第37話 一息つこうぜー3
「じゃあ、黒豆も預かったし。一旦落ちるわ」
「俺今日泊るぞ。というか今お前の家のソファからログインしてるし」
「なんだ、ファントムまで持ってきてたのか。OK……ってもう2時か。そろそろ生活リズムなおさねば」
「はっ! 無理だろ、吸血鬼みたいな生活してんだから」
「お前も大概だろ。ってことで、凛音落ちるわ。大石さん達もお疲れ様です! あ、そうそう、凛音。頼みたいことがあるんだよ。リアルの連絡先って聞いていい?」
「……リ、リアル!?」
「あ、そうか。ごめん、無神経だった」
「い、いえ……まだ私は日常生活を送れます。問題ありません」
そういって俺は凛音とリアルの連絡先だけ交換して落ちることにする。
しかし、さっきからなんか様子が変だな。
なんだろう、反応が過敏というか、慌てていると言うか余裕がないというか。
まぁもう深夜だ、一般人は眠くて変にもなるだろう。
凛音とリアルの連絡先だけ交換して落ちることにする。
ログアウトする蒼太を見つめる大石と凛音。
「凛音、蒼太君をどう思う」
「ど、どう!? な、なにを!? べ、別にかっこいいなんで思ってません!! あんな変態!」
「いや、一体彼は何者なんだろうなって思っただけなんだが……」
「へ、変な事聞かないでください! セクハラです!」
「えぇ……」
◇
「んん! しかし疲れたな! 三日間ぐらいやってた気持ちだぞ」
ログアウトした俺はヘッドセット、通称『ファントム』を外し、二階の自室からリビングに降りた。
龍一も全く同じタイミングで起きたようで、一階のソファで起きたようだ。
気づけば時刻は深夜2時。
いつもは寝る時間だけど。
「おかえり、お兄ちゃん!」
「おう、ただいま!」
愛理は俺を待っていた。
俺もぎゅっと抱きしめ返す。
おいおい、最近はどうした? 高校入ってから思春期か若干距離を取ってきたのに急接近だな。
ちょっとだけツンツンしてた妹はどこにやら……でも今日ぐらいは目いっぱいの愛をお互いに送り合おう。
大丈夫、なんとかのソラや推しのなんとかみたいにはならない。
ぎゅっと抱きしめ合ったまま、何かを言おうとしている愛理。
いろんな感情がごちゃ混ぜなのか、言葉が出てこないのに泣いている。
そしてやっと絞り出した言葉は。
「――お兄ちゃん、かっこよすぎ」
「数年ぶりに妹から褒められた気がする。やっとヒキゲーマーの汚名返上だな」
俺の胸の中で愛理は上を向いて俺を見つめる。
にこっと泣きながら笑う愛理、久しぶりにこんなに真っすぐな笑顔を見た気がする。
野球やってた時は毎日かっこいいって言ってくれてたが、ほんと何年ぶりだろうな。
だから俺もにかっと笑う。するとほら、一瞬で幸せ空間の完成だ。
「お、激辛ラーメンあるじゃん。いただき」
一瞬でムードが壊れたな。
龍一がまるで我が家かのように、キッチン物色しだした。
いや、いつもの光景なので問題ないし、なんならそれお前が箱で大量に送り付けてきた奴だけどな。辛すぎて誰も食えねぇし、何なら俺は腹を壊した。
「じゃあ俺、みそラーメン。たまご入りで」
「龍さん私、塩!」
「……へいへい、三分で作ってやるよ」
深夜2時、三人で笑いながら囲ったインスタントなラーメンだけの食卓。
深夜のラーメンはいつもより美味しく感じた。
理由は分からないが、いつもよりちょっと美味しく感じたんだ。
なんでだろうな。
~翌日。
昼まで爆睡をかました俺が起きるとすでに龍一は帰っていた。
愛理はソファで寝転がりながらスマホで音楽を聴きながら漫画を読み、テレビを見て、ポテチを食っている。
これがちょっと前までこの世の終わりのように泣いていた妹かね、兄としては嬉しい限りだがあまりに人生を謳歌し始めたな。
「あ、おはよう。お兄ちゃん! にしてもすごいね!」
「なにが?」
「なにがって昨日の動画だよ。10万リツイートなんてすごい! まだ伸びてるっぽいよ」
「まじか」
すると愛理が寝転がりながら見ないで器用に足だけでリモコンを操作して、テレビをつける。
お前それ結構すごいけど、でも年頃の女の子がはしたないからやめなさい。
テレビではニュースがやっていた。
「この国はパンイチの男を全国放送しても許されるんだな。さすがHENTAIの国」
「まぁ水着みたいなもんだし、そもそもゲームの中だし、でも超かっこいいよ」
そこでは俺と天龍との戦いがなぜかクローズアップ現代されていた。
お茶の間に俺の見苦しい、いや仮想の体なので中々綺麗な腹筋だな。少し日焼けした方が見栄えがいいか。あのゲーム日サロとかあるんかな。
「まぁ成功したならいいよ。俺のセクシーな肉体よ、どんどん拡散されてくれ」
「あはは、自分で言う?」
俺と愛理がそれをなんとなく見つめているとそれは流れた。
数年前のこと、火事の映像。
俺の両親が無くなって、俺の夢が終わった日。
死者が出た火事だ、そりゃニュースにもなったし、俺が全中優勝していたこともあり少し話題になったのもそうだ。
「……龍一は完璧な仕事してくれたな」
「……そうだね。さすが龍さん」
顔出ししているんだ、どうせいつかバレる。
なら一番効果的に使うのが良い、テレビ局にリークするのも了承済み。
世間の声は多くが俺達の境遇に同情し、そして俺のプレイと動機への賛美と共感。
話題性、ドラマ性、そして動画のクオリティ諸々、これでバズらなきゃ嘘だろうな。
さすが龍一、仕事が完璧すぎる。
とはいえ見ていて嬉しいわけもないので、俺は久しぶりに日光でも浴びようと外に出る。
そういえばクラスのメッセージアプリのグループで大量に通知がきてたな。
俺はスマホを開いて中身を確認する。うわ、案の定俺のことで糞盛り上がってるな。やぁ、パンツの勇者だよ。っと。
これは夏休み明けメンドクサイことになりそうだ。
「くそあちぃ……プールいきてぇ」
あぁ燦燦と照り付ける太陽、忌まわしきかな夜型の俺の敵。
しかし太陽見ると天龍思いだすな、早くトワイライトで龍人の里に行きたいのだが、今日は今から用事がある。
昼過ぎから龍一の所属する芸能プロダクションの社長と飯なのだ。
昨日の今日でなんというフットワークだと思ったが、龍一曰くそういう人らしい。
できてまだ数年の芸能事務所を一躍、東証一部に上場させた手腕は本物で、とにかく行動が即断即決とのこと。
「さてと、パンツはNGとして短パンTシャツもな……制服にするか」
俺は流石に失礼かと学校の制服を着ていくことにする。
こういう時学生という身分は楽だな、冠婚葬祭全部制服でいいのだから。
一応誤解無きように言っておくが、俺にはちゃんと常識はある。ただ法が許す限り守らないだけである。
「じゃあ、ちょっと行ってくる。何かあればすぐに電話しろよ」
「大丈夫、ずっとゴロゴロしてるから」
石化病の愛理は、今度一緒に病院についていくことになっている。
今はまだ症状はたまに出るだけらしいので気を付ければ日常生活は送れる。
ただし進行が個人差はあれど早い病気ので、今週末には入院かもしれないな。
そして俺は芸能プロダクション『ライブスター・プロダクションズ』の東京本社へと向かった。
◇『ライブスター・プロダクションズ』、本社ビル。
東京一等地に事務所を構える『ライブスター・プロダクションズ』のビル。
俺がスマホの地図片手にロビーに入ると、地球に厳しい空調がガンガンででも夏の日差しで火照った体を冷やしてくれる。
こんなきれいな内装に、制服の学生が若干場違い感もあるな。と思いながら、俺が受付に向かうと。
「ん? HEYHEYHEY! エキサイティングでクレイジーなネイキッドボーイ! 会いたかったぜ!!」
もっと場違いなアフロが受付前に仁王立ちしていた。
星型サングラスにカラフルなアフロヘア、まるで今からサンバでも踊るんですかというほどに派手な見た目で裸に直接アロハシャツを着て、靴はサンダル。
陽気な常夏のような見た目で日サロ週8で通ってますというほどにこんがりと黄金色だった。
どうやら場所を間違えたようだ。
ここは、南国風アフロ系日サロ専門店かな。なんだそれ。
「残念、あってる。回れ右だ」
すると俺の退路を防ぐように立っていたのは龍一だった。しまった挟まれたか。
「龍一、俺はサングラスが星型の人を国民的ケツ丸出し幼稚園児の映画でしか見たことがない。それに特殊な形のサングラスは大抵悪役だ」
「それに関しては同感だが、安心しろ。あの人は味方だ」
俺は再度後ろを振り向く。
アフロに星型のサングラス、ニカっと笑うと歯には金歯。
四天王にいればいつもふざけ倒してるが実は一番強い系の敵だろあれ。
「HAHAHA! 俺は、『ライブスター・プロダクションズ』の社長! フィーバー横田だ! 気軽にフィーバーさんと呼んでくれ! 天野蒼太君!」
差し伸ばされた小麦色の手、変質者だと思ったがまじでこの人が社長だったらしい。
俺はその手を苦笑いしながら握り返す。
第一印象はたった一つ。
「濃いなぁ」
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