の性根が治ったら解除してやろう。


「寝てたのに、急にメールきたんだよ。イベントが始まりますだって。まじで生活リズム終わってんな」

「そろそろ切実に直そうと思ってるんだが良い方法ない? 一人では直せる気がしないんだけど」

「寺にでも出家しろ」


 相変わらず俺への対応が雑である。

 というか眠そうだし機嫌悪いな、こいつ昔から寝起き悪いんだよ。

 きっちり睡眠時間を確保するタイプだし、途中で起こすと馬鹿ほど機嫌悪いし。


「……別に寝てていいぞ。俺一人でイベントクリアするから」

「はっ! ★3の装備やっと揃えた程度で龍王に?」

「お前、龍王と会ったことあんの?」

「……まぁな」


 どうやら龍王は普通に会いに行ける系王様らしい。

 そういえばまだ王の一人にも会ってないしな、ネタバレNGとして基本的に調べたりはしてないし。


ベンベンベン!


 すると軽快な音楽が鳴りだした。

 三味線だろうか、その音と共に奥のふすまが開く。

 そのふすまの向こうには三味線を弾く着物の女性、そしてその中央には。


「姫様のおなーーりーー」


 十二単を纏った金髪着物美女。

 なぜ金髪と着物がここまでシナジーがあるのか知らないが絶世の美女という言葉が真っ先にでてくるほどに日本人離れしたプロポーションの美女が現れた。

 まるでハリウッドスターが着物を着たような若干違和感を感じるがそれでもその立ち居振る舞いも容姿も美しい。見た目はまだ20そこそこぐらいの若い女性。


「よう来た、ブルー。待っておったぞ。あとはトワに認められた……名はドラゴンだったな。お前もよう来てくれた」


 なんだ? なんか俺のことを知っている風だが俺にはこんな美女の知り合いはいませんが。

 

「ふふふ、なんじゃこの姿だとわからんか。あれほど激しくやりおうたというのに。しかし許せ、元の姿では城が壊れてしまうからの」

「…………え、もしかしてお前」


 その口ぶりからわかるのは一つ。

 あぁそうか、そういうことですか。

 龍人の里にこいってそういうことですか。


 すると俺を見る金髪美女はにっこり笑う。


 その正体は。


「会いたかったぞ、ブルー。我が名は天龍シルヴァーナ!」

「まじかぁ……」


「龍族の姫にしてこの里の主である!!」


 あの金ぴか糞固龍だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る