第30話 覚悟ー3


「ちょっと通りますよっと!!」


 俺は火狼三体の間をすり抜け全力ダッシュ。

 すまんが、お前らと戦っている暇はないんだ。ただでさえ、DPSが足りないのだから。

 ここは火山地帯ヴォルカニカの霊峰イカロスの周辺、もう少しでエリアに入る。


「ワンワン! ぐるる!」

「こら、黒豆! 威嚇するな! お前の親戚かもだぞ!」


 黒豆は相も変わらず俺の頭上がお気に入りのようでがっしりと掴み、俺のヘルメットと化している。

 凄いバランス力だが、もはや装備のようなものだな。


 今俺は霊峰イカロスの眼の前まで何とかやってきたところだ。

 ここまで多くのモンスターや鉱石ホリホリポイントがあったが、ぐっと我慢して目的地へと向かう。

 オープンワールドだからこそできるすべての敵をフル無視大作戦だが、後ろからたくさんのモンスターの声がするな。

 振り返ればモンスターパレードが起きてそうだし、背中から途轍もないプレッシャーを感じる。


 だが振り向き時間はロス。

 ただひたすらと俺は徒競走選手並み、もしくは遅刻しそうで電車に駆け込むリーマン並みに走り続ける。

 

【霊峰イカロス】


 霊峰イカロスきたぁぁ!! ここまで一時間半! 

 さすがに一時間では間に合わなかったがこのペースでいけば凛音達に間に合うだろうか。

 多分まだ山頂には到達してないと思うがギリギリだな。


 こんなことなら龍一を連れてくればと思ったのだが、それはダメだそうだ。

 あいつが俺の配信にいると龍一に視線が集まって俺が注目されないとのこと。これだからオーラを発するイケメンはいうことが違いますわ。


 なので今回は龍一はあくまでバズるためのサポート、俺が頑張らなくてはならない。

 まぁユニークを倒すことが目的ではなく、俺が必死にプレイして、境遇からのお涙頂戴を誘うのが目的なので問題なし。

 別に倒してしまっても構わんのだろうおじさんが脳内で囁くが、負けフラグなので黙れ、弓兵風情が。


 なんせ倒せば100億の大捕り物だからな。

 愛理の治療費一生分出しても余裕でおつりがくるわ。


 まってろよ、天龍シルヴァーナ!

 金色らしいし、その鱗全部はぎ取って素材にしてやるわ。

 

 と、その前に前哨戦か。


【エンカウント! 大火狼ヴァルディーグ】


「ガァァァァ!!!」


 霊峰イカロスへの侵入者を拒むように配置され、逃げることはできるが進むには倒すしかシステム的に許されない敵。

 いわゆるエリアボス、つまりは特定エリアの守護者。


 どうやらこいつを倒さなければこの高き山の頂上にはいかせてもらえないらしい。

 俺の装備は骨の剣と鉄の剣、龍一に聞いた話では霊峰イカロスは中級エリアなので、俺の装備でも可能は可能らしい。

 下級の武器で、上級クエストに挑むぐらいの難易度はあるがそれでもプレイヤースキルでカバーできるとのこと。


 火山ってもっと難易度高いイメージがあったが、この霊峰イカロスの向こう側のエリアからは難易度が爆上がりするらしい。

 龍人というNPCが徘徊し、モンスター達も相当強い。


「ふぅ、黒豆。降りとけ」

「ワン!」


 俺は両手に剣を構える。


「エンジョイ勢でも全然倒せるレベルのボスか……」


 加速するサイほどはある巨大な狼、その牙が俺を狙う。

 ゆっくり呼吸を整えて……世界は静かになって落ちていく……時間が遅く流れる感覚。

 良い感じ、こういう時は。


【JUST!!】

 

 体がうまく動いてくれる。


「ガァ!?」


「お前ぐらい余裕で倒せなきゃな!」



◇数十分後、天野家。



「はは、あいつあの最弱装備で大火狼ノーダメクリアか。相変わらずイカれてんな」


 蒼汰の家のリビングで愛理と龍一は、蒼太の配信をテレビに繋いで見ていた。

 コーラにお菓子にもはや映画鑑賞のような気分である。


 愛理としては中々複雑な心境だが、兄が好きなゲームをできるのが一番なので自分のためとはいえ楽しそうでよかったと思っている。


「龍さん、天龍シルヴァーナって強いんですか?」

「……強い。べらぼうに強い」


 龍一は少し昔を思い出していた。

 ナイトオブラウンズ、自身が所属するプロゲーマーで固めた日本最強クラン、そのフルメンバーで天龍に挑んだ時のことだ。

 全員がプロであり、一般人とは一線を画す実力を持つ。


 それでも勝てなかった。


 こちらの攻撃は一切通じず、振りかぶられた一撃をもらえばHPほぼ全ロスト。

 頂点の高さを感じるにはあまりにも理不尽な強さ。


 結局撤退を選択し、勝利は現段階では不可能と挑戦は諦めることになったが、実は龍一だけが気づいたことがある。


 ある特定の条件下でモーションが切り替わり、ヘイトが変わる。

 いずれ一人で検証しようと思って秘めていた情報。

 そしての条件は、蒼太とが最も相性の良いこともわかっている。


「でも蒼太なら可能性はある。悪い賭けじゃない」


 だがそれは蒼太には伝えていない。

 別に隠したいからではない。

 結局は蒼太が最高の状態で戦えるならすぐに気づくことだからだ。


 それに。


(自分で気づかなきゃ、どのみち勝てねぇよ。なぁ蒼太)


 龍一は親友を信じている。

 その方が楽しい、そして楽しめているとき蒼太は最強だと。


「頑張って……お兄ちゃん……」


 愛理はただ兄の勝利を願う。




◇霊峰イカロス 山頂。


 

「では、12時00分になりました。準備はいいですね」

「「おう!」」


 総勢30名。


 天空のトワイライト内においてのプレイ時間上位0.1%以上の最前線攻略組プレイヤーがその山頂手前で武器を掲げる。


 その先頭に行くのは氷のような表情で、美しい銀色の剣を一本握り、胸の前に祈るように掲げる。


「では、行きましょう生きましょう!」

「「しゃぁぁぁ!」」


 二つの意味をその言葉に込めて、震えろ心と雄たけびを上げながら一歩を踏み出した。


【霊峰イカロス 山頂】


 雲よりも高い灼熱の山、見下ろせば信じられないほどの計算量が織りなす世界が見渡せる。

 ここは天空のトワイライトにおいて、もっともスカイディアに近い場所。


 用意されたような剃り立つ岩に囲まれた巨大な円形のバトルフィールドが、こここそが運命に決着をつける場所だと主張する。


 間違いなく奴がくる。

 この世界の頂点たる奴がくる。

 それでもクラン墓守の灯台は一切恐れずに踏み出した。


 この先に光がある、希望がある。

 自分達を、自分達の家族を救える眩いばかりの黄金が。


 ならば臆する理由などどこにもない。


 凛音を筆頭に、しっかりと足を踏みしめてその円形のバトルフィールドの中心に向かう。

 そして深呼吸、静かな山頂はまるで世界にここだけしかないような感覚。


 そして。



 ――黄金が鳴る。



 空気がつぶれるような羽ばたく音とともにそれは空から現れた。


 燦燦と輝く偽物の太陽の光をその鱗に反射し、眼を背けたくなるほどの黄金色に輝かせる。

 作り物の世界であるのに、見上げるほどの大きさのその龍の存在感は息をするのを忘れるほどの密度で神々しさすら感じてしまう。


 羽ばたけば炎が舞い、風が舞い、黄金が舞う。


【エンカウント! 天竜シルヴァーナ!】


 真っ赤なシステム文字がこの世界の頂点との戦いを告げた。


 まだ勇者はここにいないのに。










あとがき。

天龍遭遇。

なにとはいわんけど希少種をイメージしてるよね。

なにとはいわんけどね。

あの塔の最上階はワクワクしたなー悪魔猫でミラ系二発だけは……

金もいいけど、俺は銀のほうが好きだよ。(フラグ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る