【コミカライズ決定】【神回配信】ようこそ、輝かしきストリーマーの世界へ ~『妹を救うために最強に挑んでみた』動画が盛大にバズり、超有名配信者になった件~
第33話 その両手の剣に思いを乗せて、盛大にバズれー1
第33話 その両手の剣に思いを乗せて、盛大にバズれー1
「ここで変身かよ! それは負けてる奴の特権でしょうがぁぁ!!」
「気を付けて、蒼太君! その状態のそいつは!!」
凛音がそれを見て後ろから叫ぶ。
それは先ほど自分達のクランが壊滅させられた天龍の怒りの姿。
怒りを表現したかのような真っ赤な体、先ほどまでよりも一段上の攻撃。
振り下ろされる灼熱の爪と尻尾は、もはや。
【JUST!!】
ジャストガードですらも超えてくる。
「――はぁ!?」
ブルー:HP98/100
自分のHPバーを見て蒼太は苦笑いをしながら天龍を睨む。
「………………なるほどな。糞龍め」
本来無敵のはずのジャストガード、その防御力を貫通してくる攻撃。
おそらくはジャストガードを決めても確定2ダメージなのだろう。と蒼太は考えた。
先ほどまではお互いにノーダメージだった。
だがこの瞬間、均衡は完全に崩された。
――――コメント――――
・ユニークカスすぎん?
・はいはい、勝たせる気ありませんでした。
・さすがアテム社。糞仕様でした。
・まじかーーでもほんとすごかった。
・俺は感動した!
・全員過去形で諦めるやん。
・そもそも100億も普通に考えたらあげるわけあらず。
・まだ舞える?
・多分……でも負けは確定っぽい。
・でも俺は応援するで!
――――――――――――
それからも蒼太は、一切臆することなく対応してみせた。
攻撃モーション自体は先ほどから大差はない。ゆえに見切れる。
だが攻撃力が圧倒的な灼熱の一撃、ジャストガードですらHPが削られる。
それを見る視聴者は半ばあきらめモードで、落胆した。
届くと思った。
誰かがあの頂点に。
届くと思った。
夢物語の100億に。
だが頂点はやはり高すぎた。
登らせる気など
「はぁはぁ……」
殆どの視聴者が諦める中、それでも蒼太は諦めずただ天龍を見つめ続ける。
一切集中は切らさないと、ジャスガをはじめから数えれば連続50回以上成功させて、立ち向かう。
(絞り出せ……ありったけを……ここで全部。愛理が見てる……情けない姿を見せるな)
ただ妹のために、自身の限界を超えようとする。
たとえ負けるとしても全力を。
一切手を抜かずに全力を。
その表情は、使命感にかられ、少しだけ苦しそうでもあった。
【JUST!!】 【JUST!!】 【JUST!!】
【JUST!!】 【JUST!!】 【JUST!!】
【JUST!!】 【JUST!!】 【JUST!!】
一体どれほどの技量を持てばその太陽のような巨大な相手にここまでできるのか。
視聴者達は、もはやコメントすることすら忘れてその配信を見る。
息が詰まる。
呼吸を忘れる。
まるで心臓が鷲掴みにされたように、一切目が離せない。
人はここまでゲームがうまくなるのかと感動すら覚えていた。
間違いなく伝説の配信となる回。
しかしそこに勝利はない。
どれほど力量があろうと、システム的に勝利がない。
2ずつ減っていく蒼汰のHP、対してこちらのダメージは一切無効。
視聴者はそれを見ながらため息交じりで落胆する。ここまでやってダメならばやはりユニークは倒せない。
届いたと思って手を伸ばした頂点は、燃えるように熱く、近づこうものなら溶かされる。
――負け。
それでも、間違いなく興奮させてくれた。
「Blue君~~なんか、私泣けて来ちゃった。こんなにすごいのに……こんなに頑張ってるのに……この糞金ぴかトカゲ!」
レイレイは配信の向こう側で泣いていた。
感受性の高い人ほど、その蒼太のプレイを見て涙が流れる。
なぜなら彼の表情とプレイからいろんな思いが伝わってきた。
今蒼太から最も強く感じるのは、妹のために必死に頑張らないとという気持ち。
その嘘偽りない想いがひしひしと伝わってくるから、思わず涙してしまう。
だから全員がよくやったと賛美を送る。
勝てなかった、それでもお前はよくやった。と。
妹のためにそんなに必死でよくやった。と。
それは兄としては鏡のような姿だった。と。
だから全員が褒めたたえる。
「違う!!」「違うだろ!!」
たった二人を除いて。
妹と親友は否定するように立ち上がる。
それはほぼ同時だった。
ずっとそばで蒼太を見てきた二人だからこそ、その蒼太の戦いに違和感を感じる。
二人の知っている蒼太は違う。
もっと自由で、もっと柔軟で、笑ってしまうような発想とバカげているのに核心を切り裂くキレを持っている。
なのに今はどうだ。
まるで鎖で縛られた鳥、もっと自由に羽ばたける両翼があるはずなのに空を飛べない。
そしてその原因が愛理にはわかっていた。
今兄は初めて、自分のためではなく人のために戦っている。
それが覚悟という名の枷となり、兄の自由を奪っている。
野球のときも、ゲームのときも、蒼太はただ自分の好きという気持ちで戦ってきた。それこそが最も力を発揮すると無自覚で理解していたし、だからこそ集中しきった時は天衣無縫とまで言われた天才少年だった。
だが今はその気持ちを忘れて義務感で戦っている。
それでは蒼太の力は発揮できない。
「龍さん!」
「…………あぁ」
それがわかった愛理、そして龍一も同じ考えだった。
伝えなくてはならない。
いつもの自分を思い出せと、囚われるなと。
「なにか伝える方法……蒼太に」
フルダイブ中は感覚が遮断され、外界とは隔絶する。
電話に出ることもないし、上で眠るようにフルダイブ中の蒼太に言葉を伝える方法はない。
「……いや、ある」
だが唯一の方法に気づいた龍一は、財布からクレジットカードを取り出す。
カードを指で挟み、ニヒるな笑いで愛理を見る。
それに全てを察した愛理は、頷いた。
龍一はスマホを操作し、蒼太の配信画面を開く。
「蒼太……違うよな。お前そんなもんじゃないだろ」
「私のために戦ってくれるのは嬉しい……でもお兄ちゃんはもっと自由だから。もっと無敵だから!」
そして二人の思いは届けられる。
――――スーパーチャット――――
【100000円】:愛理
ゲームは笑って、楽しくプレイ!!
お兄ちゃんは笑ってるときが最強!
――――――――――――――――
――――スーパーチャット――――
【100000円】:ドラゴン
オーダー、お前も変態しろ。
――――――――――――――――
虹色に輝く最高額のスパチャとして。
――――コメント――――
・妹ちゃんから限度額スパチャきたぁぁ!!
・しかもドラゴン様からもきたぁぁ!!
・20万!?
・なんか辛そうだぞ! 楽しくな!
・やっぱり知り合いなんだ。プロゲーマー繋がり?
・笑って、笑って!
・まだ舞えるぞ!
・というか変態ってなに?
・変身のこと?
・このゲーム変身なんかあったっけ?
・いや、ない。というか魔法とかないし
―――――――――――――
蒼太の視界の右端、目立たないコメント欄に虹色に輝くこの文字を見ろと主張するそれは、スパチャと呼ばれる高額投げ銭。
サイトの上限額10万円を付けた場合だけ輝く虹色だった。
「愛理からスパチャ……? 笑って、楽しく。…………はは、そっか、俺辛そうに見えたか」
そのスパチャは否応にも蒼太の視界に入る。
それを見た瞬間、思い出したように蒼太は目を閉じる。
パンパンと顔を叩いて、気持ちを切り替えた。
「でも……そうか、あぁ。だめだな、確かに俺楽しんでなかった。うん、その通りだ、愛理! 悪い! 言われなきゃこのままだったわ!」
愛理からの言葉ですぐに自分が今ゲームを楽しんでいなかったことに気づく。
今までジャスガを決めることに必死でただ剣を振っていた。それが愛理のためになると。
でも忘れていた。
ゲームを楽しくプレイする。
そんなゲームをする上での基本を忘れてしまっていた。
じゃなければ見る人が楽しめるわけがないのに。
じゃあみんなが楽しむためにはどうすればいい?
じゃあ俺が楽しむためには何をすればいい?
その答えは既に親友から伝えられている。
「龍一の奴……相変わらずひでぇオーダー。でも……いっつもお前は正しいよ」
――――スーパーチャット――――
【100000円】:ドラゴン
オーダー:お前も変態しろ。
――――――――――――――――
虹色に輝く親友の龍一からの高額スパチャ。
基本的に配信者はこの高額スパチャを投げられれば反応し、答えなければならない。
リクエストならば答えることが基本、10万ともなるとどんな大手配信者でも無視はしない。
それぐらい蒼太だって知っている。
なら答えなくてはならないなと笑いながらスカイパッドを操作する。
なぜなら龍一がオーダーと言った指示は。
『装備を外しますか? ※すべての装備が外れます』
▶はい
いつだって正解なのだから。
蒼太は全ての装備を外した。
灼熱の火山の山頂で、赤く輝く天龍に対面するのはパンツ一枚の勇者。
形態を変えると書いて、変態と読む。
その行動を理解できるものは数万人の視聴者にほぼいないだろう。
防具を全て捨てる意味などない、ましてや裸になる意味などこの死闘において皆無。
何の利点もないはずだった。
だが変態とは、あるいは進化と同義である。
それは幼体から成体へ変態するように。
「そうだよ、蒼太。それが正解だ」
パンイチでふざけた格好だ。
なのに、視聴者がそれを見て感じるのはなにかをやってくれそうな期待感。なぜこんなにもなにかしでかしそうな雰囲気を醸し出すのか。
――――コメント――――
・なぜ裸!!??
・セクシー裸配信始まったww
・変態ww
・形態が変わると言う意味では近い。
・この状況でなぜ!?
・R18配信になりました。
・いうてこのゲームのパンツはインナーみたいなものだし。
・でもなんだろう。
・雰囲気変わった?
・なんかすごく……笑顔?
・ほんとに変態だぁ。
・きゃぁぁぁブルー君!!
―――――――――――――
困惑する視聴者、天龍すらも首を傾げる。
比較的しっかりとしたインナーパンツは、もともとみられても問題ないように設計されている。
真っ黒な生地で、どちらかというとすこしぴっちりとした水着姿というほうが近い。
とはいえ、見た目は変だ。
でもその背中は先ほどまでの張りつめた空気などどこにもない。
どこか軽快で、どこか明るく、見ているこちらもゲームしたくなるような。
【JUST!!】
そして見ているだけで、楽しくなるようなプレイだった。
【JUST!!】【JUST!!】【JUST!!】
自由だった。
縛りプレイなのに、逆に圧倒的なほどに蒼太は自由だった。
笑ってしまうほどに自由の両翼を目いっぱい羽ばたかせ、見る人を魅了する。
――――コメント――――
・はぁ!? 今どんなよけ方した!?
・動きキモ過ぎwww
・うめぇぇ!!!
・今見ずにジャスガ決めたぞ!?
・なんかすごく楽しそう。
・俺もこれ終わったらスカイライトログインしよ。
・俺も、何かやりたい。
・これ見てるとすごくやりたくなってくるな。
・↑わかる。
・ここまで楽しそうにされるとな。
・ってかやっぱりハダカの絵面が笑ってしまうww
―――――――――――――
自由な発想、アクロバティックな常人には理解できないプレイ。
それでもうまくいくのだから、やっぱり理解できないし、それよりもやっぱりパンイチプレイが理解できない。
理解不能、でもなぜか笑ってしまう。
それを見る龍一も愛理も笑顔になる。
だって誰よりも蒼太が笑顔になっているのだから。
「はぁはぁ、きっつ! ははは! きっつ!! あぁ! ゲロきっつ!!」
天竜の攻撃を紙一重で避ける、ジャスガで弾く。
その顔は満面の笑顔で、心の底から楽しそうだった。
「きっつ!! ははは!! きっついわぁ!! きつくてきつくて! 糞たのしい!!」
ブルー:HP10/100 【JUST!!】
「あぁ……くっそ……楽しいな!」
ブルー:HP8/100 【JUST!!】
「ゲーム楽しいな……終わりたくねぇな!」
ブルー:HP6/100 【JUST!!】
「……もっとやりたい。もっともっとゲームしていたい……気絶するまでゲームしていたい!」
ブルー:HP4/100 【JUST!!】
「今ならなんでもできる……なんだってできる!!」
ブルー:HP2/100 【JUST!!】
「だからもっと――」
蒼汰は、仮想の体の総部までまるで本物の身体のように把握する。
むしろ現実の体よりもより詳細に把握する。
心と体と仮想の世界、そのすべてが完全に一致する感覚へとどこまでも深く落ちていく。
そしてそれはやってきた。
かつて何も怖いものはなく、すべてを楽しみ、天下無双だった自分。
初めてバットを握り、夢中で白球を追いかけていた夢追い人。
文字通り、ただ夢に夢中になって没頭した。
好きだからこそ、楽しんでいるからこそ、その力に際限などどこにもない。
どこまでだって俺は行ける。
きっとそんな心から楽しんでいるプレイこそが、見る人の心すらも魅了する。
楽しむこと、それが才能の正体であり、配信者として誰かを魅了する力でもあったのかもしれない。
そして集中力は極限へ、今蒼汰は極みの扉を開く。
その両開きの巨大な扉は、覚悟だけでは開かない。
揺るぎない覚悟と、そして溢れんばかりの情熱を。
二つの力で、扉は開き、世界は色すら失って、時間すらゆっくりと流れていく。
「…………」
口をだらしなく開けて、まるで放心したかのように、脱力する。
しかし目だけは真っすぐと天龍を見つめている、HPは残り2、ジャスガを決めても後一撃で死亡。
そして天龍が最後の一撃を、トドメの一撃を蒼汰に向かって放つ。
真っ赤に輝く頂点の一撃。
霊峰イカロスに住まう頂点、天に近づきすぎた者への神の裁き。
拡散され10万人に到達しそうな視聴者達はそれでもその超絶プレイに健闘を称えた。
――楽しかった。
すごかったのはもちろんだが、見ていて何より楽しかった。
――――コメント――――
・最高でした!
・見ていてめっちゃ楽しかった!
・チャンネル登録しました!
・[1000円]また挑戦してください! 投げ銭しときます!
・面白い!
・ほんと面白かったわ。
・ドラゴン様とのコラボも楽しみ。
・プロになろう!
・ブルー君……あなたは一体どこまで……。
―――――――――――――
そして頂点の一撃が蒼汰に振り下ろされる。
これで終わり、でも誰も責めたりはしなかった。
ただ素晴らしいものを見せてもらった。
名作映画を見終わったようなそんな充足感に満たされていた。
最後の攻防、蒼太の両刀が振り抜かれた。
ぶつかる蒼の双剣と黄金の爪、だが何かが違っていた。
いつもより静かで、いつもより鋭く、まるで時が止まり、白黒の世界。
だが突如、色を失ったその世界に極彩色が生まれる。
黄金色ではなく、色鮮やかな虹色だった。
眩いばかりの虹色と共に、真っ赤な黄金の爪は弾かれた。
ジャストガード? でも蒼汰は死んでいない。
濁流のように大量に流れる困惑するコメント、見たこともないほど鮮やかな虹色エフェクト。それは最後まで諦めなかった者だけに与えられる賞賛の光。
コンマ一秒以下は当たり前。
角度、力加減、そして攻撃モーションごとに用意された極僅かなクリティカルポイント。そのすべてを掌握し、本当の意味で完璧なプレイをした者を称える勝利のエフェクト。
そのガードはあまりに完璧すぎてこう呼ばれる。
【Perfect!!】――パーフェクトガード。
虹色に輝くエフェクトが、この世界最大の軽減率をもって蒼汰のHPを守り切る。
天龍シルヴァーナは今までで一番大きく後ろにのけぞっていた。
信じられないものを見たような顔で天龍は驚き、蒼汰は笑う。
「……はは、やったぜ」
その顔は天龍とは対照的。
汗だくで疲れ切って、へとへとで。
でも楽しくて仕方ないと、一日中駆け回ったあの日と同じ最高の笑顔を向ける。
そして、蒼太は剣を握って夢を映すその目で真っすぐと見た。
「──まだ遊べる」
やっと届いた頂点を。
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