第29話 覚悟ー2
~少し前。
「天龍討伐作戦?」
「そう、墓守の灯台が近々大規模レイドでその挑戦を考えている。お前そこに行って超絶プレイ決めて来い」
我が家で俺と龍一は作戦を練っていた。
「俺がお前の配信を拡散してやる。俺の配信でお前の配信をミラー。つまり俺の視聴者をそのまま流す」
「いいのか?」
「まぁ俺にとっては損しかないけどな。でも愛ちゃんのためなら仕方ねぇ。お前のためじゃねーぞ。勘違いするなよ」
「圧倒的ツンデレに感謝……いて!? 殴るなよ!」
どうやら龍一の数十万人の視聴者を俺の配信に流してくれるらしい。
正直滅茶苦茶緊張するが、ありがてぇ。
「一つ配信者としての戦略的な話をしよう。仮に毎日一万人の視聴者を10日連続と10万人の視聴者を一日。どっちがいいと思う?」
「え? ……うーん、一日?」
「条件付きでその通り。この世界にはバズってものがある。それを引き寄せられたなら指数的に視聴者は爆増する。そういう意味なら継続よりも一日の爆発力が欲しい」
「ほう……」
「でだ。お前が勇者ブルーであることを隠し、その一日で天龍相手に神プレイをして、そして勇者であること、昔お前がバカみたいに荒らしたネットゲーム界隈の伝説のブルーであること。まとめて全部ばらす。あと……これはお前は嫌がるかもしれないが、お前の過去と愛ちゃんのこともだ。リークする」
「……わかった。昔のことはいくらでも使ってくれ。愛理のためなら俺の過去なんていくらでも使っていい。愛理のことは……」
「愛ちゃんからは了解をもらってる。いくらでも使ってくれだって。なんなら辛そうな表情でもして写真でも撮るかって……強いよ、愛ちゃんは」
「そうか。……わかった」
俺の過去はまぁ、正直結構きつい。
火事で両親が死に、日本一になったピッチャーの腕は壊れ、そして妹は石化病。
あれ? うちの家族呪われてない?
しかし、その事実は多くの人の同情を誘えるだろう。嫌な言い方だが戦略的に使うなら効果的な過去だ。
「まぁ任せろ。完璧にバズらせてやる。だからこっちの心配はするな。でもその代わり……」
そういって龍一は俺の胸を叩く。
「お前は最高の仕事をしろ。オーダー通りにな」
「おう! 任せろ!」
そして決定したのが墓守の灯台への作戦参加だった。
~そして現在。
「ということで参加させてくれ!」
「……あなた装備は?」
「骨の剣と鉄の剣、それとパンツ」
「一応いっておくけど、パンツは装備品ではないわよ? しかしひどいわね。最弱じゃない」
何を言ってる。
パンツは装備品だぞ、だって脱いだら大変なことになるからな。
「やる気だけは誰にも負けるつもりはありません! ぜひ採用を!」
「就活じゃないんだけど」
あ、これ就活だったら落ちた時の反応だな、全然興味もってくれてないというのが氷のような視線で感じ取れた。
「リオン、そいつは……あの時の変態か? ははは、なんだ今日は服を着てるじゃないか」
するとダンディなおじさんが奥の扉を開けて現れる。
年は30代ぐらいだろうか、無精ひげにムキムキの体は傭兵のようでとても強そう。
一度見たことあるが、俺が落下した時にいた人かな。
「はぁ、まぁいいでしょう。あなたの参加を認めます。墓守の灯台は全ての石化病の家族の味方ですから。紹介しましょう。こちら副マスターの大石さんです。大石さんこちら……えーっと……変態です」
それで定着させようとするのやめていただきたいんだが。
しかしあれだな、これだけ美少女に変態と言われると何かこう……くるものがあるな。
だがどうやらこのギルド、本名でやっている雰囲気があるな。リアルでも知り合いだからだろうか。
なら俺も。
「蒼太です」
「よろしくな蒼太君。で君は本人か? それとも家族か?」
「……妹が石化病に」
「…………そうか」
そういう大石さんは俺の頭を優しく撫でる。
「俺は娘だ。大切な家族のために戦う……それはとても誇らしいことだ。一緒に頑張ろうな。私は君の、いや、君と妹さんの味方だ」
「……はい!」
そういう大石さんの笑顔は本当に優しくまるで父親のようだった。
実際に父親なのだから当然かもしれないが、なんだか俺は一瞬で大石さんを好きになってしまった。
久しく父親というものがいなかったせいか、少し落ち着く。これが大人の男の包容力か。
「急ですが、参加は認めます。しかしフォーメーションなどを今から変えることはできません。あなたは遊軍として好きに動いてください。邪魔にはならないように。もちろんたどり着けたらですが」
「そりゃそうだな。でそういえば作戦っていつなの?」
そういう大石さんと凛音は顔を見合わせる。
「……あと一時間後ですよ? 霊峰イカロス麓の転移門は解放してますよね?」
「…………」
というわけでございましてね。
火山地帯ヴォルカニカ・英雄橋から、霊峰イカロスまでRTAスタートでございます。
あの遠くに見える一際大きな火山、霊峰イカロスの麓へと全力ダッシュを決め込まなくてはなりません。
凛音に待ってくれと言ったらジャムを塗った面が地面に落ちたパンを見るような目で無理と言われた。
つまりゴミを見る目である。
それにだ「そもそもそんな最弱装備の人、いてもいなくても変わりません。来たいなら自力で頑張ってください」だって。それはごもっとも。
あの真面目系生徒会長め、いつか絶対わからせてひぃひぃ言わせてやるわ。
なぁ、黒豆!
「ワン!」
お前だけだよ、俺の苦労をわかってくれるのは。あぁ美しい毛並みがもふもふして……いてて!
お前の甘噛み普通に致命傷だからやめろ。俺の手は鉱石じゃない。
そして俺はストレッチしながらさて、準備体操。
まぁ最強相手にする前のウォーミングアップにはちょうどいいか。
天龍戦までの準備運動がてら頑張るとしよう。
あ。それと配信ONっと。
――――コメント――――
・おじゃ、あれ今日は服きてるんですね
・黒豆ちゃーん、もふもふ!!
・ブルー君お疲れ! 今日はどこいくの?
――――――――――――
早くも視聴者が三人もきたな。
俺のチャンネル登録してくれている五人のうちの三人だろう。
レイレイも普通にいる。こいつさては暇だな? いっつもいる気がするぞ。
「えー、今日はね。後半重大な発表がありますよ、まぁ色々あって服はきております。でもとりあえず目標は」
着なければ凛音がメンドクサイからな。
そして俺は両手に剣を握って、霊峰イカロスを剣で差し今日の目標を宣言する。
「――天龍シルヴァーナを倒します!」
この世界の頂点への挑戦を。
あとがき。
妹ちゃんは高1年生、蒼太は高2です。
その辺さらっと書いたから一応補足で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます