孤高の龍王、解放するは天の使い
第35話 一息つこうぜー1
「そうか……黄金の試練が攻略されたか」
まるで研究者のような白衣の男はたった一人で城の頂上の部屋にいた。
そこには一つの端末があり、男がその端末を操作すると世界が見えた。
「ブルー君。そしてドラゴン君……トワが認め、託した少年達か」
指を操作すれば空中に二つの画面が現れる。
そこには満面の笑みの蒼太、そしてもう一人はドラゴンこと、龍一。
「君達はトワですら救えなかった……この世界を救えるのか? 石となって止まっているあの子の時間を取り戻してくれるのか?」
男は一人立ち上がり階段を下っていく。
そしてそこにいるのは封印された天空の勇者と魔王。
「トワ……本当にこれでいいんだな」
それを見て男はつぶやいた。
まるで石化してしまったような勇者を見て。
◇
霊峰イカロス山頂の深夜。
溶岩の炎が幻想的に俺を包み込み、空には満点の星空が輝く。
「アクアさん、スパチャありがとう! 熱くなってくれたなら嬉しいです! えーモヤシ大好きさん。俺もモヤシ好きだよ」
気づけばこの世界の夜が訪れていた。
俺は全ての投げ銭メッセージに一つ一つ感謝を込めて読み上げる。
その作業もついに終わりを迎えていた。
「……ってことでこれで終わりかな……ふぅ……」
合計スパチャ数2450件、合計で200万近くの投げ銭が飛んできた。
今後全部読めるとは限らないが、今日ぐらいは感謝を込めてひたすら読み上げたいと思う。
視聴者は落ち着いてきたが、この時間でも数万人が残っている。
こんな読み上げるだけの配信なのに、すまないな。
「ここまで付き合ってくれてありがとう。じゃあ明日も配信するんで、よろしく!!」
そして俺は配信を閉じた。
今SNSでは俺の動画がひたすらと拡散されてバズりまくっているらしい。
龍一がメッセージで教えてくれたが、どうやらうまくやってくれたようだ。
この日のために俺の開設したSNSアカウントのフォロワーもすごい勢いで伸びている。
そしてなんと、チャンネル登録数今だに増えているが10万人を突破しました!!
うひょーー! 1000万人とか馬鹿なことを言ってたのが恥ずかしくなりますね。遠すぎますわ。
「……すまん、待たせて」
俺は立ち上がって、凛音の方へ行く。
俺が読み上げている間ずっとそこで黒豆と座って待っていてくれた。
帰ればいいのにと言ったのに、ずっと後ろで待っているというのだから。
「い、いいわよ。勝手に待ってたのは私だし……」
もじもじ?
なんでこいつはもじもじしてるんだ? トイレに行きたいのか?
「そ、それより! あ、あなた……何者なの!!」
「何者って言われてもな。ただのゲーム好きの廃人だよ、なぁ黒豆。待たせて悪かったな」
「ワン!」
ガブッ。
「あ」
「あ」
「あぁ、死んでしまうとは何事ですか。勇者ブルー」
「まさか飼い犬に手を噛まれて死ぬという実績を解除するとは思いませんでした」
あの糞犬、帰ったら躾だな。
毎回毎回甘噛みしやがって、主人を噛み殺すペットがどこにいますかね。
天竜にすら負けなかったのに、ここまであっさり死ぬのは笑うしかない。
まぁHP2のままだったしな。
ピロン♪
俺はスカイダイブしながらメッセージが来たので開く。
もうこのダイビングも慣れたもんだな、あ、よかった……さすがに天龍の鱗はロストしてなかった。
ランダムロストだからな、これでロストしてたら笑うに笑えない。でもおそらくこのアイテムはロストしないのかな。
メッセージは凛音から。
クランで黒豆と待っているとのことだった。
あの糞ペットを迎えに行くか、凛音も何か話があるようだったし。
俺がスカイディアに降り立った瞬間だった。
「え? あれって……」
「ブルーじゃないか!?」
「あの動画のブルー!?」
深夜だと言うのにまるでハリウッドスターのように俺に人が集まってくる。
あぁ、これは結構配信者としては成功に近いようだ。
「やぁやぁ! ブルーだよ。これからもよろしく頼むよ」
こういう時どういう対応をすればいいかわからんので、ちょっと偉そうに手でも振っておくか。
ファンサービスは大事だからな、龍一みたいなイケメンは塩対応でもそれがいいとか言うメス共が湧くが俺はイケメンではないので親しみやすさで勝負しよう。
しかし、しばらく動けそうにもないな。
ん? 何だ?いきなり……。
そう思っているとまるでモーゼが海を割るかのように人ごみが割れる。
俺が何だと視線を送った先には。
「よぉ、おかえり。パンツの勇者」
「なんだお前か……ただいま」
龍一が立っていた。
そういえば、この世界で会うのは初めてか。見慣れた顔に思わず俺は笑顔になってしまう。
黒い着物に桜が舞っているような妖艶な和風の着物、まるで侍のようでそして長い一本の剣を腰に差し、色気がでている。
イケメンは何をしてもイケメンなのだが、これは女性はコロッといくのも頷ける。
そのイケメン覇気で、一般人を払いのけ俺を迎えてくれる。
俺はそのまま龍一と凛音のところに向かうことにした。
「ちょっと、凛音のとこ寄らなきゃなんだが」
「じゃあ俺もついていくか。ちょっと今後の話もしたいし」
行く先々で指を差さされるが、イケメンの隣にパンツの勇者がいたらまぁこうなるか。
いつもは黒豆が若干俺の変態性を薄めてくれているのだが、今日は逆に際立つお方が隣にいるからな。
「で、どうだった? 天龍戦は」
「ゲロきつくて糞楽しかった」
「相変わらずキマってんな。お前ぐらいだよ、あれ楽しめるの。でもやっぱりジャスガが鍵か。最後のパーフェクトには恐れ入った」
「なんだ知ってる口ぶりだな」
「ジャスガ連続で決めるとモーションが変わることは知ってたからな、ジャスガ50回以上決めて、ラストはパーフェクト出さないとダメなのは鬼畜も過ぎるが」
こいつ知ってたのに秘匿してやがったな。何て奴だ。
でも、まぁネタバレはNG、ゲームの基本。
「あぁ動画だけどな、レイレイって知ってるか? 個人でやってる配信者で登録者200万人近い。あいつも拡散してくれたから一気に広まった。もしかして知り合い? あ、あと俺の知り合いにも連絡しといたからまぁ馬鹿ほどバズるよ。ってかバズってる。動画の内容も完璧といっていい」
「レイレイもか、あとでお礼言わないとな。圧倒的感謝」
「愛ちゃん号泣してたぞ、お兄ちゃんがやっと前に進んでくれたって」
「まるで引きこもりの息子がハローワークに行った母みたいなセリフだな。心に来るわ……まぁ愛理はあれでツンツンしてるが俺のことが大好きだし。そういう意味ではツンツンのお前も号泣してたりして」
「…………」
「なんか答えろ、ガチっぽいだろ……って痛!? 殴るなよ」
相変わらず手が出るのが早い奴だ。
ちょっとからかうとすぐこれだ。
「話は変わるけど、お前これから個人でやってく? それともどっか所属するか?」
「あー、そんなことは何も考えてなかったな」
「うちの社長がさ、お前と是非会って話したいってよ。さすが嗅覚がすげぇよ」
「お前のとこの社長っていうと……」
龍一はプロゲーマーで、配信者で、モデルだ。
だが契約しているのは一社だけ。
多くの配信者などのタレントを抱えるいわゆる芸能プロダクション。
確か社長は、結構やりてイケイケ風だったような……。
「あぁ、超大手芸能プロダクション『ライブスター・プロダクションズ』の社長。気さくな人だから安心しろ」
「気さくか……でもさすがに偉い人と会うなら裸はまずいかな?」
「何を着るかじゃなく、着るかどうかで迷う奴初めて見たな」
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