第24話 秘境・火狼の裂け目ー2

 さて、どうしたものか。

 この可愛いワンコを金と素材に変えるべきなのだろうか。


「くーーん」


 うーん、無理! 俺犬結構好きだし!。

 というかそもそも弱りまくっているが、一体なんなんだろうか。

 真っ黒な焦げたような小型犬の子犬。


――――コメント――――

・火狼って火山地帯にいるあの糞強狼だよな。

・いや、でもあれは赤いけど、黒いぞ?

・もしやテイムか?

・特定のモンスターはできると噂の!?

・え、ちょっと待って。テイム可能モンスターってまだスカイライトでも10種ぐらいしか確認されてないぞ?

・何から何まで初だな。

――――――――――――


 どうやらこのゲーム、モンスターをテイムできるようだ。

 もしやこの黒豆みたいな柴犬もテイムできるのか?

 

「よーしよしよしよし!」


 とりあえずムツゴロウさんを憑依させて喉をわしゃわしゃとやってみよう。

 痛ってぇ! こいつ噛みやがった!!

 おぁ!? HPがごりって減ったぞ!? 死ぬ!


 ぐぅーーー。


 するとその犬からまるでお腹が減っているかのような音がする。

 もしや何か餌を上げればいいのか? といってもなぁ。俺が持っているのといえば。


 俺はゴブリンの肉をアイテムボックスから出現させて、投げてみる。

 一瞬立ち上がってその肉に近づくが、ふん! っとそっぽを向いてしまった。まぁあいつら臭いしな。

 とりあえず俺はすべてのアイテムを次から次へと召喚し、投げてみる。

 骨もだめ、犬は骨が好きなイメージなのだがな。


「あとは……」


 俺のアイテムボックスには、先ほどのレア鉱石しかない。

 俺は紅蓮鉱石というレアアイテムを具現化し、手に取る。


「いやいや……石なんですが……」

「ワン! ワン! ハハハ! ワン!」


 するとワンコが立ち上がって滅茶苦茶目を輝かせて尻尾を振りまくっている。

 おい、まさかだがお前鉱石食うのか?


「ま、まぁ一個ぐらい試しで……しかしレア鉱石なのに……」


 俺はその一つを投げてみる。

 

ゴリゴリバリバリゴックン!


 食いやがった。

 まるでクッキーみたいに、バリバリと。

 こいつなんて強靭な顎してやがる。すると少しだけ元気に見えたがやっぱりまだぐったりしている。

 そして期待するような目で俺をずっと見つめている。


「もしかしてまだ欲しいのか?」

「ワンワン!」


 ワンワンじゃねぞ、これめっちゃレアなんだからな?

 もう一つ……は? お前遠慮というものを知らんな? ……まぁ仕方ない。もってけ泥棒! 食いたいだけ食いやがれ!

 空腹は辛いからな! 俺も四日ぐらいぶっ通しでゲームして死にそうになったことがあるから気持ちは分かるぞ!


「ワンワン!!」


 おやつ感覚で俺が手に入れた紅蓮鉱石を全て平らげた黒豆。

 明らかにお前と同じぐらいの体積だったが、どうなってんだ?


「くーん……」

「はぁ? お前まだ腹減ってるのか?」


 肯定するように頷いて俺を見つめる。

 いやいや、もう鉱石ないんだよ。まじで。


「ヘェヘェヘェ!」


 涎を垂らしながら俺のスカイパッドを見つめるワンコ。

 お前まさか。


「いやいやいや、お前。あのアイテム、リアル諭吉様だぞ!? どこの世界にリアル一万円の餌を欲しがるゲームのペットがいますかね!」

「ヘェヘェヘェ!」


「だめだめだめ! あれは武器の素材にしてもらうんだ。もしくはリアルの俺達の胃袋を満たすために売るんだ!」

「ヘェヘェヘェ!」


「だ、だめだって! そ、そうだ。紅蓮鉱石、探してきてやるから。ピッケルで掘ったらでてくるだろ」

「ヘェヘェヘェ!」


 ダメだ、こいつ。犬畜生だわ。

 俺は震える手でスカイパッドを開く。

 アイテムを選択し、それを手に持った。


 真っ赤なルビーのような宝石、リアルマネー1万円。

 これ一つで、頑張れば一月食い繋げられるほどの貴重アイテム。

 

「ワン!」

「ぐぐぐ……」


 見つめ合うワンコと俺、その間実に3分。どうする? アイフルという声が聞こえてきそうだ。

 貧乏な我が家にとって、一万円は普通の家庭の10万円分ぐらいの価値がある。

 そう言ってもらえれば俺の葛藤がわかるだろうか、滅茶苦茶嫌だ。


 でも。


「くーん」

「あぁ! もってけ、犬畜生がぁぁ!! その代わりお前絶対テイムされろよ!」


 俺はそのルビーをワンコに差し出した。


 バリバリバリ……ごっくん!


「わん!」

「ワン! じゃねぇよ。ワン万円食っといて。はぁ……」


 するとワンコは立ち上がり、俺の足にすりすりとほっぺを摺り寄せてくる。

 

ピロン♪


 スカイディアが起動して俺の眼の前にウィンドウが表示される。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

火狼;亜種が仲間になりたそうにこちらを見ている。


▶はい

いいえ

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 どうやらやはりこれがこの秘境の報酬のようなものらしい。

 どうせ失うことになるのにエピックとかいう糞レアアイテムを手に入れさせる当たり運営の意地悪さを感じる。

 俺は、はいを選択する。

 すると、名前を付けてくださいと言われた。


「名前か……よし、お前に選択肢をやる」


 俺は床に名前候補を書いていく。

 候補は三つだ。


「黒焦げ、黒豆、漆黒の暗殺者ダークシャドウ~闇の炎に抱かれて眠れ~。さぁどれにする?」

「く~ん」


 なんだ悲しそうな顔をしよって、嫌なのか? 俺のネーミングセンスに不満があると。

 三つ目なんかおすすめだぞ、めっちゃかっこいいだろ?

 何とも言えない表情のまま、ワンコは苦渋の決断というような顔で前足を出し、選択肢の一つを選んだ。


「お、それか。いいぞ。じゃあ今日からお前は漆黒の暗殺者ダークシャドウ~闇の炎に抱かれて眠れ~だな! よろしくな、漆黒の暗殺者ダークシャドウ~闇の炎に抱かれて眠れ~」

「ぐるるる!! ワンワンワン!!」


「ははは、冗談だって」


 俺は笑いながらウィンドウに表示されている名前入力欄を操作する。


「よろしくな、黒豆!」

「ワン!」


 俺に一匹の仲間? ができました。

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