第22話 火山地帯ヴォルカニカー3

「もう終わり! もう終わり!!! みろ! もう周り誰もいないぞ?」


 100回以上のタイマンを経て、俺はさすがにもう終了を宣言する。

 今は転移門を通ってスカイディアに戻ってきた俺達は、訓練場と呼ばれる決闘用施設で対戦していた。

 気づけばリアル世界ではもう深夜を超えてそろそろ朝日、ほとんど誰もいない夜のスカイディアは少しだけ幻想的だった。


「だ、だって!! だってだって!!」

「だってもくそもあるか。もう5時間近くぶっ通しだ!」

「だって一回も勝てないもん…………」

「勝つまでやる気かよ……いや、考え方は嫌いじゃないけどさ……」


 あれから装備やらなんやらを全く同レベルにして戦い続けたが俺の方がいくらか上手だったのか全戦全勝。

 とはいえ、危なかった部分もあったので、数回ぐらいなら負けていたかもしれない。

 それほどにレイレイは強く、どんどんうまくなっていく。


「わ、わかった! 抱いていい! 私をリアルで抱いていいから!」

「え?」


 そういってレイレイはそのエッチな改造制服の胸元をちらりと俺に見せてくる。

 おっと……流れ変わってきたな。まだまだ夜は長そうだ。とりあえずLI〇Nやってる?


「あ、ブルー君。おっぱい好きなんだ。ふふ、童貞?」

「むしろ嫌いな男を見つけて来い」


「大丈夫、私も処女だよ。だから一緒にうまくなろうね! ブルー君ならすごくうまそうだから……ねぇ?」

「テクニックには自信があります!!」


 俺の反応を見て楽しそうにするレイレイ、くそ! 変態じゃなければ可愛いのに! 

 まぁ冗談なのはわかっているがな。


――――コメント――――

・痴女で草。

・おはよう、まだやってたの? もう朝なんですけど。

・レイレイってビジュアル的に滅茶苦茶人気よな……俺好きなんだけど。

・悲報 底辺配信者、人気配信者のファンに刺される。

・でもこっちもぱんいちで変態だしお似合い。

――――――――――――


「ふふ、まぁいいや。今日のところはこのへんで。ねぇブルー君が本物の勇者だって拡散しようか?」

「いや、いい。できれば有名人の力は借りずに配信の内容としてどこまでいけるか試したいと思ってるんだ」


 正直龍一に拡散してもらえば一発で広まるだろうが、それもまた違う。

 今俺は普通に配信者として楽しいんだ、あとちょっとまだ大量は捌ける自信がない。


「そっか……」


ピロン♪


 するとレイレイから俺にフレンド申請が飛んできた。

 承諾すれば一生粘着されそうだな、承認しないで放置しておくか。

 と思ったら、俺の背後からレイレイが体を密着させてきた。おっふ、丸裸の裸体に電脳的なマショマロ肉感が。


「えい♥」

「ふぁ!?」


 すると俺の手を持って、そのままフレンド承諾のボタンを押された。

 なんという策略家、おっぱいで俺の隙を作るとはけしからん、次は絶対に見切ってやる。だからもう一回おなしゃす。


「はわわ……でも私も眠くなっちゃったから寝るね。おやすみ、ブルー君」

「おう、お疲れ」

「……ねぇ……会いに行っていい?」

「ん? いいぞ」

 

 なんか若干日本語がおかしい気がするが、まぁ対人戦は嫌いじゃないからな。

 

「やった!!」


 両手でぎゅっと可愛いポーズで喜ぶレイレイ。

 まぁファンが多いのも頷ける。

 これは相当男がやられるタイプの女の子だろうな、ちょっと特殊だけどなんか甘えるのとかめっちゃうまそう。沼って感じ。

 そしてレイレイがバイバイと手を振ってログアウトした。


 俺もじゃあログアウトするかな、そろそろつかれたし。



 …………なんてな! 浅はかなり!

 このまま火山地帯ヴォルカニカに直行じゃ!! レイレイのせいでまだ何もできてないからな!

 せめてエリアボス、ネームドの一体でも倒さんことには不完全燃焼よ。睡眠? そんなもんいつでも取れる。


 俺はそのまま転移門を通って、火山地帯ヴォルカニカへと転移した。

 正確にいえば火山地帯ヴォルカニカ・東部の英雄橋という場所らしい。

 転移門を開放したらマップに地名が表示された。

 英雄橋というとおり、石橋が転移門の先にあり、その先から本格的に火山地帯が始まるようだ。

 

 夜の火山は、怪しく溶岩の色が輝き、石橋の下はどうやら溶岩らしき何かが流れていて雰囲気がでている。

 いまさらだがスカイライトの世界は、どうやらリアルの時間の半分ほどの時間で回っているらしい。


 どういうことかというと朝と夜のサイクルが12時間なのである。

 つまり6時間ごとに朝と夜が入れ替わるという設定、ただし日付という概念でいえば一日に二回夜と朝がくるということ。

 難しいことを言っているが、確かに夜しか遊べない人や朝しか遊べないひともいるだろう。

 中々に親切設計だ。これならそういった人も朝と夜を楽しめる。


 さて、とりあえずあの溶岩に突撃ダイブ決めてみるか? 環境ダメージはこのゲーム受けるんだろうか。

 逆に泳げたら笑うんだけど、まぁ物は試し。どうせ痛覚なんて何もないさ。

 俺は石橋の上に立ち、紐なしバンジーを決めようとしていた。


――――コメント――――

・やっぱりイカれてるよ。

・普通誰もやんない。

・一応、言っておく。溶岩はドットダメージを受けるよ

・↑ネタバレやめろ。大丈夫、ダメージ受けないよ。

・嘘で草

――――――――――――


 どうやらリスナーから情報を得てしまった。

 そうだ、一言言っておかないと。


「できれば、ネタバレはNGでおなしゃす。一緒に楽しもうぜ」


 コメントを書いた人が謝ってくれたし、別にそこまで怒るようなことじゃない。

 俺達ファミリーだからな! ぱんいちファミリーはみんな仲良しだ。

 ネタバレはゲーム実況に付き物だが、できれば無しで初見で楽しみたい。

 ということでアーメン。


 俺は英雄橋から遥か真下、溶岩流れる川へとダイブを決めた。

 結構高いけど、スカイディアに比べたらそうでもないな。

 このままいくと溶岩の川にポチャン、そして蒸発かな? ちなみにアイテムロストは低級アイテムはロストしないらしい。

 ★3以上、つまりレア以上からロストが起きる。多分初心者救済仕様なのかな。

 なのでこんなことができるのも今の内だけだ。


「…………ん?」


 腕を組みながら仁王立ち、微動だにせず真下へ落ちていると俺は見た。

 上からでは絶対みえないようになっている場所、影のくぼみのような場所に穴がある。

 おいおい、隠しダンジョンか? なるほど、落下する勇気がある英雄でなければ発見できないということね。

 多分そんな意味ではないと思いながらも俺はその穴を見つめて、目を閉じる。


 ジャボン!


 普通に溶岩に落下した。

 みんな知ってるか? 溶岩ってすごい密度が高くて人間よりも重いから沈まないんだ。

 俺はぷかぷかと溶岩に流されながら、背中からドットダメージで減っていくHPを見る。

 俺のHPはアイテムや料理によるバフ無しで100、溶岩は1秒で10ダメージを受けるようなので10秒後に死ぬのかな。

 

 GAMEOVER。


 普通に死んだわ、ちわ、女神様! 元気でした?

 なんか死ぬのも慣れたもんですね、と笑いかけるが気づけばスカイダイブさせられる。

 転移門をくぐって、再度英雄橋へ。


「さて、リスナーよ。壁を伝っていけばいけると思うか?」


 とりあえずさっきの洞穴のようなものが気になるので、俺は壁を伝って降りていくことにした。

 幸い高さはそれほどでもないし、このゲームの身体能力ならいけるだろう。

 なに失敗しても死ぬだけだ、何も問題ない。

 

 そんな精神で降りていくと案外10分ほどで先ほどの洞穴のあった場所に付いた。

 少し出っ張って足場となっており、その奥には3メートルぐらいはあろう洞穴。


【秘境・火狼の裂け目】


 お? なんか画面にでたってことはここはちゃんとマップなんだな。



――――コメント――――

・秘境!?

・ググってみました。えー、まだ発見されてない秘境です。

・おめでとうございます。トワイライトで最初の発見者です。

・秘境って何?

・なかなか見つからないエリアのこと。

・レアなアイテムとかあるかもしれん。これはワクワクですね!

――――――――――――


 どうやらこの世界には秘境と呼ばれるエリアがあるらしい。


 ということはなんかレアなアイテムとか装備とかあるんかな?

 めっちゃわくわくするな!!

 

 俺はそのまま秘境と呼ばれる洞穴へと足を踏み入れた。

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