第41話 目指せ、龍人の里ー2

「うっし! 時間はかかるけど普通に進めるぐらいにはなったな!」


 俺は今霊峰イカロスの西側へと進んでいる。

 そういえばこの世界の地図がスカイディアのギルドに貼ってあったんだが俺達が今いる大陸がタイタニア大陸というらしい。

 地図を上から見てもらうのを想像してもらえばいいのだが、タイタニア大陸は一言で言うなら楕円形だ。

 

 その中心の天空にスカイディアはある。

 右、つまり東の方に別の大陸があるが、そっちはまだ未探索。

 左、つまり西側が火山地帯ヴォルカニカということだな。


 その西側の火山地帯ヴォルカニカに入ってしばらくすると霊峰イカロスがあり、そのさらに西側に龍人の里がある。

 この大陸の端ということだな。

 なので、今俺がいるのはおそらくイカロスと龍人の里の間ぐらいだろうか。


「しかし結構素材集めたな」

「ワンワン!!」


 ピッケルポイントもいくつかあったのだが、黒豆がその鉱石を涎を垂らしてみてくるので上げたらバリバリと食いまくった。

 と、実はここで俺も知らなかったのだがなんと黒豆、成長するのである。

 そりゃ幼体と書いてるんだから成長するのは当たり前なのだが、なんと経験値があり成体になるまであとどれぐらいと表示されている。

 いつからこのゲームはモンスター育成ゲームになったのか分からないが、鉱石を食わせれば成長するようだ。

 

「お前成体になったら喋れたりするのか?」

「ワァン?」


 いつか擬人化したりして。

 だがその時は非常に気を付けなければならない。

 どこまで獣感を残すかで宗派は分かれ、下手をすると戦争が起きるからな。

 ちなみに俺は、人間8割獣2割ほどが好きかな。ケモナーにこれを言うと炎上する恐れがあるが俺は普通に人型の方が好きだ。


 まぁということもあり、鉱石は結構黒豆に上げる必要がある。

 どこかに鉱石がたくさん落ちるような岩系のモンスターはいないものか。


【エンカウント! ロックンローラ!】


「おい、黒豆。カモがネギならぬ、岩が鉱石を背負ってきたぞ」

「ぐるる……」


 突如埋もれていた若干怪しい岩が動いたかと思うとまるでゴーレムのように立ち上がる。

 そういえば勇者の試練でもこんな奴いたな。あれはもっとデカくて金ぴかだったが。

 ロックンローラーとかいうこのモンスター、背中が光っていると思ったら鉱石が結構埋め込まれているようだ。

 完全に名前が40代後半のおっさんが酒場でノリで考えたような名前だが、ロックはわかるとして……ローラーとは?


「あぁ、そういう……」


 するとそのゴーレムが丸くなって転がってくる。まさしくローラー。

 わざわざ言うのも馬鹿らしくなってくるが、これが意外と厄介な攻撃だった。


「攻撃モーションじゃないからジャスガも無理か」


 なんせ岩が転がっているだけ。

 速度はそれほどなので躱すのは簡単だが、さてどうしたものか……。

 

 まぁでもこういうのは、セオリー通りに行くのが一番か。


「よっと! はは! 案の定!」


 俺は壁際ギリギリに立ち、ギリギリで躱す。

 ミスればぺしゃんこ、中々のショッキング映像になるがこういう敵は……ほらな。

 壁にぶつかったロックンローラーはぴよぴよと星が頭の上を舞いながら仰向けで倒れていた。


 どうやらお腹の周りの石が弱点のようで、露骨に色が変わっている。

 

「一丁上がり!!」


 ★3の武器で腹を串刺しにすれば一発KO。

 ふむ、雑魚的にしては結構時間を使わされたが頭を使うのは結構楽しい戦いだったな。

 今度崖のギリギリでよけれて落下させてみるか。砕け散るのかな。

 するとロックンローラーは、さらさらと砂のようになって消えてしまう。

 

 だが後に残るのは。


「ほほう!! みろ、黒豆! 大量の鉱石だぞ! あ! 待て! お前、それ俺まだみたことな……食いやがった……」

 

 相変わらずこの駄犬、欲望に忠実すぎる。

 まぁいいか、環境ダメージを無効化してくれる黒炎の加護には結構助けられているしこれぐらいはサービスかな。


 そのまま俺の攻略は順調に進んでいく。

 ★3の武器があれば結構サクサク進んでいくな。

 やはり大衆向けのゲーム、俺の心の渇きを潤わせるような強敵はその辺には転がっていないようだ。

 というか俺が苦戦するような敵がその辺に出没しまくったら正直ゲームにはならん。


「ん、お、どうやら灼熱火山地帯はここまでみたいだぞ。黒豆」


 そこからしばらく歩いていると、霊峰イカロスから続いていた溶岩が所々流れる灼熱の溶岩地帯はついに終わりを迎えた。

 少し剃り立った小山のような大岩に昇ると、結構遠くまで見えそうなので、俺はよじ登ってその先を見た。


「ははは、なるほど。龍人の里ね」


 火山地帯が終わり、少しずつ緑を取り戻していく大地。

 地平線の先には、大陸の終わり、仮想の太陽に照らされたまるで本物のような広大な海が見える。


 だがその前に間違いなくそこが龍人の里であることがわかる場所があった。


「こういうファンタジーゲームにはまぁお決まりと言えばお決まりか。そういえばアテム社って日本の企業だもんな」


――――コメント――――

・お、ついについたか。

・火山地帯抜けたらこうなってるんだ

・このスポット中々いいね。全体見渡せる。

・相変わらずこのゲームのグラフィックやばすぎ。

・ここまでに3時間ほど! さすが!

・さぁ、張り切ってまいりましょう!

・そうです、龍人の里は完全に日本がモチーフになってます!

――――――――――――


 日本人なら一度は見たことがあるだろう。

 

 我が国の城といえばこの形。


 城壁は石づくりで壁は純白、天守閣は黄金の装飾が施され荘厳に聳える高き城。

 そういえば昔修学旅行で見たな、大阪城。


 朧げだが覚えている。

 あの時代の人がこれほど巨大な建造物を作ったのかと感動すら覚えた美しき城。

 その記憶にだけある巨大な城が俺の視界の先にある。

 その城下には、和風の建物が立ち並び何やら人らしき人々も歩いている。


 そこから導き出される結論は一つ。


 つまるところ今まで俺達天空人の侵入を拒んでいた龍人の里とは。


「鎖国一転、開国ってところかな?」


 日本の江戸時代をモチーフに作られた世界なのだろう。

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