第36話 一息つこうぜー2
「あ、ちょっと寄っていい?」
「なんだ、ついに服を買うのか」
「いや、武器が壊れたからさ。あとあの鱗」
「あぁあの時価ってなってたやつ? 素材換金ならギルド、初期の武器や防具は、武器屋だな」
とりあえず今、大火狼やらなんやらを倒して手に入れた1000スカイコインほどある。
それで鉄の剣と骨の剣を武器屋で購入しておいた。
相変わらず最弱装備しか売ってないしょぼい武器屋だが、まぁ俺みたいな武器ロストした人の拠り所だからな。
その後ギルドに向かった。
俺は初めてだが、ここはいわゆるクエストを受注したり、プレイヤー同士の交流の場所らしい。
雰囲気はこれぞギルドというような木造の酒場のような建物だった。
いいね、こういうちょっとレトロでべたべたなの好きだよ。あっちは雑貨でも売ってるのかな?
消費アイテムなんかも売ってるらしい。お、回復薬あるじゃん! なんだよ、先に行っとけよ。全部頂戴。
店員はやはりゴーレムが担っているようだが、とりあえず買えそうな消費アイテムは全部買っといた。
後ろでは丸机がたくさん並び、酒盛りしながら(もちろん仮想の)多くのパーティがこれからどうすると笑い合っている。
野球終わりに龍一と集会所でどのモンスター狩に行くかと笑い合ってた日々が懐かしい。
「おい、あれって」
「まじか! ドラゴンとブルー!?」
「本当に裸だwww」
「おぉ!? あの動画の!?」
案の定俺達が入るとお祭り騒ぎで大変だったが、ちょっとすみませんよと受付までいく。
しかし有名人とは大変だな、変装して外に出ないといけないのもわかるわ。
「ピピピ、いらっしゃいませ」
「ちわ、モンスターの素材を売りたいんですが!」
そういって俺は黄金の鱗をアイテムボックスから表示させる。
出した瞬間、周りからおぉーという感嘆の声が聞こえてくる。
確かにこの金ぴかの鱗、まじで金塊みたいに綺麗だしな。換金アイテムというぐらいだし、100万スカイコインぐらいいっちゃうんじゃないか?
おっさんの金の玉とか5000円だし、10万円ぐらいもらえたら俺はめちゃくちゃ嬉しいぞ。小躍りするわ。
そうだ、せっかくだしエンタメだからな、動画には残しておこう。
シュート動画もたくさんチャンネルに登録したい。
タイトルは天龍の鱗売ってみた。かな? するとぞろぞろとギャラリーが集まってくる。
「じゃあ、売りまーす。査定おなしゃす!」
「ピピピ……天龍の黄金鱗……売却額……1億スカイコインです。売却しますか?」
「お、結構高かったな…………1億…………は? もう一回いって?」
「一億スカイコインです。売却しますか?」
「……」
「「えぇぇぇぇぇぇ!!!???」」
今日一番の驚いた声がでた、天龍が真っ赤になった時より驚いている。
隣を見るといつも冷静な龍一ですら顔が引きつっている。
騒然とするギルド、信じられない俺はもう一度聞く。一億ペソじゃないよな? うそでしょ?
「い、一億スカイコイン!? 一億スカイコインってどういうことだってばよ!?」
「現在のレート換算ですと、日本円にして1234万8543円となります。売却しますか?」
「お、おう……」
あの金ぴか龍、まじかよ。ちょっとした報酬ぐらいだと思ったのだが。
今度会ったらあの鱗全部はぎ取るか。
しかし1000万か。す、すげぇ……さすが世界基準のゲーム、スケールが違う。
「じゃ、じゃあ……お、お、お、お、お願いしまーーす!」
俺は震える声で了解した。
ここまで震えたのは、母さんの大事にしている食器を棚ごとふざけてバットフルスイングしたら全部砕いた時以来だ。
あの時はまじで家出を考えた。
チャリーン。
俺はスカイパッドのステータス画面を表示する。
そこにはしっかりと一億スカイコインが振り込まれていた。
「と、とりあえずよかったな……愛ちゃんも喜ぶよ。入院費稼げて」
「お、おう……」
「たのもぉーー黒豆元気か? 成金の飼い主のお帰りだぞ! 今日からお前は三食チュールだ、喜べ駄犬。先ほどの粗相も不問とす」
「ワン!」
「あら、あなたの飼い主が帰ってきたわよ。もう! ふふ、くすぐったいわ」
俺は墓守の灯台のクランへと帰ってきた。
中はまるで高級マンションのようなロビーが広がる。
そこでは黒豆がみんなのアイドルのように可愛がられている。
特に凛音に滅茶苦茶懐いているが、やはり所詮はオスか。
美少女を嘗め回しやがって、うらやまけしからん。しかし凛音、あんな顔で笑う奴だったか? なんか憑き物が取れたような……。
「失礼します。一応こいつの連れなんですが。邪魔になるようなら出ていきます」
「……いえ、問題ありません。初めまして、ドラゴンさん。噂はかねがね、私は凛音という名前で活動しています」
「どうも」
相変わらず龍一は、身内以外にはドライな思春期みたいな奴だ。
しかしお前達顔面偏差値すごいな。
俺が一般私大レベルだとするならば、こいつらは東大通り越してハーバード級だな。
すると俺の周りに墓守の灯台のメンバーが集まってくる。
そして大石さんも俺の眼の前に来て、突然手を握った。
「君の戦いを私達はここで見ていた。蒼汰君……本当に感動した。私達は君に光を見た気がする」
「光?」
すると他のメンバーも頷いて俺を崇めるように見つめていた。
「どうだろうか、正式に墓守の灯台に入ってくれないか? 君がいればいずれ四人の王すらも」
全員が俺に対して頭を下げる。
どうにか入って欲しい。
そしてユニークを倒し、100億を研究費へ。
この人達はその目的でクランを作ったんだから当たり前の行動だろう。
「私からも……お願いします。どうか私達を助けてください」
凛音も同じように頭を下げた。
俺は目を閉じて少し考える。
このクランに入れば利点は多い、だが答えはやっぱり決まっている。
「……すみません、俺はソロでやります」
俺はクランには所属しない。
ソロでやっていくと決めている。
それが一番俺の力が発揮できるのは、今までのゲーム経験からもわかっていたからだ。
「……そうか。いや、すまない。無理を言ったな」
「……そう……ですか」
とても悲しそうにする墓守の灯台のメンバー。
一瞬で御通夜みたいな雰囲気になったな少し心が痛い。
だから俺は言葉を繋げる。
「大石さん、俺他のクランにも所属しないです。ソロが好きなんで。でも約束します。もしユニークを倒したならば全額石化病の研究のために使うんで」
「それは……」
「いいのですか!?」
それに真っ先に反応したのは凛音だった。
「いいもなにも当然だろ。俺の妹だって石化病なんだ。別に一人で使おうなんて思わない。というか使えるか100億なんて」
「そ、そうですか……」
さっき俺に頭を下げてまで助けてくれとお願いした凛音。
きっと愛理と同じ苦しみを抱えているんだろう。
そんな子が助けてくれと言ったならば、俺が返す言葉は決まっている。
「だから安心しろ、凛音……俺がお前を助ける」
「――!?」
その言葉に顔を赤くしながら、慌てるような反応をする凛音。
頼れる人がいなくて辛かったんだろうな、いいぞ泣いても。なんせ俺は勇者だからな!
「わ、私を助ける……?」
「おう! 任せとけ! 滅茶苦茶助けてやるわ」
だから安心させるようにニッコリ笑ってサムズアップしておいた。
やっぱり顔を赤らめて俺とは目を合わせてくれなかった。
「お前、昔っから結構そういうところあるよな」
「なにが?」
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